「日本が滞納する理由」、『軍縮問題資料』2004年12月号
 
 先月号の本欄で、日本が国連分担金の「滞納の常習犯」であると書いたところ、本当なのかというご意見をいくつかいただきました。そこでこの問題を少し詳しく観察します。
 国連事務局は加盟国の分担金拠出状況について ST/ADM/SER.B/...の文書番号の下で報告書を毎月作っており、これをまとめると各国が何月に分担金を完済したのかが分かります。これをもとに、過去一五年間に日本が国連分担金を完済した時期を表にまとめました。平均をとると七月になりますが、四、五月と八、九月のどちらかに払うことが多いと言えます。
 先月号で触れたように、国連の会計年度は一月から一二月で、分担金は請求が来てから三〇日以内に払うことになっています。慢性的な赤字にあえぐ国連は新年度が始まるとすぐに請求を行うので、各国は一月中に支払うことになります。四、五月であれ、八、九月であれ、期日を守っていないわけです。これについて、日本は会計年度が四月から三月と国連と異なる上に予算の成立が遅れることがあるためなどとと説明されることがありますが、政府の公式説明はそれとは異なります。
 九一年一一月一九日、秋葉忠利議員(社会党)が「日本が支払いをおくらせているのではないか」、つまり意図的な遅延ではないのかと国会で質しました。これに対して丹波実外務省国連局長は以下のように答弁しました。
 「先生の御指摘、ごもっともな点でございますけれども、一つ、この支払いの時期なんでございますけれども、円ドルレートの換算率を見ながら、日本が支払うときに最も多いドルになるような時期を見定めるということで、その支払いの時期がいろいろ年によってずれている。したがって、遅いときには国連からもっと早くしてくれないかということが言われることは御承知のとおりで」、「為替レートの変動によりまして若干様子を見ているという点があることは事実でございます。」
 政府は秋葉氏の質問を「ごもっとも」とし、国連から早期支払い要請があることも「御承知のとおり」と認めています。しかし税金を例にとると、支払い時期の納税者の都合による一方的な延期は認められず、滞納とみなされ日割りで延滞税がつきます。納税者が利益を得るために利子の変動を見ながら支払いを遅らせるなど、論外です。
 国会答弁においては、客観的な事実関係について嘘をつくことはできません。特に官僚が答弁する場合は。ただし、そのような事実が導かれた理由については必ずしも正直に述べるとは限りません。本音を表明することに不都合がある場合には、その時点で最も説得力があると思われる説明を行うことになります。例えば、日米関係を優先してイラク爆撃を支持しているとしても、公式の理由としては国際貢献や大量破壊兵器を示し、それが通らなくなると石油の確保や北朝鮮情勢などまでも掲げてこれを正当化するように。この答弁でも、会計年度の違いや予算成立の遅れを理由に挙げてもよかったはずです。しかしそう言わなかったことは、そのような説明では八、九月に支払っていることの説明にはならないと政府が考えたことを物語ります。
 これに対し秋葉氏は、「日本は分担金を滞納している、しかしながら、外務大臣が来る前日になってようやっと分担金を払ったんだというようなことが信じられております」と問います。
 国連総会は九月に開催され、冒頭に各国元首や外相が一般討論と呼ばれる包括的な演説を行います。〇四年には小泉首相がこの演説を行いましたが、秋葉氏が質問した九一年には中山外相が行っていました。その演説日は九月二五日で、この年の分担金完済日はその前日の二四日でした。日本は分担金を意図的に滞納しているが、外相が演説する時に未納では様にならないので、前日に払ったと国連では言われている、秋葉氏はこう質したわけです。
 丹波氏はこれを「たまたま」とし、「大臣が行かれるからということでは直接的な関係として私たちは考えておらない」と応じました。しかし、支払い遅延が意図的であることを認めた上で、日本の金銭的な損得という利己的なことをその理由としてしまったのですから、説得力はありませんでした。
 翌九二年から九七年までは完済時期が早まります。理由ははっきりしませんが、先の答弁の無理や、これが社会党や新党さきがけが参加する連立内閣とほぼ時期が重なっていることも影響したのかもしれません。しかし九八年の完済は九月になり、〇三年には翌〇四年三月に完済する事態に至ります。
 九八年は、米英がイラクを爆撃し、安保理理事国だった日本が、安保理で唯一明快にこれを支持を表明しました。また〇三年も米英がイラクを爆撃をし、日本が改めて常任理事国への願望を表明しました。そしてともに日本政治において国連批判が高まりました。この遅延は偶然でしょうか。
 米国では自国が意図的に遅延していることはよく知られています。しかし日本人は自らの遅延を認識せずに、金を払っているから常任にしろと叫んでいるのです。米国のネオコンよりもたちが悪いと言わざるを得ません。
 
 
国連分担金の完済月
年度   完済月
1988    4月
1989    9月
1990    8月
1991    9月
1992    6月
1993    4月
1994    7月
1995    5月
1996    5月
1997    4月
1998    9月
1999    9月
2000    9月
2001    9月
2002    5月
2003 2004年3月
 
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