研究内容


A. これまでの研究
B. 研究上の技術など
C. 研究内容の紹介




(A. これまでの研究)

これまでに所属した研究室は、森林生物学(1999-2005)、森林水文学(2005-2010)、環境学(2010-2015)、地理学(2010,2014-)を実践していました。
これら所属研究室、および共同研究機関で実施するプロジェクトに加わり、そこで必要とされる調査、解析を学び、また実施してきました。

  これらの活動の中で、私は植物の振る舞いについての研究を担当してきました。それらの研究を大きく二つに分類すると、植物の生理的な特性の解明を通じた、
・ 植物の生息地環境への適応(あるいは不適応)に関する記述・解釈、
・ 生態系機能、とりわけ水資源および炭素循環への植物の寄与の評価

となります。前者は生理生態学(Ecophysiology)、後者は生態水文学(Ecohydrology)に含まれます。




(B. 研究上の技術など)
1. データ解析全般
1-1. Rを用いた統計解析全般
1-2. Fortranを用いた数値計算や大量データの解析
1-3. ArcGIS10を用いた解析

2. 植物生理生態学の関係
2-1. 光合成蒸散関係の一連の計測および機材の使用、光合成の環境応答や種間差の解析
2-2. 樹液流センサーの作成および関連機器と組み合わせた蒸散速度の計測(茎熱収支法、Granier式熱消散式、Heat ratio sensor)
2-3. 野外での樹体内通水過程および水分生理の諸計測と水ストレスの評価
2-4. 野外での光環境や樹形を考慮した受光・光合成モデル(Yplant)を用いた植物の馴化適応の評価
2-5. 成長解析
2-6. Non-structural Carbonの計測を通じた植物の炭素収支の観測(勉強・訓練中)

3. 水文・微気象学の関係
3-1. 生態系による蒸発散関係の計測全般(雨水配分や土壌水分の観測など)
3-2. 渦相関法でのフラックス観測、機器の立ち上げとメンテナンス
3-3. 気象測器全般の設置および維持管理
3-4. 群落多層型の熱・ガス交換モデルによる蒸発散・炭素吸収の推定(鉛直一次元)と、個葉〜群落スケールの現象を関連づけた解析




(C. 研究内容の紹介)

C-1. 植物生理生態学での研究
C-2. 生態水文学での研究


C-1. 植物生理生態学での研究
 日本の暖温帯には常緑広葉樹が多く見られます。暗いところなどでは、落葉樹よりも多く見られます。
特定の生活系の種が多数見られるということは、その種はその環境に適している−outperformしている−ことを示唆します。発芽、実生段階の生存、稚樹段階での成長競争あるいは耐陰性、そして成熟個体の生存および繁殖(受粉、結実、そのための資源配分)、のいずれかにおいて落葉樹よりも勝っているからこそ、その生態系に多く存在することが出来ているはずです。

今回対象とするのは、当年生実生よりも大きい稚樹段階の個体です。実生の段階では落葉樹種も見られますが、稚樹段階では特定の種を除いて常緑広葉樹が多く見られます。ということは、成長競争(林外)あるいは耐陰性(林床)において、常緑広葉樹は落葉樹に勝っているのでしょうか?またどのようにして勝っているのでしょうか?


博士課程では、落葉樹が生長をやめる冬に常緑広葉樹が多く光合成することで、年間としてはよりたくさん光合成して光不足に起因する死亡を回避している、という仮説の検証に取り組みました。
光-光合成関係を基に計算してみたところ、特に落葉樹の下層では冬に落葉した上層から差し込む強烈な光を利用して、年間の6−8割の光合成生産を冬の間だけで達成することが分かりました(Miyazawa and Kikuzawa 2005, New Phytol)。温度依存性などの計算問題はありますが、かなり頻繁に光-光合成関係を調べていますので、割と正確に計算できたと思います。春-秋に光合成生産において落葉樹にとても敵わない常緑広葉樹が挽回するのが冬であり、冬にも葉を持ち続けることはこの地域での優占を支える重要な生理生態的特性であることが分かりました。
瞬間値だけについてなら、常緑樹の林床の常緑広葉樹も、冬には夏とほぼ同じ速度で光合成をしていることも分かりました(Miyazawa and Kikuzawa 2006, Can J Bot)。ただし、冬と夏とで光強度の瞬間値には明確な違いはありませんが、夏の方が日長が長いので、一日あたり、一ヶ月あたりでは冬の光合成生産は微々たるものだということも分かっています(Miyazawa and Otsuki 2010 Funct Plant Biol)。

