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樹の散歩道
 
  バショウかバナナか
  同定の決め手はどこにあるのか?
    
            


 身近なところにバショウ(芭蕉)が育っていて、どこにでも見られる風景であり、気にもしていなかったが、これまた身近なところのオヤジ2人が相次いで、「バナナの花が咲いている!」と、やや興奮気味に語ってくれた。
 さて、これがバナナではないことをどのように説明すればいいのやら・・・
【2009.9】 


バショウのある風景  バショウの果実と雄花 
 突然に降って湧いたバナナ騒動である。バナナであるはずがないから、これは外来種のバショウであり、全国のあちこちに古くから植栽されているもので、特に珍しいものではないこと、バショウは松尾芭蕉の「芭蕉」であること、バナナは日本では温室の中でしか育たないことを説明した。
 しかし、ミニバナナのようなものが現に付いていて、あれは間違いなくバナナであるとさらに自信を深める硬骨オヤジ(恍惚ではない!)を前にして、バナナバショウのどこがどう違うのか植物学的に明快な説明する知識はないから、どうしても説得力に欠けることは否めない。子供だったらこの程度で直ぐに納得するのであろうが、思いがけない試練に直面した。
 その内の1人は、早くも食べることを思い描いていて、まだ採るには少々早いなあと言い出す始末である。

 仕方なく、少し調べてみることにした。お陰でいい勉強になった。

 まず、分類上は残念ながらバナナ、バショウのいずれもバショウ科バショウ属の大型多年草であった。葉柄は巻き重なって茎のように見える偽茎(ぎけい)となり、本当の茎は地下茎になる。
 花茎は偽茎に中心部を貫いて伸び、花が2列の段になってつく。基部は雌花群、先端部は雄花群で、各花段は苞(ほう)に包まれる。開花すると苞は直ぐに落ちる。(朝日百科 植物の世界等)
      バショウの雌花
 上方にはミニバナナ状態となった若い果実が見られる。この段階では、次々と段状に雌花を付けていく。
      バショウの雄花
 花茎はさらに伸び、やがて先端部には雄花を次々と段状に付ける。もちろん、他の株の雌花のためである。
区 分 バショウ(芭蕉) バナナ
(栽培バナナ、実芭蕉 ミバショウ)
分 類  バショウ科バショウ属の大型多年草  ショウ科バショウ属の大型多年草
和 名  バショウは漢名の「芭蕉」の音読み。
ただし、この「芭蕉」は、広くバナナ類つまり「甘蕉」の一名である。
 バナナ banana はもとはその果実の土語である。ミバショウ(実芭蕉)は食用果実を生ずるバショウの意味
漢 名  甘蕉、芭蕉  甘蕉、芭蕉
学 名  Musa basjoo  (多くの栽培品種)








原産地・特徴
 原産地は中国といわれるがはっきりしない。

 花序の基部4〜5節のみに雌花の房が付き、先端部は下垂して雄花の房がつき、どちらも多数の黄色い苞でおおわれる。雌花の開花時に違う株の雄花が咲いていないと不稔になる。(牧野は「まれに果実がなるが、種子は黒色。」としていて、村越は「花後生ずる果実は漿果で、成熟すれば黄緑色となり、黒色の種子を生じるが、熱帯地方でないと熟さない。」としている。)
 
バショウ属の中では最も北に分布し、日本の温暖地では庭園などに観賞用として広く植栽されている。

 葉の繊維を採って芭蕉布を織り、その他製紙の原料などに使われる。

 植物園でも露地植栽されているのをしばしば見かける。小石川植物園の正門付近のバショウは極太で、林立している。さらに、分類標本園にも植栽されている。
 種子なし栽培バナナのほとんどの品種は東南アジア原産の以下の2種に由来するとされる。

@ムサ・アクミナタ
Musa acuminata ssp.malaccensis 及びその他亜種
Aリュウキュウイトバショウ(ムサ・バルビシアナ)Musa balbisiana

 東南アジアで作られた種子なしバナナの栽培品種数は数百に及ぶとされるが、いずれももとをたどれば両種の雑種や倍数体であるという。

 葉質はバショウより非常に厚い。果中の種子は発育しない。苞は赤紫色を呈する。

 リュウキュウイトバショウは、南西諸島で栽培され、偽茎から採取された繊維で芭蕉布が織られた。

 現在、世界で最も広く栽培、利用されているのは、アクミナタ同質3倍体品種で、日本の果物屋で売られているバナナもほとんどがこれであるという。

 栽培バナナは大半が単為結果する。(受精なしで果実を付ける。)
 
