クラシカルサクソフォンのCDを紹介します。といってもmckenさんのWebサイト「mcken's wonderland(→http://www.iwakami.ne.jp/~mcken/)」内の「Fantastic Classical Saxophone」始め、クラシック・サクソフォン関連のCDをレビューしたサイトは素晴らしいものがたくさんありますし、実際そちらのほうがオススメです(笑)。
 ここでは特に真新しい情報は載せませんが、数あるCDのなかから「気楽にクラシックのサクソフォンを楽しめる」とか「これを聴いておけば間違いない!」という基準で、何枚か取り出してレビューを書いてみました。
 10枚分のレビューを書いた時点で、実験的に公開してみました。徐々に拡張していこうと思っています。
メールはこちら→kuri_saxo@yahoo.co.jp
メインページへ→http://www.geocities.jp/kuri_saxo/

・Marcel Mule マルセル・ミュール
「La Legende(Association des Saxophonistes A.SAX 98)」

1. Creston, Paul ポール・クレストン - Sonata, op19 ソナタ作品19
2. Bonneau, Paul ポール・ボノー - Caprice en forme de valse ワルツ形式によるカプリス
3. Maurice, Paule ポール・モーリス - Tableaux de Provence プロヴァンスの風景
4. Glazounov, Alexandre アレクサンドル・グラズノフ - Quatuor de saxophones, op109 サクソフォーン四重奏曲作品109(抜粋)
5. Dubois, Pierre=Max ピエール=マックス・デュボワ - Divertissement ディヴェルティスマン
6. Schmitt, Florent フローラン・シュミット - Quatuor de saxophones, op102 サクソフォーン四重奏曲作品102
7. Bozza, Eugene ウジェーヌ・ボザ - Caprice カプリス
8. インディアナ州エルカートにおけるマルセル・ミュールのスピーチ
9. Bach, Johann=Sebastian ヨハン=セバスティアン・バッハ - 6th Flute Sonata フルートソナタ第6番(抜粋)
10. Lantier, Pierre ピエール・ランティエ - Euskaldunak ユースカルデュナーク
11. Brsari, Amedee アメデ・ボルサリ - Quatuor de saxophones サクソフォーン四重奏曲
12. Granados, Enrique エンリケ・グラナドス - Intermezzo from "Goyescas" 「ゴィエスカス」より間奏曲
13. Ibert, Jacques ジャック・イベール - Concertino da camera 室内小協奏曲
14. Kreisler, Fritz フリッツ・クライスラー - Liebesfreud 愛の喜び
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 「サクソフォーンの神様」マルセル・ミュール(1901 - 2001)の、主にLP時代の録音を復刻したフランス・サクソフォーン協会の2枚組自主制作盤。その昔セルマーが販売していたLPの収録音源を中心とする、マルセル・ミュール全盛期を捉えた貴重な記録である。振幅の大きなヴィブラートを伴った演奏は時代を感じさせるが、その豊かな音楽性を湛えた演奏はどんな聴き手の耳をも納得させてしまうほどの強い魅力を放つ。
 クレストンの「ソナタ」はルソーのインタビューでミュール自身が「印象深い曲の一つ」と挙げていた名品。クレストン作品に多く見られるある種の快活さを軽々と実現しているヴィルトゥオジティに一瞬で耳を奪われ、続くボノーの無伴奏作品では当時これを耳にした聴衆の興奮が目に浮かぶようだ。「プロヴァンスの風景」の粒ぞろいの宝石のような各楽章を鮮やかなスピード(現代にあってもめったに聴けない!)で聴かせ…ま一つ一つ挙げていけばきりがない。
 四重奏はマルセル・ミュール四重奏団時代にDeccaに吹き込んだ録音の復刻。シュミット晩年にミュールに捧げられたという「四重奏曲」は対位法を駆使した名曲で、初演者ならではの親しみが感じられるようだ。ランティエの作品は現在あまり耳にすることもないが、どこかしら切ないメロディを伴った名曲だと思う。
 イベールは1930年代にGramophoneから発売されたSPに収録されており、手元のデータ(Alphonse Leduc刊 Marcel Mule: sa vie et le saxophone)によるとオーケストラはフィリップ・ゴーベール指揮コンセルヴァトワール管弦楽団とのこと。若きマルセル・ミュールが際限ないテクニックでもって臨んだ、数ある「室内小協奏曲」の録音のなかでも屈指の演奏だと思う。イベールとミュールは親交があったとの事で、親しみを込めながらサラサラと吹きこなしてゆく。
 自主制作盤のためかお値段は少々高め。だが、サクソフォーン黎明期の一つの頂点に到達した演奏を耳にすることができるすばらしい企画によるディスクだと思う。