こうして得られた結果は一つの疑問を提示しました。特定の種では冬に光合成速度が大きく低下しますが、他の種では低下が観察されません。光合成速度の低下が起きた種では、(1)何らかの理由で能力が低下した、(2)光合成の温度依存性が違うため、低温で光合成速度がより低下した、のいずれか/両方、が考えられます。かみ砕いて表現すると、(1)温暖条件で測っても、冬の光合成速度は夏より低い、(2)低下した種は寒がりである、です。

実際に調べたところ、温度依存性には明確な種間差が見られず、25℃に標準化した光合成速度(正確にはVcmax25)は冬に種間差が発生しました(Miyazawa and Kikuzawa 2006, Tree Physiol)。低下の原因は、光阻害といわれる現象のようです(Miyazawa et al. 2007 Funct Plant Biol)。「ようです」と言うのは、光阻害が発生する場所と、冬の低温での光合成速度を決める反応とは、同じ葉緑体内でも別の場所で発生するからで、その理由が説明できないからです(他にもHikosaka et al. 2004やHirotsu et al. 2006なども同じ現象を報告している)。
光阻害が光合成速度を抑制したのではなく、別の原因で発生した光合成速度の低下が光阻害を引き起こした、という解釈もあるのですが、Miyazawa et al (2007)で行った実験結果を見る限り、光阻害が原因だったようです。

逆に、光阻害が発生しないのであれば、暖温帯の気象条件(最低気温が-5℃以上)ならば葉は冬にも旺盛に光合成をしているようです。こうした結果は冷温帯、あるいは寒帯での個葉スケールでの研究(Oquist et al. 2002でレビューされている)や群落スケールの研究(Hollinger et al. 1999 Global Change Biol)とは対照的ですが、もう少し暖かい地域では同じような結果が得られています(Anthoni et al. 1999, Agric For Meteol)。


<常緑樹林床の常に暗い光環境の場合>
冬の光に頼れない常緑樹の林床では、他の仕組み:同じような落葉樹よりもより光を効率的に受け取る樹形や葉の配置、を通じて、光合成生産を高くして死亡を回避しているのではないか、という計測も行いました。

葉や枝の3次元配置を調べ、太陽の光の入射角度と強度を上層の葉の分布から計算するYplantというソフトを用いて計算をした結果、受光および光合成の面で常緑広葉樹が(春-秋限定ではありますが)落葉樹に敵うことはないことが分かりました(Miyazawa and Otsuki 2010)。
サイズ(地上部重量)の同じ個体であるならば、常緑広葉樹の葉の量は落葉樹のわずか3割であり、入射する光のうち吸収できる光強度にも明確な違いがない。弱光での光合成速度もほとんど同じ。
常緑広葉樹が林床で多い理由は、光合成生産が落葉樹よりも高いから、でないことは間違いありません。これに対し、被食(虫、大型動物、病疫)が原因という研究もありますが、前者二つについて、林床の落葉樹個体をケージに入れて生育したら生き残れるとは思えません。

そういう実験をしたところ、落葉樹(熱帯性)は暗いところでは次々に葉が枯れ落ち、葉の生産が追いつかない実態が明らかになりました(Miyazawa et al 2014, Agroforestry Res)。葉がゼロにならないためには、葉を作るか、落とさないか、いずれかが必要になります。前者は暗くて光合成できなければ、遅くなる。葉の寿命は暗いところで長くなることはよく知られていますが、落葉樹には長くするのにも限界があります。
細かい計算をすると、落葉樹では葉を維持できないくらい低い成長速度であっても、常緑広葉樹は葉を維持できることがわかりました。上に書いたとおり、落葉樹は同じ環境の常緑広葉樹よりも3倍早く成長することが出来ますが、3倍であっても落葉しきってしまう(その1/3で成長する常緑広葉樹は葉を持ち続けられる)場合があることも分かっていますが、論文の書き方が悪いこともあり、なかなか受理されません。

