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フランス語版「武装錬金」1〜3巻
翻訳紹介(前編)


1巻の表紙。クリックで大きい画像が表示されます。表紙の真ん中にある黄色いの(PAR L'AUTEUR DE Kenshin)はシール。


フランス語版タイトル: Busô Renkin arme alchimique
作: NOBUHIRO WATSUKI avec l'aide Kaoru Kurosaki au scénario
(和月伸宏 ストーリー協力/黒崎薫)
フランス語版出版: Glénat
翻訳: Sébastien Gesell



2006年3月より隔月で発売されているフランス語版「武装錬金」の単行本を、このたび3巻までゲットしました。英語版(2006年9月に第1巻発売)に先んじての翻訳出版でした。ヨーロッパでは、日本で人気のあるマンガをアメリカよりも迷いなく翻訳出版に踏み切る傾向にある気がします。ジョジョだってフランスとイタリアではちゃんと第1部から出てますしね。もちろんそれは多かれ少なかれリスキーなことではありますけれども。

ともかく、今回はフランス語版「武装錬金」の翻訳をご紹介します。かなりの分量になってしまいましたので、前後編に分けることにしました。前編はセリフの紹介がメインとなっています。



1.外観


他のフランス語版マンガと同様に表紙カバーつき。カバーを取ると、カバーと同じ絵柄の表紙が現れますが、こちらは黄緑色の単色印刷。

表紙折り込み部分(いわゆる「表2」)も、作者名と文章がフランス語になっている点以外は全く同じ。


2.印刷


特に問題点は見当たりません。細かいトーンの部分でちょっとモアレってるかな?という気がしないでもないですが、注視しなければ気にならない程度。


3.翻訳



英語版(画像右)との比較。実際には英語版の方が本のサイズは若干大きい。絵文字の処理に違いがみられる。ただフランス語版でも、簡単な修正ですむ場合に限っては絵文字のアルファベット化を行なっている。


a.本編中のセリフ

本編中のフランス語表記はほぼ全て大文字で書かれていますが、ここでは基本的に大文字+小文字の形に直してご紹介しています(ウェブ上で大文字表記ばかりにするととてもくどい見栄えになってしまうのです。ドイツ語版ヘルシングの少佐演説紹介のときに実感しました)。

基本的に原語に忠実な翻訳がなされていますが、標準語と比べてエキセントリックな表現(例:「ブラボーな」「イチャイチャストロベリって」など)は、普通の表現になおしたりスルーしたり(笑)しているようです。

以下、複数のふきだしにまたがるセリフについては、基本的には読みやすくするためひとつにまとめて表記してあります。ご了承ください。


1巻P51

Une lance Busô Renkin...
(槍の武装錬金か…)

...une arme à ton image, qui jaillit sans réfléchir.
(考えなしに出てくるキミの性格そのままの武器だな)

"jaillir"は「(水などが)湧き出る」「(突然)姿を現す」という意味。
"réfléchir"は「よく考える」。


1巻P72

Je vais vous faire exploser les intestins !!
(腸をブチ撒けろ!!)

逐語訳すると「キサマらの腸を破裂させてやる!!」という感じ。
"je vais+(目的語+)動詞の原形"は英語の"I'm going to+不定詞"に相当する表現である場合が多いです。
"faire+目的語+動詞の原形"あるいは"目的語+faire+動詞の原形"で「〜を〜させる」となります。

1巻P181

Je vais éparpiller ta cervelle !!
(脳味噌をブチ撒けろ!!)

2巻P95

Éclate-lui le bide !!
(ヤツの腹をブチ破れ!!)

3巻P119

Je vais leur vider les entrailles !!
(臓物をブチ撒けろ!!)

同じような表現ですが、それぞれ語句が変わっています。
"éparpiller"は「撒き散らす」、"éclater"は「破裂する」、"vider"は「空っぽにする」という意味。


1巻P157

Tu devrais te calmer sur ce style.
(そのシュミはほどほどにしときなさい)

「臓物を〜」に次ぐ斗貴子さんの名台詞「エロスはほどほどにしときなさい」をフランス語にしたもの。3巻P132でも同じセリフが出てきますが、ここではスペースの都合上からか"Il est irrécupérable.(処置なしだな)"というセリフに変わっていました。 英語版1巻では"You need to control your passions.(パッションを抑えなさい)"となっていました。

ちなみに「エロい人」という意味のときは…

3巻P104

De toutes façons, je suis un érotomane !
(どーせ俺はエロスだから!)

3巻P147

La ferme, gros pervers !
(黙れエロス!)

…となっていました。"érotomane"と"gros pervers"がそれぞれ「エロス」に相当する言葉ですね。
"de toutes façons"は「とにかく、どのみち」という意味。
"La ferme ! "(または"Ferme-la !")は「黙れ!」という強い表現。


2巻P21

Mon chef-d'œuvre !
(オレの傑作!)

Euh... C'est incroyable !!
(うっ… すごい!!)

