<DIV ALIGN=CENTER><!--#geoguide--></DIV>


「ネタばれ」あり で読む
  ……左の「ネタばれ あり」のボタンをクリックし、
    背景色を黒くして、感想をお読みください。

「ネタばれ」なし で読む
  ……そのまま背景色を白いままにしてお読みください。
    間違って「ネタばれ あり」のボタンをクリックしてしまった
   場合、左の「ネタばれ なし」ボタンをクリックして下さい。

『皇帝のかぎ煙草入れ』 著者;ジョン・ディクスン・カー
投稿者;松木
■あらすじ■
 イヴ・ニールは夫ネッド・アトウッドと離婚後、真向かいの家に住むロウズ家と親睦を結び、長男トビイと婚約を交わすまでにいたった。
 ある夜、幸福に浸るイヴの目の前に、合鍵を用いてこの家の侵入に成功した先夫ネッドが現れた。ネッドは邪魔が入ることをおそれ、窓越しに向かいの家の様 子をうかがった。一方イヴは、ネッドの来訪を向かいの家の者に悟られはしないかと気が気でない。トビイの父―モーリス卿の様子をイヴが尋ねると、ネッドは 「彼は起きているが、かぎ煙草入れのような物を眺めており、こちらのことは気にも止めていない。おまけに誰かもう一人部屋にいるようだ。」と答えた。ネッ ドはその後、イヴを抱き寄せ執拗に復縁を迫るが、頑として彼女は受け入れない。さらに間が悪いことに、このとき、婚約者トビイから電話がかかってくる。彼 女の電話口のやりとりに、ネッドは怒りをたぎらせる。電話終了後もしばらく二人の間で話し合いが行われるが、進展はなかった。そこでネッドは業を煮やし、 ロウズ家に自分の来訪を知らせてやろうと再び窓に歩み寄った。このときどうしたことか、ネッドは向かいの家を凝視したまま固まってしまう。異常を察したイ ヴが恐る恐るモーリス卿の部屋を眺めると、なんと老人が頭をぶち割られて死亡しているではないか。二人はまた、モーリス卿の部屋から出て行く茶色の手袋を した人物の姿をとらえた。彼らはそのままモーリス卿の妻がこの部屋 を訪れ悲鳴をあげるまで、現場から目を離せないでいた。この悲鳴で我に返ったイヴは、警察が到着するまでにネッドを帰らせようと躍起になる。彼女は合鍵を 彼から回収すると、もたつくネッドを階段前で後押しした。その勢いが余ったのか、ネッドは突き落とされる形となって階段を転がり落ちた。彼はすぐに意識を 取り戻したが鼻から血が止まらないようで、イヴは慌ててこの手当てをした。彼女は彼に付き添って裏口まで出てきた。そうして庭先で彼を見送り、屋敷に戻ろ うとしたのだがなんとドアが閉じられている。彼女はネッドの合鍵を用いて表玄関から帰宅に成功。しかしこの姿は小間使いによって目撃されていたのであっ た。
 イヴの屋敷とロウズ家の鍵は共通であり、この鍵を ちゃらつかせて彼女が屋敷に帰ってきた、また部屋着から血をふき取ろうとしていた、顔や手についた血を浴室で洗い流していた…という小間使いの証言で警察 はイヴに嫌疑を抱く。イヴの部屋からは血に汚れた部屋着が発見される。そればかりか、この部屋着にはモーリス卿の部屋で砕け散った≪時計型≫かぎ煙草入れ の破片がまとわりついていたのであった。
 イヴは観念して切り札であるネッドとの密会を告白し た。しかしネッドは脳震盪を起こし、事件の日以来ホテルで寝込んでいるという。彼の口から彼女のアリバイの裏づけは得られない。
 ダーモット・キンロス博士はイヴの犯行に疑問を抱 き、彼女に何度も事件の晩の出来事を繰り返して語らせた。そして彼女の話の中に、犯人を指し示す大きな手がかりを見つける。彼は彼女に、堂々とその証言を 検事の前で行いなさいとアドヴァイスする。
 キンロス博士は推理の裏を取るために、ロンドンへ向 かう。その頃イヴは彼に言われた通り、検事の前で事件の晩の詳細を語ったのだが、皮肉にもその証言から彼女の犯行が間違いないと断定される。彼女は遂に逮 捕されてしまった。