一連の研究は、私が京都大学大学院に在籍時、また九州大学演習林に移籍したときに行った研究です。指導教員の菊沢喜八郎先生と、大槻教授(九大演習林)のご協力、ご指導の下行われた研究です。


C-2. 生態水文学の研究

はじめに
  植物が生きるには、地下からの水の吸い上げが必要です。この現象は、植物の生き残り、および水資源の消費の動向などの人々の関心を引いてきました。これらは降雨や気温、湿度などに強く影響され、場所、時間、そして種によって大きく異なります。

  とりわけ植物の水資源消費:蒸発散(ET)については、水源涵養の面、そして灌漑や生態系保全の観点から、古くから関心が持たれてきました。それだけ多くの研究がされてきたのですが、研究技術の発展により生まれた新たな知見創出への需要の発生に加え、従来の知見が通用しない事態の出現により、今でも多くの研究が必要とされています。

  インドシナ半島では、天然ゴムに対する旺盛な需要に応えるべく、広大な面積の土地が猛烈な勢いでゴム林に置き換えられてきました。これまで放置されてきた森林のうち、保全対象となった地域であっても、「持続可能な森林管理」という名の下に外来種が植栽され、森林自体は変化し続けています。
  黄土高原では、水土保全を目的に植栽されたニセアカシア植林地が水資源を消費しているのではないか、と懸念され、その実態解明が求められています。同時にその植林の成否の予測についても知識が必要とされています。
  世界各地では、これほどのペースではないにしても、外来種の在来種生態系への進入は進んでおり、外来種の登場が水、炭素、窒素循環に及ぼす影響について関心が高まっています。

  足下の日本でも植生変化は起きています。かつては全域を覆い、今でも観光資源となっている阿蘇の草原は、管理主体の高齢化などの原因で森林に置き換わられつつあります。今何が起きているのか、それは水資源や炭素循環の観点からはどういう現象なのか、に関する解明は日本でも必要とされています。


  これまで扱ってきた研究の多くは、こうした現象を題材に、ここ数年〜20年で発達した技術を用いて取り組んできたものになります。


C-2-1. カンボジアの社会林に植栽された外来種と自生する在来種:環境適応の有無は蒸散特性に表れているのか?
C-2-2. インドシナ半島で拡大するゴム林の蒸散の実態の解明と、環境変動がその成長・生存に及ぼす影響の予測
C-2-3. 中国黄土高原に植栽されたニセアカシアの蒸散:土壌乾燥と湿潤が植物生理に及ぼす影響と樹木の応答の解明
C-2-4. ハワイ島西岸を覆う外来性地下水依存樹種Prospopis pallida (kiawe)の蒸散と降雨/乾燥への応答
C-2-5. ハワイの熱帯高山性降雨林の蒸散:外来種侵入が蒸発散に及ぼす影響
C-2-6. 阿蘇の草原の保全は水資源涵養に寄与しているのか?


C-2-1. カンボジアの社会林に植栽された外来種と自生する在来種:環境適応の有無は蒸散特性に表れているのか?
東南アジアはモンスーンアジアに属し、降水量の明確に異なる雨季と乾季を持ちます。多くの研究で、乾季には植物は活動をやめ、雨季にがんばる、という知見が集められています。一方で、乾季にも植物は光合成や蒸散をする、という研究も報告されており、種によっても、また環境によっても雨季乾季の振る舞いには大きな違いがあります。

東南アジア最大で、そのサイズを降水量とともに変える湖、トンレサップ湖を中心に抱くカンボジアでは、広大な土地で地下水は高く、季節によって増減が見られます。このような生態系では、樹木の生長(光合成)や蒸散がどうなるのか、ということについて、実は知見がほとんど得られていません。
今後、気候変動や一体の水文過程に強い影響を及ぼすメコン川の水資源利用などの進行により、大きな変動が予想される地下水、その動向に植物がどう応答するのかを調べました。


蒸散速度を樹液流計測によって測ったところ、外来種と在来種で明確な違いが見られました。在来種では乾季に蒸散速度が低下するのに対し、外来種では雨季に低下が見られます。地下水位との比較をすると、地下水位上昇に対して、蒸散速度が在来種で増加、外来種で低下しました (Miyazawa et al. 2014, J Hydrol)。

