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コケカキイキイ 時事通信 No.22    2002年8月7日発行

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ビバ!岸野雄一(後)
◎トピック:ビバ!岸野雄一
◎岸野雄一氏 インタビュー

◎トピック:ビバ!岸野雄一

 21号にひきつづき、"スタディスト"(勉強家)岸野雄一氏の、表現への姿勢を伺ったインタビューを、お送りします。

◎岸野雄一氏インタビュー (後半)   2002.7.10 銀座にて

前号よりつづき)
--(編集部)ストレスってありますか?
岸野(敬称略):インディペンデントな作家なので制作資金が潤沢にあるわけではないですから、レコーディング代を節約しなくちゃいけないことがある。それはストレスになりますね。ここで児童合唱団のコーラスが入ったらどんなに良いだろうと思うところをしょうがなくそれが使えなかったりする。まあ工夫する楽しさに転化してやってますけど。
--なるほどね。街歩いているときのストレスとかはないですか?
岸野:うん、ないね。ストレスがあるとするとね、親切じゃない人が多いな。電車降りるときに転んだりすると、みんな無視してるでしょ。それがなんかねえ、 何だろうなと思うな。冷淡になってるね。昔はすごい親切だったんだけど、急に西洋近代の思考が入ってきて、個人主義の間違った受け取り方していて、慣れてないんだきっと。あ、これが本来の人間のやり方だったのねと誤解して良い物を捨てちゃったんじゃないかな。でまあ、色々犯罪とか起きたり、荒んだ感じに成って来ているので、揺り戻しがあるんじゃないですか。やっぱりこのやり方良く なかったんじゃないかって。そういうことに段々と気付いていってくれるといいんですけどね。
--普段、お金を貰った分だけ働いているから、無償で何か人を助けるとかできなくなっているんじゃないでしょうか。
◆◆◆お金の使い方◆◆◆
岸野:ああ、人類は、まだ、お金を使い慣れてない感じがするよね。
--お金の気持ちいい使い方ってどのようなものですかねえ
岸野:唯一不自然な物でしょ金額って。全く磨耗しない価値でしょう。地球上にそれ以外存在しないじゃないですか。それは相当不自然な現象だと思うんですよね。金額に換算する事で価値を卑小化してしまう。相手も仕事も。余り良い物とは思ってない。お金は。 さっき言った「一般化」にしか貢献しないから(コケカキイキイ・21号参照)。ただ仮想敵にすると、マルクス主義に加担しているような印象を受けるから巧妙に避けているけど。
--あまり良い物と思わなくても世の中お金で回っているじゃないですか、どう切り抜けたらいいでしょうかね?作品を流通させる手段としてもお金を挟むと確実な感じがするじゃないですか。
岸野:アメリカとかでもその土地のみで通用する自由通貨があるし。ドイツでも仕事量に応じて交換していく制度とか町ごとであるでしょう。スタンプカードみたいなのがあって、家の修繕をしてもらった代わりに別の自分が出来る仕事をお返しするとか。
--いいですね、そういうの。しかし、全体はそうはならないですよね。
岸野:全体を意識した途端に破綻してしまうものですから、難しいんですよね。ライブで「正しい数の数え方」**の後にやるギャグで、自由通貨を作ろう!って言ってある種のコミュニティーが形成されて、それがいかに終わるかっていう破 綻劇をよくやるんですけど。価値はね、相手に依存する、相手が決めることだからなあ。基本的にはこっちは向こうが判断してくれた価値にしたがってその報酬 を受け取るという立場ですからねえ。
**散歩時のわんこのかわいさにのせて、「価値」が数字では計れないことを歌った名曲
「正しい数の数え方」【抜粋】
ここにひとつ そこにひとつ
(中略)
違うところにあれば違うものなのに  
ワン、ツー、スリー ほら!君だと増えてく  
ワン、ワン、ワン あれ?僕だけずれてく  
スリー、ツー、ワン またゼロからやろう 
◆◆◆「ヒゲの未亡人」◆◆◆
--ヒゲの未亡人という設定で唄う理由は?
岸野:ほぼ偶然にできあがったもので、切っ掛けは、女性用の喪服がそこにあったから着たというだけ。未亡人というのは、喪失感を手っ取り早く表現できるってことで。その喪失感をもし、男性の側から表現したとしたら、彼女に振られてみたいな話で陳腐になっちゃうから、作り物としてフィクション性がちゃんと衒 いなくだせるということで、女性の形を借りているということ。それと、現代において男性性とか女性性のみの特質や原理として何か語るんじゃなくて、普遍的な喪失感みたいなものを語りたいので、今のスタイルはすごく自分の表現に合ってると思います。
--フィクション性は要りますか?
