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モルヒネ

我が国においても他の麻薬性鎮痛薬が使用可能となっているが、モルヒネは安価で患者により種々の投与経路が選択できることから現在でも癌性疼痛治療の中心的薬剤である。すべての医師はモルヒネの使用法に習熟すべきである。

モルヒネによる治療においてもうひとつの重要な点は、モルヒネに関する偏見や誤解に対して適切な説明を行い、スムーズに疼痛治療の導入を行うことである。よくある偏見・誤解は@モルヒネは精神的依存を生じる(中毒になる)A頭がおかしくなるB寿命を縮めるCむやみに痛み止めを使わず、多少の痛みは我慢しなければならない、などである。モルヒネ開始に当たり、癌性の痛みを治療せずに放置すると、痛みの神経が過敏になりさらに無用の痛みを生じる悪循環を生むため、早期から治療をすべきであること、モルヒネは痛みの治療に用いる限りは精神的依存を生じることがないことが明らかになっていること、痛みを抑える量では幻覚やせん妄を生じることはないこと、寿命を縮めないばかりか、痛みの治療により睡眠がよくなり食欲も出てむしろ延命につながりうることなどを説明し、理解を得るようつとめる。

1.モルヒネの経口投与法

1)経口製剤の種類
(1) 速放製剤
  • 塩酸モルヒネ末
    塩酸モルヒネ水(院内製剤)
    オプソ(5mg/2.5ml、10mg/5ml)
(2) 徐放製剤
  • MSコンチン錠(10mg、30mg、60mg) ・・・1日2回投与
  • カディアンカプセル(20mg、60mg) ・・・1日1回投与
(3) オキシコドン徐放剤
  • オキシコンチン(5mg、20mg)
最高血中濃度に達するまでの時間
  • 速放製剤 ・・・ 30分後
  • 徐放製剤 ・・・ 2.5時間後
  • カディアン ・・・ 7時間後
  • アンペック坐剤 ・・・ 1.5時間後
  • オキシコンチン ・・・ 1時間以内
2)投与方法
MSコンチン10〜20mg、12時間毎より開始
痛みの緩和が得られるまで、1日量を20mg→40mg→60mg→80mg→100mgと増量していく
急な痛みの増強時(breakthrough pain)に対して、1日量のおよそ1/6の速放モルヒネ製剤をレスキューとして指示しておく
  • 1日量 オプソ1回量
    20mg 5mg
    30mg 5mg
    40gm 10mg
    60mg 10mg
    80mg 20mg
オキシコンチンは5mgという少量の剤型があること、血中濃度の上昇が速やかであるという特徴がある

2.モルヒネの代謝

蛋白結合率:1/3
主として肝代謝、グルクロン酸抱合を受ける。
主たる代謝産物は、モルヒネ−3−グルクロニド(M3G)、モルヒネ−6−グルクロニド(M6G) で、M3Gには薬理活性はないが、M6Gは活性を有しており、腎障害時には蓄積を来たし傾眠や呼吸抑制などの副作用が増強しうる。肝機能低下時にもモルヒネの代謝は肝性昏睡に至る直前まで保たれており、問題となることは少ない。

3.モルヒネの副作用対策

1)嘔気・嘔吐
<モルヒネによる嘔気・嘔吐の原因>
(1)第4脳室にあるChemoreceptor trigger zone;CTZの直接刺激→嘔吐中枢(VC)に伝達
(2)前庭器を介してCTZを刺激→VCに伝達
(3)消化管運動低下により胃内容物の停留→圧増大→求心性神経を介してCTZ、VC刺激

<対処方法>
◆ドパミンD2レセプター拮抗薬が推奨される(ノバミン、セレネース、ウィンタミン) 錐体外路症状と鎮静に注意。

◆乗り物に乗っているときや体をふいに動かしたときに起こる場合→モルヒネによる前庭系刺激が関連している→抗ヒスタミン剤(トラベルミン)が推奨される

◆食事中、食後に生じる嘔気→胃内容物停留による→消化管運動促進薬(ナウゼリン、プリンペラン)が推奨される

◆ステロイドが有効な場合がある(メカニズムは不明)

◆難治性の場合は、モルヒネ投与経路を坐剤や持続注射に変更してみる(消化管/血中モルヒネ濃度比を下げる)、または他のオピオイド(オキシコンチン、フェンタニルなど)へローテーションしてみる

