クリスマスなんて大嫌い!! なんちゃって
なおこさん作




この時期。


1年のうちで人々がもっとも浮き足立っている、この12月の夜が、大嫌いだった。



そこかしこに飾られた緑と赤のオーナメント。

金色のリボン。

銀色の星。

真っ白な雪。


街中(まちじゅう)に流れるジングルベル。



ジンジャーマンが笑う。

…クリスマスだってのに、何をそんなにふくれっつらしてるんだい?

…クリスマスだからだよ。



寄り添って歩く恋人たち。

大きなプレゼントとケーキを抱え、家路に急ぐ人々。



そして。


楽しそうに笑いあう家族の姿。



…クリスマスなんて大ッ嫌いだ。


☆☆

古代は待ち合わせ場所でユキが来るのを待ちながら、子供の頃のことを思い出していた。



ケーキを焼いてくれる母親も、プレゼントを買ってくれる父親も、ある日突然、自分の前から消えた。



あの日から、自分を取り巻く世界は一変した。



ご馳走を取り合って無邪気にケンカした兄は、いつしか大人になり、目標に向かってひとり、歩き始めた。


楽しかったクリスマスは過去の思い出に変り、暖かな色彩は色褪せて、時間を止めた。



大きなツリーの下、うつむいて涙をこらえる僕は、雪ダルマだ―――。

だけど、融けてなくなることすら出来ない。



…サンタクロースなんて、いやしない。



クリスマスは嫌いだった。

自分がひとりだと思い知らされるから。



そして現在(いま)、ショーウィンドウに映る自分の顔を見て、古代は思う。


…ニヤけてやがる。幸せボケな顔だ。


☆☆☆

今日はクリスマス・イブの夜だ。


お互い仕事だったので、時間を合わせて一緒に防衛軍を出てもよかったのだが、『たまには待ち合わせしましょうよ』のユキのひとことで、外で落ち合うこととなった。

一緒に暮らしているうえに職場も同じとなると、外で待ち合わせるということもあまりなくなるので、たまには新鮮でいい感じがする。


待ち合わせ場所は、最近のクリスマスのデートスポットとしては定番となっている所だ。


見上げるほどの大きなツリーも、電飾を施された並木も、キラキラ輝いて夜に浮かびあがり、中々キレイだ。


今日はこれまたお決まりのデートコースではあるが、レストランでの食事と、夜景の綺麗なホテルをリザーブしてある。

もちろんユキが喜びそうなプレゼントも購入済みで。


制服のままという訳にもいかないので、今日はわざわざ着替えまで持参で出勤した。

帰り際、いつもとは違う出で立ちの古代を見て、周囲がざわついたのは言うまでもない。



古代は自分がそんなことの出来るニンゲンだとは、正直思っていなかった。



恋の力は偉大だ。

恋はヒトを変えるのだ。



学生時代は訓練に明け暮れ、ガールフレンドを作る暇はなかったし、ガミラスを倒すことだけを考えていた古代にとっては、彼女なんて二の次の問題だった。

たとえ彼女がいたとしても、クリスマスだからといって浮かれていられるほど、当時の地球は幸せな時代ではなかった。

それでも、それなりに楽しんでいた友人達も、周りにいない訳ではなかったのだが…。



女の子と話すのは大の苦手。

どう接していいかも分からない。

気の利いた台詞も浮かばない。



「好きだ」というその一言を何度も飲み込んで。

やっとの思いで手に入れた宝物。



ユキと出逢わなければ、自分は今でも、この夜を脇役のまま過ごしていたことだろう。


☆☆☆☆

「古代君!」



通りの向こうからユキが手を振って近づいてくる。

お気に入りの白いコートに身をつつみ、亜麻色の髪を揺らしながら歩くその姿は、まるで天使のようにキレイだ。



「ごめんなさい。待たせちゃって。」

「大丈夫だよ。そんなに待ってないから。」

「そう?」

「うん。」



よかった。と小さく笑うユキの手をとる。



「行こうか。」



