クロスレビュー企画  「もえたん 萌える探偵小説」

 第12回お題その1
   「キリサキ」 田代裕彦 (富士見ミステリー文庫)

 気がついたときには”俺”は死んでいた。死の理由やその直前の記憶はなぜか残っていない。 死神のような姿をした不思議な案内人の導きで、”俺”は生き返ることになるが、 目覚めた”俺”がはいっていたのは霧崎いづみという名の少女の身体だった…。 ”俺”の元の身体を動かしているのは一体誰? そして、再び現れた連続殺人魔”キリサキ”の正体は?

 
 近田鳶迩@TNM BLOG

 講談調の語り口とはつ子嬢の愛らしさで注目を浴びた「平井骸惚」シリーズの作者、田代裕彦による変化球SFサイコサスペンス。 一度死んだ主人公≪俺≫は、霊界の≪案内人≫ナビィによって現世に舞い戻る。 ところが肉体は自殺した女子高生のもので、女子高生ばかりを狙う謎の連続殺人鬼≪キリサキ≫は新たな犯行を犯していた。 ≪キリサキ≫の正体は≪俺≫のはずなのに、一体何故? 設定も真相もなかなか考えられていて好感触。 久々に「ああ、なるほど!」という驚嘆を味あわせもらいました。さすが田代!  ただ、説明や見せ方の部分がどうも上手くなくって、アイデアという原石を磨き切れていないような気がします。 ジャンルの枠組みを逆手に取ったやり口なんかは非常に感心したんですが、これだとあまり印象に残らないのでは。ちょっと勿体無いですね。 全般的に楽しめたので引き続き期待。

  9 
 らっこ@海獺の読書感想文対策

 「ハサミ男」のような話の展開と「DEATH NOTE」のような設定。 読み始めたら否が応でも引き込まる。 終盤、からくりが明らかになる部分では多少頭を使うことになるけれども、世界観をうまくとりこんだものになっていてうまい。 この物語は萌え路線が嫌で富士ミスを避けている人でも、読んでおかなければいけない作品です。

 
 ゐんど@のべるのぶろぐ

 一言で言うと「ハサミ男」+「デスノート」な印象。 序盤からこれはトリックだぞ!と声高に叫ばんばかりの一人称に、莫迦な読者なりに気をつけて読んでいたのだが…駄目だった。 ライトノベルならではの超常な部分と、ミステリとしてのロジカルな部分のバランスは絶妙な匙加減かと。 「すげえ!」と叫ぶ域には至っていないが、なかなかの佳作かと。 ライトノベル だからと敬遠せずに、ミステリ読みにこそ読んでもらいたい作品。

 
 NAO@魔法飛行

 第3回の富士見ミステリー大賞受賞作の『平井骸惚此中ニ有リ』の作者の新刊。 『平井骸惚此中ニ有リ』も「もえたん」の課題本になったことはあるけど、 その時私は片方のレビューにしか参加しなかったので、初めて読む小説家ということになる。 さすが、大賞受賞者だけあって、小説の構成力は問題ないし、文章力もあると思う。 結構、私好みの文章だし。内容も好み。二転三転しながらも読者の興味を惹き続ける。 サスペンス風味な雰囲気が活きているし、物語の真相には恐らく吃驚させられると思う。 8点にしても問題ないかも。

 
 ムスタファ@【ムスーたん(;´Д`)ハァハァ】の読書感想文

 一読した第一印象が「とりかえばや物語じゃねえか」というもので、 マ、男女入れ替えネタは洋の東西を問わず古くからあるパターン(日本なら前述の『とりかえばや物語』、西の代表ならやはりシェイクスピアの『十二夜』かな)なのでして、 そのことについてとやかく言うつもりはさらさらないんですけども。
 その昔、私が『とりかえばや物語』を読んだ時、かの作品では女装した公達が子を産み(産むようにみせかけ)、 男装の姫君が宮廷で出世したりとさんざんど阿呆な事をやりつつも、 作品の結論としては、女性はお家にいて子を育み、男は外にでて家庭を守りましょうねまるみたいな論調で物語が片されてしまうので、 現代教育を受けた身としては少々納得できなかったりしたんですけどね。
 でも、この田代氏の作品では王朝文学の持つそういう違和感を読者に抱かせないように話を収束させているのがよろしいんじゃないでしょうか。 男女の性差を描きつつ、予定調和にならないよう、かといってひねり過ぎない適度なバランス感覚に基づいたラストの締め方はお見事。

 
 秋山真琴@雲上回廊

 読んでいる間は非常に面白かったのだけれど、結末が好みでない故か、今ひとつ記憶には残っていない。 それに少しでも物語に踏み込んでみたが最後、ネタをばらしてしまう危険性があるので、語りづらい作品である。 しかし逆に言えば、説明できない作品というのは、説明できてしまう作品や、説明できないのだけれどできてしまえる作品に比べれば、ずっと面白いはずだ。 説明できない――と言った時点で、既にこの作品で使われているトリックがどういった種のものであるかは、半ば推量がついてしまうのだけれど、心配は要らない。 この作品の主なポイントとなるのは、もう一歩、踏み込んだところにあるからだ。 それが何であるか、さすがにそれについてはもう何も言えない。
 とりあえず、本作品はいい意味で、富士ミスや、それを含むライトノベルという規格から飛び出してくれた気がする。 普段はライトノベルを手に取らないミステリ読みも、この作品は読んでおいていいだろう。いや、読んだほうが良い。