このような環境では、植物は頻繁に特性を変えることが知られ、そうした葉の生理特性が蒸散速度の時間変化を引き起こすことがよく知られています。しかし乾季(在来種)および雨季(外来種)の急激な蒸散速度の低下の際に、葉では明確な変化がないことが分かりました。
今回見られた蒸散速度の低下は、葉が蒸散できる体制にあるにもかかわらず、やむを得ず蒸散をあきらめた、と解釈されます。
また在来種のデータを見てみると、葉の乾き具合の指標である(水を吸う際の導管へのストレスの指標でもある)水ポテンシャルに目立った低下はありませんでした。どうやら、葉の乾燥の危機に直面して蒸散をやめたのではなく、まだ余裕はあるけどさらなるストレスを避けるために、植物が自発的に蒸散をやめた、と解釈した方がよいようです。むしろ、蒸散速度を維持したことで水ポテンシャルが危険水域に到達している外来種の方が危険なようです。

では外来種での雨季の低下は何でしょうか?こちらは湛水に伴う根の酸欠、それによる蒸散の抑制が原因と考えられます。在来種で蒸散速度に低下が見られなかったのは、何らかの適応があると考えられます。


今後の気象変動の点から考えてみる
洪水も乾燥も、今後は厳しくなると予想されます。在来種のように、乾燥時にストレスを避けるために蒸散を抑制してばかりいると、光合成が出来ずに死んでしまいます(光合成すると必ず蒸散してしまうから)。ただ5年間のデータを見る限り、そうしたイベントが発生する可能性はかなり低いようです(以上、Miyazawa et al. 2014, Agric. For. Meteorol.)。

一方、乾燥が激しい場合でも、外来種は葉の性質を変えることがないという結果が得られました。これは危険なことで、根は吸いたくても水がないけれど葉は水をほしがる、という、片方を指で閉じたストローを思いっきり吸うような事態が乾季には普通に発生していることになります。
この状態が長く続くとどうなるか。ストローが割れます(導管の場合にはcavitationという)。そうすると、どんなに葉が水を吸おうとしても水は上がってこないため、結果的に葉は枯れ、植物は死んでしまいます(hydraulic failure)。

さらに外来種は、湛水による光合成・蒸散の停止という危険も持ち合わせています。乾季に危険にさらされ、雨季には活動を抑制される外来種は、今の環境では在来種並みの成長が期待されますが、気候変動が起きた際に真っ先に成長が抑制され、死亡する候補であるとも思われます。

現在、精密な生物物理モデルを使った解析を進行中で、これまでにこの地域で発生した異常気象時に、各樹種の成長、蒸散、生死がどうなるのかを解析しています。結果が出てきましたら、またご報告します。

本研究は、九大農学研究院(特に立石麻紀子さん:現京大、小松准教授:現京大、溝上准教授)、名大地水循環センター(熊谷准教授)、カンボジア林野庁(Sokh所長、Vuthyさん)との共同研究です。研究は、九大演習林および九大東アジア環境研究機構に在籍したときに実施されました。



C-2-2. インドシナ半島で拡大するゴム林の蒸散の実態の解明と、環境変動がその成長・生存に及ぼす影響の予測

現在、インドシナ半島ではゴム林が猛烈な勢いで拡大しています。天然ゴムの性能は合成ゴムを上回るほどで、そうした貴重な資源への需要が新興国の成長とともに高まってきたことが背景にあると言われます。
そこでインドシナ各国では、既存の生態系や土地利用をゴム林に一斉に変え始めました。ラオスの山間部では、山が丸裸にされ、小さなゴムの稚樹が見渡す限り植栽されている光景に出会います。

これまでいなかった種が大々的に植栽された生態系では何が起こるのでしょうか?ゴムはただでさえ成長が早い種ですが、さらに光合成産物を使ってラテックス(つまりゴム)も生産します。旺盛な成長は、旺盛な蒸散、すなわち水資源の消費があって初めて可能になります。
ゴムの爆発的な拡大は、この地域の水資源に大きな影響を及ぼしているのではないか、という懸念が高まる中(特に2008-9にはNature, Scienceでそうした報告や論文が取り上げられた)、本研究はハワイ大学およびハワイにあるアメリカ国務省、East West Centerの主導で立ち上げられました。

