人間工学 no.1

●流し台、ガス台、調理台の配列

 NHKのテレビ番組プロジェクトX「妻に贈るダイニングキッチン」の中で、住宅公団のキッチンの話がありました。
ダイニングキッチンに代表される、キッチンの革命。プレス加工でできた溶接なしのステンレスシンク。 全てが新しいことばかり。
その中で、キッチン設備のレイアウトの論争があったのです。
女性建築家の浜口ミホ氏と家政学会の戦いでした。浜口氏はシンクを調理台とガス台の間のセンターを主張し、家政学会 は調理台をセンターにという主張で、どちらにするかは実際に料理を作り、どちらの移動が少ないかで決めることになりました。
 結論は浜口氏の圧勝で、ほとんど動かずに料理をすることができたのです。はっきりしないのですが、この時、カット作業は 従来のように、シンクの中で、洗い桶の上にまな板を乗せて行ったのではないかと私は考えています。
 公団の流し台はシンクがセンターで始まったのですが、その後、いつのまにかほとんどのキッチンが調理台がセンターに なったのです。

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・水が火に近すぎて、揚げ物などの時、水が鍋にかかり、油ハネの危険がある。
・火のそばに配膳スペースや材料を置くスペースが欲しい。
・カット作業を安定した調理台の上で、無理ない姿勢で行いたい。
・欧米のキッチンを見習った。
・移動歩数を、食材、調理器具、食器の準備や、食卓への移動など含めて考えると大差がない。
このような理由が考えられます。

人間工学 no.2

●カット作業はウエットかドライか

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 そもそも昔の台所には食材カット用の調理台などありませんでした。
水槽(シンク)が床置きのようなしゃがんで作業するものは 勿論、立式になってもシンクの中でカット作業などを行っていました。魚中心の食生活からくるものでしょう。
このことから見ても、カット作業というものは日本ではウエットだったのです。
あるキッチンメーカーでは、流し台、調理台、ガス台の3点セットを、台と台の継目をなくそうと、2点セットで提案していましたが、 その調理台の部分はウエット作業ということで、水切り用の波板のような形状になっていました。
 現在も日本のシステムキッチンのほとんどが、カット作業をシンクの上や、シンクの横の水切りゾーンで行うような配慮をしています。

人間工学 no.3

●作業の右流れ、左流れ

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 作業の右流れ、左流れとは、料理の順番に従って、食材ストック(冷蔵庫)→洗い(シンク)→食材カット(調理台)→煮炊き(ガス台) の配列の方向を言います。
シンクが右側にあり、料理の流れが左に向かうものを左流れ、反対のものを右流れと呼ぶわけです。
果たして、右流れ、左流れどちらが使いやすいのでしょうか。
 昭和30年代から40年代にかけては、工業化時代の黎明期(れいめいき)とでもいえる時代で、工業製品の使われ方に関しての理論を確立しようと、 皆が燃えて論争をしていました。人間工学華やかな時代です。
この、右流れ、左流れもその論争の一つでした。
・冷蔵庫から食材の取り出しやすさ・カット作業と端材の処理・フライパン使用時のガスの火力操作・食器洗い時の水栓と水切りカゴの 位置関係などなど、料理中のいろんな作業を想定しての使い勝手が議論されました。
 当時の冷蔵庫のドアの開き方向が右側にヒンジがあるものがほとんどだったせいか、冷蔵庫が右にある左流れが多少優位性が あった程度で、結論は出ませんでした。
私もレイアウト相談を受けた時は、冷蔵庫の開き方向を確認した上で、家の条件に応じて決める程度です。ただ、今迄使っていたキッチンと 逆の流れになった場合は、しばらくの間、とまどうかも知れません。そのことをユーザーには納得してもらっておくことが大切です。