・Jean=Marie Londeix, Quatuor Deffayet etc. ジャン=マリー・ロンデックス、デファイエ四重奏団 他
「Le saxophone francaise(EMI Music France 7243 5 72360 2 7)」

1. Sauget, Henri アンリ・ソーゲ - Sonate bucolique 牧歌的ソナタ
2. Absil, Jean ジャン・アブシル - Sonate, op115 ソナタ作品115
3. Creston, Paul ポール・クレストン - Sonata, op19 ソナタ作品19
4. Jolivet, Andre アンドレ・ジョリヴェ - Fantaisie-impromptu 幻想的即興曲
5. Charpentier, Jacques ジャック・シャルパンティエ - Gavambodi 2 ガバンボディ2
6. Koechlin, Charles シャルル・ケックラン - Epitaphe de Jean Harlow ジーン・ハーロウの墓標
7. Tomasi, Henri アンリ・トマジ - Printemps 春
8. Nin, Joaquin ホアキン・ニン - Le chant du veilleur ヴェイエールの歌
9. Villa=Lobos, Hector エクトル・ヴィラ=ロボス - Sextuor mystique 神秘的六重奏曲
10. Pierne, Gabriel ガブリエル・ピエルネ - Introduction et Variations sur une ronde populaire 民謡風ロンドの主題による序奏と変奏
11. Desenclos, Alfred アルフレッド・デザンクロ - Quatuor pour saxophones サクソフォーン四重奏曲
12. Rivier, Jean ジャン・リヴィエ - Grave et Presto グラーヴェとプレスト
13. Schmitt, Florent フローラン・シュミット - Quatuor de saxophones, op102 サクソフォーン四重奏曲作品102
14. Dubois, Pierre=Max ピエール=マックス・デュボワ - Quatuor pour saxophones サクソフォーン四重奏曲
15. Francaix, Jean ジャン・フランセ - Petit quatuor pour saxophones サクソフォーン小四重奏曲
16. Vellones, Pierre ピエール・ヴェローヌ - Valse chromatique 半音階的ワルツ
17. Vellones, Pierre ピエール・ヴェローヌ - Cavaliers andalous アンダルシアの騎士
18. Vellones, Pierre ピエール・ヴェローヌ - Les dauphins イルカ
19. Hindemith, Paul ポール・ヒンデミット - Sonata ソナタ
20. Beck, Conrad コンラド・ベック - Nocturne 夜想曲
21. Denisov, Edison エディソン・デニゾフ - Sonata ソナタ
22. Ryo, Noda 野田燎 - Improvisation I 即興曲
23. Debussy, Claude クロード・ドビュッシー - Rhapsodie ラプソディ
24. Ibert, Jacques ジャック・イベール - Concertino da camera 室内小協奏曲
25. Pierne, Gabriel ガブリエル・ピエルネ - Canzonetta カンツォネッタ
26. Foret, Felicien フェリシアン・フォレ - Patres パトレ
27. Kreisler, Fritz フリッツ・クライスラー - La Precieuse
28. Kreisler, Fritz フリッツ・クライスラー - Schon Rosmarin 美しきロスマリン
29. Gabriel=Marie ガブリエル=マリー - La Cinquantaine 金婚式
30. Rimsky=Korsakov, Nikolai ニコライ・リムスキー=コルサコフ - Chanson hindoue インドの歌
31. Dvorak, Antonin アントニン・ドヴォルザーク - Humoresque ユーモレスク
32. Combelle, Francois フランソワ・コンベル - Variations sur Malborough マールボロによる変奏曲
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 ボルドー音楽院教授ロンデックス氏の未復刻音源(1 - 9, 19 - 23)を中心に、EMIの所蔵音源を大量に投入した3枚組の豪華CD。またディスク2にはデファイエ四重奏団の代表的録音(10 - 18)、ディスク3の後半にはミュールの音源(24 - 32)も含まれており、1セットでフランスサクソフォーン界の潮流を一気に回顧できるすばらしい内容の音盤である。共演者も豪華で、ハープのリリー・ラスキーヌ始め近代フランスの名手が集結している。
 ロンデックス自身が「サクソフォーンが持つたった二つのレパートリー」と評するドビュッシー「ラプソディ」とデニゾフ「ソナタ」が含まれているのが興味深い。ドビュッシーはマルティノン指揮フランス国立放送管弦楽団がEMIに残した全集からの録音で、コンスタン指揮ラムルー管弦楽団の演奏などと並び、この曲の代表的な録音の一つである。管楽器群を筆頭に流麗な音色が美しい。デニゾフはサクソフォンの現代音楽分野での開拓のためロンデックス自身がデニゾフに委嘱したもので、特殊奏法やジャズのイディオムを盛り込んだ密度の高い作品。現代の演奏に比べてキレがないようにも聴こえるが、ともあれ初演者による貴重な録音である。
 デファイエ四重奏団の演奏では、フランスサクソフォーン界の王道とも言えるレパートリーを上質な音色で聴くことができる。即物的な(タテは合っていないし、ピッチもところどころおかしい)録音にも聴こえるが、何度も聴いていくうちにそのスケールの大きな音楽に飲み込まれてしまうものだから不思議である。現代の演奏しか聴いたことのない向きには、ぜひ一度聴いていただきたい。
 ミュールについてはSP時代の小品録音を中心に復刻しており、ヴァイオリンのような美しいヴィブラートが印象的。イベール「室内小協奏曲」はゴーベール指揮コンセルヴァトワール管弦楽団による演奏で、アルバム「La Legende」と同一音源。「マールボロによる変奏曲」などでのテクニックの冴えはもちろんのこと、「ユーモレスク」のような大衆向けの旋律をも高い音楽性で表現する稀有な音源ばかりである。

