2012年 4月20日 「バイオリニストのホタル君」 イタリア メストレ
    先日、路上で出会ったウクライナ人の話の続き。

彼の名前を尋ねると「ホタル」という返事が返ってきた。「ホタル?」声優を目指す彼のことだから、何かのアニメのキャラクターなのだろうかと考えてみたが、頭に浮かんだのは「ホタルの墓」という悲しいアニメと「北の国から」というテレビドラマの中に出てくる主人公の妹のホタルちゃんだった。我ながら発想が貧弱でしかもどちらも古い。

「ホタル」と言う名前がピンと来なかったので、「本名は?」と尋ねると「スラブ○×・・」と言い全く聞き取れない「えっ?」と聞き返したが、発音をすると舌をかみそうな名前だったので「ホタル君でいいね」と私。「ホタル」という名前は以前読んだ日本語の小説からとったそうだ。

私達は営業時間を終えた銀行の前の小さな階段に腰掛けて話を続けた。

ホタル君は日本語を話すが、それは独学で学習しているとの話。水の都ベネチアには大学があり日本語学科があるので日本語を話す若者には時々遭遇するが、大抵は日本語学科の学生だった。学科は違えどホタル君も学生だというので、「何を勉強しているのか?」と聞いてみる。

「バイオリン」返ってきた答えはまたも予想していないものだった。名前に続いてまたも聞き返してしまった。

「バイオリン?」

「そうです、バイオリンです」

なんと大学でバイオリン、つまり音大でバイオリンを専攻しているという。しかし普通の専攻と違って、楽器系は小さい頃からの訓練が必要ではないのだろうか。「小さい頃からバイオリンを弾いているの?」と聞くと、その通りで小学生に上がる前から既にバイオリンを習い始めていたという。音楽家の人生を聞くと幼少の頃に楽器を始めるという話は聴くが、実際に身の回りにはいない、これは噂で耳にする英才教育というやつではないか。

  小さい頃からバイオリンを弾いているのならば、その道に進むのじゃないかとも思うのだが、彼は「飽きたのです」と言う。今まで10数年、幼少の頃より続けた楽器をやめるというのだ、かなりの決断じゃないのか? それは人生を根底から変えてしまう決断じゃないのか?日本語への情熱といい、バイオリンをやめる決断といい「一体日本のアニメにのめりこむ理由は?」と不思議に思って聞く。

「ワンピースです」

「わわわ、ワンピースってマンガの、あの海賊で手がゴムみたいに伸びるやつの?」

「そうです」とホタル君。「おっ、知っているのですね」という思いを込めてかニコヤカに言う。ウクライナでワンピースのアニメを見て、それで衝撃を受けて、「自分もこれにたずさわりたい!」と思い「声優になろう」と思ったらしいのだ。うーん、感心するぐらいまっすぐな思考回路だ、素直で素晴らしい。「しかし両親が賛成しないのでは?」と随分と現実的な質問をする私。「そうなんです、母親は大反対ですが、僕が押し切りました」「もう僕には声優しかないんです!」と熱っぽく語るホタル君。

 バイオリストの卵の人生を日本のマンガが変えてしまうとは。確かにヨーロッパ各地でアニメに関連するグッズを見かけることがあったり、熱心にコスプレをする人を見かけた、マンガの影響ははかり知れないと感心する。このホタル君の様にマンガやアニメに寄って人生が変ってしまった人も少なくないのかもしれない。


アニメの勢いでコスプレも人気。