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那須岳 '97 8/6

 

ボルケーノハイウェイ途中から仰ぐ那須岳

ボルケーノハイウェイ途中から仰ぐ那須岳

 顔を出したばかりの朝日を受け、山々の緑は爽快に映える。対照的に茶臼岳の山頂は活火山らしく生命を拒んだ茶色をしている。その色は遠い昔から噴火を繰り返していることを物語る。1404年以来残されている噴火の記録はほとんどが山頂周辺での水蒸気爆発。中でも1410年の噴火では火山泥流も伴い、周辺に大きな被害を出したようだ。小規模な噴火は近代に入っても繰り返され、1963年の小爆発を最後に最近は眠りに入っている。睡眠中とはいっても、山頂の西側では無間地獄という噴気が活発に活動している。寝息にしてはずいぶんと激しい。


【登山】

 ボルケ−ノハイウエイの終点には、大駐車場を備えた峠の茶屋がある。ロ−プウェイを使わない登山の場合、ここが最も手軽なコースの起点となる。登山ポストのある登山指導センタ−を過ぎ、森の中をしばらく登る。やがて、樹木限界を越え、目の前には一面、チシマザサに覆われている朝日岳が現れる。チシマザサは、冬には相当に寒く、積雪量も多い日本海型気候の地域に分布域を持つという。足下のチシマザサは冬の厳しさを語りかけてくる。やがて、まわりは高山植物のコロニーが点々と見られるだけになる。視界をさえぎる高木もなく、右に落ちる谷は底まで見渡せる。まるでアルプスにでも登っているかのような雰囲気だ。標高1700m程でこれほどのアルペンム−ドを味わえるとは予想外であった。

朝日岳

 朝日岳と茶臼岳の鞍部である峰の茶屋までは、麓から1時間ほどの登りであった。そこからは、高山植物もほとんど生えぬ荒涼とした道を登る。遠くでは噴気口が音を立てて火山ガスを吐き出している。いよいよ活火山ムードが盛り上がってきた。

 30分程で広々とした山頂に着く。目の前に見える擂り鉢のような浅い火口が茶臼という名の由来なのだろうと勝手に思い込む。登頂の達成感を味わいながら、辺りを観察してみる。山頂には一面、赤味を帯びたメートル大の岩塊がゴロゴロしている。溶岩ドームによくある風景だ。新鮮な溶岩ドームは岩と岩の間が隙間だらけで歩き難いが、ここは適度に古く、岩の隙間は埋められていて歩くのに問題は無い。でもよく見ると岩の割れ目から水蒸気が出ている場所もあり、古いと言ってもまだ活きている。

無間地獄

無間地獄

 下りはロープウェイの山頂駅を廻る。ドームの急な斜面を下った後、足下は砂礫に変わり、また高山植物が見られるようになる。どうやらこの辺が、砂礫でつくられている古い山体と岩塊だらけの山頂ドームの境界らしい。この境界に沿って火山ガスが噴出し、まわりの岩石を白く変質させているようだ。少し下るとこの白い変質帯が山腹を巻くように続いているのがわかる。

 山頂駅の手前から、牛ヶ首に行く分岐に入る。牛ヶ首まではアップダウンも無く、気持ちのよい道だ。高山植物の種類も増えてきた感じがする。牛ヶ首の手前に来ると、辺りに白骨のようなハイマツの死骸が見られるようになる。度重なる茶臼岳の噴火はハイマツの生活環境を破壊した。そして枯死したハイマツの周りは、ガンコウランやウラジロタテといった高山植物が活躍する舞台となった。たくましく貪欲な彼等は、山頂目指して上へ上へと進出していく。



  牛ヶ首を経て、道を右にとると、いよいよ無間地獄の大噴気がお目見えだ。轟音とともに地面のあちこちから噴き出る水蒸気は、時に目の前を真っ白にする。巨大な水蒸気の雲は、なかなか消えずに空高く立ち昇る。今まで数々の噴気を見てきたが、迫力という点では無間地獄は一番かもしれない。噴気とは反対側、遠くに見える豊かな森の景色も魅力的だ。人手が全く入っていない森の中には、水面に青い空を写す小さな池がある。景色に目を奪われながら歩くうち、いつしか峰の茶屋に着く。
【殺生石】

 この殺気に満ちた地名は地図上でも大変目立つ。活火山のまわりには、「殺生」とか「地獄」といった恐ろしげな地名がしばしば存在する。ほとんどの場合、それらの場所は火山ガスが吹き出る噴気帯になっている。有毒な火山ガスが満ちたその領域は、時には立ち入る人や動物を死に至らしめる。昔の人々はそこに地獄を見たのだろう。この殺生石もそんな場所の一つであるのだが、ここは他とはひと味違う不思議な伝説と結びついていた。

 中国やインドで暴れまわった九尾の狐が日本に上陸。この国を滅ぼそうと美しい姫に化けて朝廷に潜入するが見破られ、那須野に追放される。その後もこの地で暴れまわり、とうとう朝廷によって討伐された。しかし、死後も狐は石となり、周囲に毒を吐き続け、飛ぶ鳥をも落とすという殺生石になったという。

殺生石

 大陸にまで跨がるスケ−ルの大きさ、九尾の狐という想像をこえた姿。怪しい伝説を秘めたこの場所は特別な空間のようだ。伝説というものには多かれ少なかれ事実が含まれるという。果たしてこの殺生石伝説が生まれるに至った事実とはどんなものだったのだろう。


【三斗小屋温泉】

 那須山麓には古くから那須十一湯と呼ばれる温泉がある。そのほとんどは茶臼岳の西側にあるが唯一、東側にあるのが三斗小屋温泉である。ただし、この温泉に行くためには約6kmの山道を歩かなければならない。

 峰の茶屋から斜面を東に下り、しばらく行くとダケカンバの森に入る。ここからは幅の広い平坦な道が温泉まで続く。かつては茶臼岳の硫黄を運ぶ牛でも歩いた道というだけあって、遊歩道と言えるくらい歩きやすい。白い蒸気が見えてくると、そこはもう三斗小屋温泉である。

 温泉の歴史は1142年より始まり、かつては会津に向かう人、那須の修験者などに親しまれていた。明治までは5軒の宿が立ち並んでいたそうだが、今は2軒の宿がひっそりとあるだけだ。その1軒、たばこ屋さんの風呂は大展望の露天風呂で入浴のみ500円。湯は熱い。


【豆情報】

・周辺キャンプ場と名のつく場所はたくさんあるが、貧乏旅人向けのものは無い。ゲリラキャンプ覚悟。峠の茶屋にあるあづまやなどはいかが。


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