・John Harle ジョン・ハール
「Terror and Magnificence(Argo POCL-1681)」

1. Harle, John ジョン・ハール - Mistress Mine ああ我が恋人
2. Harle, John ジョン・ハール - Terror and Magnificence 恐怖と壮麗
3. Harle, John ジョン・ハール - The Three Ravens 三羽の鴉
4. Harle, John ジョン・ハール - Hunting the Hare 野兎狩り
5. Harle, John ジョン・ハール - Rosie-blood 薔薇色の血
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 イギリスのサクソフォーン界を代表する奏者・作曲家・指導者である、ジョン・ハール氏の代表的アルバム。ポップなサウンドを意識した作りで、幅広い層のリスナーにお薦めできる一枚である。とはいっても、全曲ジョン・ハールの作曲・演奏で、イージーな部分は一切見受けられないレベルの高いアルバム。ArgoレーベルのCDのなかでも何度も再プレスされているようで、やはり人気があるのだろう。
 ロックシンガーとして活躍するエルヴィス・コステロをフィーチャーした一曲目「ああ我が恋人」から独特の雰囲気に圧倒される。マイケル・ナイマンバンドを髣髴とさせるバンド編成の伴奏に、シェイクスピアのテキスト、間奏で絶妙に絡むソプラノサックスソロ…と挙げていけばきりがない。「恐怖と壮麗」は20分にも及ぶが、様々に場面を転換させつつ曲が進行し、冗長さをまったく感じさせない作り。曲想にはジャズやロックのイディオムをも交え、バンドも快演。「三羽の鴉」はトヨタ・クラウンのCMにも使われたことがあるので耳にされたことがある方も多いのではないだろうか。さらに続く「野兎狩り」では、アンディ・シェパードとともにハールがなんと即興を披露している。
 フランスのサクソフォーンに慣れていると、最初は独特のサウンドに面食らうかもしれない。しかし、伝統の模倣に終始せず、独自のレパートリーや演奏を開拓し、さらに完成度の高い形で公開してしまうという姿勢はまったくもって見事と言うほかない。そんなハールのアイデンティティが随所に溢れるすばらしいCD。

