現代語訳
第二回『大和物語』 

 亭子の帝が、鳥飼の院にいらっしゃった。いつものように、管弦の遊びをなさる。「このあたりの遊女たちが、たくさん参上して控えているなかに、声が美しく、品のある者はおりますか」と帝がお尋ねになると、遊女たちの一人が申し上げることには、「大江の玉淵の娘と申す者が、めったにないことに参上しております」と申し上げると、帝がご覧になった。すると、姿形も美しかったので、帝はしみじみと感動なさって、殿上にお召し上げになり、「そもそも、玉淵の娘だというのはまことのことか」などとお尋ねになった。その時に、「鳥飼」という題を与えて、そこにいあわせた人皆に歌をお詠ませになった。帝がおっしゃったことには、「玉淵は何ごとにも熟練していて、歌なども上手に詠んだ。もしこの鳥飼という題で歌を上手に詠んだなら、お前を玉淵の本当の子と思ってやろう」とおっしゃった。娘は帝の命令をお聞き申し上げて、すぐに、
 ―――浅緑色にかすむ生き甲斐のある春にめぐりあいましたので、私は霞ではありませんが、春霞が立ち上るように、殿上に立ち上ることができましたよ。
と詠んだ。そのときに帝は大声をあげておほめになり、(感激のあまり)涙をお流しになった。人々も十分に酔っぱらっていたときで、この上もなく酔い泣きをした。帝はお袿一かさねと、袴をくださった。「ここにいる全ての上達部、皇子たち、四位・五位の者で、この娘に着物をぬいで与えないような者は、この席から立ち去ってしまえ」と、帝がおっしゃったので、片端から、身分が上の者も下の者も娘に褒美を与えたところ、娘は褒美をいただきすぎて、着物を二間ほどに積み上げて置いておいた。
 こうして、帝はお帰りになろうとした。そこに、南院の七郎君という人がいた。その七郎が、この遊女の住むあたりに家をつくって住んでいる、と帝はお聞きになったので、七郎君におっしゃって娘の身柄をお預けになった。「あの娘が申すことを、(すべて)私のところに言ってこい。こちらから与える物も、まずあの七郎君のもとにもたらそう。万事あの娘につらい目を見せてやってくれるなよ」と、帝がおっしゃったので、七郎君は常に娘のもとを訪れて世話をした。