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樹の散歩道
  カシグルミ果実の成熟過程


 どこにでも見られる国内自生種のオニグルミについては、果実の成熟過程についてその様子は承知しているが、カシグルミの場合は案外身近に植栽されている例は少ないため、果実がどんな風に成熟するのか、経過を観察する機会がない。そこで、ある樹木園のカシグルミを教材にして、果実の成熟過程を観察することにした。【2011.11】


 食用としてしばしば栽培されている外来のクルミにはセイヨウグルミ(ペルシャグルミとも。時にカシグルミとも)、テウチグルミ(カシグルミとも)の系統があるといわれるが、樹木園等に植栽されているものには表示のないものとセイヨウグルミとしているものが見られた。しかし、本当の素性は誰にもわからないし、ほとんど同じであるから、ここでは便宜上「カシグルミ」とした。
 
(カシグルミの概観) 
 
     カシグルミの葉                 果実は数個つく。  外果皮が割れて、自然に落ちた堅果で、洗浄は全く不要であった。オニグルミとは大違いである。 
 
 カシグルミはオニグルミよりも小葉が少なく2対から4対がふつうで、先端の頂小葉が大きい。
 カシグルミの雄花はオニグルミと同様に紐状に垂れ下がる。雌花序の柱頭は緑色で目立たない。
 果実はオニグルミのように房状にたくさん着くことはなく、2〜3個がまとまって着いている場合が多い。
 カシグルミの果実はオニグルミのように短い毛が密生することはなく、短い毛が薄く全体を被っているが、見た目にはつるっとした感じである。
 
(カシグルミ果実の成熟の様子) 
 
  樹上で外果皮(花床)が裂開し始めていて、きれいな堅果をチラリと見せている。   外果皮に筋がないから、不規則に裂開する。   以下同様。   同左。
 外果皮が十分裂開していて間もなく堅果を落下する。  落下寸前である。こうした堅果は汚れがなくでよろしい。堅果は浮いている。   堅果を放出して、残された外果皮。  樹上で黒変した果実で、間違いなく堅果の中味が傷んでいる。
 オニグルミの場合と同じように外果皮が黒変し、腐っている。  外果皮付きで落ちていたもので、繊維質のものは簡単に除去できる。  外果皮付きで落ちていたもので、堅果は非常にきれいである。  外果皮に割れのないものを室内で放置したもので、腐ることなく乾燥してしまう。
 
 オニグルミは概ね成熟すると青い外果皮をつけたまま、ぽたぽたと落ちるのに対し、カシグルミの場合は、
  @外果皮を着けたまま落ちる場合
  A外果皮が不規則に裂開して、中味の堅果のみを落とす場合
  B外果皮が裂開した状態で、堅果を抱えたまま落果する場合
が見られた。収穫を期待する立場からは、明らかに堅果のみをポトポト落としてくれる方が都合がよい。
 
 外果皮が裂開して堅果が外果皮の中で浮いた状態になっていれば、表面がきれいな状態の堅果が得られる。クルミの生産農家でも、外果皮が割れてきた頃合を見て、果実をたたき落とすのだそうである。
 樹上で黒くなった果実の様子を確認すると、堅果が虫にやられていたり、中がかびているなど、ほとんどが不健全なものであった。
 外果皮が一部黒くなった果実は、外果皮がつるっと剥がれず、堅果の表面の一部が汚れた状態のものとなる。
 外果皮を着けたまま落下した果実を持ち帰って放置した場合、外果皮はそのまま乾燥するだけて裂開せず、堅果に固着してしまう。
 外果皮を着けたまま落下した果実は、オニグルミの場合と同様に黒く腐敗・乾燥する。このため、堅果が汚れるのは避けられない。
(注:オニグルミでは室内に放置しておいても外果皮は黒く腐敗・乾燥する。)
 肝心な食べられる中味(子葉))であるが、外果皮が部分的に汚く固着して落下したものや、樹上で黒変したものはほとんどが傷んでいた。大きめの外果皮がまだ裂開していないものは、中味は健全であった。
 きれいに堅果が転がり落ちたものでは、半分以上が健全であった。
残念ながら観察対象とした樹は総じて出来が良くない印象で、栽培のために選抜されたものには遠く及ばないものと思われる。やはり、経済栽培のためには都合のよい素性のものを選抜し、しっかり管理しなければだめであることを実感する。
 
 
<参考1:オニグルミの場合> 
 
(オニグルミの概観) 
 
      オニグルミの葉    果実は房状に多数つく。    洗浄処理した堅果。
 
(オニグルミの落果後の様子) 
 
 オニグルミの果実の表面は毛が多い。  量的に潤沢であると、小動物も相手にしてくれない。  外果皮の中は、既に腐って真っ黒である。  食べる人はこれくらいの状態で拾っているのであろう。
 こうなると触りたくない。   足で踏んづけてみた。  堅果が顔を出している。  堅果が真っ黒である。
 
 
<参考2:あるおじさんの証言> 
 
(毎年クルミの樹を観察しているというお散歩大好きおじさんの証言)
− セイヨウグルミとした看板のあるクルミ樹の前にて −

 この樹の実の中には虫が入って傷んでいる場合が多い。
 オニグルミはリス(エゾリス)が運んでいるのを見るが、セイヨウグルミにしがみついている風景は見たことがない。
(感想:この話は非常に興味深いが、北海道生まれのエゾリスにとって外来のセイヨウグルミがごちそうとして認知できないとは考えにくい。樹下には二つに割れた殻が多数落ちているのを確認した。それとも、殻を割っているのはネズミなのか?)
 このセイヨウグルミがほどよく熟すと(注:多分、多くの果実の外果皮が裂開した頃)、いつもどこかのおばちゃんが長い棒を持参して来て、ほとんどのクルミをたたき落として持ち去ってしまう。
 
 オニグルミの果実がカシグルミの果実より汚くて、取り扱いがやっかいなものとのイメージになってしまったが、本当であるから仕方がない。しかし、オニグルミが実に美しく見える瞬間がある。これを紹介してオニグルミの名誉を回復したい。 
 
                   オニグルミの雌花 
 赤い柱頭が何とも美しく、またかわいい。対するカシグルミの雌花の柱頭は緑色で、全く目立たない。 
 
               比較用:カシグルミの雌花
 
オニグルミの雌花に較べると随分地味な淡黄色で、わずかに赤味がある。