Mobilesuit Gundam Magnificient Theaters
A preface to "An another tale of Z"




第五二話 序 「湖畔」


〇〇七九年一一月一〇日
北アフリカ上空
ジオン公国軍 巡洋艦「ザンジバル」



のグラナダに向かうという総参謀長(スタープ)の指示で、彼らの乗る船は地球上空八〇〇キロで第二宇宙速度(ツヴァイテ)に達する再度の加速に入った。船を中央アジアからここまで運んできた化学ロケットブースターが切り離され、ジオンの巡洋艦は核融合ロケットを始動して速度を上げていく。
「化学ロケット、こういう贅沢(ルクスス)な装備もこれから先は使えなくなる。生命の溢れる青い星との、これが別れだ。我々に素晴らしい体験をさせてくれた地球(エルデ)に感謝したい。」
 落下していくブースターを見下ろしながら、「彼(エア)」はワイングラスを星に手向けた。核融合エンジンは確かに優れたエンジンだが、構造の簡素さ、推力重量比において、この原始的なロケットに及ばないのだ。化石燃料(フォシール・ブレンシュトフ)は彼らより数億年の昔の生物の死骸が何千万年も掛けて堆積し、その間の地殻変動と積もり積もった圧力と地球の地熱その他の相互作用で長い時間をかけて作られた。天然に作られた炭化水素化合物(コーレンヴァセシュトフ)の分子構造の複雑さはタイタンあたりで採れる単純な構造のエチレンなどとは全く違う物だ。彼らを軌道上に打ち上げたロケットの燃料はジオン軍占領下のバクー油田で精製されたものを用いており、ロケットは古い文献を片手に基地の士官がコンピュータで設計して造り上げたものだ。
 生命(レーベン)の溢れる星でなければ、この貴重な「燃ゆる水(ブレネンデス・ヴァッサー)」の存在はありえない。「彼」はそう言い、オデッサの敗戦のショックで打ちひしがれた将軍たちの方向を見た。「彼」の階級は陸軍大佐(オベスト)で、年齢も三〇代後半と将軍たちよりも若年であったが、参謀本部の参謀であると同時に地球の地誌・博物史に精通しており、皇室ザビ家の覚えもめでたかったことから、地球侵攻作戦以降は、事実上、「彼」は彼らの指導者としてユーラシアのジオン陸軍に君臨してきた。
 「彼」は愛おしそうに、テーブルの上に置かれている、地球から持参した北宋時代の白磁の壺を見た。軍事一点張りの他のジオンの高級将校たちとは異なり、彼の心は数千年の昔に思いを馳せ、人類の過去と未来に思いを巡らせるゆとりを持っていた。この壺(ヴァーザ)は、さるお方への贈呈品と


して、「彼」がエルミタージュ美術館から持ち出したものだ。この程度の専横(ヴィルキーエ)は許されて良いだろう。
 その時、艦橋のマチアス・フォン・フリッツ中佐から警戒行動中の連邦艦隊を発見したという情報が彼らに伝えられた。フリッツはジオンの新興財閥の御曹司で、戦前はある会社の役員をしていた。「彼」とは兄のテクノクラート同様、ルウム時代からの知己である。
「総参謀長、連邦艦(フォデラチオーン)の存在を確認、サウス・アジア級『シンガポール』他数隻、本艦の前方千キロを遊弋している模様です。」
 僅かだが、ジオン艦隊が宇宙を制した現在も、地球連邦の戦艦が宇宙を航行していないことはない。しかし、サウス・アジア級は戦前には存在していなかったクラスの戦艦である。戦前の連邦のコロニーに戦艦(シュラハトシッフ)の建造能力のあるコロニーはない。
 「彼」はユーラシア軍に赴任する前は占領された連邦植民地サイド5、ルウムの技術指導を監督していた。労働力も技術力もあった彼らに宇宙戦艦やモビルスーツの建造技術を教え、行く行くはジオン公国の発展の礎として、彼らにもスペースノイドの時代を担ってもらうというのは、「彼」の敬慕する上官、キシリア・ザビの考えである。キシリアはこの考えを、戦争から少なくとも二年前までには「彼」に語っていた。「彼」がキシリアの愛人であることは公然の秘密であったが、星の海に思いを馳せ、宇宙の広大さを人類史的観点から見るという点において、この二人には共通するものがあったのかもしれない。
(キシリア様の発案による技術指導計画を現地の造船家と交渉する際に使ったリーデルという若い弁護士は良くやっている。おそらく間に合わないだろうが、彼からの手紙には、我々の技術は着々とルウムに根付きつつあると書かれていた。できることなら、彼をキシリア様にも紹介したかったものだ。)
 そう思った時、「彼」は自分を注視している副官ウラガン少佐(マヨーア)の視線に気づいた。
「地球で建造された戦艦だな。ジャブローか、それとも西ヨーロッパの方が早いだろうと思ったが、あれは東南アジアで作られたものだ。もう軌道飛行(ウムラオフバーン)に入っているとは、いずれにしても連邦の国力は侮りがたい。同じような戦艦がすでに一〇〇隻(フンデット)は造られているものと見て良かろう。」
 「彼」はそう言い、回避しますかという副官の言葉に頷くと、副官のウラガン同様、「彼」に注目している将軍たちの方を向いた。全てジオン陸軍(ラントヴェーア)の将軍である。
「諸君らにもすでに分かっていることと思うが、私には、諸君らとオデッサの兵士に詫びなければならないことがある。」
 それから「彼(エア)」こと、ジオン陸軍のマ・クベ大佐は、ある計画について一同に話した。
(つづく)




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