ちょっとだけ碑文解読(2)Try to Read Short Inscriptions   

(1) (3)もあります。                      西 村 洋 子

16. アニの「死者の書」より (30/5/2005)

「彼は言う。『(我が)母の我が心臓よ(繰り返し)、(我が)さまざまな年令期の我が心臓よ。

証人として私に対して(法廷に)立つな! 法廷で私に逆らうな!

秤を司る者の前で私に対して敵意を示すな!

(なぜなら)あなたは我が体内にある我がカーである(からだ)。』」

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これは大英博物館所蔵の第18王朝の書記アニの「死者の書」の心臓を秤にかける場面に記された呪文30Bです。アニが自分の心臓にオシリス神の審判で自分に不利な行動を取らないように呼び掛けています。この呪文は心臓スカラベと呼ばれるスカラベ形護符によく記されます。

ジェドエフはジェド「言う」の未完了セジェムエフ形。エフは三人称男性単数の接尾代名詞「彼は」で、ここでは書記アニを指しています。イブは「心、心臓」。イーは一人称単数の接尾代名詞「私の」。エヌは属格形容詞「〜の」。ムートは「母」。「我が母の我が心」とは母から受け継いだ心臓という意味である。セプセンは前の句の繰り返し。ハーティーはイブの同義語で「心、心臓」。ヘペルーはここでは「(人生の)さまざまな年令期」を意味します。エム+不定詞は禁止の命令「〜するな!」。アーハーエルは「〜に対して法廷に立つ」。前置詞エムは「〜として」。メテルは「証人」。ヘセフエルは「〜に逆らう」。次の前置詞エムは場所を表します。ジャジャトは「法廷」。イリーレクエルは「〜に対して敵意を示す」。エムバーフは複合前置詞「〜の前で」。イリーメハートは「秤を司る者」。すなわちアヌビス神です。次の文は主語が独立代名詞の名詞文です。ネテクは二人称男性単数の独立代名詞「あなたは」。カーは「活力」。イミーは前置詞エムから作られたニスベ形容詞で「〜の中にある、〜の中にいる」。ヒェトは「身体」です。

秤の左側には運命の神シャイ、さらにその左側にはシャイの妻レネネトとライフプログラムを表すメスヘネト女神が並んで立っています。人間に与えられた寿命はシャイとレネネトによって守られますが、その人の善行や悪行によって寿命の長さは変更され、ライフプログラムも修正されます。普通の人はライフプログラムが修正されることなくオシリス神の前に来ます。秤の皿の上にはアニの心臓が載せられています。もう一方の秤の皿にはマートの羽根が載せられており、両方が釣り合えば、死者は冥界のオシリス神の王国に入ることができます。

17. モントエムハトの墓のレリーフ(OIM17974-5)より (8/6/2005)
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「コプトスのミン神官のためのあらゆる(種類の)パン、[...]神[官]のためのイチジク、[...]のための野菜、[...]神官のためのイシェドの実、市長のための肉、[...]のためのパンケーキ」

これはデル・エル・バハリにある第25王朝タハルカ王時代のテーベ市長モントエムハトの墓(テーベ34号墓)に彫られたレリーフの一部です。第25・26王朝は復古時代で、古王国の墓のレリーフをコピーする傾向がありました。このレリーフは良質の白い石灰岩に彫られています。レリーフに添えられた碑文では供物の種類の後にモントエムハトの称号(と名前)が続いています。

ティーは「パン」。ネブは形容詞「あらゆる」。エヌは前置詞「〜のために」。ヘムネチェルは「神官」。メヌーは「ミン神」。ゲブトゥーは地名でコプトスです。コプトスは東部砂漠の金鉱山や採石場への道の入口にありました。ミン神は東部砂漠の守護神です。ダブは「イチジク」。ヘセプは「菜園」。ここでは菜園で作られたもの、すなわち「野菜」を指しています。イシェドは木の実の一種です。イウフは動物の肉。ハティアは「市長」。ニウトは本来「都市、王都」の意味ですが、ここではテーベを指しています。シャトはパンケーキの一種です。

