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沖縄の自転車競技場

 この一年、日本競輪界による、米国施政下・琉球諸島への競輪「輸出計画」について、調査している。その過程で興味深い事例につきあたった。1950年代に問題となった那覇市での競輪実施計画は、奥武山運動公園に競輪場を建設予定だったことや、その建設費用を競輪の売り上げによって捻出する計画であった。そのため、沖縄県立奥武山公園について調査する必要が出て来た。

そこで2003年10月に、奥武山公園を担当している沖縄県教育庁保健体育課を訪れた。ここで大変興味深い話を聞いた。それは昨今、沖縄県への競輪進出が昨今、水面下で本格化しつつあることだ。奥武山に自転車競技場が建設されなかったため、昭和六十二年開催の「海邦国体」開催時に会場となった「県総合運動公園」(沖縄市比屋根)に「仮設自転車競技場」が建設され、こんにちでも沖縄県唯一の自転車競技場として使用されている。なぜ「仮設」なのかといえば、本来、自転車競技場を建設する予定はなく、国体開催時に一時的に作られた物であり、のちに撤去するつもりでつくられたのである。しかし国体実施に伴う選手強化策で周辺の高校などに自転車部が出来たため、その練習用に暫定的に使用が許可されることになっている。この競技場は「仮設」という名称のため、木造や組み立て式バンクを想像させるが、アスファルトで作られた本格的な施設だという。沖縄県・公園課などからは、保健体育課に利用者との交渉をすすめ、「仮設自転車競技場」の早期撤去するように要請されているが、年々利用者が増加しているため、撤去が難しくなっているという。

その増加している利用者とは、数年前から選手登録地を「沖縄県」に移している競輪選手の存在である。数年前、九州地区の競輪場で、「沖縄県」と名乗っているA級競輪選手を見かけて、驚いたことがある。今日では[2003年10月]、S1一名、S2一名、A1八名、A2八名、A3五名、合計24名の「沖縄県」選手がいる。しかしそれらの選手の経歴や氏名から、「ウチナンチュー選手」はほとんどいないようだ。沖縄県には競輪場が過去にも現在にも存在していない。しかも公営競技はなにもなく、スポーツ新聞を買っても「レース欄」は存在していない。それゆえ、沖縄県では沖縄県に競輪選手が住んでいることすらほとんど知られていない。

沖縄県内にバンクはひとつしかないため、高校の自転車部と競輪選手が同じ時間に練習することも多いらしい。担当者は「沖縄は自転車選手にとって練習環境がいいからではないか」と語るが、多少でも自転車の心得があるものからすれば、マウンテンバイクでもない限り、これだけ道路が混雑し、日差しが強く雨が多い沖縄は長期間の練習地としてはむしろ不適と考えるのが普通だろう。しかもバンクが県内にたった一つでは。

奥武山公園で開かれた「沖縄の産業祭」会場で、ポスターに「競輪マーク」(競輪補助金)を見かけたこともあり、自転車競技場利用者増加の既成事実づくりや、高校生を競輪選手としてリクルートし、沖縄県出身選手を増やすためではないかと勘ぐってしまう。おそらくポスターの片隅に記されたマークの意味は、ナイチャーにしか解らないのではないか。さらに、開発投資の増加が著しい、北部の名護あたりで地域振興の一環として、現在の総合運動公園バンクを撤去後、あらたな自転車競技場を建設する計画がでているという。担当者は資金のかなりの部分が、競輪関係団体から補助されるという。おそらくこの競技場は競輪場として利用できる規格で建設されるように思える。

そこで、この沖縄市・総合運動公園のバンクへ向かった。

 なお、沖縄市では競輪をめぐって、以下のような問題があることも載せておこう。

<2002年9月29日> 朝刊 1版 社会25面(日曜日) 

[ニュース近景遠景]/場外車券場・上告棄却/低迷する公営競輪、消極的な久留米市/「断念へ」「賠償を」地元は泥沼化

 【沖縄】サテライト沖縄社(太田範雄代表)が沖縄市比屋根に予定している久留米競輪の場外車券売り場建設で、地元住民らが建設の差し止めを求めた訴訟で、最高裁第一小法廷は住民側の上告を棄却した。教育、生活環境の悪化を懸念する住民側の訴えは認められず、提訴から七年におよぶ裁判闘争は終結。これを受け、サ社は、関係機関と協議して対応を決める方針だが、住民側は建設断念まで運動を続ける構え。一方、自治体運営の競輪事業はここ数年、長引く景気低迷で収益が悪化しており、新たな施設建設は事実上、困難とみられている。(中部支社・稲嶺幸弘、社会部・磯野直) 「地域の現況も年々変わり、(最高裁に)少しは期待もあったが。残念でならない」。二十六日、原告団の島袋幸吉団長は最高裁決定に言葉少なだった。同場外車券売り場計画をめぐって、地元住民らは、一九九五年五月、県内裁判史上最大の原告団(当時)を結成して提訴。一審、二審とも「住民らに生じる被害は受忍限度内」として敗訴したため、今年三月に上告していた。