寄り添い歩く恋人たちの中を、僕達も手を繋いで歩き始めた。



「今日はどこへ連れて行ってくれるの?」

「まずは食事。腹が減っては戦はできないからね。」

「何よ。それ。」



怪しいわね…とユキが上目遣いで軽く睨んでくる。

食事の後に君をイタダクからですよ子猫ちゃん。いや。子羊か。子羊のローストを食べた君を、僕が食べるんだ。イタイケな子羊を貪り喰う僕は、月に吼えるオオカミ…かな。



見上げると、冬の澄み切った空には銀色に輝く月が出ていた。



ユキの疑惑の視線は相変わらず向けられたままだ。

…まぁそんなに気にしないで。



「とにかく、まずは食事。店はユキがず〜っと行きたいって言い続けてたところ。」

「ホントに?」

「ホントに。なかなかいいチョイスだろう?」



夫婦2人と僅かなスタッフで切り盛りしているそのレストランは、クリスマスだからといって、お定まりのコース料理しか出さないようなことは、決してしない店で。

何よりも確かな味のよさと、決して過剰すぎない気持ちのいいサービスが評判をよび、今や予約困難な店となっている。

今夜のテーブルを抑えるために店に電話を入れたのは、もう随分と前のことだ。



「うゎあ。期待しちゃう。」

「帰りのことは気にしないで、思う存分食べていいぞ。」

「うっふふ〜。言われなくてもそうするわ。」



ユキは心から今夜の食事を楽しみにしているようで、そんな様子を見るとやはりホッとする。



「で?」

「うん?」

「まずは…ってことは、その次もあるのよね?」

「あるよ。勿論。」



なんといっても僕的にはそっちがメインだから。



キラキラと目を輝かせ、小首をかしげて、無言のうちに『次はなに?』と問うてくる。


…反則だろうそれは。



何事においても、僕は彼女のおねだりにめっぽう弱いのだが、ここは堪えなければいけない。



「先に全部ネタばれしたらつまらないだろ?」

「そんなことないケド。」

「だめだよ。お楽しみはまた後で。」

「…けち。」



…けちって、なんだよ。けちって。



この春オープンしたばかりで、トウキョウいち綺麗な夜景が見れるホテルがあると、入れ知恵をしてくれたのは例によって南部だ。

裏から手を回して、12月24日の、しかも金曜の夜という激戦区の1室を押さえてくれたのも、もちろん南部だ。

面白半分にからかわれることも多々あるが、何だかんだと力を貸してくれるので、有難い。



「きっと喜ぶと思うから。楽しみにしてて。」

「わかったわ。じゃ。楽しみにしてる。」


☆☆☆☆☆

ディナーにホテル。いささかマニュアルどおり過ぎるきらいはあるが、今日はそれでいい。

1年の半分以上を不定期に宇宙で過すことの多い僕は、誕生日やクリスマスといった女性の好きな「記念日」に必ずユキと一緒にいてあげられるとは限らない。

彼女と付き合いはじめてから、クリスマスはこれがはじめてという訳ではないけれど、いつも満足なことがしてあげられなかったので、今回は僕の仕切りで「これぞ恋人たちのクリスマス」というのをやってみようと、何故だがそう思ってしまったのだ。柄にもなく。

そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、ユキがポツリと呟いた。

「でも古代君がこんなことしてくれるなんて、すごく嬉しい。」

「こんなことって?」

「だって。なんだか至れりつくせりって感じなんですもの。」

「そうかな。」

「古代君ってクリスマスとか…そういうイベントごと、苦手じゃない?いつも四苦八苦してるみたいだし。直前まで忘れてることとか、あるでしょ?」

「うん…そうだね。…実は嫌いなんだ。」

「え?」

「本当は嫌いなんだ。こういうの。ちょっと…っていうか、かなり無理してる。」

「……!?」

僕の答えにユキは驚いて立ち止まる。スキあり!


