Review

Memories Memories

『メモリーズ』はシリーズ中でも、AVGとして最もバランスの取れた作品だろう。ファンの間での支持率も高い。かつてFM-TOWNSで「PDS」(オリジナル版)が、そろそろ全作出揃うという時期、某PC情報誌が作品別の人気投票を行ったところ、『メモリーズ』は見事、第1位に選ばれる、ということがあった(はず)。Web上においても、ファン諸氏の本作に対する評価は、おおむね高く、この結果を裏付けていると言える。しかし本作は、なぜか私には、それほど強烈な印象を残さなかった。

たしかに心象世界の描写は秀抜だし、和音階のメロディーが美しい「JAPANESQUE #1」は屈指の名曲だ。シナリオの展開も実に巧み。彰太郎と香織の甘美な思い出、降矢木と梨絵香の悲愴な思い出。この対照的な2つの思い出は、物語の冒頭には全く無関係の過去として存在しているが、やがて両者は徐々に接近する。そして銀行の前での香織の台詞、「ねえ、降矢木さん、少し訊いてもいいかしら? 羽生さんに聞いたことがあるんだけど、彩さんって……」によってついにクロスし、その後は反対方向へ向かって飛び去っていく。

物語の中核となる香織と彰太郎の犯行の動機は、60歳がらみの男女のものにしては、いかにも幼稚な感じを否めない。しかし『メモリーズ』とは結局、恋愛という人間固有の営みが本質的に持っている自閉性や暴力性、あるいは『トリスタンとイゾルデ』に見られるような死への志向性のカリカチュアだったのではないだろうか?