一帯の蒸発散速度を渦相関法(Eddy covariance method)を使って調べたところ、ゴムの年間蒸散速度が年降水量を上回るという驚異的な結果が得られました(Giambelluca et al.投稿中)。このことは、当年の降水に飽き足らず、土壌に蓄えられた前年以前に多く降った雨水までもゴムが吸い尽くしていることを示します。
実際に、中国で実施された研究では、雨が降らない乾期には、ほとんどの植生が(乾燥によるストレスを避けるために)蒸散を避ける中、ゴムはひたすら水を吸い続け、しかも深い土壌で乾燥が続くことが明らかになっています。

土壌が乾燥すると、その指標である夜明け前の葉の水ポテンシャル(predawn Ψleaf)が低下するはずなのですが、明確な季節変化が見られませんでした。乾季の落葉は乾燥の回避だと思われますが、実はゴムは、乾季でも湿っている深い土壌を給水源としているようです。


ゴムの蒸散コントロールの生理学的な背景

ただ野放図に蒸散をしているわけではなく、その深い土壌からの吸水は雨季の吸水ほど無制限ではないことも分かりました。乾季は空気が乾く(飽差が高い)ので、葉が変化しない 限りは蒸散速度は高くなるはずですが、実際には雨季と同程度、あるいはそれ以下です。
また飽差の増加に任せて蒸散速度を増加させることは、致命的なcavitationを起こす危険があり、ゴムは何らかの方策で蒸散速度を抑制しているのだと考えられます。事実、最もcavitationの危険性が高まる日中でも、雨季と同程度のΨleafを維持できていることが分かっています。

では蒸散速度をコントロールする、調整弁は何なのでしょうか?
蒸散と光合成を担い調整する役割を持つ葉の生理特性のうち、光合成能力の指標であるVcmax(Maximum rate of RuBP carboxylation, normalized at 25℃)は、落葉する乾季を除くと開葉一ヶ月以降は高い数値を維持していることが分かりました。ただ蒸散速度をコントロールする調整弁ではないようで、土壌が最も乾燥する乾季末期(4月)、そして最も湿潤する雨季末期に至るまで、明確な変化はりませんでした。葉量の指標であるLAIについても同様で、調整弁ではないようです。

調整弁は、水利用効率(intrinsic water use efficiency: iWUE = net photosynthetic rate/stomatal conductance for water vapor)でした。iWUEは雨季には多くの広葉樹と同程度の数値を示すものの、土壌水分とともに変化することが明らかになりました。このiWUEを増加させると光合成速度が下がってしまいますが、その代わりに蒸散速度も下げることが出来ます。ゴムはiWUEを調整することで、蒸散速度をコントロールし、cavitationを回避していたようです。

こうした特性を考慮することで、ゴムの蒸散速度およびCO2吸収速度は精度よく推定することが出来ました。ゴムの蒸散および光合成には複雑な要素がたくさん関わっていると思われますが、一連の研究によって多くの現象・過程についてはちゃんと理解されたのだと思われます(Kumagai et al. 2013, Ecol. Model.)。


気候変動がきたらどうなるか?

ここで一つ疑問がわきます。もしも雨季のiWUEのままで乾季に突入したら、光合成生産、蒸散速度、そしてcavitationはどうなるのでしょうか?また10年に一度の強烈な異常気象が発生した場合、ゴムはcavitationから免れ得るのでしょうか?
これまでに得られたデータを元に、ゴムがこの環境にどのように適応していて、それが今後も生きていく上で十分であるのかどうかを検証していきたいと考えています。

本研究は、九大農学研究院・東アジア環境研究機構(溝上准教授、松本准教授:現琉球大)、名大地水循環センター(熊谷准教授、小林菜花子博士)、カンボジアゴム庁(Khun Kakadaさん)、ゴム研究所(Dr. YinSong所長, Lim Khan Tiva研究員 )、ハワイ大学マノア校(TW Giambelluca教授、Q Chen准教授)、アメリカ国務省EastWest Center(J Fox教授)、シンガポール国立大(AD Ziegler教授)との共同研究です。研究は、九大東アジア環境研究機構に在籍したときに実施されました。