参考:国立がんセンターの方法
<制吐薬の投与法>
  • メトクロプラミド(プリンペラン):10mg/回4〜8時間ごとの経口投与
  • プロクロルペラジン(ノバミン):10mg/回4〜8時間ごとの経口投与
嘔吐がある時には、上記のいずれかの注射、または、
  • ドンペリドン坐剤(ナウゼリン坐剤):60mg/回1日2回を用い、嘔吐が消失してから経口投与に切り替えるとよい
上記が十分な効果を上げない時には、制吐作用の強い次の薬を用いる。
  • ハロペリドール(セレネース):0.75〜1mg/回8〜12時間ごとの経口投与
  • チミペロン(トロペロン(R)):0.5〜1mg/回8〜12時間ごとの経口投与
2)便秘
μ受容体刺激によりほぼすべての例で便秘が生じる。嘔気と異なり耐性は生じない

<対処方法>
◆ほとんどすべての麻薬投与患者におこるため、開始時から適切な便秘対策を行うことが重要である。
多くは大腸刺激性下剤(センナリド or ラキソベロン)とMg製剤でコントロール可能。

◆経口不能の場合は、プロスタルモン点滴

◆宿便がある場合は、オリーブ油80〜120mlの停留浣腸(直腸内注入後肛門にタンポンして一晩おき固まった便を軟化させて排出させる方法)が有効。

◆モルヒネによるまれな難治性便秘の場合は、ナロキソンの経口投与(0.4〜0.8mgを効果が得られるまで4時間毎)を24〜48時間を超えない範囲で試みてもよい。

参考:国立がんセンターの方法
<プルゼニド錠の投与法>
  • 投与開始量は1日2錠(就寝時の1回投与) 1日2錠で下痢があれば、1日1錠に減量
  • 2〜3日経っても便通がなければ、1日3錠に増量 以後も便通が不十分なら、4→6→8→10錠/日の順に増量する
  • 投与量が多い時には、1日2〜3回の分服とする

<ラキソベロンの投与法>
  • 投与開始量は1日10滴(就寝時の1回投与)、1日10滴で下痢があれば減量
  • 2〜3日経っても便通がなければ、1日15滴に増量、以後も便通が不十分なら、20→25→30→40滴の順に増量する
酸化マグネシウム1.5〜3.0gを併用する

<便通対策の補助手段>
  • 浣腸(グリセリン他)
  • 坐剤(レシカルボン)
  • 用手摘便
    などを遅れることなく実施する。また、食事管理を患者の好みを尊重しながら行う。
3)傾眠
モルヒネ過量の症状。

<他の原因の除外>
痛みのための不眠であったものが、痛みが緩和されて睡眠不足解消のための睡眠時間延長の場合もある。
高カルシウム血症、低ナトリウム血症、高血糖、脳症状、肝・腎不全など、他の原因による傾眠でないかどうかもチェックする。

<腎機能低下時に考えるべきこと>
腎機能低下の場合はモルヒネの代謝物(モルヒネ−6−グルクロニド(M6G) )蓄積による眠気が増強する


<対処方法>
◆痛みがなければ50%減量する。

◆腎機能低下時の傾眠は、フェンタニルやオキシコドンなど代謝物に薬理活性のないオピオイドへのローテーションにて回避されうる。

◆鎮痛に必要な最低限の量まで減量しても傾眠が続く場合は、リタリン(塩酸メチルフェニデート)2錠分2を投与。
4)錯乱・幻覚
モルヒネによる錯乱、幻覚はまれ(1〜2%)

<他の原因の除外>
脳転移、髄膜炎、電解質異常(高Ca血症、低Na血症)、肝不全、腎障害など他の身体的原因や、他の薬物、精神的苦痛・心理的な要因がないかまず探る。

<対処方法>
NSAIDsを併用するなどして、可能ならばモルヒネを減量する。

薬物療法としてはセレネース(ハロペリドール)が第1選択(呼吸抑制、循環系への影響、抗コリン作用などが少ないため)。内服と注射で用量が大きく異なることに注意が必要な薬剤である。内服では0.75mgから漸増。注射の場合5〜30mg/日 持続皮下中または持続点滴
5)めまい・不安定感・不安感
通常数日で耐性ができるため、あらかじめ説明の後投与量を変更せず様子を見ることで対処可能。
モルヒネ不耐の場合は他の薬剤に変更。
6)呼吸抑制
モルヒネが呼吸中枢を直接抑制することによって、縮瞳や意識の低下を伴っておこる。呼吸抑制は鎮痛効果の10倍用量でなければおこらない。

