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秋田焼山
  '95 9/28、'97 8/28

秋田駒ヶ岳から望む秋田焼山

 

 秋田焼山周辺はここ最近、穏やかでない。1997年5月には北麓で土石流に引き続く水蒸気爆発、8月には山頂火口湖で小規模な水蒸気爆発と立て続けにメディアに登場した。8月の小噴火は小さな新聞記事だったけれど、5月の水蒸気爆発はTVでも大きく扱われ、その瞬間をとらえたカラー写真が新聞のトップに出た。土石流は赤川温泉、澄川温泉にあった旅館を破壊し、その北側を通っていた国道341号線を塞いだ。直前に地滑りの前兆が察知され、周辺に避難勧告が出されていたために人的被害は出さずに済んだ。僕が訪れた8月には国道は復旧していたが、土石流の起きた沢は赤味を帯びた土石で埋まり、そこに鉄板が敷かれた仮設橋が掛かるだけで、災害の生々しさをいまだ残していた。

【登山】

 初めて焼山を訪れた時には雨が降ったため、麓まで来ていながら登山はあきらめた。こんなことをすると後になって必ず後悔する。二度と後には引かぬ思いで再び焼山を訪れたのは一ヶ月後の95年9月だった。8月には一面緑だった山も9月末にはもう錦に染まっている。ライダ−やチャリダ−で賑わっていた大沼のキャンプ場は、すでに水も止められ静まりかえっている。夏の森に響いていた沢山の鳥たちのさえずりはもはや失われ、木々のざわめきの中を黄色い枯葉が宙を舞うだけで、秋の森はどうしようもなく淋しい。それを紛らわそうとラジオをつけてみるが、森に響く存在感のない声は淋しさをさらに増幅させる。一ヶ月余りのわずかな時間で山のム−ドが大きく変わってしまった。夏と変わらないのは雨が降り出したということだけだ。

 雨は翌日の朝まで続いた。空をみても回復の見込みはなさそうだ。幾分、勢いが弱まった頃、腹を決めて焼山の山頂に向かう。大沼のキャンプ場から15分ほど車道を歩くとオンドルで有名な後生掛温泉に着く。温泉に入る少し手前に焼山登山道の入口があった。始めの登りは、古い溶岩流がつくる緩斜面の上をゆく。今では溶岩流の表面を森が覆い、歩いている限りでは昔の猛々しい面影を知ることは出来ないが、目を凝らして地形図を見るとその輪郭がうっすらと浮かび上がってくる。足下はとても湿り気が多く、底なし沼を思わせるぬかるみが時折、道を塞ぐ。

 いつしか道は急登に変わっていた。焼山らしい白く変質した岩も現れ始めた。道が平坦になったかと思うと、そこは大変見晴しの良い国見台であった。いつのまにか雨もあがっていて、今まで登ってきた森も見渡せる。とはいっても、空の色は湿った灰色をしていて、雨がいつ降り出してもおかしくない。国見台から先は小さく登ったり下ったりする道が続く。針葉樹のトンネルを抜けると突然視界が開け、ササに覆われた栂森という小ピークの横に出る。ここから先は、火山活動のためかあるいは強い風のためか樹木が一切無い。左に見える沢には真っ白に変質した山の内部が露出している。小雨混じりの風に吹かれながら、いよいよ焼山の山頂カルデラのなかに足を踏み入れる。

沢筋に露になる漂白された山体内部


鬼ヶ城

 目の前には中央火口丘の鬼ヶ城が現れた。奥州征伐に来た坂ノ上田村麻呂は蝦夷の大将・大猛丸を八幡平で討ち取る。しかし登鬼盛という武将は難を逃れたのち、ここ鬼ヶ城に立て籠り、征伐軍との最後の決戦を迎えた。カルデラの中に突き出た溶岩ドームは周囲を急斜面で囲われ、その頂きに立てばどんな方向から攻められようが優位にたてる。鬼ヶ城の脇に口を開ける空沼という火口湖には一面、異様ともいえる純白の水がたたえられ、幾つもの場所から噴気が立ち上っている。この沼の光景は、鬼神をも味方につけたような霊気を相手に感じさせたかもしれない。しかし力及ばず登鬼盛も討ち取られてしまった。

 戦いの舞台になった活火山は初めてだ。それだけに他の活火山とは異なる味わいが焼山にはあった。火山が放つ神秘性に加えて、古代世界の神秘があたりを包んでいる。

純白の空沼の畔からは噴気が立ちのぼる


【玉川温泉】

 焼山の西山麓には玉川温泉という全国的に人気のある温泉が沸いている。単なる人気以上に、ここ玉川温泉には他の名湯では感じられない変わった雰囲気が漂っていた。


玉川温泉の入り口駐車場には朝だというのに何十台の車が停まっている。車のまわりにはタープが張られ、その下に置かれた卓の上にはコンロや鍋が並ぶ。駐車場脇の樹木に張られたロープには結構な量の洗濯物も干されている。なにやら生活臭がプンプンする光景だ。どうやらこの駐車場で暮らしている人たちのようだ。一応、駐車場の脇には長期滞在禁止を掲げる札も立てられてはいる。
 そこで「暮らす」人々はタオル、ゴザ、ふとん等を手に持ち、温泉旅館のある方へ向かう。沢筋に大きな旅館があるのだが、その手前で人々は曲がり玉川温泉自然探勝路の方に入っていく。向かう先は火山ガスや温泉が物凄い勢いで噴出している大噴気帯。そこに着くなり、人々は地べたにゴザやタオルを敷き、寝転がり始めた。同じように何十人もの人々がこの噴気帯の地面で寝ている。地面は地熱でほどよく温まっていて、確かに寝転がると気持ちが良いのだ。

迫力ある大噴

玉川温泉の噴気帯では岩盤浴が盛ん

 探勝路沿いには、山の斜面から流れ出る温泉を引き込んでつくられた露天風呂もあった。特に入浴料を取る気配もなかったので入ってみる。お湯は適度に冷めていて、ちょうど良い温度だ。後から一人の中年男性が入って来た。ここに来て一週間近くになるという彼の話によると、駐車場で暮らす人々は毎日、この噴気帯に横になり、露天風呂につかって何日も過ごすらしい。なるほど旅館ならば入浴だけでも高い料金を取られるが、この噴気帯なら長期間であっても駐車場での生活費だけで済む。これは、キャンプ道具や車などが誰の手にも入るようになった現代における湯治の一つのスタイルであるのだ。しかし無料なだけに施設は極めて簡素で、シートを張っただけの蒸し風呂では火山ガスによる中毒事故も起こるという。

 帰りに立ち寄った旅館の売店には玉川温泉の奇蹟の効能を語る何冊もの本が並べられている。本の内容は神掛かっていて少々胡散臭くもあるが、その奇蹟を信じて多くの人々がここを訪れるようだ。

【豆情報】

・おすすめキャンプ場は大沼キャンプ場。(詳細は八幡平を参照)

・鬼ヶ城の脇には焼山避難小屋があるので山中での宿泊も可能。


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takeshin@hkg.odn.ne.jpまで

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