・Quatuor Habanera ハバネラ四重奏団 「Grieg, Glazounov, Dvorak(Alpha 041)」

1. Grieg, Edvard エドワルド・グリーグ - Au temps de Holberg 組曲「ホルベアの時代から」
2. Glazounov, Alexandre アレクサンドル・グラズノフ - Quatuor de saxophones, op109 サクソフォーン四重奏曲作品109
3. Dvorak, Antonin アントニン・ドヴォルザーク - Quartet no12 "America" 弦楽四重奏曲第12番「アメリカ」
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 2003年にセンセーショナルな来日デビューを飾ったハバネラ四重奏団のセカンドアルバム。メンバー全員がパリ国立高等音楽院ドゥラングル門下の出身で、四重奏団としては大阪国際音楽コンクール室内楽部門第1位、ジャン=マリー・ロンデックス国際コンクール第1位などの華々しい経歴を持つ。均一な音色と抜群のコントロール、テクニックを持つ、世界でいま最も注目すべき四重奏団の一つ。
 曲目は、純粋に奏者の技量が試されるであろう古典作品。何気なくCDを聴き始めると、派手な経歴からは想像できない意外なほどの「普通の」演奏に驚くことだろう。一見するとテクニックばかりをさらけ出しているとか超絶技巧だとかいう印象はなく、上質のサウンドが小川のようによどみなく流れてゆく。続くグラズノフやドヴォルザークでも下手な小細工をせずに丹念に組み上げられたアンサンブルが心地よい。
 この一見「普通の」演奏を実現する難しさ!超絶技巧を超絶技巧と思わせず、アルティシモ音域までを均一なサウンドで作り上げ、どこまでも自然なフレージングを徹底して追求した結果、「サックスのCD」というより「クラシック音楽のCD」として高いレベルで結実してしまった…とでも言えばいいだろうか。お堅い「普通の」クラシックファンの耳をも納得させる屈指の四重奏アルバム。
 紙ジャケット仕様。表紙にはアルファレーベルの特徴である絵画(Georg Nikolaj Achen "Interior", 1901 オルセー美術館蔵)が使用され、アルバムに花を添えている。最近では国内代理店経由で流通し、日本語解説が添付された版も見かけるようになった。国内タイトルは「キャチュオール・アバネラ」。

・Yasushi Arai 新井靖志
「Fantasia(Meister Music MM-1091)」

1. Villa=Lobos, Hector エクトル・ヴィラ=ロボス - Fantasia ファンタジア
2. Fiocco, Joseph=Hector ジョセフ=エクトル・フィオッコ - Concerto 協奏曲
3. Poulenc, Francis フランシス・プーランク - Sonate ソナタ
4. Glazounov, Alexandre アレクサンドル・グラズノフ - Chant du Menestrel 吟遊詩人の歌
5. Clerisse, Robert ロベール・クレリス - Serenade Variee セレナード・ヴァリエ
6. Bruch, Max マックス・ブルッフ - Kol Nidrei コル・ニドライ
7. Schumann, Robert ロベルト・シューマン - Adagio und Allegro アダージョとアレグロ
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 シエナ・ウィンドオーケストラのコンサートマスター、トルヴェール・クヮルテットのテナー奏者として活躍する新井靖志氏の、全編テナーサクソフォンによるファーストアルバム。ピアノは小柳美奈子女史。オリジナルである「ファンタジア」「セレナード・ヴァリエ」を除けば、ほとんどがチェロのための曲からの改作である。
 音色はあくまでも軽やかにどんなパッセージにあっても驚くほどすらすらと吹きこなしてゆく。かといって流れている音楽が安っぽいとかそういうことは全くなく、何気ないワンフレーズから上質の音楽が滲み出し、聴き進めていくうちにテナーサクソフォンであることを忘れてしまうほどだ。ロンデックス編フィオッコ「協奏曲」は楽譜を見、さらってみたことがあるけれどあの黒々とした跳躍だらけ練習曲のような譜面をこうも均一な音色で吹かれてしまうと自己嫌悪に陥るばかりである(笑)。ただ単に吹けば何気ない小品になってしまう「セレナード・ヴァリエ」のような曲を美しく聴かせる豊かな音楽センスの高さにも感服。
 新井氏の人となりが演奏に顕れているのだろうか、実際にお会いしたことはないのだがその優しい人柄が想像できるようだ。優しく軽やかなテナーの音色は何度も聴きたくなってしまうこと間違いなし。特に中学高校の吹奏楽部でテナーサクソフォンを演奏しながら「テナーってオイシイところ少ないし、聴こえないし…」などと思っている向きにはぜひ聴いてほしい。
 マイスター・ミュージックの録音は、EMIのそれに比べピアノを高解像度で捉えているように思える。小柳さんってこんな多彩な音色を持っていたんですね。気付かなかった…。EMIの録音を聴くとややピンボケ気味にも聴こえるもので。