このレリーフはシカゴ大学オリエンタル・インスティチュート付属博物館所蔵です。モントエムハトの管轄はエレファンティネからヘルモポリスまでで、アッシリアによるテーベ攻略を生き延び、アビュドスのオシレイオンの修復など建設活動を積極的に行ったことが知られています。

6 18. ハープ弾きの供養碑(Louvre N3657)より (17/6/2005)

「ラーホルアクティー、偉大な神、空の支配者によって話される言葉。

テーベのまん中にいる両国の ? のアメン神の歌手、ジェドコンスーイウエフアンフ、声正しき者、ソカル・オシリス神の下で声正しき者が

彼(=ラーホルアクティー神)が供物と食べ物を与えてくれるように、

彼の日の出時に太陽神ラーを礼拝すること。」

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これは第三中間期に作られた木製の供養碑で、漆喰を塗った上に彩色されています。供養碑の持ち主ジェドコンスーイウエフアンフはアメン神に仕える身分の低い歌手で、ハープを弾きながら太陽神に賛歌を捧げています。太陽神にはスイレンの花と水の入った壷が供えられています。ハープは10弦で、ファラオの頭部の飾りが付いています。供養碑の枠組みは空のサインを支えるウアス笏です。

1行目は文字がハープ弾きの方を向いています。ジェドメドゥー「話される言葉」はここではラーホルアクティー神の言葉を導きますが、ここではその言葉が省略されています。ラーホルアクティー神の言葉は自明だからです。インは行為者を示す前置詞です。ネチェルは「神」。アーは形容詞「偉大な」。ネブは「支配者」。ペトは「空」。2行目からは文字がラーホルアクティー神の方向を向いています。ドゥワは「朝に礼拝する」。ドゥワトと綴られていますが、最後のtは余分です。ラーは「太陽、太陽神ラー」。前置詞エム+接尾代名詞を伴う不定詞は「〜の時」と訳します。ウベンはウベン「昇る」の不定詞で「昇ること」。接尾代名詞エフは不定詞の主語を表して「彼の」。インは行為者を示す前置詞です。ヘスーは「歌手」。ヘセトと綴られていますが、ジェドコンスーイウエフアンフは男性なので、ヘスーと読みます。アメンは「アメン神」。アメンのnの下のサインは不明です。ターウィは「両国」。ヘリーイブは複合前置詞ヘルイブのニスベ形容詞「〜のまん中にいる」。ワーセトは「テーベ」です。ジェドコンスーイウエフアンフという名前は「コンス神は『彼は生きるだろう。』と言った。」という意味です。乳幼児の死亡率が高かった古代では、まず子供が大人になるまで生きてくれることが親の願いでした。マアーヘルーは「声正しき者」。ヘルは前置詞「〜の下で」。ソカル・オシリスはメンフィスの墓地の守護神ソカルと冥界の支配者オシリス神が習合した神です。ディエフはレディ「与える」の叙想法で、ここではさらに目的節なので、「彼が与えてくれるように」と訳します。ヘテプーは「供物」。ジェファーウは「食べ物」。

1 19.  アメンヘテプ3世の石碑(CGC34026)より (2/7/2005)

「力の持ち主、彼らを引きずる時勇敢な者、惨めなクシュの遺産を破滅させる者、

彼の父アメン神の力でその王たちを捕虜として連行する者」

これはテーベ西岸の第19王朝メルエンプタハ王の葬祭神殿で再利用されていた第18王朝アメンヘテプ3世の石碑で、本来アメンヘテプ3世の葬祭神殿の中庭に建立されていた石碑です。