 野性バナナの送粉者(花粉の運び屋)はグループによりコウモリ又は鳥が担っている。
 現在でも糸芭蕉イトバショウ)の葉鞘繊維を利用して、沖縄本島北部で芭蕉布が織られているという。上記でも芭蕉布に関する記述を転記しているが、イトバショウは別名リュウキュウバショウMusa liukiuensis (Matsumura) Makino)であるとの記述もあり、芭蕉布に係る栽培種の詳細の実態は理解しにくい。
引用資料: 朝日百科 植物の世界(朝日新聞社)
牧野新日本植物図鑑(北隆館)
原色植物大図鑑(村越三千男原著、誠文堂新光社)
 以上の限られた情報をどのように咀嚼するか。バナナの品種は多数あるようで、最大公約数的属性はよくわからないが、経験則も交えて大雑把に次のようにとりまとめてみた。
@  多分、本州では露地でバナナは育たない。バナナの安息の地は温室である。しかし、バショウはどこにでもある。
A  バショウの苞は黄(褐)色、バナナの苞は赤紫色。
B  バショウの果実の種子は黒色とされるが、熱帯で異なる株が存在する環境でないと結実を見るのは難しいようである。一方、栽培バナナは3倍体がほとんどで結実しない(種子はできない)が、野性のバナナでは黒い種子が見られるという。ということは、種子の有無は決め手とはなり難いということになる。
 @についてはほぼ確信しているから個人的には問題ないのであるが、相変わらず説明に当たっての決め手が得られない。仕方がないから、とりあえずはバショウについては果実が熟すの待ち、食べられる代物とは思えないが、念のために試食することにした。一方で、植物園のバナナを改めて見物して目を肥やすことにした。


     バショウの果実
 2列で段状に並んだバショウの果実。長さは6センチ程度の超ミニサイズである。
   バショウ果実の断面
 大きめの果実に限って、何と暗褐色の種子が確認できた。別株がないと種子はできないといわれるが、コウモリか鳥が別株の花粉を運んできたのか?
    バショウの種子
 種子はヤブミョウガのエンブリオテガを思い出させるような、表裏のある形態である。


 
 少しでも甘さを体験できないものかと、リンゴのエチレンパワーで追熟を試みたものの、パサパサに乾いてしまって、もくろみは失敗に終わった。やはり、追熟は技術を要するようである。
<参考>植物園の温室育ちのバナナたち
   センナリバナナ
 和名は多数の果実を付けることによる。
Musa chiliocarpa
(京都府立植物園温室)
  センナリバナナの果実
 果実は食用には適さず、主に観賞用として展示植栽されている。
 センナリバナナの雄花
 ジャワやマレー半島ではわずかながら家畜飼料用として栽培されているという。
 
  ムサ・アクミナタ
フィリピン、中国南部、インドネシア原産。
Musa acuminata
(京都府立植物園温室)
 ムサ・アクミナタの果実
 紹介した中では最もバナナっぽい。
 ムサ・アクミナタの雄花
     リョウリバナナ
 果実はデンプン質で、蒸したり焼いたり揚げるなど料理して食べる。
Musa ×paradisiaca
(東京都夢の島熱帯植物館)
    リョウリバナナの果実
 
熱帯地方では、イモ類と同様に重要な主食の一つになっている。
注:写真の説明文は、関係植物園の看板説明文に依る。
 こうして、バショウ以外のバショウ属のバナナの仲間たちを見ると、苞が赤紫色であることと、果実がバショウよりも大きいことくらいはわかる。図鑑では葉質の違いについても触れているが、触った感触では違いは感じ取れなかった。
 やはり、ここは専門家に登場願わないと、納得情報は得られない。そこで、静岡県の熱川バナナワニ園に救済を求めることとした。素人の照会に対して丁寧な回答をしていただき、スッキリした。要旨は次のとおりである。
 これにより、硬骨オヤジ対応をすることにした。
 バショウとバナナの相違点
区分 バショウ(芭蕉) バナナ
植物特性等  バショウもバナナの一種であるとも言え、果実はおいしく食べられる。(注:要追熟)
 バショウは温帯性で、九州以南の島々には存在しない模様。
 昔は一般的なデザートバナナに対して「ミバショウ(実芭蕉)」という和名を与えていた。
 普通のバナナは熱帯性
苞(ほう)  苞は黄色  苞は普通のバナナでは紫色
 葉の裏には白粉がない  普通のバナナには白粉がある
繁殖形態  親株からランナーを出して殖える。  普通のバナナではショウガやカンナのような殖え方をする。
生育地  日本で普通に育っているのはバショウ。普段目にするバナナらしい植物はすべてバショウと思ってよい。  普通のバナナは温室か無霜地帯でないと育たない。
熱川バナナワニ園 清水秀男氏の解説より
熱川バナナワニ園 静岡県賀茂郡東伊豆町奈良本1253−10