・Claude Delangle クロード・ドゥラングル
「The Japanese Saxophone(BIS CD-890)」

1. 夏田昌和 - West, or Evening Song in Autumn 秋の、西または夕暮れの歌
2. 野平一郎 - Arabesque III アラベスクIII
3. 棚田文則 - Mysterious Morning III ミステリアス・モーニングIII
4. 細川俊夫 - Vertical Time Study II ヴァーティカル・タイム・スタディII
5. 武満徹 - Distance ディスタンス
6. 平義久 - Penombres VI 薄明かりVI
7. 湯浅譲二 - Not, I but the Wind... 私でなく、風が…
8. 田中カレン - Night Bird ナイト・バード
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 パリ国立高等音楽院サクソフォーン科教授クロード・ドゥラングル氏の演奏による、邦人サクソフォン作品集。演奏不可能と呼ばれるどんな難曲をも、圧倒的な技術によって吹きこなしてしまうドゥラングル氏。現代最高のソリストとも評されるその恐るべきテクニックと、「外国人が日本人のサックス作品にアプローチする」という独特のコンセプトの組み合わせから、アルバム全体が不思議な雰囲気に包まれているようにも感じる。ジャケット表紙を飾るのはハーヴェイ氏によって描かれた三枚の日本画(?)。
 和太鼓を模したパーカッションに尺八のように飄々と絡むソプラノサックスが印象深い「秋の、西または夕暮れの歌」。テンポ・ルバートや微分音が多用され、これ尺八と太鼓でやっても全く違和感なく聴こえるのだろうな。フランスで活躍する作曲家、棚田文則氏の「ミステリアス・モーニング掘廚魯汽奪スの特殊奏法を限界まで引き出した集中力の高い小品。「ナイト・バード」はテープとのデュオによる演奏で、水中を移動してゆくようなシンセサイザーの音色上を遠鳴りするサックスのメロディがゆっくりと過ぎ去っていく様子が美しく聴ける。その他に日本作曲界の重鎮、野平氏や湯浅氏の作品が収録されているのにも目を引かれる。
 こうして様々に曲を聴き比べていくと、意外な名品に気付かされたりすることもあり大変おもしろい。どの曲も現代音楽で聴くに当たって多少の厄介さはあるものの、不思議と自然に聴くことができてしまうのはドゥラングルの高い技術と、「日本産」の楽曲である、という故なのだろう。