 今回の最高裁決定で、建設差し止めを求める法廷闘争は幕を閉じる。ただ、住民側代理人の池宮城紀夫弁護士は「地元自治会の同意が得られない限り久留米市は営業できない」と指摘。原告団を支援してきた「競輪場の場外車券売り場に反対する市民の会」の荷川取順市会長も「地元住民と力を合わせ、計画断念まで闘っていきたい」と語る。

 一方、サ社の太田代表は、「最高裁の決定は当然」との受け止め方で「今後の対応は、施設の設置を許可した通産省(当時)や自転車振興協議会などと話し合って決めたい」という。サ社が比屋根の予定地に計画しているのは、福岡県久留米市が実施する競輪競技の実況を中継し、車券販売と払い戻し業務を行う施設。同社は、同施設を久留米市に提供する運営会社として九〇年九月にスタート。同年十一月に通産大臣に設置許可申請を行い、同月中に許可を受けた。太田代表は「(裁判によって)九六年から工事が中断させられたため、大きな損失を被った」と述べ、(反対した)住民に対する損害賠償を検討していることを明らかにし、住民側との対立は泥沼化のけはいも漂う。

 サ社と住民側の対立をよそに、公営競輪をめぐる環境は計画当初の十数年前とは一変した。 

 久留米市が営業する「久留米競輪」は今年で開設五十三年。市内の競輪場以外で車券を販売・払い戻しする施設は、市内と北九州市の計二カ所だけ。競輪人気の低迷で、ここ数年、車券の売り上げ、払い戻しなどを差し引いた収益金も右肩下がりが続く。

 久留米市によると、市の事業収入となる一般会計への繰入金も激減。九六年度に九億五千万円だったのが、二〇〇〇年度には、わずか一千万円に落ち込んだ。こうした状況に、魅力ある財源として、数年前までは関心を示していた九州の複数の自治体の動きもいつの間にか止まった、という。同市の担当部局は「収益を上げるのに四苦八苦している状態。状況が好転する見通しは立たない」と現状を説明。その上で「こうした状況下で、新たな投資を伴う新施設の展開は厳しい」との見方を示している。

 10月24日、バスターミナルから西海岸沿いを経由するバスで、金武海兵隊基地や普天間を通りながら沖縄市中心部(旧コザ)へ向かった。この街に来ると、那覇以上に地方経済の深刻的な不況を実感する。かつてのメインストリートはまさしくシャッター通り、目に付くのはサラ金の看板ばかりだ。このような環境の中、先述の通り競輪の場外発売場に命運をかける心情も理解できないではない。きれい事では済まない状況が想像できる。
沖縄市中心部からテキスト ボックス: 「公園案内図」ここには自転車競技場が描かれていた総合運動公園へタクシーで向かった。公園事務所には公園の設計模型があったが、その中には競輪場は無かった。公園はかなり大きいため、随分迷い、埋め立て問題が立ち上がっている「泡瀬干潟」を通って競技場に着いた。建設から十五年以上経っているため、走路の痛みは予想以上で、すでにアスファルトにはひびも入っている。走路は一周333メートルと思われ、およそプロの練習環境に適当でないように思える。地元の人に聞いた「ここで練習して強くなれるのか」という疑問もわかる。残念ながら選手達の練習はおこなわれていなかった。また、競輪場外発売場の建設予定現場はここからほど近いことが分かる。公園関係者によると「仮設」であるがゆえ、補修はほとんどおこなわないとの説明だった。おそらく、なんらかの事情で、ここで練習することになった選手達、この練習環境を見るとその本音が気になる
テキスト ボックス: 総合公園内の「仮設自転車競技場」

上記のような競技場をめぐる問題や、不況によって中断している競輪の沖縄進出が今後、どのようになるか、興味深い。しかし約五十年前にあった競輪輸出計画とダブるのは「水面下」で話が進み、いつの間にか既成事実が積み上げられる問答無用方式である。私は競輪が沖縄県でおこなわれること自体は否定しない。それはいち競輪ファンからすれば当然の感情である。つきあい方次第では、競輪は生涯の友に成り得るからだ。しかし、現在公営競技[競輪、競馬、競艇、オートレース]がひとつもない沖縄県に[もちろん賭博がまったくないということではない]、合法的であればどのような進出方法でもよいというのでは、かえって反発を増すだけだ。実際、沖縄市の場外発売場問題で、競輪に対する反発がうまれたのは間違いない。たとえ最高裁で勝訴しても、それでよいということではない。すでに「競輪=社会悪」という地点から、はじめなくてはならない。オリンピックで誰がメダルをとったなどと言う問題ではなく、せっかく沖縄に住む選手達がいるのだから、選手と住民の交流といったあたりから始め、まずは沖縄県の競輪理解者を増やすべきではないだろうか。

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