ネブは「持ち主」。ヘペシュは「力」。ケンは「勇敢な」。エムは時の前置詞。イテフは「ひきずる」で、ここでは不定詞になっています。セトは3人称複数形の従属代名詞「彼ら」。セクはセキー「破滅させる」の完了能動分詞「破滅させる者」。イワトは「遺産」。エヌは属格形容詞「〜の」。クシュは上ヌビアに対する呼称。ヒェセトはヒェシー「惨めな」の女性形。地名は女性名詞です。インはイニー「連れてくる」の完了能動分詞「連行する者」。ウルーはウル「外国の王」の複数形。ここでは杖をついた男性のサインではなく、後ろ手に縛られた捕虜のサインが使われています。ウルーエスのエスはクシュを指しています。エムは前置詞「〜として」。セケルアンフは「生け捕りの捕虜」。ただし綴りはセケブアンフになっています。また限定詞は後ろ手に縛られた捕虜になっています。エムは前置詞「〜で」。ペフティーは「力」。イトエフは「彼の父」。綴りはtとfしか書かれていません。アメンは「アメン神」です。

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ハゲワシの女神ネクベトがアメンヘテプ3世の鼻に生命・安定・統治権のヒエログリフ・サインを差し出して、王を守護しています。王は戦闘用の青冠を着用し、二輪戦車に乗り、手には手綱と鞭と弓を持っています。背中には矢筒を背負っています。二輪戦車には槍を入れる大きな筒が備え付けられています。ダチョウの羽飾りとボンボンで頭部を飾られた馬の背には四人のヌビアの王たちが縛られて乗っています。二輪戦車の車輪の前にも二人の縛られたヌビアの王たちがいます。この場面は異民族に満ちた渾沌とした世界に王が勝利によって秩序をもたらしたことを示しています。
20.  アマルナのウシャブティ(JE39590)より (18/7/2005)

「その美しさですべての大地を照らす生けるアテン神の王が与える供物、

彼(=アテン神)が副官ハート、生命を繰り返す者の霊に

北風の爽やかなそよ風、良き西方での高い(=長い)一生、冷水、ワイン、ミルクを

彼の墓の供物卓の上に置いてくれますように。」

これは、アテン神への言及があることから、第18王朝末にテル・エル・アマルナで製作されたウシャブティと思われます。アフエンアテン王はアテン神の一神教を創始し、その神学によれば来世はありませんでしたが、人々は従来通り墓を築き、副葬品を準備しました。このウシャブティに彫られた供養文は一見通常の供養文のように見えますが、オシリス神の代わりにアテン神が言及され、パン、ビール、牛(の肉)、ガチョウ(の肉)、ミイラ製作に必要な亜麻布や香油などが供物として挙げられていません。その代わり冷水、ワイン、ミルクなど供物卓に注がれるものが挙げられています。

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ヘテプは「供物」。ディはレディ「与える」の完了関係形。ネスートは「王」。パーは男性名詞に付く定冠詞。アテンは太陽神のアテン神。アンフはアンフ「生きる」の完了能動分詞。セヘジュはセヘジュ「照らす」の完了能動分詞。ターは「大地」。ネブは「すべての」。エムは前置詞「〜で」。ネフェルーは「美しさ」。エフは再呼代名詞で、パーアテンを指しています。ディエフはレディ「与える、置く」の叙想法です。チャーウは「そよ風」。ネジェムは「ここちよい、爽やかな」。エヌは属格形容詞「〜の」。メヒートは「北風」。アハーウは「一生」。カーは「高い」。ヘルは前置詞「〜の上に」。イメネテトは「西方」。ネフェレトは形容詞ネフェル「良い」の女性形。ケベフーは「冷水」。イレプは「ワイン」。イルチェトは「ミルク」。ヘルは前置詞「〜の上に」。ヘテプは「供物卓」。エヌは属格形容詞「〜の」。イスは「墓」。エフは所有を表す接尾代名詞「彼の」。エヌは与格を表す前置詞。カーは「活力」ですが、供養文では慣例的に「霊」と訳します。エヌは属格形容詞「〜の」。イデヌーは官職称号で「代理」「副官」。ハートは人名。ウヘムはウヘム「繰り返す」の完了能動分詞で「繰り返す者」。アンフは「生命」。
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21.  ルクソール神殿至聖所内聖船休息所外壁のレリーフより (31/7/2005)