■解 決■
 キンロス博士は、イヴやロウズ家の面々を一堂に会させ事件の再検 討を行った。
実はトビイにはプルーという元恋人がおり、彼女から自 分たちの中をイヴに話されたくなければ金をよこせとたびたび脅迫を受けていたことが判明していた。事件当夜、トビイはイヴとの電話を追えた後、いよいよイ ヴへの思いを募らせる。彼はプルーとの中を精算するべく、父親モーリス卿の部屋から高価な首飾りを盗み彼女に与えようと決意した。
 イヴとネッドが目撃した茶色の手袋をはめた人物―― これは首飾りを盗みに部屋に入ったトビイだったのである。
 疑いの眼差しがトビイに向けられるが、彼は犯行を否 認した。その頃にはモーリス卿はすでに冷たくなっていたというのが彼の主張であった。イヴにとって幸運なことに、この証言によって彼女の犯行が時間的に不 可能であったことがはっきりする。
 落ち着きを取り戻したイヴは、かぎ煙草入れに思い当 たる。モーリス卿が高値を出して購入したナポレオンのかぎ煙草入れ――彼女はそれを一度も目にしたことがなかった。このかぎ煙草入れは時計そっくりの形を している。夜半、窓越しに老人の手の中にある時計そっくりのそれを、どうして彼女がかぎ煙草入れと知ることができたか。この証言こそが彼女を犯人であると 確定させたのだが、そこには恐ろしい暗示の力が加わっていたのだとキンロス博士は断言する。
 この「かぎ煙草入れ」の証言に加え、彼女が手にして いたロウズ家とイヴの屋敷の鍵がまったく同じ物であること、さらに彼女の服のかぎ煙草入れの破片……彼女に不利な全ての証拠が指し示すのは、なんとネッ ド・アトウッドその人であった!!
 ネッドはモーリス卿に犯罪者としての過去を気付か れ、彼を殺す機会をうかがっていた。ネッドはイヴの屋敷の合鍵を使って、ロウズ家に侵入し、モーリス卿を殴り殺した。このときにかぎ煙草入れを破壊してし まい、その破片が彼の衣服にこびりついたのである。
彼はその足でイヴのもとを訪れる。イヴが窓際に近づか ないのをいいことに、彼はモーリス卿がまだ生きているかのような発言をし、彼女に暗示を与えていたのだ。またかぎ煙草入れの破片は、彼がイヴを抱き寄せた ときに彼女の部屋着に付着したのである。

■その後■
 イヴとの信頼関係を確立したキンロス博士は、彼女との恋愛を成就 させました。

■感 想■ 
 読んでいる最中も、読み終わった直後も、読了から時間が経過しても、この作品は素晴らしいできだなぁとつくづく思わされます。
 カーの作品については「ベストは○○!」となかなか言いがたいです。とりあえず心に残る作品ということで名前をあげるとすると、『三つの棺』『白い僧院 の秘密』『ユダの窓』『絞首台の謎』『貴婦人として死す』『皇帝のかぎ煙草入れ』です(2003年12月現在)。
 
 まず犯人について。捜査当初、キンロス博士は
「この殺人は、私の見たところでは間違いなく”愉快な ロウズ家”の一員の仕業だね」
と発言しています。ロウズ家の人間の中で際立った存在 を示す者はおらず、やや目立つトビイですら、犯人と指摘されたところで驚けるかどうかは微妙でした。ただ、アガサ・クリスティを驚嘆せしめ たトリック――これの衝撃でもって、それを補って余りあるのであろうか……そんなことを考えながら読んでいました。
 途中、もしこの状況下でネッドが犯人とされるようなことがあれ ば、これほど意外な結末はなかろうという考えが頭をかすめました。そのときは「そんなことをされたらカーに惚れてしまうなぁ」と心中苦笑しただけで済ませ ました。

「たしかにこの男は、自我偏執狂です。ここへ来るなと みんなで止めたのですが、ここに来て、自分自身のために証言をするといってきかなかったのです。さあ、はいりたまえ。どうぞ」
 