・Arno Bornkamp アルノ・ボーンカンプ
「The Classical Saxophone(Brilliant Classics 6476)」

1. Glazounov, Alexandre アレンクサンドル・グラズノフ - Concerto, op109 協奏曲作品109
2. Koechlin, Charles シャルル・ケックラン - 1re Sonatine, op194-1 ソナチネ第一番作品194-1
3. Caplet, Andre アンドレ・カプレ - Legende 伝説
4. Koechlin, Charles シャルル・ケックラン - 2eme Sonatine, op194-2 ソナチネ第二番作品194-2
5. Ibert, Jacques ジャック・イベール - Concertino da camera 室内小協奏曲
6. Demersseman, Jules ユレ・ドゥメルスマン - Fantaisie sur un theme original オリジナル主題による幻想曲
7. Bizet, Georges ジョルジュ・ビゼー - Intermezzo from "L'Arlesienne" 「アルルの女」より間奏曲
8. Mussorgsky, Modest モデスト・ムソルグスキー - The Old Castle from "Pictures at an Exhibition" 「展覧会の絵」より古城 9. Ravel, Maurice モーリス・ラヴェル - Piece en forme d'Habanera ハバネラ形式による小品
10. Francaix, Jean ジャン・フランセ - Cinq danses exotiques 五つの異国風舞曲
11. Bozza, Eugene ウジェーヌ・ボザ - Aria アリア
12. Jolivet, Andre アンドレ・ジョリヴェ - Fantaisie-impromptu 幻想的即興曲
13. Wiedoeft, Rudy ルディ・ヴィードーフ - Valse vanite はかないワルツ
14. Gershwin, George ジョージ・ガーシュウィン - Three Preludes 三つの前奏曲
15. Rachmaninoff, Sergei セルゲイ・ラフマニノフ - Vocalise, op34-14 無言歌作品34-14
16. Itturalde, Pedro ペドロ・イトゥラルデ - Pequena Czarda 小さなチャルダッシュ
17. Matitia, Jean ジャン・マティティア - Devil's Rag 悪魔のラグ
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 アルノ・ボーンカンプ氏はオランダのアムステルダム音楽院教授を務め、ソロや四重奏の活動でも有名な現代を代表するサクソフォーン奏者の一人。エド・ボガード氏に学んだ後、現代の作曲家とのコラボレーションやピリオド楽器への積極的なアプローチ、数々のレコーディングによって世界的に認知されるようになった。ピアニスト、イヴォ・ヤンセン氏とのデュオ活動、オーレリアサクソフォン四重奏団のテナーサクソフォーン奏者としての活動…いずれも高い評価を得ている。
 もともとChallenge Classicsから発売されていた二枚のCD「A Saxophone in Paris」「Devil's Rag」を、廉価版として一つのパッケージにまとめてBrilliant Classicsが再発売したもの。一枚目はアムステルダム室内管との協奏曲集、二枚目はヤンセン氏とのデュオである。大変にレベルの高い演奏が聴け、しかも1000円を切る価格で入手可能なお買い得CD。
 一枚目では、イベール「室内協奏曲」の演奏もかなりいいが、録音の少ないケックラン「ソナチネ」の透明感を湛えた演奏も心地よい。ここでボーンカンプはソプラノサクソフォンを吹いているがソプラノ特有の鋭い芯はほとんど感じられず、むしろ美しい響きを重視した音作り。そのセンスがケックランの叙情性とマッチしているようで聴きやすい。カプレの「伝説」はドビュッシー作品と並んで20世紀初頭のサクソフォーン界を代表するレパートリーの一つ、貴重な録音である。
 二枚目は一枚目とうって変わって楽しい雰囲気に満ち溢れている。サクソフォーンのレパートリーとしてはおなじみの小品が並んでいるが、何気ないビゼーやボザの作品にも一切手抜きなし!イトゥラルデやマティティアの作品では超絶技巧が冴えまくり、演奏者たちが楽しんでいる様子が伝わってくるようだ。オリジナルはピアノ曲、ガーシュウィン「三つの前奏曲」での積極的な表現力もボーンカンプ氏の演奏ならでは。

