クロスレビュー企画  「もえたん 萌える探偵小説」

 第10回お題その1
   「春期限定いちごタルト事件」 米澤穂信 (創元推理文庫)

 小鳩君と小山内さんは、恋愛関係にも依存関係にもないが互恵関係にある高校生。 きょうも二人は手に手をとって清く慎ましい小市民をめざす。それなのに、二人の前には謎があらわれて…。

   らっこ@海獺の読書感想文対策

 私の好きなジャンル、日常のミステリでした。 日常のミステリを扱った作品も多く、それだけでは押しが弱いのですが、本書はライトノベル的なキャラ造形を使って攻めています。 そのためにとげのある話でも、それを感じさせることなく読むことができたのが、私には好印象でした。 ヒロインの好みのように、事件の謎も雰囲気も二人の関係もすべてがいちごタルトのように甘めに仕上がってます。

   ゐんど@のべるのぶろぐ

 互恵関係、という友達以上恋人未満、なのかどうかもよく分からない二人が日常の謎に挑む連作短編。 古典部の省エネに対して、今回は小市民を目指す少年少女の話。 個人的趣味を言わせてもらえば、探偵したくないーと悩む探偵役は好きじゃないんだけど。ミステリ要素は端正にできていると思う。 ところで、帯 に書いてある「コミカル探偵物語」という言葉はなんか違和感が。 この人の作品、ライトなようで、裏に昏い底流があるような気がする。  で、最大の魅力はヒロイン(?)小佐内さんの造形にある訳で。 小動物で、甘いものに目がなくて、それでいて、ダークサイドを垣間見せる彼女に萌え。 彼女の過去が最大のミステリ。
 ある意味一番の「奇想」は、あの人に解説を頼んだ事のような気がしないでもない(笑)。

   NAO@魔法飛行

 ネタは小さいながらもピリリと効いているとか、人が死なないのに上手に仕上げているとか、 そういったこともあるけれど、私は米澤穂信の書く世界、あるいは「空気」がとても好きです。  この『春期限定〜』も、日常の中に小さな「謎」を作り出して、ミステリに昇華させ、巧みに物語りに組み込む辺り、やはりさすがだなーと思いました。  比べるならば個人的に古典部シリーズの方が好みですが、 読者の想像力を刺激する小鳩くんと小佐内さんの関係性や小佐内の過去など、謎解きとは別の部分にも魅力があり、十分にお薦めできる作品だと言えるでしょう。

   トラック@コズミックサーフィン

 うーん……本書は回りくどく七面倒くさい思考をする高校生が、友人から突き付けられたり解かなくても一向に構わない謎に対してうだうだ云っているだけの話なのではないか、と一読してそう思ってしまいました。 謎を解明する時の思考の過程や、謎を解明したあとの小鳩君と小山内さんの言動に含まれている意味を汲み取らなければ、この作品の面白さ―― 小市民の星を目指しているのに謎が次々と立ち現れ、必要に迫られて謎を解いてゆく度に染み付いた探偵役という存在を脱却できず、そして自意識の在り方や行く先について徐々に煩悶していく ――をしっかりと味わえないとは思うのですが(いわゆる青春の要素というやつなのでしょうか?)、 しかし……「狐狼の心」で垣間見れた小鳩君の自意識の変遷が結局元へ戻って終るというのはなんとも云えませんし、 そもそも知恵がまわるのを鑑みずにただ小市民たれという意識を向けているのが痛々しいといいますか。 また、扱われている事件のどれもがしょぼ過ぎて読みごたえがさっぱりなく、解き明かしたあとの小鳩君の逡巡の描写が極力抑えられているせいか、 「だからどうした」としか思えませんでした。 推理の手引きがとても巧いと思うだけに、事件のしょぼさや薄さがより際立っているような。 もっとスケールの大きい事件で物語を進行してくれたら面白く読み進められたのになあ……と、 そんな訳で自分は本書でかかげられているコンセプトに悉く合いませんでした。 キャラについてもまあ、魅力的なものは何も感じ取れなかったので特に述べることはありません。 ですが挿絵は二枚くらい欲しかったところ。 あと、「おいしいココアの作り方」に於ける犯人(いつのまにか仕立てられたようなものですが)の動機はなかなか善かったです。 その動機をめぐる、前提条件をしっかりと踏まえずに繰り広げられる推理合戦には辟易しましたが。

   ないとー@書店員のひとりごと

 本当は人を傷つけるのが嫌だからって事件に関わろうとしない探偵役って大嫌い。 にもかかわらず、小鳩が小市民目指すことでよけい腹黒いヤツに見えたり、 小山内さんとの絡みもあったせいか、この作品ではそんなに嫌じゃなかった。 むしろラストがああいう展開だったので、その設定も悪くはないと思わせてくれました。 決して二人の出会いや小山内さんの過去が明かされることはないんだろうけど、すっごい続編読みたいよー。

