
『ベスト・パートナー』 28
<ひとごとだし>
<1>
ふぅん。
先日から激しい戦闘がおこなわれている「らしい」月周辺ですが。
勿論、地球連合軍中だんとつで干されている私たちのナデシコ、詳しい状況報告なんて入ってきやしないんですけど、私が独自に興味本意で調べた検索結果によれば、色々と大変だったそうです。
まず、木星蜥蜴さんが新型を出してきたって話。
今までは中型戦艦とバッタ、ジョロなどの小型無人兵器の組み合わせ、単独ではよわっちいけど群れで押してくる方法で頑張ってましたが、今回はちょっと様子が違ったみたい。
何でも、その形状からヤンマ(仮)と呼ばれるとにかくすばしっこい新型が登場して、それはもう撹乱混乱で大騒ぎだとか。
そのヤンマさんの主な攻撃がよりによって「特攻」なんだって。
それも連合軍の戦艦を狙って体当たり。
もうはなっから自爆相打ち狙い。
これには連合軍もびっくりした、いえそれどころじゃなく手痛い打撃を受けてしまって、負ける寸前まで押されてしまったそうです。
ご愁傷さま。
そりゃあ、あちらさんは元々無人兵器なんだから、そのようにプログラムされれば突っ込んでくるのが一番有効な戦法であるし、むしろ今までそのような攻撃を仕掛けてこなかった方が不思議よね。
しょせん機械なんだから、自殺なんて恐くないだろうし。
自己増殖能力がほぼ無限大に確保できるなんて噂もあることだし、そうなれば特攻がいちばんてっ取り早い戦術だと私だって思うし。
数百年前の世界大戦でもそんな戦術を選択した国があったけど、結局あの時は「予想以上に命中しなかった」なんてオチがついて、あんまり効果的じゃなかったって言うけど。
その時はばっちり人間が乗ってたんだし、無人兵器のようにはいかないわよね。
そんなこんながありまして、公式作戦名称「第4次月奪還作戦」はあと少しのところで失敗しそうな勢いだったそうです。
でも、どんでん返しが起こった。
<2>
地球連合軍は一時撤退を決めて戦場を離脱しようとして、蜥蜴さんが後ろから追撃に向かおうとしてたそのまっただ中。
なんと、行方不明だった筈のナデシコ2番艦シャクヤクが、突然「出現した」んだそうです。
この「出現した」のくだりですが、軍・ネルガル両方のデータベースでも特級印の秘密事項になってしまってて、その詳しい状況は掴めません。
私とオモイカネの能力をフル活動させればなんとか引き出せそうなプロテクトだけど、そこまで危険を犯して情報得ても仕方ないんで諦めました。
好奇心は猫を殺すってゆーし。
で、何はともあれ「出現した」シャクヤクですが。
よっぽど本人達もびっくりしていたんでしょうね、いきなりグラビティブラストを全方位に向けて連発。
その様子はまるで、泣きわめく幼稚園児のようだった、と記録されています。
軍の公式報告書の癖にちょっと面白かったので、流石の私も笑ってしまいました。
で、その回転式グラビティブラスト、軍の戦艦に直撃したりもしたそうだけど、結果として木星蜥蜴さんの方にいっぱい当たってくれたんだって。
んでやっぱりびっくりした蜥蜴さん慌てて退却、併せて連合軍もびびりまくりで全力で脱出、その宙域にはシャクヤク1艦がぽつんと残されて。
なんだか、とっても面白い状況。
私も見たかったな。
結局、その会戦は両者痛み分け、引き分けということで決着がついたということです。
シャクヤクは一躍軍の救世主になっちゃった訳。
でもまぁ、当然のように艦長以下全員きついきついお叱りを受けて説教されて降格されて、ついでに今現在は某所に軟禁されてぎちぎちの事情聴取らしいです。
まぁ、当然だけど。
<3>
なかなか面白そうだった第4次月会戦、事の顛末は大体そんな感じだったみたい。
私の情報網って実は結構凄いんだけど、それでも事の詳細はこれ以上解りませんね。
凄いっていってもハッキングだから、余り大声では自慢できないけど。
この戦争の第1報を聞いた時は「へぇ、それで?」という無関心な私と「そんな訳ないでしょ」という疑い深い私がいて。
やっとほとぼりが冷めた今になって、ようやく知的好奇心が湧いてきたという訳でハッキングしてみました。
まぁ、なかなか面白かったです。
でも、どうでも良い、のかな?
