曹が無線機で警察無線を傍受している。
「気付かれたようですね。この先、非常線(コルドン)が張られています。」
迂回しましょう、ハイマンが自動車のハンドルを切った。彼の属するベルデン社はジオンの会社であり、元々彼はこの街の地理に詳しい。すかさずコルテスが道路を確認し、チャオナタサが警察無線からの距離をチェックする。
「あなたたち! 夫の手の者じゃないの!」
はい、そうです、と言うライヒは夫人に詫びつつ、最初に邸内に侵入した時のことを思い出した。恐るべきことに夫人はフリルの付いた晴れ着に着替えると、表の警備兵に挨拶して出ようとしたのだ。鋭敏な娘のアルマが彼らの意図に気付き、気位の高い夫人は晴れ着のまま、ライヒらと共に屋敷の塀を乗り越えることになった。服を汚された夫人は彼らにご立腹である。
「お母様、この人たちにもこの人たちの事情があるようですわ。今は我慢してライヒ中佐の言うことに従いましょう。」
ね、と、アルマが魅力的な瞳でライヒの顔を覗き見た。今年で三〇歳になる中佐は、はい、と、頬を赤らめた。彼らの車は宇宙港ではなく、郊外の今は使われていないゲートに向かっている。そこに艦隊の高速艦が待機しているはずだ。
(後の話に続く)