C-2-3. 中国黄土高原に植栽されたニセアカシアの蒸散:土壌乾燥と湿潤が植物生理に及ぼす影響と樹木の応答の解明
中国の黄河中流域に広がる黄土高原は、かつて浸食による土砂の流出が著しく、下流では土砂の堆積による様々な問題が発生していました。中国政府などの努力により、広大な地域が植林されることになり、浸食問題については一定の成果が上がったと考えられています。

一方で、もともと裸地に近かった土地に新たに森林が形成されたことで、この一帯の蒸発散が増加しました。北京を下流域に擁する黄河一帯は水不足でも知られており、その原因として黄土高原の緑化が注目を浴びることになりました。


黄土高原で最も精力的に植樹されている樹種が、日本でもお馴染みのニセアカシア(Robinia pseudoacacia)です。元々北米の湿潤地を原産地に持つニセアカシアは、適応してきた環境とは正反対とも言える黄土高原の乾燥条件でも生き延び、一帯の緑化に貢献をしました。

その蒸散(そしてそれに関連する光合成特性)について、共同研究者らの尽力により様々な知見が得られています。乾燥時のcavitationの発生を防ぐべく、少しでも蒸散が大きくなりそうな日中には極力蒸散を抑え、そのために光合成生産も抑制されている実態など、主に乾燥下でのニセアカシアの振る舞いが調べられてきました。

乾燥地とはいえ、黄土高原にも雨が降ります。特に雨季である6-7月頃には豪雨となることもあり(それが浸食を促す)、ニセアカシアの耐乾性、挙動および生態系への影響はこの雨、そしてその後の乾燥の存在なしには語れません。また今後の気象変動により、乾燥はいっそう激しく、また豪雨もまたいっそう激しくなることが予想されています。
しかし湿潤と乾燥の繰り返しがどのような結果を生むのか?については、ほとんど分かっていません。

そこで、鳥取大学乾燥地研究センター、中国科学院水土保持研究所および関係する研究者のサポートの下、鳥取の砂丘に生育するニセアカシアの生理特性および蒸散に関する研究を立ち上げました。
日本では、海岸の防風林としてニセアカシアの植林が進んだ歴史があります(しかも鳥取から:19世紀のパリ万博会場から持ち帰られた種子から育成された)。砂地の鳥取砂丘では、降水量は多いものの、土壌はすぐに乾燥するため、植物は湿潤と乾燥を年間に幾度も繰り返します。
また同じような土壌乾燥条件であっても、冷涼かつ湿潤な春にはあまり蒸散は進まない(cavitationのリスクも低く)一方、夏には強烈な日差しの下、葉は強烈な脱水症状、それを補うために水を急速に吸い上げることで発生するcavitation、に見舞われやすくなります。

結果の全てを黄土高原に生きるニセアカシアに当てはめることは乱暴ですが、降雨そしてその後の乾燥の繰り返しを生きるニセアカシアの挙動は、黄土高原の現状そして未来を見通す上で重要な知見だと思われます。

ニセアカシアの湿潤/乾燥サイクルへの応答の有無

乾燥時の蒸散速度の調整弁の候補として考えられた、極めて高い光合成速度、葉量の指標LAI、そして水利用効率iWUEには明確な季節変化が見られませんでした。乾燥に対して何もしないのではなくてむしろ常に乾燥対応であり、逆に、湿潤化したからといって「今がチャンス」とばかりに特性を変化させるほどの可塑性はない、ことが分かりました。

では春先の湿潤時の光合成生産を犠牲にしてまで乾燥対応の生理特性を持つことで、夏の乾燥時のcavitationを回避できていたのでしょうか?出来ていませんでした。
通道器官の通道性は夏以降大きく低下しました。降水量は多いものの、砂地の夏にしばらく雨が降らないと、ニセアカシアは馴化適応で堪え忍ぶことは出来ないようです。このとき、cavitationの進行を反映して、蒸散速度も予想以上に低下していることが明らかとなりました。