そりゃあシャクヤクはナデシコの代打として火星に行って、そこで色々と大変な目に遭ってしまったんだろうけど…でも。
別に私には関係ないですからね。
無理矢理にでも関係つけようとするなら、ナデシコとシャクヤクは同じネルガルという企業のフネ、しかないわけで。
別に知り合いが乗ってる訳じゃないし。
そう、知り合いといえば、プロスさん等のネルガル関係者の方々は騒いでました。
何でもですね、あのシャクヤクには本来ナデシコに乗る筈だったクルーも含まれていたとか。
主にナデシコが初陣で撃墜された時に乗船してなかったパイロットさん、お偉いさんなどが引き続きシャクヤクに移ったんだとか。
無事で何より、それは解ります、幾ら私が冷血な少女とはいえ。
でもね、やっぱりしらない人、だから。
我ながらひどいなって思うけど、正直な話どうでもいいのよね。
知り合い、友達、大事な人
、まぁそんな人は今の私にはほとんどいないけど、もしもそのような人々が無事に帰還したりしたのならそれはそれで。
まぁ普通に。
よろこんだりする…んだろうな。
たぶん。
<4>
そんな訳で早々に「私には余り関係無いわよね」と見切りを付けて、さっさと再び自分の殻へ閉じ篭ろうとした矢先の事でしたから、突然プロスさんから「シャクヤク問題に関してのミーティング」に出席するようお願いされた時、私は自覚の無いままにすっごく嫌な顔をしたみたいです。
「いえその…ルリさんには直接関係ない話ではありますが…なにぶん解らないことが多過ぎてですな、ここはひとつ、皆で知恵を出し合って事態の把握に努めるのが上策かと艦長が仰られてまして…」
なんてプロスさん恐縮するもんだから、よっぽど私の顔が恐かったんでしょうね。
ちょっと反省です。
そんな訳で私はミーティングに参加。
プロスさんにゴートさん、整備班代表として瓜畑さん、パイロット代表として昴さんの顔も見えますね。
ついでに、あ、ついでとか言っては流石にマズイですか、御統百合香艦長も入院先の病室からコミュニケで参加しちゃってます。
…しちゃってます、ってのも失礼かな。
「カグヤちゃん大丈夫かな…ねぇプロスさん、本当にシャクヤクのクルーって全員無事なの?」
「ええまぁ、それだけは確認済ですな。
ワープアウト…仮にこう申しておきましょうか、その際大きなショックが艦全体に加わったようでして、軽い打撲程度なら数人負ったという話ですが。
基本的に全員無事ですな。」
「そっか、ヒカルやイズミの奴も無事なのか。
ちぇ、心配して損したぜ」
私は何をしてるかといえば、隅っこで皆の発言をぼーっと聞いてるだけ。
その心は、「私は午後6時から天河さんとブリッジ夜勤で今日の夜食はオムライスだったのにそれが無駄になりそうで苛付いてます」という、私なりの控えめなアピールです。
いやまじで。
「良かったぁ…カグヤちゃんにもしものことがあったら私、責任感じちゃうもん!
だって、ユリカの代わりに火星行ってくれたんだもんね!」
「鬼切丸カグヤ艦長は無傷で健在ですよ。
もっとも、今頃は事情を厳しく追求されている事でしょうが。」
御統艦長の交友範囲なんかには興味無かったので知りませんでしたが、そうやら話を聞く限り、シャクヤク艦長の鬼切丸カグヤさんとはお知り合いのようですね。
なるほど、それでこんな殆ど意味の無いミーティングを召集したという訳。
個人的感情で他を巻き込むなんて、このひと全然変わってませんね。
実に迷惑極まりないです。
「事情つっても本人達もわかっちゃいねぇんだろうよ。
あのうろたえた大砲の撃ち方見りゃあ、如何に焦ってたか解るってもんだ。」
「ネルガルは大体の事情を掴んでいる雰囲気ですがね…軍の方が煩くて身柄を解放してくれないようです。」
「なんでぇ、ネルガルはシャクヤク諦めたんじゃなかったのかよ?」
「表向きには…なんでしょ?プロスさん。」
「ええ…まぁその通りなんでしょうな。」
大人達の何処まで真実に根ざしているか解らない話を聞きつつも、私は私で全く別のことに気を取られて焦っていました。
だって、
私の席で今日の分の航海日誌を付けている天河さんが、勝手に私がデスクに隠しておいたスナック菓子を食べ散らかしているんです。
全く、人がいない隙を狙って私の私物を物色するなんて、油断も隙もあったもんじゃありません。
後できつい説教をくれてあげないと懲りませんねこれは。
「ねぇルリちゃん…ルリちゃんはどう思う?
ユリカものすご〜く嫌な予感するんだけど。」
「ルリさん、艦長が呼んでおられますぞ?
あのルリさん、シャクヤクには貴女と同じ能力を持ったクルーがオペレータとして勤務してまして…そちらは真備ハリという少年なんですがね。
だから貴女がこの件についてどう感じておられるか我々としても興味があるという訳でですな。」
ええ、聞いてますからちょっと待って下さい。
とりあえず、私は天河さんのIFSに端末を通じて刺激信号送って注意するのが先決なんだから。
<続く>
ええと、連載開始時の基本コンセプトとして、ユリカ以上に頭が軽くなるルリさん、というのを念頭に入れてましたが、いよいよそういう描写の始まりとなります。
頭くらい軽くなってもらわないと、こっちとしても辛気くさいばっかりじゃ嫌なんで。
© 1997 kenji1@charis.dricas.com
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