   近田鳶迩@TNM BLOG

 面白かったー。 小鳩君ひとりなら何処までも内面的に引き篭もってしまいそうなところを、小佐内さんという拠り所を配することで見事コメディに昇華しています。 名探偵論のパロディとしても楽しめますし、オチの付け方も、予想の範囲内というネガティブな評価よりは、期待に応えてくれてありがとう!というポジティブな見方をしたい。 米澤穂信の前三作が駄目という人も、本作は別の観点から楽しめるんじゃないでしょうか。 あ、僕はどれも好きです。 

   リッパー@鍵の壊れた部屋で見る夢

 米澤穂信せんせの書くオハナシは面白いねえ。 わざわざ”萌えシチュエーション”やら”ドタバタ”やら”若さゆえの破壊衝動”なんてものを盛りこまなくても、 なんてことはない日常の会話だとかキャラクタのものの見方や思考過程を描写するだけで、こういう学園もの青春ものの良作になっちゃうんだから。 …でも、今回の作品、これまでの3つと比べてメインキャラの捻くれ方に磨きがかかってない? 面白いとは思うけど、親愛の情は抱けないという感じ。 小鳩君の煮え切らない態度は健吾君の言うとおり”小賢しくて腹黒そうなイヤな奴”にしか見えないし、 小山内さんも小動物然とした内に狼がいるというより猫かぶった獅子みたいで、かわいらしい行動までも作り物めいて感じてきてしまうのがなんともはや。 小鳩君と小山内さんの二人の微妙な距離感はとても良かったので、どうして二人がこうなってしまったのかというあたりが続編で書かれるなら、 底にある冷え冷えとした感触もすんなり呑み込んでいけるのかもしれない。
 さて、ミステリとしての評価は…、えー、正直言っちゃえば、つーまーんなーい。 いくつかある些細な謎に関しては、前提条件が明確にされてないために”読み手が推理できる余地”がないのと、小鳩君の解法に説得力がないので、読んでてちっとも面白くない。 「氷菓」や「さよなら妖精」はそんなことなくて”解釈の論理”や”飛躍”の面白さがあった。 もしかしたら探偵役のパーソナリティの捩れ方が原因なのかも。うーむ。 で、唯一、謎解きで評価できるのが「おいしいココアの作り方」。 前提条件の洗い直しや論理の試行錯誤が楽しめる。全編こんな風だったらもっと高評価出来たのになあ。 連作を通して伏線が張られる事件に関しては、解答部分の小鳩君の論理展開がこれまた強引すぎて説得力皆無なので駄目。 その確率計算ってなんなのさー。健吾君もそんな詭弁に納得してるんじゃありませんよ。 デクスターの「キドリントンから消えた娘」でモース警部がやったあれのパロディなのかしらん? もしそうなら、ギャグとして使わなきゃー。

   なづな@非京極日記

 創元推理文庫で出たわりにはミステリ的には少々小粒かな、と。 多少歯ごたえがあるのが「おいしいココアの作り方」くらいか。 とは云え、全体的には楽しんで読みました。小山内さんも充分萌え対象。 探偵の悩みが直截に、であるが故にやや不器用に描かれているのも好みです。 また、小説全体を通して細かいところにも手を抜かない誠実なところも健在。 それ程高得点をつけないのは『さよなら妖精』のような切なさを求めてしまっているからだと自覚しています。 でもからっとした読後感の良作ではあります。

平均 7.0


 第10回お題その2
   「しずるさんと底無し密室たち」 上遠野浩平 (富士見ミステリー文庫)

 きょうも病床のしずるさんをお見舞いにいくよーちゃん。 二人は他愛もないおしゃべりをしながら、不可思議な殺人事件の謎解きをしていきます。 植物に囲まれた死体、閉ざされた館の中の一家皆殺し、空を飛んできた死体…。 そこにある”ごまかし”とは…?

   らっこ@海獺の読書感想文対策

 萌える探偵小説としては上質のものではないでしょうか。 事件よりも魅惑的な探偵役のしずるさん。しずるさんと聞き役との二人の会話は、どの事件よりも面白いです。 冷静な頭脳を発揮し、達観した様子を見せながらも、たまにかわいらしい側面を出すしずるさんはまったくもって底が見えません。

   ゐんど@のべるのぶろぐ

 病院にずっと入院しているしずるさんと、そこに見舞いに来るよーちゃんが主人公の、アームチェアディテクティブ短編集第二弾。 相変わらず、ミステリと してはトリックの説得力がいまいち弱いかな。 結構トンデモな話ばかりで、「奇想」のレベルには至ってないので、おいおいと突っ込みがち。 正直、この作品の魅力は、しずるさんとよーちゃんの百合百合な掛け合いにある訳で。 挿話の「はりねずみチクタ」の方が面白い(苦笑)。
 講談社のノベルスの時も思ったが、この人の書くものは、あくまで上遠野作品なんだな。 他作品とのリンクを推理したりして愉しむ…でも、それはミステリ の愉しさではないよなあ。