「(アメン・)ラー・カームートエフ神

両国の支配者、セテプエンラー・メリアメン

王冠の所有者、アレクサンドロス

ラー神の如く。」

アレクサンダー大王はアメンヘテプ3世によって建てられたルクソール神殿の至聖所内に聖船休息所を置きました。このレリーフはその外壁に彫られたもので、アレクサンダー大王がルクソールのアメン神、すなわちアメン・ラー・カームートエフ神に捧げものをしている場面です。アメン・ラー・カームートエフ神はアメン・ラー神の生殖能力を強調した神で、ミン神のように生殖器が勃起した姿で表されます。そのためしばしばアメン・ミン神とも呼ばれます。カームートエフは直訳すると「彼の母の雄牛」で、アメン神が自分の母親を妊娠させることによって生まれたことを意味します。すなわちアメン神は父であると同時に息子であり、自ら若返ることができることを意味します。さらにアメン・ラー神の息子であるファラオもアメン・ラー神のこのような能力を受け継いでいるのです。ちなみにこのような行為はピラミッド・テクストにすでに見られ、大地の神ゲブが父親シュー神の王権を不法に奪うために、母親のテフヌート女神を強姦したそうです。

セテプエンラー・メリアメンはアレクサンダー大王の即位名。誕生名はアレクサンドロスと表記されています。ネブは「支配者」。ターウィーは「両国」。両国とは上・下エジプトのことです。ネブは「所有者」。ハーウはハー「王冠」の複数形。王冠が複数形なのは上エジプトの白冠、下エジプトの赤冠、両方を合わせた二重冠、戦闘用の青冠などがあるからです。ミーは前置詞「〜のように」。ラーは太陽神ラーのことです。

この場面ではアレクサンダー大王はアメン神のために香を焚き、冷水を注いでいます。王の頭上では、「永遠」を意味するシェン・リングと「百万年」を意味するヘフ・サインをつかんだハゲワシのネクベト女神が飛翔しています。

1 22.  サッカーラのホルエムヘブのレリーフ(Leiden CI)より (10/8/2005)

「あなたに讃美を、太陽神ラー、マートの所有者、偉大な神、ヘリオポリスの支配者よ!

最高司令官ホルエムヘブ、声正しき者の霊に、

彼が良き生涯、喜びでいっぱいにすることを与えてくれますように、

(彼が)天上でのアク(=光の霊の地位)、地上での称讃を与えてくれますように。」

これはホルエムヘブが即位前にサッカーラに築いた墓の第二中庭の西側中央の礼拝堂の角石に彫られたレリーフです。ホルエムヘブが右側に座っているラーホルアフティー神に向かって礼拝しています。

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イアウは「礼拝、讃美」。エヌは与格「〜に」。エックは二人称単数の接尾代名詞。ラーは太陽神ラー。ネブは「支配者、所有者」。ネチェルは「神」。アアは「偉大な」。ヘカーは「支配者」。イウヌーは「ヘリオポリス」。ディエフはレディ「与える」の叙想法。エフは三人称単数の接尾代名詞。ここでは太陽神ラーを指しています。叙想法は願望を表すので、「彼が与えてくれますように。」と訳します。アハーウは「一生、生涯」。ネフェルは「よい」。ヒェネムエムで「〜でいっぱいにする」。ここではヒェネムは不定詞。ネジェムイブは「喜び」。次のディはディエフが省略されたものと思われます。アフは再生復活に成功し、天上の神々の国に入ることができた「光の霊」。エムは場所を表す前置詞。ペトは「天空」。ヘスーは「称讃」。ターは「大地」。エヌは与格「〜に」。カーは「活力」ですが、この場合慣例的に「霊」と訳します。次のエヌは属格形容詞「〜の」。イミーエルメシャーウルは将軍達を束ねる「最高司令官」。マーヘルーは「声正しき者」。