ではなぜ、より乾燥する黄土高原で生きることが出来るのか?その手がかりは、cavitationの発生部位にあると思います。付け替えの効かない幹ではなく葉で発生するため、葉がつけ変わった翌年には通道機能は以前の状態に戻ります。
葉が通導器官の損傷を検知することは数多く知られており、付け替えの利く葉ではありますが、葉での蒸散抑制が働きます。その結果、夏の晴れた日には本来(Background)よりも蒸散は抑制されることが、モデルシミュレーションをすることで分かりました。

幹の通導生に影響が出そうになったらすぐに安全弁を閉める。この「安全弁」が閉まる瞬間を調べることは困難でしたが、葉での蒸散と土壌から葉への通水過程を組み込んだモデル(群落多層型の熱ガス交換・通導モデル)によって、いつ・何が起きたのかおぼろげながら見えてきました。
安全弁のスイッチが入り、蒸散速度の抑制は、乾燥地の他の種では考えられないほど経度の乾燥で発生しました。このとき、土壌の乾燥は深刻ではなく、葉での過剰な蒸散が通水生の損傷を引き起こしていました。言い方を変えれば、鳥取に植栽されたニセアカシアではどれほど潅水されていようと夏には通水生が抑制され、成長も阻害されるようです。

この結果については、モデル解析についてもう少し検証をしてから、論文にまとめて投稿したいと考えています。

本研究は、九大農学研究院・東アジア環境研究機構(大槻教授、岩永助教)、鳥取大乾燥地研究センター(山中教授、谷口助教、立石JSPS研究員)、中国科学院・水土保持研究所(杜盛教授)との共同研究です。研究は、九大東アジア環境研究機構に在籍したときに実施されました。

C-2-4. ハワイ島西岸を覆う外来性地下水依存樹種Prospopis pallida (kiawe)の蒸散と降雨/乾燥への応答

ハワイ島西岸には、マウナロア、そしてHualalaiという二つの火山からの溶岩で出来た溶岩台地が広がります。年降水量が200-500mmときわめて乾燥したこの地域には、土壌がないことも相まって、降雨直後を除いてほとんど植生はありません。唯一繁茂するのが、地下水に根を伸ばして吸水できる、現地名kiawe (Prosopis pallida)です。

現地名はついているものの、在来種ではなく、18世紀に西欧人が持ち込んだペルー原産のマメ科の植物です。マメ科に特徴的な旺盛な成長をし、大量の水を吸水して、この地域の水資源に影響を与えているのではないか、という懸念が高まっています。
そもそも地下水は、高標高地域で降った雨が、溶岩のかつての通り道が空洞になったLava tubeを海まで駆け抜けているものです。沿岸の海洋生態系もこの淡水の流入に熱や塩分などの面で大きな影響を受けており、その量が途中のkiawe群落により変化させられることには懸念が尽きません。

樹液流センサーを用いてkiaweの蒸散速度を調べたところ、かなり低めに見積もって、降水量の1.8倍蒸散していることが分かりました。先行研究(Dudley et al. 2014)により、地下水に到達していながら葉は極度の乾燥状態にあることが分かっていますが、暑い真昼でもkiaweは蒸散の手を抜くことなく気孔を開き続けていました。
とはいえ野放図に蒸散しているのではなく、葉の量を低めにする・水利用効率は極めて高くする、など蒸散速度を抑制する特性も持っていましたが、その条件内で全力で蒸散をしていました。

上のニセアカシアで観察されたような通導器官の損傷が危惧されるような条件でも急速に蒸散速度を低下させるような挙動は採らず、危険を冒してでも蒸散(そして光合成)するというkiaweの戦略が浮かび上がりました。この結果については、現在査読のまっただ中です。

その水資源への影響の評価は、なかなか難しいです。
kiaweは地下水へのアクセスの容易な地点に集中的に分布をしているようです。そのほかは広大な溶岩台地の裸地ですので、わずかな地点で旺盛に蒸散することが一体の水資源をどれほど消費するのか、評価は難しいです。

また地下水へのアクセスの内地点にもkiaweがいることが分かっていますが、そうしたkiaweは地下水にアクセスするkiaweとは全く異なった蒸散速度およびその環境応答を示すことも分かっています。
こちらについては、解析が進み次第またご報告します。

C-2-5. ハワイの熱帯高山性降雨林の蒸散:外来種侵入が蒸発散に及ぼす影響

C-2-6. 阿蘇の草原の保全は水資源涵養に寄与しているのか?

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