Ça ne te dit rien ? Il a l'air assez vicieux...
(イヤですよねこんな人 すごく変態さんってかんじだし…)

Tu trouves ? Je trouve que le masque est joli.
(そうか? マスクはオシャレだと思うけど)

TU N'A PAS TRÈS BON GOÛT !!
(お兄ちゃんセンス悪いよ!!)

SI, IL A RAISON !!
(いや 正しい!!)

HEIN ?!
(えーっ!?)

"avoir raison"は、「〜(の言うこと)は正しい・もっともだ」という頻出表現。


2巻P30


「? る す う  ど さ、」

なるほど、そうきたか。
5音節分の文にするのかと思いきや"Alors ?"1語という手できました。

"alors"は「その時に」とか「それで」といった意味の言葉で、ここでは「それで(どうするんだ)?」という意味合いと考えられます。発音ですが、最後の"s"は発音しません(フランス語の単語の多くは、最後の文字を基本的に発音しません)。

余談ですが、"Et alors ?"にすると「だから何?」「どうでもいい」という表現になってしまうので注意しましょう。


2巻P166

Une dernière touche et c'est fini.
(最後にこれで完成)

Coucou ! Papillon !!
(はい! パピヨン!!)

日本語版だと「パピ! ヨン!」という、見栄えとあわせてインパクト大なセリフだったのですが、外国語ではなかなかこういう手法をとりづらいようです。いや、むしろ日本のサブカルチャーにおける文法の自由度が高すぎるのかもしれません。

"coucou"は相手の注意を引くための呼びかけの言葉であるようです。


もうひとつ「パピヨン」に関するネタを。

3巻P126

PAPI... ...LLON.
(パピ…ヨン)

Pa...♥ ...pillon.♥ Avec tout plain d'amour.
(パ♥ ピヨン♥ 愛をたっぷりこめて)

"papillon"を音節で区切る場合、"pa-pillon"という区切り方をするみたいです。この場合の"-ill-(イユ)"は半母音と呼ばれるもので、独立した音節としてはカウントに入らないということなのでしょう。


2巻P167

Aïe, ça pique.
(ん〜 ちくりと痛いね)

Mais ce n'est pas désagréable.
(でもちょっとカイカン)

aïeは「痛っ」という叫び声。
désagréableは「不快な」という意味ですが、"ce n'est pas désagréable"で「けっこういい感じ」という表現になります。


3巻P23


「蝶、サイコー!」

これは詳しく解説する必要があるでしょう。

まず、"fly"という単語はフランス語には存在しません。英語の"fly"を代わりに使ったものと思われます。元の文はおそらく"Ça fait fort(すばらしい)!!"で間違いないでしょう。

"fait(フェ)"を"fly(フライ)"に置き換えるのは発音的には少々ムリがありますが、それでも、パピヨンの「美しく『飛翔する』蝶」に対する強い思い入れを翻訳者がきちんと考慮してくれていることが理解できます。いい翻訳と言っていいのではないでしょうか。いや、ほんとよくがんばった。


それだけに、

「蝶・気になるね」
「蝶度良い」
(ともに3巻P163)

などが普通の翻訳になってしまっていたのが残念。


3巻P32

Tu veux bien m'injurier ?
(ののしって下さい!)

Espèce de gros porc !!
(このブタ野郎!!)

"Espèce de 〜 !"で「この〜(この〜野郎)!」という、主に非難や罵倒の気持ちを込めた呼びかけになります。パピヨンの「謝るなよ 偽善者」の部分でも"Ne t'excuse pas... espèce d'hypocrite."という風に使われています。


3巻P34

Au lieu de dire des bêtises, dites-nous votre véritable nom !
(バカなこと言ってないで本名教えてください!)

Bravo ! Tu as posé la bonne question.
(ブラボー!いい質問をしてくれた)

Mais mon nom doit rester secret !
(しかし名前は秘密だ!)

Ça fait plus classe ainsi !!
(その方がカッコイイからな!!)


3巻P90

S'entraîner à quoi ?
(何の訓練だ?)

Je ne peux pas encore en parler.
(それはまだ言えない)

Le secret, c'est top la classe !
(秘密こそが最もカッコイイ!)

"classe(la classe)"は、主にくだけた会話の中で「かっこいい」という意味の言葉として使われるようです。英語の"cool"もよく見かけます。

"〜, c'est 〜."は、強調の意味合いを幾分含む表現として非常によく使われています。ブルボン王朝で最も栄華を極めたルイ14世の名言「朕は国家なり」もこの表現を使った言葉です。


3巻161P


「合言葉。」(クリックで全体の画像が別ウインドウで表示されます)

最後のコマを翻訳すると、
「“背中は人生の証” 最後の強調ポイント。男は背中に人生を背負う。キミも、いちばん美しくみえるポーズをとって自分をアピールしよう!!」という感じです。

"L.E.X."については後編で解説します。



では、今回はここまでに。
後編では武装錬金用語や訳注などについて取り上げていきます。



―つづく―


(2006年10月13日アップロード)



フランス語版「武装錬金」(1〜3巻) 翻訳紹介 後編へ(予定)


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