つまりホルエムヘブは慶事に満ちた長寿と来世でのアクとしての地位と死後の地上での名声を望んでいます。

23.  ラムセス1世王墓の壁画より (15/8/2005)

「軟膏を捧げ、四回メレト櫃を引っ張ること」

これはラムセス1世の埋葬室に描かれた壁画で、ラムセス1世が太陽神アトゥム・ラー・ケプリ神にアバと呼ばれる笏杖と壷に盛った軟膏を差し出しています。アトゥムは日没の太陽、ラーは真昼の太陽、ケプリは朝日の太陽を表し、アトゥム・ラー・ケプリはその3つの段階すべてにおける太陽神を表しています。ここでは太陽神はスカラベの頭部を持つ神、すなわちケプリとして描かれています。ちなみに夜の太陽神はオシリスで、羊の頭部とともに描かれます。

レディトはレディー「与える」の不定詞。メジュートはメジェトの複数形で、メジェトは没薬(もつやく)から作られた軟膏です。セチャーはセチャー「引っ張る」の不定詞。メレトは「メレト櫃」。セプ-4は「4回」。

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メレト櫃はそりの上に乗せられ、帯紐で交差して縛られ、てっぺんに4本のダチョウの羽根を突き刺されています。櫃の中身は麻織物です。メレト櫃を神の方へ四回引っ張る儀式は中王国からギリシア・ローマ時代まで神殿の壁や王墓、石棺によく描写されます。この儀式の意味は、A. Egberts, In Quest of Meaning : A Study of the Ancient Egyptian Rites of Consecrating the Meret-chests and Driving the Calves, 2 vols., Leiden, 1995で研究されました。それによると、メレト櫃の中の麻織物はオシリス神の包帯とみなされました。オシリス神のバラバラになった身体の各部分を集め、ミイラにすることはエジプトの統一を象徴しています。従ってメレト櫃を神の前に引っ張ることはエジプトの国とエジプトの民を統一して、神の前に先導することを意味します。四つのメレト櫃は四つの方位を象徴しています。これはオシリス神のバラバラになった身体の各部分を捜し求めて四方へ行ったことを表しています。この儀式はさまざまな祭礼で行われたそうです。
24.  王女サトアメンの椅子の装飾(CG51113)より (30/8/2005)

「南方諸外国の黄金を持ってくること。

彼に愛されし王の偉大な娘、サトアメン」

これはアメンヘテプ3世の王妃ティイの両親ユヤとチュユの墓(王家の谷第46号墓)から出土した王女サトアメンの木製の椅子です。金箔が張られています。おそらくサトアメンはユヤとチュユにとって初孫で、彼らの葬儀の時に、王女自身によって贈られたものと思われます。

メスはメス「持ってくる、運んでくる」の不定詞。ネブーは「黄金」。エヌは属格形容詞「〜の」。ハースートはハーセト「外国」の複数形。レシウトはレシー「南の」の女性複数形。サトネスートは「王の娘」。ヒエログリフの綴りでは、尊敬の倒置が起こって、ネスート「王」を意味するスーのサインが前に書かれています。サトは「娘」。ウレトはウル「偉大な」の女性形。メリートはメリー「愛する」の完了受動分詞の女性形です。エフは接尾代名詞「彼の」で、王を指しています。サトアメンが王女の名前です。

王女はロータスの花とつぼみが垂れ下がる天蓋の中に座っています。王女は短いカツラを着用し、長く編んだ弁髪を垂らし、その上から額にガゼルの頭部の飾りがあるヘアバンドをしています。頭上にはパピルスを象った髪飾りを載せています。手にはハトホル女神の祭具であるシストラムとメナト首飾りを持っています。これらはすべて豊穣、再生、若々しさと関連があり、亡くなった祖父母の再生復活を保証しています。黄金は何年経っても錆びないことから、永遠を意味します。すなわち黄金を捧げることは永遠の生命の保証につながるのです。

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25.  エル・キャブ市長パーヘリーの墓壁画より (7/9/2005)

