Mobilesuit Gundam Magnificient Theaters
A preface to "An another tale of Z"




第四六話 序 「秘策」

〇〇九八年七月二九日 深夜
ズム・シチ市 ホテル「ベルリン」


リスタで選択条項の審議が大詰めを迎えていた頃、ヴァリアーズ・ルウム・ファンドの会長、ヒューゴー・ヴァリアーズはパーティーの閉会から少し遅れてホテルを出た。タイロンの本社から緊急連絡があり、ルオやライスハウス関連の資料の廃棄などを命じた彼がホテルを出たのは一一時を少し廻った頃である。
「会長、どうぞ。」
 少し疲れた顔で新入社員のトンプソンがリムジンのドアを開く、会長の後ろにはドレス姿のマウアーもいる。
 企業家がリムジンに乗り込もうとした時、近くにいた彼女は路上から彼らに近づく黒い影に気づいた。
「ヒューゴー・ヴァリアーズ!」
 浮浪者風の男が路肩から拳銃を手に走って来るのを見たマウアーはスカートに手を伸ばした。
 パン! パン! パン!
「ファラオさん!」
 男の射撃で一弾がマウアーの肩を掠め、ドレスの裾がちぎれ飛ぶ。転倒した彼女の太腿が顕になり、新入社員のトンプソンが前に飛び出し、盾になって彼らを庇う。
 バン!
 銃弾を避けた時にハイヒールのヒールが折れ、転倒したマウアーが拳銃を男に向けて発砲した。眉間を撃ち抜かれた男は表情を空白にすると、そのまま崩れ落ちた。トンプソンに助けられ、立ち上がった彼女はドレスのスカートをたくし上げると、拳銃を太腿のホルスターに納めた。スカートが長すぎたので、転ばなければ引き抜けなかった。
「さすがティターンズ兵士ということか。」
 防弾リムジンのドアの背後から姿を現した企業家は、転倒で各所が擦り切れた彼女のドレスを見た。
「せっかくのドレスが台無しだ。」
「警察を呼んで来ます!」
 トンプソンが交番に向かって走り、マウアーはドレスの埃を払うと、ヴァリアーズと共に頭から血を流して倒れている男を見下ろした。死体を裏返し、男の顔を黒髪の男に見せる。
「知っていますか?」
 彼女の問いにヴァリアーズは首を振った。


「私のせいで破滅させられた経営者や解雇されて路頭に迷った者なら星の数ほどいる。」
 おそらくその一人だろう、と、彼は言った。すでにボタンを外し、コートを脱いでいる。
「罪の意識がおありなのですね。」
 膝を屈めて男の瞼を閉じ、トレードマークの黒コートを掛けた企業家にマウアーは言った。
「私は見た通りの人間だ、強欲で陰険で、金のためなら他人の破滅も厭わない。」
 ヴァリアーズは立ち上がると、彼がコートを掛けた男の骸を見下ろした。
「死んだ者には罪もない、怒りもない、憎しみも悲しみもない。案外、それがいちばん幸せなのかもしれないな。何ものにも縛られず、自由でいられる。」
 死は救済(リリース)だという言葉に、マウアーは黒髪の男から視線を逸した。彼女の心は恋人を殺したエウーゴや故国を滅ぼした地球連邦、そして彼女を欺いたソロモンやジオンに対する憎しみで満ちている。
「私一人殺して満足だというのなら、安いものだ。」
 彼はそう言い、死んだ男から立ち上がった。
「私はそうではないから、死んでも死にきれない、おそらくな、殺してもたぶん生き返るだろう。」
 そう言い、ヴァリアーズはマウアーの顔を見た。
「君もそうなのではないか、エカチェリーナ・エルミローヴァ。」
 世界に拒絶されることの苦しさは、それを味わった者にしか分からない。万人に忌避されることの悔しさは、それを噛み締めた人間にしか分からない。彼はそう言い、漆黒の瞳でマウアーの薄青色の瞳を覗き込んだ。
「この男は、それを見てしまったのかもしれないな、君や私のように。」
「今のあなたが本当のあなたとは思えない。」
 つい口から出た言葉に、マウアーはハッとして口を押さえた。彼女が企業家の唇に微笑を見たと思った瞬間、彼女は彼に抱きすくめられた。
「我々は同類だよ、エカチェリーナ。」
 黒髪の男の胸に頬を寄せつつ、マウアーは彼に呟いた。
「ヒューゴー、もう自分を欺かないで。」
 その言葉に頷き、マウアーを抱擁するヴァリアーズの頬に、彼女は彼の涙を見た。
「会長(チェアマン)!」
 抱き合い、唇を重ねる彼らに、警官を連れたトンプソンが駆けつけてくる。
(つづく)




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