岸野:うん、じゃないと痛いでしょ。だってあれと同じことを女の子がやってたら痛いと思う。椎名林檎という人が痛い表現をするじゃないですか、ちょっとヒステリックな感じの、ああいう風になっちゃうんじゃないかな。だから男でよかったと思うよ。男の人のお客さんも多いじゃない、それは嬉しいですよね。今(お客さんの)比率半々ぐらいだから、女性だから来るとか男性だから来るっていう理由じゃないんだろうなと思う。
--様々な問題は性別の所為にしたところで、解決にはならないですよね。
岸野:フェミニストを応援しているんですけども、ビートたけしもそうでしょ、フェミニストの人好きでしょ。かわいらしいと思っているんだね、たけしは。 頑張ってるなーみたいな感じで。でもフェミニストの人は、そういう捉えられ方は我慢ならないらしくて、結局最終的にはぶつかるのね。「岸野さんは、長い間 抑圧されて来た女性の立場とか歴史とかに対してどうケリを付けるの?」「俺はそんなことしてない、歴史がしてきただけだ」(笑)そーすると「それは責任の がれだ」と。最終的には「子供を体内に引き受けて産んでいかなくちゃいけないという女性の立場は、男性には絶対分かんないのよ」とか言われちゃって。ねぇ、 そんなこと言われたら絶対平行線じゃないですか。「じゃあ僕が性転換したら付き合ってくれる?」って言ったらすごい怒られちゃった。
◆◆芸術というフレーム◆◆◆
--芸術という枠をどう捉えていますか?
岸野:芸術っていうのが、一つの方便として機能してしまっているという実感はあるねえ。 高いお値段をつける為に芸術って言っているのが、どうかなあ。さっきの報酬の 話じゃないけど、結果的に芸術と呼ばれればいいのであって、芸術を作ろうとしてるわけじゃないからね。芸術を作りたいっていう欲望は、芸術のフレーミング に納まりたいということで、俺は芸術というフレームを超えたいと思ってやっているので。芸術を作ろうというのはフレーム作りに貢献するだけなんじゃないかな。フレーム作りというのは結局価値を定めるということなので、自分のやろうとしていることとは違うなあ。その辺は苦難の道になっちゃうけど、こだわりが あることなので。芸術だと呼ばれることに対して否定はしないけどね、ありがとうございます、と。
◆◆◆問題ない=つまらない◆◆◆
--岸野さんの、人の話を凄く真摯に聴かれる態度に触れたり、"ファミレスで 最初に配ったおしぼりを、食事を持ってくる際にまた取り替えようとした店員に 「マニュアルにそう書いてあるのかも知れないけれど、人に浪費を意識させるサービスはよくないよ」と言った"エピソード(『DAS!』vol.2)を読んで思っ たのですが、世間の多くの人が無理に何事も起こらないようにしていて、なんとか人と接触しないで当たり障りなく一日を過ごせたらいいと思っているようにみえて、それが幸せなことなのか疑問に思えたり、そういう人と接するには流せばいいのかどうしたらいいのだろうと。
岸野:問題が無い感じがするよね。おいらは一般常識に貢献する為だけの表現や態度に接した時にイヤミな言葉として「問題ないです」って言う時あるねえ。「これどうですかねえ?」とか言われて「あ、問題ないです」もしくは「あ、 ちゃんと芸術に見えます」って、つまり「つまんないね」って言ってることなんだけど。 常識というフレームにだけ貢献する良識みたいなものが世の中にあるんですよね。 それをしたいわけでもないからね。それのみに適った行動をする人には、ちょっとイヤミを言うぐらいしかできないんですけどね。でもそのフレームの線を明確にすることを仕事にしている人もいるわけで、それのみを非難するわけには行かないんだよね。警察官とかね。そういう人はフレームの防波堤を守る役目の人ですからね。それは「問題ないですね、あなた」っていうのは失礼ですからねえ。自分がどういう星のもとに生まれてきたかということに自覚的であることが大事 でしょ。フランスとかだったらパン焼く人とか誇りを持ってるじゃないですか。屋根を貼る人とか、ゴミを拾う人でさえ。そういう誇りみたいなものが足りないですよ。本当は何か別のことをやりたかったんだけどしょうがなくてこれをやってるみたいな人が多くて。そういう人は、正直に辞めたら?って思いますね。 「問題」というのがこれまた問題で(笑)。不必要に問題を提起すれば良いというものでもない。よく世の中や相手に不満を持った人が、その不満が解消されると、今度は次に不満に思える問題はないか、と探し始めたりする場面に出くわすけど、責任の所在を明かにするための問題の捏造は、良くないと思う。
◆◆◆論理と感情◆◆◆
--物は整理できないとおっしゃっていましたけど、頭の中は整然としていますよね。