「王の息子ワジュメスの教育係、エル・キャブの市長、

パーヘリー、声正しき者が、

あらゆるものを楽しむこと

楽しい日を過ごすこと

ネヘブカーウ祭の朝に贈り物を受け取ること」

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これはトトメス1世時代のエル・キャブ市長パーヘリーの墓(第5号墓)の礼拝堂を装飾している彩色レリーフです。エル・キャブは上エジプト第3州の州都で、ホルス神の信仰地です。パーヘリーはトトメス1世の息子ワジュメスをひざの上に載せています。パーヘリーは、母方の祖父がヒクソス追放戦争で功績のあったエバナの息子イアフメスで、名門の出身です。「王の息子の教育係」という称号は名士に与えられる名誉職で、パーヘリーは父からその称号を受け継ぎました。残念ながらワジュメスは早死にしましたので、パーヘリーは短期間だけの教育係でした。

セフメフイブエムは「〜を楽しむ」。セフメフイブは不定詞です。ヘトは「もの」。ネベトは形容詞ネブ「すべての」の女性形。イレトはイリー「過ごす」の不定詞です。ヘルーは「日」。ネフェルは「よい、楽しい」。シェセプはシェセプ「受け取る」の不定詞です。ネジェトヘルは「贈り物」。ドゥワトは「朝」。ネヘブカーウは中王国以来冬第2月1日に祝われる祭です。インは行為者を示す前置詞「〜によって」。メナーイは「教育係」。エヌは属格形容詞「〜の」。サーネスートは「王の息子」。ハーティアは「市長」。エヌは属格形容詞「〜の」。ネヘブはエル・キャブの古代名です。マアーヘルーは「声正しき者」。

ネヘブカーウは「カーの力を授ける」という意味で、大蛇の姿をした原初の神ネヘブカーウが、故人の資質を審査した後、故人にカーの力を授けると、冥界の書に記されています。

26.  ケンヘルヘペシュエフの供物卓(マルセイユ・地中海考古学博物館No.204)より (17/9/2005)
前面の礼拝する人物の称号と5つのカルトゥーシュ

「.....の偉大な場所の書記、ウセルマートラー[・セテプエンラー]、ラーメス[スー]・メリアメン、セネヘトエンラー、セケンエンラー、ワジュヘペルラー」

セシュは「書記」。エムは場所を表す前置詞。セトは「場所」。アートは形容詞アー「偉大な」の女性形。ネトは属格形容詞「〜の」。ウセルは「力強い」。マートは「秩序」。ウセルマートラーは「太陽神ラーのマートは力強い。」を意味します。セテプは「選ぶ」。セテプエヌはセテプのセジェムエヌエフ関係形なので、セテプエヌラーは「太陽神ラーが選んだ者」を意味します。メスはメシー「設ける」の完了能動分詞。スーは三人称単数の従属代名詞。ラーメススーは「太陽神ラーは彼を設けた者なり。」を意味します。メリはメリー「愛する」の完了受動分詞。メリアメンは「アメン神に愛されし者」を意味します。セネヘトは「強くする」。セネヘトエヌはセネヘトのセジェムエヌエフ関係形なので、セネヘトエヌラーは「太陽神ラーが強くした者」を意味します。セケンは「勇敢にする」。セケンエヌはセケンのセジェムエヌエフ関係形なので、セケンエヌラーは「太陽神ラーが勇敢にした者」を意味します。供物卓での綴りは最後のnが一つ余分です。ワジュは「活力に溢れた」。ヘペルは「姿」。ワジュヘペルラーは「太陽神ラーの姿は活力に溢れている。」を意味します。

