作者紹介 金笠 1807-1863
     李氏朝鮮後期 放浪詩人
      本名は金炳淵、曾祖父の罪状により仕官の道を閉ざされて後、
      朝鮮半島各地を放浪し、各地で詩を残す。
      規格はずれの作品も多いが、詠題は多岐にわたる。
      日本で言えば俳壇における山頭火、漢詩における良寛のような存在か?
      ちなみに日本でいえば良寛とほぼ同時代の人である。      


金剛山  金剛山
矗矗金剛山
高峯万二千
遂来平地望
三夜宿青天
 
そびえ立つ金剛山
高き峰一万二千
平地を望んでやっと下ってきたが
三夜露天で宿泊した。
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○○●●○韻
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○●●○○韻
五言古詩?
上平声「刪」、下平声「先」韻

・金剛山  朝鮮半島中部にある山岳名  古来から朝鮮第一の名勝といわれている。


貧吟 貧しきを吟ずる
四脚松盤粥一器
天光雲影共排徊
主人莫道無顔色
吾愛青山倒水来
お膳には お粥が一つだけ、
光も雲も 一緒について映るほど薄い物。
ご主人よ 面目ないなどと言わないでおくれ、
私は自然の風景が 逆さまに見えるのが好きなんだ。
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○○○●●○◎韻
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七言古詩
仄起式
上平声「灰」韻

  お金
周遊天下皆歓迎
興国興家勢不軽
去復還来来復去
生能死兮死能生
 
世の中を巡ってみんなに歓迎され、
国を興し家を興し勢いは軽くない。
去っては又来て、来ては又去り、
生者を死なせ死者を生きさせる。
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○●○○●●○韻
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○●●○●●○韻
七言絶句
平起式 結句変則
下平声「庚」韻

還甲宴  還暦の宴
彼坐老人不似人
疑是天上降真仙
其中七子皆為盗
偸得碧桃献寿筵
 
あちらに座る老人は人ではない、
天から降りた仙人かと疑ってしまう。
この七人の子供はみんな盗みをなす、
碧桃を盗んで宴に献上した。
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○●○●●○○韻
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○●●○●●○韻
七言古詩
平起式
下平声「真」、「先」換韻

放浪の旅の途中に、還暦の宴に飛び入りしたときの作といわれる。


貧吟 貧しさをうたう
盤中無肉権帰菜
厨中乏薪禍及籬
婦姑食時同器食
出門父子易衣行
 
食卓に肉はなく野菜ばかり、
厨房に薪乏しく生け垣まで害及ぶ。
嫁姑は一つの器で食事をし、
外出するとき父子は衣を取り替える。
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○○●○●●○韻
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七言古詩
平起式
下平声「支」、「庚」換韻

漂浪一生嘆 一生の漂浪を嘆く
鳥巣獣穴皆有居
顧我平生我自傷
芒鞋竹杖路千里
水性雲心家四方
鳥に巣あり獣に穴あるごとく皆住処あり、
私の半生を顧みれば ただはかなく悲しい。
草鞋の先と竹杖を削り千里の道を行けば、
水のごとく、雲のごとくどこでも我が家 にできる。
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●●○○●●○韻
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七言古詩
平起式
上平声「魚」、下平声「陽」喚韻

・晩年の強がりが少し出ているか。


自嘆 私の嘆き
嗟乎天地間男児
知我平生者有誰
萍水三千里浪跡
琴書四十年虚詞
青雲難力致悲願
白髪惟公道不悲
驚罷還郷夢起坐
三更越鳥声南枝
ああこの世に男子として生を受けたのに
私の一生を知る者は誰がいるというのだ。
浮き草のごとく半島三千里を漂い、
四十年もくだらない詩ばかり書きためてきた。
若き日の志をはたすには力及ばず、
白髪となってしまって悲しまずにはいられない。
故郷に帰る夢をみて驚いて目を覚ませば、
夜中に望郷の念に悩まされる。
○○○●○○○韻
●●○○●●○韻
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○○●●○○○韻
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●●○○●●○韻
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七言律詩
平起式
上平声「支」韻

・三千里(サムチョルリ)  古来から朝鮮半島全体を指す表現。
 半島の南北の長さが朝鮮の里程で三千里あることからきている。
・「越鳥声南枝」  《故事》南方の越の国からきた鳥は、故郷を恋しがり、木に巣をつくるときも南の方の枝を選ぶ。
 転じて、故郷の忘れがたいことのたとえ。
 「胡馬依北風、越鳥巣南枝=胡馬北風に、越鳥南枝に巣くふ依り」−中国 古詩十九詩より−
・晩年に望郷の念にとりつかれたときの作らしい。


此竹彼竹化去竹
風打之竹浪打竹
飯飯粥粥生此竹
是是非非付彼竹
賓客接待家勢竹
市井売買年月竹
万事不如吾心竹
然然然世過然竹
この竹もあの竹も去年の竹が化けたもの
風に揺れる竹 波打つ竹。
飯も粥もこの竹から生じ、
これにあらずあれにあらずかの竹から出てきた。
賓客を接待できる家の勢いは竹のごとく伸びていき、
市場の商売は年とともに竹のごとく伸びていく。
私の心が竹のごとく真っ直ぐなことは誰も知らずに、
だだこの世は竹が伸びるようにひたすら時が過ぎていく。
平仄式を考えることは
必要ないでしよう。
七言古詩

  返朝鮮漢詩目録