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A preface to "An another tale of Z"




第五一話 余話 「ザパドノの風」


〇〇五七年
コロニー「アルカスル」 ドニブロ村


 ガイア 聖なる我等が国
 Гаия - священная наша держава,
 ガイア 愛する我等が国
 Гаия - любимая наша страна.
 固き意志 偉大な栄光や
 Могучая воля, великая слава -
 永久に汝が富ならん
 Твоё достоянье на все времена!


 一面に拡がる小麦畑(ポーレ)、青い空と白い雲、天空の彼方に見えるボストーク、たわわに実る黄金色の麦穂(コラシア)、温暖で、やや乾いたザパドノの平野にある畑のあぜ道に、麦わら帽子を被った少年が腰掛けている。
「この大地(ゼムリャ)も人が造ったんだってさ、三〇〇年も昔の話だって母さんは言ってた。」
 麦わらの少年に赤いマフラーを首に巻いた別の少年が声を掛ける。
「知ってるよ、コロニーは宇宙に浮かんでいるんだ。」
 ジェーニャと呼ばれた少年は暖かい風に髪をそよがせながら、どこまでも続く黄金色(ザラトイ)の大地を眺めている。
「見渡す限り全部、バトレーユ家の土地なんだ。」
「イザベルお嬢様(ドチカ)の家だな。」
 少年は振り向くと畑の真ん中に立つ広壮な屋敷を望んだ。農業用トラクターに乗用車(アフタマビル)、テニス場に射的場、大地主は何でも持っている。
「あいつは嫌いだ(ニナヴィジィ)。」
 ツンとしていつも気取っている。学校でも特別扱いで、揉み手をした教師(ウチテーリ)がまるで女王様(カラレフナ)のように扱っている。誰もが彼女の言うことを聞き、わがままいっぱいに振舞っている。
「不公平だよな、俺だって同じ人間(チラヴェク)だ。」
「イザベルは違うよ(ラズニ)。」
 彼女は違うんだ、麦わらの少年はそう言い、高いコロニーの空に浮かぶ雲を見た。いつも金がないとぼやいている彼の父親は村役場に勤めていて、村長である彼女の父親と付き合いがある。
「ジェーニャ(Жанна)。」
 やばい、と、いった顔で赤いマフラーの少年が手に口を当てた。麦わらの少年は振り向くと馬に乗ったバトレーユ家の令嬢を見た。
「見て、父様(パーパ)に買ってもらったの。」
 艶のある毛並みの栗色のポニー、特注した鞍にまたがり、乗馬服姿のイザベルが彼らを見下ろしている。ブルルと鼻息を鳴らす彼女の馬にマフラーの少年がのけぞる。
「噛まないだろうな。」
「ジェーニャ、馬(ロシャト)を引きなさい。」
 麦わらの少年は微笑すると立ち上がって馬の轡を取った。


「じゃあな、ボリス、俺はお嬢様の用事がある。」
 バンベドフが馬を引き、麦わらの少年と少女が立ち去ると、後姿を見送ったマフラーの少年が面白くなさそうにぼやく。
「なんだよ、いつもお嬢様、お嬢様って。」
 あいつはイザベルの奴隷(ラバ)か、そう毒づいた少年が路端の小石を蹴ると、一陣の風が吹き、波を打って麦穂がそよいだ。少年の横を科学省から来た技官を乗せた一台の黒い車が走り去っていく。


ドニブロ村 バトレーユ家のリムジン

 小馬に乗る少女と馬を引く少年にリムジンの後席に乗っていた若い男が顔をほころばせた。男はボストークの科学省に勤めている若い技官で、大地主(ヴラディカ)に第三ゼルカロの事故のその後について説明にやって来た。
「うちの娘(ドゥーチ)だ。」
 馬上から少年に話し掛けているイザベルを見て、地主の男が言った。科学省から来た男の話は救いのないものだった。五年前のルウム交通の事故でコロニーの第三ゼルカロは損傷を受けたが、政府の公式発表ではコロニーの大きさに比べれば衝突した船の大きさはごく小さく、影響は軽微(ミノル)だという話だった。
「かわいいですな。少年とは仲が良さそうだ。」
 小作人の子だと地主は言った。
「身分(リチネスチ)が違うので、いずれしかるべき筋から婿を取ることを考えている。」
 地主はそう言い、屋敷で説明を受けた話につき、彼の返事を返した。
「そんな額(スムマ)じゃ話にならんよ。ザパドノ産の小麦の品質は宇宙最高なんだ。」
 技官の話は不吉で、第三ゼルカロの損傷は致命的(スミルテルニィ)であり、これまでも騙し騙し使ってきたが、もう限界だという。
「このあたりも凍土(ミズルラチ)になります。」
 補償を受けるべきだと技官は地主に言った。だが、地主は首を縦に振らない。
「マイッツアー君、バトレーユ家はね、八代に渡ってここで小麦を育ててきたんだ。」
 自分は農家(フェルメル)で他の商売など知らない。今さら廃業などできないと地主は言った。
「しかし、アンリさん、それも昔の話です。」
 ガイア自治共和国科学省技官、マイッツアー・ロナは修繕はもう限界だと地主に言った。
「そんな話は聞いていない(ニェ・スリシャル)。」
 そう言い、地主はマイッツアーを指差した。政府は第三ゼルカロの損傷が致命的であることを公式には認めていない。修復計画は進められていると統領ノボルコフは表明しているが、それは任期切れまでの問題の先送りだと技官は考えている。本心では政府に修復する気などない。
「君は統領(プレジデント)の言葉に逆らうのか。」
 バトレーユ氏に限らず、土地の収用と補償に関するザパドノの地主たちの反応は冷淡で、政府による用地買収はほとんど進んでいない。
(つづく)




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