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19.【あ】 『雨降って地固まる』 (2000/03/21) 『雨降って地固まる』 雨の降った後は以前にも況して地面が堅固になるということから、変事の後は、却って事態が落ち着いて、基礎が固まる、或いは、以前より良い状態になるということ。 類:● After a storm comes a calm. *********
喧嘩騒ぎがあったという噂を耳にして気になった源五郎は、遅れ馳せながら毘沙門天に向かった。 着いたところで、参詣を済ませたあやたちに丁度出くわした。
>あや:あら親方。親方も初詣ですか? >源:い、いえ。喧嘩騒ぎがあったとか言うんで。 >咲:あやさん、この怖い顔の人もさっきの人の仲間? >あや:違うのよ、お咲ちゃん。源五郎さんは熊さんたちの親方なの。 >咲:良かった。また脅かしに来たのかと思っちゃった。 >源:何かあったんですかい? >あや:いいえ、たいしたことじゃありません。 >咲:たいしたことよ。あたしとっても怖かったんだから。 >源:聞かせて貰えますね。
源五郎はふたりを甘味処「紀の善」に誘い、お咲のために汁粉を注文した。 あやは先程の騒ぎの顛末(てんまつ)を詳しく説明したが、肝心の太郎兵衛との経緯までは話せず、亡夫の一件のところはお茶を濁した。 源五郎は訳ありなのだなと解釈して無用な詮索(せんさく)を避けたが、一方では、自分には立ち入ることのできない領域があるのだということを実感させられていた。自分の気持ち全体が拒まれでもしたような、一種、孤独感にも似た感情が湧き上がってきていた。 もしも、洗い浚(ざら)い話して貰えるほど信用されていたらどれほど嬉しいかと、密かに考えていた。
>源:淡路屋とかいうのが出張って来てるって話は親父から聞いてたんですが、そこまで阿漕(あこぎ)なやつだとは知らなかったな。ここんとこ田原の父つぁんが病勝ちだってんで気にはなってたんですよ。 >あや:田原の父つぁんていうのはこの辺を仕切っている親分さんですか? >源:親分てったってやくざなお人じゃあねえんですよ。この辺りは職人とか大工とかが余所(よそ)より多いんですが、そいつは田原の父つぁんが総元締めとして上手く取り仕切って呉れてるお陰なんです。これまでは、淡路屋みてえのが来たってすぐに尻尾を巻いて帰ってったもんですがね。 >あや:淡路屋をあまりのさばらせたくはないものですね。 >源:あっしも心掛けるようにしましょう。
>あや:二助さんという方はご存知なんですか? >源:よく仕事を頼んでますから。腕の良い左官ですよ。喧嘩っ早いのが珠に瑕ですが。 >あや:気を付けるように言ってください。 >源:分かりました。それより、あやさんたちの方が心配だ。その下っ端・・・ >咲:権太っていう蛇みたいな目付きのやつ。思い出すだけでぞっとするわ。 >源:そいつが探しに来るかもしれないでしょう。 >あや:ええ。当然太郎兵衛にも報告してるでしょうからね。 >咲:ごめんなさい。あたし、ついうっかり同じ長屋にいること喋っちゃったの。 >あや:気にしないで。どっちにしても見付かっちゃうんだから。半日と違わないわ。 >源:女子供相手にそうそう手荒なことはしねえと思いますが、特に夜道は気を付けてくださいね。八と熊には注意するよう言っときますから、必ずあいつらに送って貰うようにしてくださいね。 >あや:ええ、いつもそうして貰ってますから。
>源:そうだ。そう言やあ、今ごろあいつらはあっしの家に来てる筈ですから、一緒にどうです? 後のことはあっしに任せて、憂さは忘れて新年会といきましょう。 >あや:これからですか? >源:このまま真っ直ぐ長屋に向かって、万が一、付けられたりしちゃいけねえですから。 >咲:あたしも一緒に行って良い? >源:勿論だとも。お嬢ちゃん独りで帰す訳がないだろうよ。 >咲:だって親方ったら、ずうっとあやさんのことばっかり見て話してるんだもの。それにね、あたし、お嬢ちゃんじゃなくてお咲っていうの。子供扱いしないで。 >源:こいつぁあ参った。
一行はお咲を間に挟む格好で源五郎の家へ向かった。 端(はた)から見ると、初詣帰りの普通の親子連れと見えないこともない。
>あや:親方、太郎兵衛との経緯のことはいつかちゃんとお話ししますから。 >源:立ち入ったことでしたら無理に話すことはねえんですよ。 >あや:いいえ。聞いて貰いたいんです、親方には特に。ただ、今は堪忍してくださいね。 >源:分かりやした。その気になりやしたら言ってください。 >あや:頼りにしてます。 >咲:あーあ、なんだかあたし、お邪魔虫みたい。 (つづく)
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