この供物卓はメルエンプタハ王時代のものです。クルナト・ムライで発見されたこの供物卓には16人の王と2人の王妃の名前がカルトゥーシュ入りで示されています。この供物卓を作らせたデル・エル・メディーナの書記ケンヘルヘペシュエフは歴史について深い知識を持っていたようです。前面の5つのカルトゥーシュには、ラムセス2世の即位名と誕生名、第17王朝の3人の王たち、すなわちヒクソス追放戦争を開始したセネヘトエンラー・タアー1世、セケンエンラー・タアー2世、カーメスの即位名が右から左に彫られています。供物卓の他の面には第11王朝のメンチュヘテプ・ネブヘペトラーや第18・19王朝の歴史的に有名な王たちの即位名が彫られています。ラムセス2世時代の建設事業の長官チェンリーがサッカーラの墓に王名表を彫らせたことやラムセス2世の王子ハーエムワセトが古代の遺跡を修復したり、王室図書館・神殿図書館にある書物のカタログを編纂させたことなどを考えあわせると、当時知識階級の間で歴史意識が高まっていたことがよく分かります。

27.  メチェチの墓の入口のレリーフ(ネルソン・アトキンス美術館52-7/2)より (26/9/2005)

墓の位置は不明ですが、サッカーラのメレルーカの母の墓壁画とよく似ているので、メチェチの墓もサッカーラのどこかにあり、年代は第6王朝ではないかと推測されています。

1行目は傷んでいるので、上から2〜4行目を読みます。綴りではレディーエヌセンと書かれていますが、レディーエヌイーエヌセンと読みます。これはレディー「与える」のセジェムエヌエフ形に与格が続いたものです。故人が話す時、通常一人称単数の接尾代名詞は省略されます。するとエヌが二つ続くので、さらにエヌが一つ省略されたと思われます。センは三人称複数の接尾代名詞です。従ってレディーエヌイーエヌセンは「私は彼らに与えた。」という意味になります。ヘベスーもヘブとしか書かれていませんが、限定詞からヘベスー「衣服」であることが分かります。イリーはイリー「する、行う」の受動セジェムエフ形。イリーアンフは「生活の面倒を見る」。前置詞エムは手段「〜で」を表します。ティーは「パン」。ヘンケトは「ビール」。エヌは属格形容詞「〜の」。ペルジェトは「(私有の)葬祭領」。ここでも所有を表す接尾代名詞イーが省略されています。故人への供物はこの葬祭領から来ます。ドゥワネチェルエヌは直訳すると「〜のために神を讃える」、すなわち「〜に感謝する」という意味です。前置詞ヘルは理由「〜のゆえに」を表します。エスはメチェチが衣服やパン・ビールを与えて、養ったことを指しています。彼らとは、ここには書かれていませんが、メチェチの墓を造った職工たちのことです。つまり職工達への支払いは自分の葬祭領からの現物支給で行ったと述べているのです。イミーエルは「長官」。スートは「部門」。ヘンティウシュは「ピラミッド都市の住民たち」。ペルアアは「王宮」。

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「(私は)彼らに衣服を与えた。

彼らは(私の)葬祭領のパンとビールで生活の面倒を見られた。

彼らはそのことで(私)に感謝した。

王宮のヘンティシュたちの部門の長官、メチェチ」

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28. 墓地職人ネブエヌマートの墓壁画より (4/10/2005)

デル・エル・メディーナの墓地職人ネブエヌマートが妻メルエスゲルと一緒にセネト・ゲームを楽しんでいます。彼の後ろには彼の愛する娘ヘネルが立っています。これは「死者の書」第17章に基づいた壁画です。セネト・ゲームで勝つことによって故人は冥界に入ることができると考えられていました。壁画では家族でゲームを楽しんでいるように描かれていますが、碑文の意味から推測して、トート神との真剣勝負だったのかもしれません。対戦相手が誰であれ、故人はこのゲームに勝てば、冥界の道を無事に通り抜けて、再生復活できると信じられていました。ゲーム盤と駒が副葬品として墓に収められることは初期王朝から知られていますが、その頃からこのような象徴的意味があったのかどうかは不明です。