   NAO@魔法飛行

 7点を付けようかどうしようかと迷ったのですが、ここは6点にしておきます。6.5点だと思ってくだされば。
 ……内容は、まあなんというか、ミステリ的に秀逸なのもあればバカミスもあり、という感じで一言で言うならば「上遠野浩平らしい」です。  ただ、そうはいっても、不思議なことに小説を読んだ時点では「無理があるだろう」とは思いながらも、一応納得してしまうのです。 その部分を考えると構成力はあると言えます。
 ともかく、私はこれぐらいの完成度ならば、続きも読みたいと思うし、3冊目がでても購入するでしょう。

   トラック@コズミックサーフィン

 前作『しずるさんと偏屈な死者たち』に引き続き、どの観点から考察すれば不可思議さや奇想天外な事件がいかにして一般的な事件として解体されるか、を目指して書かれた小説であるように思えました。 ある死人が祭の最中の同時刻で別々の場所で目撃されていたり、何処からともなく空を滑空し時計台の先端にある避雷針に降り立った死人などといった人間業ではなし得ないという怪奇的でいて魅惑溢れる謎に対し、 その謎は奇怪さとは程遠い地味な仕組みと経緯で構成されている、と解き明かされた瞬間に感じずにはおれない砂上の楼閣のような脆さと呆気なさが自分はとても好きです。 それはおそらく、何か魅力的で没頭できるような謎(特に密室)を希求しつつもその謎を看破してほしいという、破壊願望にも似たようなものを自分が常々思い抱いているからなのかもしれません。 よって、しずるさんの推理が開陳されていく度によーちゃんへ現実性が回帰していくというスタンスの短編が四本所収された本書は、傑作であると自分は思います。 ……それにしてもよーちゃんはいいひとですね。

   ないとー@書店員のひとりごと

 このシリーズはあくまで現実的な世界を舞台にしているので、そこはいじりようがない分、 前作ではあまりにも現実的でない無茶なトリックが浮いているし、トリックそのものにも魅力を感じなくて、 とても読めるシロモノではなかった。 特殊な世界であることが明示されている<事件シリーズ>では、トリックそのものはとっぴでも、 それに説得力を持たせる世界観が作られていれば評価できるんだけど。
 というわけで、今回はまったく期待しないで読み始めたわけだけど、あれ…面白い。 あいかわらず現実性無視なところが、物語に没頭させてくれなくて気持ち悪いんだけど、 トリックそのものが面白いと感じたため、今回は多少のところは目をつぶってあげようかと思えた。 しずるさんの言うことにいちいち動揺するよーちゃんは、ちょっとウザイけどより二人の関係性がハッキリしてきていていい感じ。

   近田鳶迩@TNM BLOG

 病床の美少女しずるさんと親友よーちゃんによるシリーズ第二弾。 このシリーズは元々厳密な本格ミステリとしては書かれていないのですが、 それにしても本書は仕掛けの部分を観念的なものに頼りすぎており、全体的に物足りない感が残ってしまいました。 もっと謎の奇想性を前面に押し出しても良かったんじゃないかなあ。 リアルな謎解きとヒロインふたりが醸し出す柔らかな雰囲気のミスマッチもそれほど目立っているわけではなく、 新キャラ出してテコ入れってわけにもいかずで、ちょっと行き詰まり気味かも。 上遠野のミステリは、やはり特異な世界観を活かせる講談社の調停士シリーズの方が良いのかもしれません。 収録作品中では「七倍の呪い」がもっとも由。この話に出てきたカードゲーム、実際に作る人がいそうだなあ。

   リッパー@鍵の壊れた部屋で見る夢

 あの上遠野浩平がこんなあからさまな”萌え”を書くのか!? という意味でびっくらこいた本格百合萌えミステリ(註1)の第2弾。 女の子同士が仲良くしてる描写だけでもおいしいのに、破壊力抜群のイラストがついてるおかげで萌え度3倍増。 よーちゃんのかわいらしさたるや、富士ミス3大美少女(註2)に数えられるほどの勢いでございまする。 よーちゃんがかわいければ他には何もいらないのであります。ミステリなんて飾りさ、はっ。 日傘よーちゃんさーいこー。

 一応ミステリとしての評価もしておくと、「しずるさんと吸血植物」が今作中ベスト。 ネタは単純ながらも、しずるさんの語りや真相へ到るためのヒントの出し方が絶妙で、解き明かすまでの流れが実にエレガント。 それと「しずるさんと凍結鳥人」は倉知淳あたりが書いてもおかしくない奇想だなあと思った。

註1…ここでの”本格”は”百合萌え”にかかる。
註2…「しずるさん」よーちゃん、「GOSICK」ヴィクトリカ、「平井骸惚」はつ子嬢。 リッパーさん認定。文句あるやつはかかってきやがれ。

平均 6.1


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