・Masato Kumoi Sax Quartet 雲井雅人サックス四重奏団
「Mountain Roads(Cafua CACG-0039)」

1. Bach, Johann=Sebastian ヨハン=セバスティアン・バッハ - Partita No.4 in D Major, BWV.828 パルティータ第四番ニ長調 BWV828
2. Byrd, William ウィリアム・バード - Pavane for the Earl of Salisbury ソールズベリー伯爵のパヴァーヌ
3. 生野裕久 - Missa Votiva ミサ・ヴォティーヴァ
4. Bach, Johann=Sebastian ヨハン=セバスティアン・バッハ - Wenn wir in hochsten Noten sein, BWV.641 われら悩みの極みにありて BWV641
5. Maslanka, David ディヴィッド・マズランカ - Mountain Roads マウンテン・ロード
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 日本を代表するソリストである雲井雅人氏が、1996年に同門のメンバーを集めて結成した四重奏団。通称「雲カル」。2001年より始まった年に一回の定期演奏会はいずれも好評を得、アルバムを既に2枚リリース。着実に地位を確立しつつあるカルテットの一つだ。ともすればフランス・アカデミズム系に偏りがちなサクソフォーン四重奏のレパートリーであるが、雲カルが取り上げる作品は多くが隠れた名作。かといって奇をてらった作品はなく、彼らが日本初演した作品が、スタンダードなレパートリーに定着してしまう例さえある。
 収録された「パルティータ」「ミサ・ヴォティーヴァ」「マウンテン・ロード」は、どれも第一回の定期演奏会で取り上げれた作品。冒頭のバッハから一瞬にして、パイプオルガンのような美しい響きに心を奪われる。均一な発音、音色、そして安定した和声感。どこを切り出しても、キラキラした豪華絢爛なサックスが響き渡る。
 「マウンテン・ロード」は名曲!トランスコンチネンタル四重奏団の委嘱による、古典的な構成を持った全六楽章構成の組曲。サクソフォーン四重奏のレパートリーとしては、特に高いメッセージ性を湛えた作品と言えるだろう。雲カルはこの大曲に真正面から取り組み、非常に高いレベルの演奏に成功している。
 現代サックス界の名盤の一つであることに、疑いはないだろう。その収録曲の特殊性からショップなどでは手を伸ばしづらい(実際、曲目を見て購入をためらった)のだが、ぜひもっと広く知られて欲しいと思う。

・Nobuya Sugawa 須川展也
「Fuzzy Bird - Nobuya Sugawa Saxophone Recital(Apollon APCE-5199, Art Union ART-3079)」

1. Yoshimatsu, Takashi 吉松隆 - Fuzzy Bird Sonata ファジイバード・ソナタ
2. Desenclos, Alfred アルフレッド・デザンクロ - Prelude, cadence et finale プレリュード、カデンツァとフィナーレ
3. Denisov, Edison エディソン・デニゾフ - Sonata ソナタ
4. Creston, Paul ポール・クレストン - Sonata, op19 ソナタ作品19
5. Berio, Luciano ルチアーノ・ベリオ - Sequenza IXb セクエンツァIXb
6. Milhaud, Darius ダリウス・ミヨー - Scaramouche スカラムーシュ
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 須川展也氏が1991年に録音したセカンド・アルバム。当初アポロンより発売されていたが、レーベルは倒産。バンダイレーベルに移行するも、時を待たずしてバンダイはCD事業から手を引き、その後長らく廃盤になっていたCDである。2004年、アートユニオンより待望の再プレスがなされた。須川氏のCDとしては珍しく(?)純粋にアカデミックなレパートリーに、真正面から取り組んだ一枚である。
 同一傾向のCDとして、2003年に発売された「Exhibition of Saxophone(EMI TOCE-55521〜3)」があり、こちらも大変オススメできるCDなのだが、価格面(4,800円)から若干手を出しづらいため、こちらを取り上げた次第。
 吉松氏の「ファジイバード」は、今でこそコンクールやリサイタルなどで盛んに取り上げられるようになったが、当時としては革新的なレパートリーの一つだったのだろう。しかし小柳氏ともども、技術上の困難さを微塵も感じさせない安定感、そしてさらに突っ込んだクールな解釈がすばらしい。1998年に行われた再録音(「Made in Japan(EMI TOCE-9695)」)とは甲乙つけがたいと言ったところ。
 「ファジイバード」でノリの良さを見せたかと思えば、デニゾフやベリオでは難所を連続してキメていく懐の深さ。既に「古典的レパートリー」に定着して久しい両曲だが、巷に数多くあふれる録音と比較しても、ベストにランクインしてもおかしくないだろう。まるで15年以上前の録音だということが信じられないほど。20代後半にしてこの存在感あふれる演奏、当時から注目を集めていたのだろうな。
 クレストンやミヨーは、とても洒落た雰囲気。ミヨーはアンコール扱い?肩肘張らずに聴ける心地よい音色に、須川氏のアイデンティティ、そして多くの人に愛される理由を感じ取ることができる。

