裏銀座縦走  
…北アルプスの山…


  野口五郎岳〜水晶岳〜鷲羽岳
  (2924m)(2977m)(2924m)
三俣蓮華岳〜槍ヶ岳
  (2841m)(3180m)


一日目
高瀬ダム〜烏帽子小屋〜野口五郎小屋

二日目
野口五郎小屋〜野口五郎岳〜水晶岳
〜鷲羽岳〜三俣蓮華岳〜双六小屋

三日目
双六小屋〜槍ヶ岳〜槍平小屋

四日目
槍平小屋〜新穂高温泉

   
平成19年8月25日(土)〜28日(火) 

天気 
25日晴れ 26日晴れ
27日曇り 28日曇り後雨 
好山好山旅会 5名

      

一日目の行動はブナ立尾根をこなした余勢で野口五郎小屋へ

高瀬ダムの堰堤でタクシーから降り、不動沢トンネルに向かって歩く。不動沢トンネルの中ほどは真っ暗闇で足元が見えず、歩道の手すりに右手で感触を得ながら足を運んでトンネルを抜け出た。

すぐ先で吊橋を渡り、濁沢の広い河川敷を越えて対岸に渉ると潅木の茂みに北アルプス裏銀座登山口と記した標識が立っていた。ここまでに要した時間は30分ほどだ。

          〔高瀬ダム〕                             〔登山口〕       

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〔石と木の幹に数字が〕
見上げれば断続にアルミ製の階段が施してあり、しばらく息をつかせぬ急な登りが続く。

鬱蒼と生い茂る樹林帯の斜面にはテンニンソウ、カニコウモリ、ソバナ、コキンレイカ、ギボシが咲き、ツバメオモトは藍色の実を付けていた。

道々の平坦になった場所に、なぐり書きしたような赤ペンキの文字は尾根の末端から烏帽子小屋までの行程を12分して、それぞれの地点に1から12までの数字を付したものであり、ひとつおきにその都度休憩を取る目安にした。

烏帽子岳の聳える稜線はすでに木々越しに見えており、右前方の緑色のすっきりした山岳は船窪岳(ふなくぼだけ)に連なっている不動岳(ふどうだけ)のようである。

針葉樹林が優勢になると道がゆるみ、ブナ等の自然林が広がると急になるように思えた。

右側にガレ場を見てしばらくすると三角点の標識が立っている場所に出る。




〔不動岳か?〕


〔餓鬼岳、唐沢岳〕
このあたりでは燕岳を指し示すことができ、燕岳(つばくろだけ)から深い鞍部を経て北側にシルエットになって連なる山が餓鬼岳(がきだけ)であり、さらに目の前に迫ってくる山は餓鬼岳から西側に稜線を延ばした唐沢岳(からさわだけ)だ。

頭上を包む巨木は周囲から姿を消し、明るいダケカンバが目立つようになれば稜線に近い。

あえぐように登って主稜を越え、烏帽子岳(えぼしだけ)の分岐を右側に見る頃には同時に烏帽子小屋の青い屋根も左側に見渡せる。

小屋の前はまるでイワギキョウだけ揃えて咲かせているように見えたが、しおれて見る影もなかった。

時間は11時を過ぎたばかりであり、所期の目的通りに野口五郎小屋まで目指すことにした。

昼食を済まし、烏帽子小屋前を出発したのが12時ちょうどである。

テント場の脇をすり抜けるようにして少し下り、樹林を抜けたらすぐ白い砂礫の尾根道だ。


〔烏帽子小屋〕
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〔テント場から三ッ岳〕
左側の遠方では槍ヶ岳の尖峰が天を突き、右側には厖大な量感の薬師岳がどっしりと根を下しているのが見え、歩く先々ではコマクサが咲いていた。

