Mobilesuit Gundam Magnificient Theaters
A preface to "An another tale of Z"




第五〇話 序 「ダイクンの娘」

〇〇九八年九月一五日
ズム・シチ市 ロッテハイム区一五二
ジオニック社本社


社ビルの一三階、役員棟の一室にあるテレビに、陸軍のせいで仕事がなくなり、解雇されて帰国していく外国人金融トレーダーの一団が映っている。
「元々詐欺師(ガウネル)まがいの連中だった。」
 社員票(ゲノッセンカルテ)を一枚一枚捲りつつ、ズバズバと煙草を吹かして重役椅子に座っているサイモン博士が新管財人委員会(フェアヴァルテル)の委員に毒づいた。
「爆破されたジオンの証券取引所(エフェクテンボーゼ)、あそこの平均株価がいくらだったか知っているかね、平均で二八〇ジオニクルなんだよ。それに対しニューヨーク証券取引市場の平均は三万フェデリンだ。ウチの通貨に直すとおおよそ四万五千ジオニクル、一六〇倍も違うんだ。」
 だから金融取引で収益を補填しようなんて幻想(イリュジオーン)だと博士はテレビを指差して言った。金融市場は極端な寡占市場で、金は一部の大市場、企業に集中して集まる。
「こんな中学生でも分かる理屈を詐欺師の奴らは誰も言わなかったんだ。二八〇ジオニクルの市場で上手に運用して利ざやが一ジオニクルか? 二ジオニクルか? まともな人間はそんなことは考えない。」
 だから財務部門に集められた投資用の金は外国市場に集中的に投資された。それも投資会社(IG)を介してで、一言で言えば丸投げだったと博士は言った。ひどい場合には三つ、ないしは四つの会社を経由することがあり、各々手数料を取られることから、会社の手元には利益はほとんど残らない。しかし契約で損失だけはしっかりツケ回しされた。
「だから、いちばん利口なトレーダーが買うのは国債(シュターツパピーエ)だ。連邦債とかソロモン債とか、連邦は怪しいが政府だから確実に返してくれる。が、それでは芸がないので運用ごっこをして、見た目だけを誤魔化していたわけだ。」
「意外と存じていますね。博士は投資(インヴェスティルング)には興味はないと思っていましたが。」
 ジーエヌピー(GNP)を見たまえ、と、サイモンは委員に言った。ジオンのGNPは四〇兆ジオニクル、実は〇〇九〇年以来ほとんど成長していない。九〇年といえば会社の先行きが怪しくなった頃だ。
「ヴァリアーズは天才(ゲニウス)だよ、だが、我が社の財務部門にいたのは凡才(ドゥトツント)だ。」
 技術でも金融でも一握りの天才に頼る経営は危険だと博士は言った。
「会長のハイドリッヒたちは技術(テクニーク)で問題を解決しようとしないで、投資で解決しようとした。だが、そんな錬金術(アルヒミー)が上手く行かないことはジーエヌピーが証明している。それに気づいたソロモンは錬金術を規制して、一〇年間でGNPを二倍に増やした。ユニオンも後で気づいた。」
 サイモンらは新会社の執行役員(ゲシェフツフューラー)を選任している。会社解体を進めていた管財人委員会が活動を停止され、新たに第二管財人委員会(ツヴァイテ)が編成されてサイモンが座長に就任している。前委員会との違いは、第二委員会が会社の解体ではなく再生を企図していることである。ヴァリアーズから取り返した工機事業部(WMW)の職人が作ったザクVのバッジとネクタイピンを付けた博士は社員票の一通を床に放り投げた。
「こいつもスーツ人間、あいつもスーツ人間、、」
 スーツ人間とは、技術畑や組立畑を経ないで幹部に昇進した社員の博士流の蔑称である。こいつもダメだと床に放り


投げられた社員票を美人の秘書が膝を屈めて拾っている。
「学歴(ラウフバーン)は立派だ、だが、我が社には要らない。」
 陸軍から参画した委員も驚いていることに、ザクVのコスプレを着て会社解体に反対していたサイモン博士はリストラ忌避論者ではなかったことがある。むしろ彼は会社のリストラに賛成で、三万人の削減計画を政府に提出した。前委員会が提出した人数よりは少ないが、それでもかなりの人数である。
「生殺しのような雇用では人材は生きない、切る時はバッサリやった方がいい。」
 サイモンはそう言い、旧ジオン国有鉄道(ZR)の例を話した。ジオニックの三倍の規模を持つこの国営の空間鉄道会社(RBG)はガニメデまで路線を持っていたが、マハラジャ時代に分割民営化された。が、解雇は行われず、余った社員は会社直営のハンバーガーショップやスーベニアショップの職員として再雇用された。現在ではこれらは全て清算されている。
「覚えてますよ、ハムハムバーガーですね、店員にやる気なくて味も不味くて。」
 陸軍のシュトルツ委員は彼が学生時代に飲食した国鉄バーガーの印象を博士に話した。冷えたパディに手待ちの時間に一人空間鉄道の車両を眺める店員がわびしかった。
「本当は、会社に残りたかったんだと思いますよ。」
「結局ハムハムもZRショップも赤字で二五万人も無慈悲に解雇した。」
 ジオニックの家族であるから、解雇する社員には退職金も割増で支払うし再就職も斡旋する。そのためには残った社員にはかなりの節約を強いることになるが、ジオニックにはザクVがある。
「ガリバルディβやバーザムVと正面から戦えるモビルスーツだ。これらより性能が良く、より合理的な設計で、ビームマシンガンは現用機ではこの機体しか装備していない。」
 しかも、設計を完了している。残りは試作テストだけで、開発投資の必要もない。ヴァリアーズから取り返した六万トンの油圧プレス機はロボット製造用としては最大で、生産技術上の優位もある。
「キーゼのジジイが今からプレス機を作っても、動かせるのは早くて一年後だ。」
 それにガリバルディはそれが有利な構造になっていない。リック・ディアスも同じだ。ムーバブル・フレームの強度とポテンシャルが根本的に異なる。
「初めからこのプレス機を使うつもりで設計した機体(ツェレ)と、そうでない機体に差があることは自明の理だ。ディアスは一万五千トンだった。」
 タイヤキのようにザクVを作って輸出市場に打って出てやる。社員票を持つ博士は唸りを上げた。
「模倣される? それがどうした。ザクVを作るには機体だけでなく、ジオンの工業技術力とジオニックの全生産設備を模倣しなくてはならない。」
 そんなことは不可能(ウンメークリヒカイト)だ、胸を張る博士に委員は胸のバッジを指差した。
「そのピンナップなんですがね、、」
 私にも作ってもらえませんか、と、委員(ベアウフトラクテ)が言った。博士は工機事業部のヘンシェルに頼むようにと言い、社員票の閲覧を続けた。博士の進言で新ジオニック社は役員数を八〇人から一二人に減らし、権限を取締役の手足である執行役員に委譲している。
「あとはハマーンのババアだな、あの女(ダーメ)がこの革命をひっくり返しさえしなければ。」
 ハマーンなどハチの巣にしてやる。チューンナップしたビームサブマシンガンを陸軍に配備すると博士は息巻いた。すでに工場ではマシンガンの製造が始まっている。株式市場(アクチーエンマルクト)は潰れたが、会社の工作機械と従業員は一物も、一人も傷ついていない。
(つづく)




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