<呼吸数、瞳孔をチェック>
呼吸抑制は呼吸数の低下を必ず伴う(呼吸したくてもできず苦痛を伴うような呼吸数低下ではない)。
呼吸数の低下のない意識状態低下はモルヒネ以外の原因を考えるべきである。
睡眠時の呼吸数が8回/分以上あれば問題ない。
6回以下の場合は覚醒を促したり、鎮痛効果が減弱しない範囲で投与量の減量を考慮する。


<対処方法>
◆覚醒を促すのみで回復することが多い

◆ナロキソン(1アンプル0.2mg)は呼吸抑制→鎮静→鎮痛の順に用量依存性に拮抗する。ナロキソンの作用時間は短いため、必要ならば反復して使用する。

◆腎機能低下のためモルヒネの代謝産物(M6G)が蓄積して呼吸抑制を来している場合は、オキシコドンやフェンタニルへオピオイドローテーションを行うことにより改善しうる。

ナロキソンの投与法:モルヒネの急性過量投与の場合は0.1mg〜0.2mg静注。モルヒネの長期投与の場合は1回0.01mg(1/10アンプル)を投与、以後呼吸回数が10〜20回/分を維持するように0.005mg〜0.01mgを追加投与する。
7)排尿障害
ハルナール(塩酸タムスロシン)などが有効
他にベサコリン、ウブレチド、ミニプレス、フリバス、エブランチルなど
8)掻痒感 
オピオイドによるヒスタミン遊離作用によって生じる。非経口投与で起こりやすい。
抗ヒスタミン剤が有効であるが、ステロイド投与を要するものもある。

4.モルヒネの非経口投与

1)アンペック坐薬
経口モルヒネ投与よりも吸収が良好である。通常1日3回8時間毎の投与であるが、症例によっては4回6時間毎の投与を必要とする場合もある。

モルヒネ経口剤から切り替える場合は1日量の1/2から開始する
 例:MSコンチン60mg/日→アンペック坐剤10mg×3から開始

モルヒネ注射剤から切り替える場合は1日量の2〜3倍が目安となる。まず1日量の半量を坐剤に切り替え他の半量を注射量とした後、全量を坐剤に切り替える。
 例:塩酸モルヒネ30mg/日→塩酸モルヒネ15mg/日続行+アンペック坐剤10mg×3→アンペック坐剤20mg×3

できるだけ排便後に投与する。
下血時は血液により直腸粘膜内がコーティーングされ吸収が低下する
他の坐剤との相互作用
 →インテバン坐薬(水溶性基剤)との併用ではモルヒネ濃度が低下
 →ボルタレン坐薬(油性基剤)との併用ではモルヒネ濃度が上昇

2)モルヒネの持続皮下注
micro-infusion pumpを用いてモルヒネを皮下投与する方法。在宅で行うことも可能。一時的に皮下注針を抜去することにより入浴も可能。

1日投与量は経口モルヒネの1/2(1/6〜1/2)。
速度は最大で1ml/hrまで(それ以上では吸収が不安定となる)
3)モルヒネの持続静注
経口摂取不能の患者、経口モルヒネにて嘔気、腸管運動低下がコントロールし難い場合、急激に疼痛が増強して早期に至適モルヒネ量を決めたい場合などに適応がある。

◆持続点滴でモルヒネを開始する場合
   初回投与時、1時間投与相当量を早送りして血中濃度をあげておく
   通常1日10mgより開始
   例:生食100ml+塩酸モルヒネ10mg 4ml/hrから開始 痛みがとれるまで、徐々に速度をあげる

◆経口または坐剤から変更する場合
   経口モルヒネの1日量の1/3〜1/2を生食100mlに溶解し、4ml/日から開始 
   痛みがとれるまで、徐々に速度をあげる

◆静注の最大効果発現時間は15〜30分
   15〜30分痛みの状況を観察して、増量するかどうか決定する

◆疼痛増強時
   1〜2時間量を早送りする