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A preface to "An another tale of Z"




第四十話 「マウアー・ファラオ」 序

〇〇九三年一〇月
タイタニア共和国 コロニー「アルバータ01」


壊の痕跡は生々しかった。まだ硝煙の匂いの残る港湾部から上陸し、軍用車で市内に入ったキャメル二尉らの調査隊はメインストリートを抜け、高台の高級住宅街(タウン)に乗り入れた。いや、高級住宅街だったと言うべきか。原形をとどめている建物は一棟もなく、分厚い外套を着込んだキャメルらは白い息を吐きながら車を降りると、カメラ機能付きの携帯端末を片手に周囲の様子を撮影し始めた。破壊が完全でなかったため、コロニーの大気は維持されているが、環境システムの復旧は不十分で、外気温は零下にまで下がっている。
「タイタニア・キングダムタウン、タイタニアじゃいちばんの高級住宅街だったんだぜ。それがどうだい、キングダム(王国)どころかジャンクタウンだ。エルミローヴァ三尉、いや、今はファラオ三尉だったな、あちらの家を頼む。俺はこちらの家を撮影する。」
「送った記録はきちんと月の連邦検察庁に届けられているのかしら?」
 ファラオと呼ばれた女性隊員が言った。
「さあな、だが、あのヤビンスキー閣下(ピー・エム)のたっての頼みだ。あの金ぴか野郎、今になって同盟の支援だとか連邦検察庁に告発だとか笑わせる。こうなる前にできることは山ほどあっただろうに。」
 こんな所に住んでいると、見えるものも見えなくなるのさ、キャメルはそう言い、廃屋にカメラを廻した。彼や彼女はこんな所には住んでいない。もっと猥雑で騒然とした、労働者街の「02」に住んでいる。こんな所でも支配する者と支配される者の違いはある。いや、こんな所だからこそ格差は大きいのかもしれない。上官の言葉に、専ら管理職の住居として造成された「01」の宏壮な邸宅を見たマウアー・ファラオ三尉は思った。
 住民のほとんどは軌道上の「オベロン」に避難しているが、半年前はそうではなかった。マウアーは門扉の近くに横たわるドーベルマンの死骸を見た。恐らく番犬だったのだろう、犬の頭部に直径九ミリほどの銃痕を見た彼女は思った。あの時に射殺されたに違いない。
「かわいそうに、、」
 かがみ込み、凍り付いた犬の死骸を撫でた彼女は呟いた。それを見たキャメルがフンと鼻を鳴らす。
「犬っころがどうした。俺たちだってあいつらの犬だ。俺はいい気味だと思っている。どうだ、思い知ったかという感じだな。」
 彼の悪罵にも関わらず、三尉の女性はじっとして死んだ犬を見つめている。
「埋めてやれよ。」
 キャメルは三尉に言い、破壊された住居に足を踏み入れた。こんなことが許されて良いのか、いや、地球から遠く離れたこんな場所だからこそ許されるのだろう。タイタニアは辺境にあるにも関わらず、鉱産資源は豊かで、その利潤の配分には大いに問題があったが、一コロニーにしては豊かすぎ


た。それが狙われた理由に違いない。家の外からはファラオ三尉が死んだ犬の埋葬のため、スコップで土を掘る音が聞こえてくる。
「こん畜生め(バスタード)。」
 すでに人間の死体は片づけられていたが、最初にキャメルらがここに来たときにはまだ火災が続いており、街にはいくつもの射殺死体や強殺死体が転がっていた。八月に地球から来たサラミス艦はわずか四隻、千人足らずの部隊ということで、オベロンの港湾管理部も大したことはないと侮っていたこともある。
 だが、彼らは気付いていなかった、タイタニア警備隊の隊員は千人もいなかったということを。
 タイタニアの支配者である執政官府(エグゼクティヴズ)の面々に、珍しい地球からの来訪者(ビジター)として歓待され、「01」に案内された侵入者たちが豊かなコロニーを見て武器を取り、それを突きつければ簡単に財物や若い女を強奪できることに気付くまでには時間は掛からなかった。
 以降の「01」は何日も続く略奪強姦の地獄絵図になった。ようやく事態に気づいた警備隊(タイタニアン・ガーズ)が対抗に乗り出した時には、もう遅すぎた。
 事態の急変に為す術もなかった警備隊リーダーのリックス一佐や宇宙戦闘機を駆るキャメルやファラオたちが、「剃刀(レザー)」のおかげで組織化され、ようやく彼らを追い払ったのは、襲撃から一ヶ月も経った後のことである。
 その時には豊かだった「01」の財物のほとんどが持ち去られ、路端には乱暴されて泣きじゃくる女たちが残った。強姦後に殺された者も少なくない。わずか千人の侵入者、しかし、その結果は壊滅的だった。
「ファラオ三尉、こちらはOKだ。」
 廃屋の内部の撮影を終えた後に屋外に出、トランシーバーで同僚に呼び掛けたキャメルは、門扉の近くに盛られた新しい盛土に気付いた。
 盛土にはどこかから拾ってきたのか、白い木の墓標が立てられており、埋葬人の姿はすでになかった。墓標の下には鑑札付の首輪が置かれている。
「あちらの家を調べに行ったのか。」
 先にお偉方どもの批判をしたが、と、キャメルは頭を掻いた。彼女も本来ならこの街に住んでいても良い人だ。しかしながら、タイタニア警備隊創設者の一人、著名な冒険家のミハイル・エルミロフとその娘のファラオ三尉こと、エカチェリーナ・エルミローヴァはそういうことを潔しとせず、労働者どもと一緒に「02」の簡素な住宅団地に住んでいる。
「ヤビンスキーもまじめに仕事をする気になっているかもな。」
 一〇億キロ以上離れた所にいるタイタニアの現指導者の事を考え、キャメルは苦笑した。初対面の時にはあまり良い印象はなかった。今でもそれは変わりない。
 しかしながら、「01」の被災以降、急激に増えたサイド5の首相公邸からの報告の要求と、資料や調査の要求を見るにつれ、最近ではほぼ矢の催促だが、彼も少しは政府の「ブルジョア」のために仕事をしてやろうという気になっている。
「おまえさんの死は無駄にしないよ。」
 キャメルは首輪の置かれた木の墓標に語り掛けた。前回は不意を打たれた。今回はそうはさせない。守ってみせる。

                          (後の話に続く)




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