 こうしてキンロス博士により、ネッド・アトウッドが 犯人として招き入れられたとき、「きたきたきたきたーっ!?」と思わず姿勢を正しました。
 意外な犯人というのは、性格や動機の不在などといっ たことから意外性をまとわりつかせるのですが、『皇帝のかぎ煙草入れ』におけるネッドというのは、彼に犯行が絶対不可能であることから意外だったのです。 その彼が犯人であるというのですから、驚くよりも前に(やっぱりカーはすごいなぁ)と心から嬉しく思いました。

 そこまで認める作品なのに読書会に推さなかったのは、ひどく叩かれるのではないかと危ぶんだためです。
 私が想像した読書会を以下に書いてみますので、新会長様、どうぞお許しください。

A  :なんで二つの家の鍵が共通なんですか?その 設定がおかしいですよね。
    ありえないですよ。
松竹梅:現実的かどうかは置いといて(汗)
    合鍵をネッドが持っていたという情報は先に知らされている わけです。
    そしてイヴが回収した…ここで鍵を持つ彼女の 姿が小間使いには不審に見える。
    さらに彼女は血に汚れている。
    向かいの家での犯行に関係しているのではない かと勘ぐられてしまう。
    その同じ鍵をもって、実はネッドこそがそれを 用いて向かいの家に侵入したのだぞ!
    と、一つの証拠で見事別の犯人を指し示して見 せるという鮮やかさ。
X  :たしかにかぎ煙草入れの破片でも同様のことがされており素 晴らしかった。
松竹梅:それだけで終わらせても十分面白かったけど、
     さらにイヴを陥れ、ネッドの犯行を納得させるための、こ の鍵の存在。
     破片と伴って、見事に犯人像の逆転を演出し ています。
A  :でもイヴが向かいの家を覗いたら、そこで終わりですよ ねー。
B  :暗示に弱い女って済まされてもねぇ。
C  :彼女はいつもカーテンを締めているとか、設 定が作為的過ぎますよ。
松竹梅:イヴが、ネッドの発言だけで卿の生きている様子を思い込ま されてしまったのは
     女というものが元来暗示に弱いからです、も しくはネッドが巧みだったからです…
     そんな解決で終わられたら、読者は怒らなけ ればなりません。
     しかしイヴが暗示に弱いという話は、彼女の 特徴として先に述べられています。
     解決の際にご都合主義としていきなり持ち出された話とそこを読むより、
         むしろこんなところに伏線があったのかと解決を読んで驚いたけど…。
    さらにイヴが暗示に弱いということについては、読者も笑っ ていられない。
    だって読者ですら、このネッドの発言でそう思 い込まされたのだから。
A  :でもこんな情報の与え方をされたら、読者も卿がいつ死んだ のか分からないし…。
B  :これって一発勝負のトリック過ぎますよ。
C  :ただの心理的トリックでしょう。
松竹梅:彼女に用いられたトリックが、そのまま読者にも効力を持 つ。
    ただの心理的な誘導をしただけだという一発ト リックととるのは淋しすぎる。
    イヴがこんな暗示にかかるのはおかしいという 反論を、読者もすることが難しくなるし、
    おもしろいトリックだと思うけど。
C  :それはそうと、意外な犯人を持ってくるならこいつだよ なぁって犯人が分かりました。
松竹梅:別にそれは全然すごいことじゃない。
    意外と言うよりも、犯行が不可能とされた彼を犯人として 持ってきた作者の手腕。
    単発なトリックとして終わらせない、巧妙に張り巡らされた伏線。
    イヴを陥れる証拠の数々が、見方を変えると一斉にネッドを ――
      ―― 一番犯人ではありえないとされた彼 を指すという堂々とした筋書!!
B  :まあ、確かに時計型のかぎ煙草入れの使い方もすごかったで すしね。    
松竹梅:時計にしか見えないものを、かぎ煙草だったと証言してしま う。
    ここもイヴが犯人とされる証拠の一つとなって います。
    でもイヴがなぜこれを知りえたかというと…… 浮かぶのはネッドの姿!!
    全部のエピソードがトリックと意外な犯人を最大限に生かしきる、まさに傑作。
ABC:そうですかねぇ…。

……こんな読書会、しんどいんじゃないかなーと思って…


← 過去ログ 海外作品    掲示板トップへもどる →
帽子蒐集狂事件  曲った蝶番  連続殺人事件  夜歩く  絞首台の謎