2009.11.

ボーベリア菌


 冷たい雨の降る休日。
 撮影したものの、種名がわからない生物の写真を整理した。変わったもの・目につくものが見つかるたびに撮影をし、後で名前を調べようとため込んだ生物の写真は積み上げてみると、高さ50cmにもなろうとしていた。中には撮影されてからすでに20年以上の年月が流れている写真もある。こんなのは、ほとんど“迷宮入り”といってもいいだろう。それでも、暇な時にこんな写真をとりだして、いろいろ調べてみると、時として解明されるときもある。
 この日、目にとまったのはカミキリムシに生えた白いカビ。同じように昆虫から生えた白いカビの写真は他にも2枚あった。1枚はカメムシから。もう1枚は元の昆虫が何であったのかさえわからなくなったもの。こんな昆虫に生えた白いカビは野外でときどき見かけることがある。写真は“カビ”で済ましてしまうにはあまりに大雑把すぎるので、これまで「正体不明」のままおかれていたものである。


 昆虫病原性糸状菌 − これが判明した白いカビの正体だ。もっと詳しく書けば、昆虫病原性糸状菌にも何種類かあって、これはボーベリア菌(Beauveria bassiana   あるいは、Beauveria sp.としておいた方がいいか?)という種類になるらしい。
 これに昆虫が取りつかれると、体から白いカビが生えてきて死に至るという。病名は「白きょう病」。昆虫にとっては恐ろしい不治の病となる。写真の白いカビの生えた昆虫は、死んでからカビが生えたのではなく、このボーベリア菌に取りつかれて殺された不運な昆虫だったのだ。
 ボーベリア菌の生き方は、冬虫夏草とよく似ているといえる。冬虫夏草の場合は、昆虫からキノコが生えてくるが、この場合はカビだったというわけだ。
 ボーベリア菌の近縁の種類では、バッタなどに取りついてバッタを死に至らしめる昆虫病原性糸状菌もあるという。こちらの現場もときどき野外で見かけることがある。バッタを発見して慎重に近づき、写真を撮ってみてもピクリとも動かず、最後に突っついてみても動かず、実は死んでいるのに気がついたなんてことも一度ではない。この場合、白いカビさえ生えず、ただバッタは草にしがみついたまま死んでしまっているのである。
 昆虫たちにとってなんとも恐ろしい昆虫病原性糸状菌であるが、昆虫病原性糸状菌以上に人間はしたたかだ。このボーベリア菌は、カミキリムシあるいはカメムシなどの昆虫に対しての「生きている殺虫剤」としてすでに製品化されていたのである。
 しかし、「毒をもって毒を制する」なんて思っていると、突然変異でも起こして、たいへんなことになるかもしれない… という想像は考えすぎだろうか。
 ボーベリア菌が散布され、あちこちに白いカビが生えた昆虫の死体が転がっている風景。そして、そこからさらに毒性をもった変異ボーベリア菌が風にのって拡がっていく…。
 文才があれば、ちょっとしたSFが書けそうな気がしてきた。 


 ボーベリア菌に侵された昆虫

 もう元の昆虫が何であったのかさえよくわからなくなるくらい真白になっていた。
 

    2009.9.21.撮影  東吾妻町萩生






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