目の前のピークが三ッ岳(みつだけ)であり、直下になって左側から回りこむようにして山頂に立った。

三ッ岳から今日歩いてきた経路を振り返ることができるばかりか、午後のこの時間になっても北アルプスの居並ぶありとあらゆる峰々が姿を出していた。

ここからはのっそりした野口五郎岳(のぐちごろうだけ)を終始見すえて歩く。

野口五郎小屋まで2時間余りの行程を残しているが、午後の遅い時間になっても天気の崩れなどまったく意に介しないで済み、一歩一歩前に向かって進む。

巻き道を主流にして進むので、登っている手ごたえは乏しいが、時間が経つにつれ野口五郎岳が迫ってきているのが分かる。




〔山腹に伸びる巻き道〕


〔奥の山が野口五郎岳〕
展望コースとお花畑コースの分岐も巻き道のお花畑コースを選び、その後広い尾根を進む頃には傾斜が急になって一段落した場所に野口五郎小屋が建っていた。

野口五郎岳の直下に当たり、見た感じは四囲を山に守られた、くぼんだ場所である。

到着したのが15時45分であり、夕食の時間まで1時間あまりビールを飲んではその後ザックの中を整理し、食事を終えたら布団一枚独占して早々にもぐりこんだ。


二日目は名峰の水晶岳、鷲羽岳をこなして双六小屋へ

野口五郎小屋を5時40分に出発した。空が明らむ前に小屋の外に出てみたがシャツ一枚でも寒さを感じなかった。今日も昨日同様に天気は申し分がないようだ。

小屋前から山頂の標識が見えて野口五郎岳は目と鼻の先であるが、20分もかかるということだ。空全体が目の覚めるような紺色を映し、野口五郎岳からの展望も余すところがないほど広がっていた。

     
    〔野口五郎小屋から山頂〕                 〔野口五郎岳の山頂の広がり〕       

10分ほど山頂にとどまり、鞍部に向かっていったん下る。目前のピークは右に巻き、次にひかえる真砂岳(まさごだけ)はないがしろにするにはもったいないほどのピークで、巻き道の途中で薄い踏跡をひろって山頂に立った。

10分ほどで登れるはずだ。東側に伸びている尾根は一度下ったことのある竹村新道だ。視線をそのまま遠方に移すと稜々とした尾根が槍ヶ岳の方向に伸びているのが見え、これは北鎌尾根のようである。

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〔水晶小屋から振り返る〕
真砂岳から尾根通しに急坂を下り、鞍部に降り立つ手前で竹村新道を左側に分け、鞍部から先はしばらく足元に傾斜の落ちている岩稜帯の尾根を歩く。

左右が切れ落ちていて慎重に歩かなければならないが、花もめっぽう多いところでもある。

時期が時期だけに盛期は過ぎているが、ウサギギク、ハクサンフウロ、ヨツバシオガマ、イワギキョウ、他の花の名前は知らないが好き勝手に咲いている次第だ。

岩稜帯を越えるとしばらく尾根を右側に巻いて歩き、その後尾根に乗ってから下った鞍部が東沢乗越である。

登り返しの尾根はそのまま水晶小屋の建つ高台に向かっているように見えるが、中間でもう一度鞍部を経る。

中間の鞍部の登り返しは崩壊ぎみの赤土の上を歩き、水晶小屋の直下にあたる所では階段状の道になり、左側の傾斜には青空をバックにして色とりどりの花が一面に咲いていた。



〔水晶小屋の建つ斜面はお花畑〕



〔水晶岳に伸びる道〕


水晶小屋は建て直したようであり、二階部分は増築されていた。水晶小屋の前にザックを置いて空身で水晶岳(すいしょうだけ)に向かう。

水晶小屋の前の道は通行を閉ざしており、小屋の裏に回って左右に草地の広がるなだらかな尾根を進む。

ここにも花がたくさん咲き、岩稜帯に入ったら岩を越して登っていく。

水晶岳は北アルプスの中心部に当たるとガイドブックにも記され、四方八方の峰々をあまねく見渡せる。

水晶岳に立って高天原山荘の赤い屋根が見えることを期待していたが、温泉沢ノ頭(おんせんさわのかしら)寄りにもっと進まなければならないようだ。

水晶小屋に戻って昼食を済まし、小屋を後にしたのが11時である。標識の三俣蓮華岳(みつまたれんげだけ)の行き先にしたがって鞍部に下る。

前方のなだらかな山の傾斜に見えている道筋は爽快感をそそり、浮かれ立つようにして歩いた。尾根を回りこんだ場所にワリモ北分岐の標識があり、ここで雲ノ平、高天原方面の道と分ける。