「マートの場所における僕、ネブエヌマート、偉大な神の下で声正しき者が、

テントの中に座り、(セネト・ゲームをして)遊び、書物にあるトート神の知識に勝ること。」

ヘメスは「座る」。エムは前置詞「〜の中に」。セフは「テント」。ヘバーは「遊ぶ」。センは「通り過ぎる、勝る」。レフーはレフ「知識」の複数形。ジェフーティーは知恵の神トート神。エムは前置詞「〜の中に」。セシューはセシュ「書物」の複数形。次に行為者を表す前置詞イン「〜によって」が続いているので、ヘメス、ヘバー、センは不定詞であることが分かります。中期エジプト語と違って、新エジプト語では弱動詞の不定詞に付く語尾-tは書かれません。セジェムアシュエムセトマートはデル・エル・メディーナの墓地職人の称号で、直訳すると「マートの場所における僕」となります。マアーヘルーは「声正しき者」。ヘルは前置詞「〜の下で」。ネチェルは「神」。アアは「偉大な」。

29. ネフェルヘテプの供養碑(EA1516)より (22/10/2005)

ネフェルヘテプはラムセス2世、メルエンプタハ王、アメンメススー王の王墓を壁画で装飾した絵師たちの班長でした。彼はデル・エル・メディーナで最大の墓を築きました。不幸にも子供がいなかったので、パーネブという男子を養子にしました。しかし、パーネブは成人後養父ネフェルヘテプの職を奪い、70代になった養父を殺害したことが知られています。

ネフェルヘテプは第18王朝の創設者イアフメス王の息子、アメンヘテプ1世とイアフメス王の妻にしてアメンヘテプ1世の母、イアフメス-ネフェレトイリーを礼拝しています。この二人は死後神格化され、テーベのネクロポリスの守護神として崇拝されました。アメンヘテプ1世の記念碑はほとんど残っていませんが、対外戦争と建設活動で大きな功績を残したファラオでした。

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「よき神、ジェセルカーラー、太陽神ラーの息子、王冠の所有者、アメンヘテプ、生命を与えられし者に礼拝すること。

偉大な王の妻、イアフメス・ネフェレトイリー、生きますように、に(大地にキスをして)敬意を表すること。

彼らが真理の場所の班長ネフェルヘテプ、声正しき者、班長ネブネフェル、声正しき者の息子に生命・繁栄・健康を与えますように。」

レディトはレディ「与える」の不定詞。イアウは「礼拝」。エヌは与格「〜に」。ネチェルは「神」。ネフェルは形容詞「よい」。ジェセルカーラーはアメンヘテプ1世の即位名。サーは「息子」。ラーは太陽神ラー。ネブは「所有者」。ハーウはハー「王冠」の複数形。アメンヘテプはアメンヘテプ1世の誕生名。ディはレディ「与える」の完了受動分詞「与えられし者」。アンフは「生命」。センターはセンター「(大地にキスをして)敬意を表する」の不定詞。エヌは与格「〜に」。ヘメトネスートは「王の妻」。ウレトは形容詞ウル「偉大な」の女性形。アンフティーはアンフ「生きる」の状態形で、願望を表しています。ディセンはレディ「与える」の願望を表す叙想法「与えますように」。主語のセンはアメンヘテプ1世とイアフメス・ネフェレトイリーを指しています。アンフは「生命」。ウジャは「繁栄」。セネブは「健康」。エヌは与格「〜に」。カーは「活力、生命力」のことですが、ここでは慣例的に「霊」と訳します。エヌは属格形容詞「〜の」。ヘリーイセトは「班長」。王墓を装飾する絵師達は王墓の右の壁を担当する班と左の壁を担当する班に分かれて作業しました。それぞれの班には班長がいました。エムは場所を表す前置詞「〜に」。セトは「場所」。ネトは属格形容詞エヌの女性形「〜の」。マートは「真理」。真理の場所とは建設作業中の王墓を指します。マアーヘルーは「声正しき者」。サーは「息子」。ヘリーイセトは「班長」。ネブネフェルはネフェルヘテプの父親の名前。マアーヘルーは「声正しき者」。

(1) (3)も見てね。

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