・Henk van Twillert ヘンク・ファン・トゥイラールト
「Tango(Movieplay Classics SMP 850453)」

1. Piazzolla, Astor アストル・ピアソラ - Libertango リベルタンゴ
2. Piazzolla, Astor アストル・ピアソラ - Solitude 孤独
3. Piazzolla, Astor アストル・ピアソラ - Verano Porteno ブエノスアイレスの夏
4. Piazzolla, Astor アストル・ピアソラ - Novitango ノヴィタンゴ
5. Huizinga, Henk ヘンク・ホイジンガー - Desierto 砂漠
6. Piazzolla, Astor アストル・ピアソラ - Reminiscence 想い出
7. Piazzolla, Astor アストル・ピアソラ - Close Your Eyes & Listen 目を閉じて、聞いて
8. Huizinga, Henk ヘンク・ホイジンガー - Chubasco にわか雨
9. Piazzolla, Astor アストル・ピアソラ - Years of Solitude 孤独の歳月
10. Piazzolla, Astor アストル・ピアソラ - Violintango ヴァイオリン・タンゴ
11. Piazzolla, Astor アストル・ピアソラ - Deus Xango ジャンゴの神
12. Piazzolla, Astor アストル・ピアソラ - Whisky ウイスキー
13. Piazzolla, Astor アストル・ピアソラ - Undertango アンデルタンゴ
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 世にピアソラをカバーしたアルバムは数あれど、このCDはその中のベストの一枚と断言できる…と、個人的には思っている。タンゴに不可欠ともいえる、圧倒的なテンションとノリをここまで録音に凝縮した例は、ほかにあるまい。
 トゥイラールトは、オランダのアムステルダム音楽院を卒業したれっきとしたクラシック・サックスの奏者。それだけならば珍しくもないが、なんと彼はバリトン・サクソフォン専門(!)のプレイヤーなのだ。オランダとポルトガルを股に掛けてマスタークラスやリサイタルで活躍する一方、CD録音にも積極的。特にゲストと共演したCDは完成度も高く、評価されている。
 本録音は、ヴァイオリニストのSonja van Beekをゲスト・ソリストに迎え、バックにザルツブルグ・チェンバー・ソロイスト・クインテットを従えてピアソラを録音してしまったというもの。サックスによるピアソラ・アルバムは、ノリがクラシックそのままでつまらなかったり、編曲がイマイチだったり、曲が完成度が伴わなかったりと、今までトドメを刺す録音がなかったとも言える。1998年発売のこのCDは、「サックスでピアソラ」の突き抜けないイメージを完全に払拭する、すばらしい内容のCDだ。
 「リベルタンゴ」の開始数秒で一気に引き込まれる圧倒的なテンション。テンションだけではない、ヴァイオリンとバリトンサックスのデュオで魅せる超絶デュエットや、バックの奏者たちの強烈な推進力、アレンジのカッコよさ…。爆速リベルタンゴに続いて、今度はゆったりした「孤独」。しかし音楽の推進力は衰えを見せず、バリトンの渋い低音で、さらに濃密な演奏が展開されていく。驚いたことに最初から最後までこのテンション。ラストは「ウイスキー」「アンデルタンゴ」を連続で…ブラボー!!
 アレンジを務めたヘンク・ホイジンガーの自作が2曲、オマージュとして含まれている。曲の面白さとしてはピアソラの作品と比べて、若干劣るだろうか。その点少し残念かもしれない。
 タンゴが好きなら、またはバリトンサックスが好きなら一度は聴くべきCDだろう。ハマリます。クラシカル・サックス好き以外にも、広くオススメできるかも。