人間工学 no.4

●流し台の適正高さ

nagare

 流し台の高さも論争されました。適正高さの計算式がさまざまな人たちから発表されました。
流し台高さに関する計算式
X=身長  Y=作業台高さ

     
@家政学会論文(1958年)Y=80〜85cm身長150cm
Y=70〜80cm身長145cm
A池田武邦氏Y=0.565X-8cm
B日本建築学会(1959年)Y=0.53X流し台
Y=0.5X調理台
C家政学会論文(1959年)Y=85cm身長159cm
Y=80cm身長147cm
D暮らしの手帖社(1963年)Y=1/3X+35cm
E産業工芸試験所(吉永敦氏・1967年)Y=0.34X+29.29cm
F沖田冨美子氏(1974年)Y=0.758X-38.45cm
G家政学会論文(1975年)Y=身長比53〜56%寒天を切る
Y=身長比53〜56%きゅうりを切る
Y=身長比50〜53%油粘土を切る
Y=身長比48〜51%冷凍鯨肉を切る
H日本能率協会Y=身長比53.3%腕仕事台
Y=身長比49.8%力仕事台
I清家清研究室Y=2/5X+22cm
J日本建築学会報告集YA=0.185X+54.957cm流し台
YB=0.416X+16.634cm調理台

このように、さまざまな意見があります。キッチン高さをシンク、調理台、ガス台全てを同じ高さにする前提で捉えている論文もあれば、 作業によって適正高さが異なるとしているものもあります。
現在のシステムキッチンの中にも、ガス部だけを低くしたものをラインナップしているものもあります。 ガス機器の種類によっては、ゴトクの高さが高いものもあり、本来ならば、ガス部はシンク部より適正高さが低いはずなのに、逆に高く なってしまうからです。
でも、加熱機器は低い方がいいからといって、電磁調理器(IHクッキングヒーター)まで低くしてしまうのは考えものだと 思います。ゴトクもないし、調理の仕方もフライパンなどを動かしながらということもないですからね。
 キッチンメーカーでは、ユーザーにわかりやすいように次の計算式を採用しています。

Y=1/2X+5cm

キッチンメーカーで売られているキッチンは、今でこそ、高さのフリー対応ができるものもありますが、ほとんどが高さ80cmと 85cmのものです。
この計算式で適正高さが82cmと出たらどうしたらいいのでしょうか。
食器洗浄機の有無、ゴトクの高さ、料理の種類、料理の仕方などさまざまな条件を照らし合わせますが、私は適正高さが80cm を越えたら85cmのものをお奨めしています。
低いと腰にきます。高いのは慣れますし、かかとの高いスリッパなどで調節できるからです。

人間工学 no.5

●設備のレイアウト

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 流し台、調理台、ガス台のレイアウトはI型、L型、U型のどの配置が楽なのかについても研究がなされました。
沖田冨美子氏の研究室では、それぞれのレイアウトで実際に料理を行い、動きを観察し、通った部分を線で表し、分析しています。
当時の結論は覚えていませんが、今、この分析の資料を見ますと、流し台とガス台の間は頻繁に行き来するのは当然ですが、流し台 と冷蔵庫、流し台とテーブルの間の動きが多いのが見て取れます。
設備のI型、L型、U型というよりも、冷蔵庫、テーブル、現在は電子レンジをも含めたレイアウトでの検討が必要かも知れません。

人間工学 no.6

●仕事の三角形・四角形

sankaku

 シンクとガスと冷蔵庫の中心を結んだ線をワークトライアングル(仕事の三角形、または作業の三角形)と言います。
一般に言われているのは、この三角形の辺の長さの合計を360cmから600cmの間にすれば、作業効率がいいということです。
しかし、実際、ガスから冷蔵庫への行き来はほとんどありません。必ずシンクや調理台を経由します。ですから、これはあくまでも 目安と考えた方がいいと思います。
さらに、最近は料理に電子レンジを使う場合も多くなり、三角形でなく電子レンジを含めた 四角形(ワークスクエア)だという考えも浸透してきています。また、電子レンジでなく、収納系での四角形だという考えもあります。
 日本の一般的な住宅ですと、よっぽどのことがない限り、この三角形、四角形がべらぼうに大きくなるというようなことはないと 思います。


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