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樹の散歩道
 
 秘薬「カールコート」の秘密
             


 山野忠彦氏の名前を記憶する人は多いはずである。日本で初めて「樹医」を名乗り、全国各地の多くの枯死寸前の巨木、名木の命を救った実績を持つ。テレビにも登場し、チョビヒゲを蓄え、ベレー帽にネクタイ、ウェストポーチを付けたおしゃれな紳士は実に印象的であった。
 氏の活動の実績は数多くの表彰を受けていることでも知ることができる。朝日森林文化賞(昭和61年)、吉川英治文化賞(昭和63年)、環境庁地域環境保全功労者賞(平成3年)等々である。
 樹木の治療風景はテレビでも放映された。治療木の腐れ部分を掻き取った後に何やら秘密めいた「カールコート」という実に威厳に満ちたネーミングのとろりとした液体を取り出し、自信にあふれた表情で黙々と塗っていた姿が頭に焼き付いている。【2007.6】 
 

   
 
        氏の著作の裏表紙
書名:樹医の診療日記 木の声がきこえる
著者:山野忠彦 写真:根岸佐千子
株式会社 講談社(1989.6.15)
   
 
著作、講座記録等によれば、この「カールコート」に関して、次のような記述がある。

 四、五種類ぐらい入っています。内容は、まだ公表できませんが。腐った部分をきれいに取って、後は腐らないように、虫がつかないようにしてやりすれば、それでいいんです。・・・・この特殊な薬を塗っておいておいてやりますと。そこからは絶対に腐りませんし、虫も入りません。そのうちに皮がきれいに巻いて、手術は終わったということになるわけです。
 特許を取れって何度も勧められましたが、(大手の会社がすぐに真似をして)信用できないから申請しないんです。だから、内容を教えてほしいといわれても、何も言わないわけです。
 公表すると素人ばかりでなく、大手の製薬会社もきっとまねをする。まねをするのはいっこうにかまわないが、むやみやたらに施しても、よけい悪くするばかりだろう。
 まだまだ(公表には)年月がかかりそうだ。世の中、万事お金の時代に、私の樹木への愛情から生まれた薬剤を、金儲けに悪用されてはかなわないからだ。社会全体が、自然に対して無償の愛情を注ぐようにならなければ、発表してはならないと思っている。

といいながら、平成10年9月25日に永眠してしまった。カールコートの組成の公表をためらうこととなった背景として、かつて長い期間をかけて実験を重ねて調合した複数の薬剤について特許を取得したものの、すぐに製薬会社が少しだけ組成を変えただけでまねをされたことや、調合した薬剤の効用を確認したいとしてある大学教授に預けたところ、その教授が新薬として自分の名前で発表してしまったような出来事など、利益目的のえげつない行為に辟易していたようである。

 カールコートは山野氏の後継者となった山本光二氏(株式会社山満造園代表取締役、日本樹木保護協会副会長、樹医)が継承して現在でも使用している模様である。故人の遺志を尊重してか、組成は明らかにされていないし、量産、市販もされていない。

 なお、成分に言及した記述等には次のようなものが見られる。

田村酒造場HP】(山野氏の治療で世話になった経過あり) 
「山野樹医の施術の技法は、まず腐り欠けている部分を削り、殺虫剤と殺菌剤そして接着剤などを混合した「カールコート」塗料で傷面を保護します。やがて樹皮が表面を覆い、数年後には元どおりに治癒させます。」

山本光二氏著作等
「・・・(傷ついた)木質部を露出させずに外界と遮断しておけばまず大丈夫です。私たちは切除した切り口に、樹脂を主成分にした塗料「カールコート」を塗り、保護していきます。カールコートは決して薬ではありません。資材として木の傷口に効果があるので使っています。」

 個人的には植物系のタールが主成分かと想像している。決して魔法の薬品を調合したものではないようで、多くの試行錯誤、実証的な経験則で、具合のいい案配に行き着いたものなのであろう。この世界は何よりも経験と実績がものをいう。カールコートは引き続き謎の秘薬であり続けることが、かえって楽しい。
<参考>

樹医とか樹木医とか似たような名前があってややこしいが、おおよそ次のようなものである。

樹医:日本樹木協会が認定(1級、2級)
戦後日本で初めて樹医を名乗った故山野忠彦氏を中心に設立された日本樹木協会が樹医養成セミナーを開催している。

樹木医:財団法人日本緑化センターが資格審査して認定
こちらの歴史は新しく、平成3年から認定が行われてきた。平成16年度から新たに大学教育と連動した「樹木医補」の制度が付加されている。

樹医?樹木医師?:日本樹医会(本部 東京都目黒区八雲)
通信教育による「樹医(樹木医師)養成講座」(一年間)を実施している。詳細は不明。