
謎のメッセージ
"Quid dormitis? Surgite et orate, ne intretis in tentationem."
当サイトをご覧の方なら、このアルファベットの羅列に見覚えがあるのでは? 『下巻』のエンドロール後に表示される「謎のメッセージ」だ。何やら得体の知れない単語が並んでいるが、ギリシア語? ラテン語? 何語にしろ、このいかにも怪しげな一文、ゲームクリア後、一応メモってはみたものの、プレイ当時はネット環境など、もちろん普及しておらず、意味を調べたくても調べようがない。それで結局、「謎のメッセージ」のまま、私の中で10年以上も放置されていた。
しかし時は移ろい、ウェブの網目が世界中を覆い尽くす時代がやって来た。私は某検索エンジンに、この一文を入力してみた。結果、手もなく『新約聖書』の「ルカの福音書」第22章46節のパッセージだということが判明した。以下、その日本語訳。
「なぜ、眠っているのか。起きて、誘惑に陥らないように祈っていなさい」
──新改訳聖書刊行会訳『新約聖書』(日本聖書刊行会、1988年)いわゆる「最後の晩餐」の後、オリーブ山での祈りを済ませたイエス・キリストが、とうとうローマの兵士たちに捕縛されてしまう直前、弟子たちに向けて語った言葉だ。そして、その翌日、イエスが2人の罪人とともに、ゴルゴタの丘で磔刑に処されたのは周知の通り。
こうして10年越しの疑問は氷解したのだが、ここに、また1つ新たな疑問が生まれる。一体、なぜ本作の脚本家(?)は、この一節を「PDS」の最後を飾るメッセージとして引用したのだろうか? そもそも、「PDS」とキリスト教に一体、どんな繋がりがあるというのか? 確かに『ナイトメア』以降の作品には、教会や十字架など、キリスト教的なイコンが散見されるが……。
以下、私なりに解釈を下してみる。文中の「眠り」とは無意識を、「目覚め(起きる)」とは意識を、それぞれシンボライズしている。そして「誘惑」とは、無意識からの誘惑を指している。思えば白鳥静香、影藤智奈子、真行寺彩……みな無意識の誘惑の虜囚だった。つまり、これはサイコアナリストである降矢木の使命、「迷える子羊を無意識の闇から意識の光に連れ戻す」という、ゲームのテーマを象徴する一節なのではないだろうか?