「な〜〜んて。ウソ!!」


…ちゅっ



突然のことに何が起こったのかユキは一瞬分からなかったようで、きょとんとしていたが、僕がキスしたと分かった途端に頬をピンクに染めた。



「…こ、古代くん?」

「こういうことが出来るから、クリスマスは大好き。」


ユキは相変わらず訳が分からないといった顔をしている。


「キスしていい?」

「今?」


僕はうなずく。


「ここで?」


もう一度うなずく。


「みんな見てるわ。」

「見てないよ。今日はクリスマスだから。みんな自分達のことしか見えてないさ。」


…それもウソだ。

ユキはどうしても人目を惹く。普通に街を歩いていても、大抵の人は彼女に視線を送る。男女を問わず。おまけに僕らが二人で並んでいると、更に目立つのだそうだ。


今日も例外じゃない。

それに。人込みの中、急に立ち止まって向かい合ったままの僕たちに、行き交う恋人達が『こんな夜にケンカなんて、かわいそうに』といった視線を投げかけている。

「…こういうことも、しないヒトだと思ってたけど?」

「こういうこと?」

「人前でキスしたいなんて。」

「今日はクリスマスだからね。そのくらいいいだろう?」


本当は違うんだ。

クリスマスだからじゃない。

君だから。君が僕をそうさせる。


僕は君がいればそれでよくて。

シャンパンの乾杯も、豪華なディナーも、ホテルのスィートも、リボンのかかったプレゼントも、何もなくてもいいんだ。


それはきっと君も同じだろう。


だけど。君と2人で過ごす夜のためなら。君の嬉しそうな笑顔を見るためなら。ホントはちょっと苦手なオシャレなデートも楽しくてしかたないんだ。


流行の店のリサーチに、多少、他人(ひと)の力は借りるけど(苦笑)。

君の喜ぶ顔を想像して、僕は幸せになる。


☆☆☆☆☆☆

幼い頃。父さんと母さんがまだ生きていた頃。

クリスマスが近づいてくると、寝る前に自分の部屋の窓を開けて、夜空に向かって大きな声で欲しいものを言った。


自転車。ラジコン。グローブ。顕微鏡。図鑑。標本…。


サンタが父さんだと分かってからも。

サンタがいなくなってからも。


そして、一人きりのクリスマスが、僕は嫌いになった。


愛情に飢えて、愛されることを望んで。


君に出逢って愛することの幸せを知った。


僕はまた、あの暖かな時間を手に入れた。



知ってるかい?恋はヒトを変えるんだ。

何の脈絡もなく。

ただ君にキスしたい。

それだけの理由で。

キスできちゃうくらいに。



「キスしていい?」

もう一度聞くと、ユキは少し困って照れたような顔をして、でも小さく頷いた。

繋いでいた手を腰に回して引き寄せて、さっきよりも長くて熱い恋人のキスをする。



ああ。どうか神様。

南部や相原達だけには目撃されてませんように。 それだけは、お願いします。


☆☆☆☆☆☆☆

ゆっくりと唇を離すと、頬を染めて瞳を潤ませたユキの顔がある。

さすがに照れくさくってなって、どうしようかと思っていると、『遅刻しちゃうわ』という声が小さく聞こえた。

…遅刻?今、何時なんだろう?

嫌な予感がして恐る恐る時計を見ると、まさに予約時間オンタイムだ。

「まずい、時間だ。走れ!」

苦労して抑えた店なのに、遅刻で予約が取り消されたらかなわない。


僕らは手を繋ぎ、光のアーチの下を駆けていく。


なんだか可笑しくて、照れくさくて。


大きな声で笑いながら。


夜に駆け出していく。





飛び切りの食事と。



飛び切りの夜景と。



飛び切り極上の君と。



クリスマスの夜に乾杯!

クリスマスの夜にハレルヤ!!



クリスマスなんて…

クリスマスなんて…


大嫌い。



なんちゃって。



大好きだ!


おわり 


なおこさんから、2004年のクリスマスにお話をいただきました。
なにげに素敵な古代君。昔の自分を思い浮かべながら……
幸せって、こんな何気ないシーンにあるんだな、って思いました。
あとは、なおこさんの解説をどうぞ……

タイトルは、クレイジー・ケン・バンドの曲のタイトルです。
何年か前に携帯電話のCM(ボーダフォンだったでしょうか)に使われていました。
お話のイメージもその曲の歌詞のままです。

あと、もうひとつ。もう15年くらいは前になると思うのですが。
メリークリスマス・ショウという番組があったのです。
さんまちゃんと桑田さんが司会で、ユーミンとかそうそうたるミュージシャンが出演した番組でした。
多分2シーズンくらいは放送したかと思います。

そのとき、番組中で作られて、エンディングで歌われた歌の歌詞に、
「今宵誰も見ていないから、I will kiss you allright?」
というようなフレーズがあって、そこのところはメロディーと一緒に凄くよく覚えてまして(笑)

そのあたりもイメージしてみました。

とにかく。クリスマスなので、古代君が普段はやらないようなこと。
人前で、もう、恥ずかしげもなく、いちゃいちゃしてもらおうと。
それだけを考えて書きました。
クリスマスなんだし、いいじゃないのよ、これぐらいと。

そんな感じになっていればいいのですが。

付き合いはじめてどのくらいの頃のクリスマスなのかとかは、不明です(笑)

なおこさん、素敵なお話をありがとうございました。

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