 
 リッパー@鍵の壊れた部屋で見る夢

 ゲーム「悠久幻想曲」のmoo氏っぽさのあるイラストは嫌いじゃないし、 表紙のゴスロリ着た女の子と死神風の鎌の組み合わせも結構そそる…のだけど、 この白いひらひらのついた黒ブラウス(しかも肩を露出させやがる!)とスカートが女の子の通う学校の制服だというのは、いくらなんでも あ・り・え・な・い! …私服ならいいんだよ、私服なら。でも、制服だというのはお兄さん許シマセンヨ! そんなのは制服という概念に対しての冒涜だーっ! でも、いずみちゃんかわええーっ!

 長くはない話の中によくもこれだけネタを詰め込んだなあと感心する1冊。 1・主人公が死んだ理由。 2・主人公の元の身体には誰が入っているのか。 3・キリサキは誰なのか。 4・一連の事件全体を見通せる”真相”はあるのか、あるならばそれはどういうものなのか。 5・ナヴィと転生にまつわる謎。 ざっとあげただけでこれだけの???があって、さらに主人公の得体の知れなさと先読みしにくいサスペンス展開、 追う側(警察視点)の導入によって話の緊張感は高まるし、そしてもう1つ仕込まれたネタ。 これらすべてに整合性をつけてばっさばっさと一気に片付けていくクライマックスはまさに圧巻。 あることはほぼ予想通りだったり、伏線を見逃していたものあり、作者の企みにまんまと騙された部分あり、 いろいろ考えながら読んでいたにも関わらず、こちらの予想を軽く上回る捻った真相には感心させられました。 ただ、辻褄合わせのためにおざなりになってしまった部分がいくつかあって、そのへんで完成度を若干下げてるし、 こういうものを書くために犠牲にしたものもあって……富士ミスなのにLOVEも萌えもありゃしない、全体に話が暗い、主人公に感情移入できない、 引っ掛かりの残ってしまうラスト、等々……無条件で絶賛というわけにはいかないのが、ちょっと惜しいなあ。 でも、とても面白い作品でありました。 次は、この方向性をさらに進化させ、男女人格入れ替わりドタバタ・ラブコメ・ミステリーを書いて欲しいですね! 田代センセなら書けるよ、きっと書ける。

 「もえたん 萌える探偵小説」は”富士見ミステリー文庫の片隅でミステリを叫ぶ”田代裕彦氏を応援しています。

平均 7.6


 第12回お題その2
   「薔薇の埋葬 有閑探偵コラリーとフェリックスの冒険」 橘香いくの (コバルト文庫)

 コラリーは森で偶然、美しい歌姫・リアーヌと知り合う。街の劇団で舞台女優として活躍しているリアーヌ。 しかも、彼女の恋人はコラリーとフェリックスにとっても旧知の青年・アルベールだった。 リアーヌの美しさと2人の恋に憧れを抱くコラリーだったが、ある日突然リアーヌが失踪する…。

 
 近田鳶迩@TNM BLOG

 寄宿舎から呼び戻されたばかりのコラリーは、今は亡き母親の父・百万長者のデローリエ氏の財産を継ぐために、 幼馴染の近衛士官フェリックスと結婚するように言われてしまう。 フェリックスは容姿端麗の美男子だったが、思ったことを何でも口にするデリカシーのない男だった。 あんなやつと結婚なんかしない!と、今日もコラリーの絶叫が響き渡る――そういうお話。
 これはなかなか面白い。や、タイトルから期待されるような本格ミステリでは全然ありませんが、 ストレートなキャラクターにストレートな物語と、特に達筆というわけでもないんですが(逆に人称がおかしい部分がちらほら)、 変に捻ったところがない分、安定して読めました。 まあ、読み物として物足りない部分があるというのも確かで、何かひとつパンチの利いたプラスアルファがあれば、ガチなミステリ読みにも歓迎されたことでしょう。 本書はちょっとリーグ違いな感じ。 シリーズ物で続きも沢山出ているので、中にはひとつくらい掘り出し物があるやもしれません。 イラストがもうちょっと落ち着いた風だったら買えるんだけどなー、これはやや辛いよ。 コラリーは所謂ツンデレというやつなので、そちら属性の方にもちょいお薦め。

 
 NAO@魔法飛行

 コバルト文庫らしいというのか、スタンダードな少女小説という印象を受けた。 ヒロインと性格が正反対のフェリックスのやり取りは、よく見る光景ですが、なかなか微笑ましい。 ただ、ミステリとしては平凡。 ……というか、そういう視点で読むべき小説じゃないような。 個人的には、第一話のようなテンションでコミカルな話が読みたいと思う。