岸野:何かを思いつくと、それはかつて言われたことがあるだろうかとか、論理的に破綻していないかとか、これをどういうフォーマットで表現するのが一番このことに適しているのかっていうのを常に検証しながら行動してたから、起きている時間というのが辛かった時期がありました。寝てると頭使わないで自然に何 か見せてくれるじゃないですか、無意識が。どんな悪夢でも自意識よりはマシですね。起きてると常に思考してしまうというのが辛いところです。「岸野さんは 忙しくてあんまり寝てないでしょう」とか言われるけど、実はよく寝てますよ僕は。 自分の感情や本能を理性で抑えているわけではなくってね。アウトプットの方法が理性的であるという事です。表現を見てもらえば分かると思うけど、おいらはすごく感情的で本能的な動物だと思うんですよね。実際に動物や子供受けするし。 だから本能を、理性や論理によって縛り付けてるわけではない。多分外からは論理的な人だと思われてるでしょうけど、それはアウトプットの方法がそうだからであって、ものすごい動物的で感情的な生き物ですよ。すぐ泣いちゃうしね。自分の中のそういう純粋な部分と論理的な部分とのバランスを取るのが難しい。
--どんな時泣いちゃうんですか?
岸野:もう、すぐ泣いちゃうよ。Tレックスの「メタル・グゥルー」とか聴くと。もう2小節目で泣いちゃう、必ず
--必ず?条件反射?
岸野:条件反射だねあれは。音楽を聴いて感動すると、つまらない諍いをやめようって気持ちになるじゃないですか。俺がそういう気もちになったんだから、人に対してそういうことをすれば、人はつまらない諍いをやめるだろうって思ってるのかも。それがさっきいってた影響ということでいえば、そういう影響を与え たいのかも。自分の中の実感としてあるものだから。
---書くフォーマットをどうするか選ぶ選択で感情的な部分と論理的な部分のバランスは巧く取れているんじゃないですか?
岸野:結果的にね。だからそこまで脳のハードディスクに入れておいて、これは何に使おうみたいなところの選択でそのバランスは取ってるっていうことですよね。 レコード評とかも、レコードそのものに拮抗しうる表現を考えてるからね。レコ ードの内容を説明するんではなくて。内容が知りたい人にとっては迷惑なんでしょうけど、そういう人はレコード聴いても「内容の確認」しかしない気がする。
◆◆◆感情と言葉のせめぎ合い◆◆◆
--色んな形態の表現をされますが、やりたい順位はどんな感じですか?
岸野:1番はステージ、ステージやってるのが一番楽しいねえ。
--その次が?
岸野:その次が録音。原稿は人から見て打率が高いみたいだから書いてる。依頼も多いしね。たとえば、ホントは野球がやりたいのに、ボウリングもうまいからプロボウラーをやっているというのをイメージしてもらえれば分かると思う。で も、学校(=映画美学校 http://www.eigabigakkou.com/)で講師や事務仕事をするのも好きだし、DMに切手を貼るのも楽しい。 さっきも言ったけど、今、感情と論理のバランスをどう取るか結構考えてて、弁 が立つものだから、自分の言ったことが相手にとって効きすぎちゃう。口論になったら人を傷つけてしまう。プロボクサーの拳は法律で凶器と認められているよう に、言葉のプロフェッショナルとして普段使う言葉に気をつかっている。饒舌さを避けるために、それゆえに寡黙になってしまったりするし、感情を言葉で表す のがうまくできるもんだから、本心からそう思っているように受け取られない、ってことに悩んでいる。相手にとって居心地の良い状態を、本能に基づいて作り出したいのに、作為のように感じ取られてしまう。
--ん?
岸野:頭で考えて喋ってると思われてしまう。
--岸野さんの場合は伝えたいことを言っているように感じますよ。
岸野:そう?
--そんな葛藤もステージでゾラさん(*未亡人の名は「ゾラ」であり、「岸野さん」でもあります)や岸野さんのやりとりとしてショーになっているんじゃないですか。
岸野:あ、そうね。常に「あ、これステージで使おう」とか考えてるもんね(笑)。 話しながら考えると、自分の考えが整理されていいね。
--「ビバ! 興味ないふり〜」なんてはっきりうたわれたら、ほんとうに勇気がでますよ。(七夕のライブで "本当はめちゃくちゃ興味あるのに興味ないフリをしたり・されたりする"言動は、その後に交わすとっておきの大事な一言の為にな っている、だから、興味ないふり万歳」という意味のことを感動的にうったえた部分。)
岸野:そっか、がんばろうっ。
◆◆◆今後の予定◆◆◆
--今後はどんな展開をされますか。
岸野:アルバム『Ato2』のリテイク、ヒゲの未亡人のCD制作をします。
▼イベントスケジュール
・ヒゲの未亡人オンステージ  8/8 @青い部屋(渋谷)
・Rest Of Life   8/17 @磔磔(京都)
・オズディスク夏祭り   8/23 @池袋Liveinn ROSA
・岸野雄一&フォルティータワーズ   8/31 @クラブQUE下北沢
【聞き手:由辺、協力:中村千鶴、田辺早苗】

 お話を伺うことで、あの歌詞や、あの時のパフォーマンスの 意味はそういうことだったのか、と作品に一々出会いなおしました。この記事が、鑑賞の手引きになれば何よりです。【由辺】

【発行】コケカキイキイ編集部
【編集】大島宗平・由辺田貴・長谷川園恵・山田恵・遠藤美加

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