 
 ひさ@●SIDE ONE●

 一話目がコラリーとフェリックスの自己紹介的エピソード、二話目が表題作である本編『薔薇の埋葬』という二部構成。 まずこの二人のキャラクターをしっかり把握させる為の組み立て方が好感触。 ただ一方で、題材が『萌える探偵小説』なのにコラリーとフェリックスの“苦笑夫婦漫才”だけの軽〜い雰囲気のまま終わってしまうんじゃ……なんて不安もあったのですが、 その辺りは中盤以降の展開を読み進めて行くに連れて解消されました。 事件の真相は割と先読みし易い内容と感じましたが、そこに至るまでの登場人物達 ――特に主役であるコラリーとフェリックスのじゃれ合い(にしか見えない)を交えつつの心理描写はなかなかお見事。 最後まで充分楽しませて貰えました。 欲を言うなら、真相を知った後からラストシーンまでにコラリーの感情をもう少しだけ余計に見せて欲しかった事くらい。 これはもっと彼女の気持ちを抱えて読後の余韻に浸りたかった思わされたせいかも知れません。 この先のコラリーとフェリックスの関係もまだまだ追ってみたい! と続きを楽しみにさせてくれる良い出会いでした。

 
 ムスタファ@【ムスーたん(;´Д`)ハァハァ】の読書感想文

 事件も何も起こっていないのに登場人物一覧を見ただけで既に犯人が誰だか何となく予想がついてしまうのが、うーん……。 そもそも犯人が誰これという以前に、謎が全く無いような気もするのだが、それってどうよ。 これをミステリとして読んで一体誰が喜ぶんだろう?  私の修行不足というか、EXPが足りないと申しましょうか、コバルト文庫の読み方がいまいちわからないというか、 要するにクンフーが足りてないんですね、きっと。 少女小説の文法というものを修得しなおして、いつの日かコバルト文庫の作品に再挑戦してみましょう。 現時点では駄目でした。この作品の良さを私は判別できません。
 マ、とりあえず、せっかく近衛騎兵が出てくるのだから馬上槍試合のような活劇場面を描いたみたらですね、 男の子の読者も満足するんじゃないでしょうか。 そんなもんコバルトを読んで喜ぶ健全な少女層が喜ぶのかと問われたら、曖昧に笑って誤魔化すしかないんですけど。

 
 リッパー@鍵の壊れた部屋で見る夢

 第一話が短すぎる。コラリーとフェリックスの足場固めとキャラクタ紹介的なお話だとはいえ、 祖父さんと孫との関係修復という”いい話”をこんなにあっさり流してしまうなんて勿体無い。 1冊かけてじっくり書くべき話じゃあないのか。 例えば、祖父さんが遺産問題で毒殺されかけたり、すったもんだのミステリー展開なあげくの上、和解して感動の大団円。 というような話を期待したのに(あらすじ読んだ段階では)残念だというしか。 第一話と第二話の繋がりも薄いし、第二話のプロットなんか続編で書きゃいいネタだと思うんだけどなあ。
 ラブロマンスにミステリ成分をちゃっちゃとふりかけた、いかにも少女小説ミステリーという感じの作品で、 一昔前……集英社文庫コバルト・シリーズな時代に山浦弘靖が書いてたようなのを、中世風ロマンファンタジーの世界に移し変えるとこんな話になるのかもー。 なーんて思いながら読んでましたよ。 コバルトで育つ女の子たちはこういう作品からミステリ心を育む……のか? たんに謎めいたところのあるラブストーリーとして読んじゃうのかもしれませんがね。 「薔薇の埋葬」というタイトルと本編におけるその意味はわりと好き。 続編に不可能犯罪ものとか謎解き要素の高い作品があるなら読んでみたい気もするけど、どうなのかなあ。 教えて、橘香いくの好きの人。

 
 永山祐介@ My dear, my lover, my sister

 大いなる同情心で首突っ込んでいって事件に介入した挙句 期待から裏切られて勝手に傷つくコラリーと、思ったこと垂れ流しのくせにコラリーを好きなことだけは伝わらないフェリックス。 まさに割れ鍋に綴じ蓋といった感じの二人。多分お互いがお互いに、自分こそが相手をフォローしているんだと思っているんでしょうね。 二人の会話を読んでいるだけで非常に楽しいです。
 後にレギュラーといって良い立場になるボナバンは、この時点ではまだ単なるサブキャラといった印象。 でもやはり最初からフェリックスには頭が上がりません。 フェリックスは、コラリー以外のキャラクターと対峙させると、コラリー以外は心底どうでも良いと思っていることが良くわかって面白い。
 事件の真相については、事件に直接関わる登場人物があまり多くないせいだろうけど、サプライズには乏しい。 ただ、真相が想像ついても、それに対してコラリーがどう反応するのかというところが主眼だろう。 その点では、傷つきやすいけれども、タフなコラリーが描かれていて良いかなと思ってます。

平均 5.5


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