〔水晶岳の山頂は真ん中である〕

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〔鷲羽岳の登り〕
ワリモ岳に向かっている道は右側に巻いており、どの時点で山頂に向きを変えるのかと思ったが山腹にワリモ岳の標識が立っていた。

ワリモ岳を見上げて腑に落ちないまま鷲羽岳(わしばだけ)に向かい、30分ほどで登りきる。

鷲羽岳は端整ないわゆる格好いい山であるが、百名山を実感するには三俣山荘側から登ってこそ発揮できそうである。


50分ほどかけて三俣山荘まで下り、しばらく休憩した後、三俣蓮華岳に向かった。

テント場を過ぎ、沢状の石屑の上を歩いた山頂直下の台地に分岐の標識が立ち、三俣峠の名を記してあった。三俣蓮華岳はこの間を往復する。

その後の向かう先は宿泊先の双六小屋であり、巻き道は足下の高原に付いていた。40分足らずで三俣蓮華岳の全行程を終え、高原に下った。




〔三俣峠〕


〔三俣峠から高原状の道へ)〕
高原からカール状の中の道を歩き、ここも周囲はお花畑であるが、今は疲れもあいまってそんなことはよそに気持ちの中は早くも双六小屋に着きたいことだけを願っていた。

双六岳の尾根道に合わさったら小屋までいっきに下る。

双六小屋に16時35分に着き、さっそく夕食は17時からと告げられ、ビールでゆっくり喉を潤す暇もないほどだった。


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 〔登山道からの風景・クリックすると拡大します
 
 
 



三日目は西鎌尾根で秀峰の槍ヶ岳に登ってから下山に赴いたのは予定外

早朝から波瀾を含んだダイナミックな雲が山の稜線を這い回っていた。夕べの話し声はまさに的を射たものであり、天気は下り坂に向かっているようだ。

前夜の打ち合わせですでに今日中に槍ヶ岳を下ることはメンバー全員周知である。朝食を済まし、5時50分に双六小屋を出発した。

     
  〔西鎌尾根はここを登る〕                   〔このピークは右に巻く〕       

直面するのは壁のよう迫っている山の斜面だ。ジクザクに足を運び、山の陰から尖がったピークが現われて目前になると直登になり、すぐ先で意表を突いてそのピークを右側に巻いた。その後広い尾根に出てジクザクに登ると間もなく樅沢岳(もみさわだけ)である。

40分間の急な登りだったが、ここからは緩やかな尾根歩きである。今では雲も山の稜線にのしかかるようにして空全体を覆い、稜線にかかる黒い雲の下から日の光がもれていた。

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〔樅沢岳〕
樅沢岳から下った先でお花畑が広がり、イワオトギリ、オタカラコウ、オニシモツケ、イワギキョウ、トリカブトなどが咲いていた。

登り返している台形状のピークも途中で右側に巻き、周辺は右を向いても左を向いてもお花畑である。

ウスユキソウ、イブキジャコウソウ、ウメバチソウ、ダイモンジソウ、コバイケイソウ、ハクサンフウロ、ミヤマダイコンソウなどを次々に目にすることができ、登ったものだけが浴する特典だ。

ウサギギク、ハクサンイチゲはまだ健在なものがあり、チングルマの花も一部に残っていたほどだ。

樅沢岳を後にしてからずっと対面していた槍ヶ岳も尾根の連なりにすぎないピークに一度さえぎられて姿を隠し、そのピークを右側に巻いて前方に立つと槍ヶ岳がいっきに迫ってきた。





〔チングルマが穂に変わる直前は白いそうだ〕



〔西鎌尾根の後半〕
山頂直下の険しい尾根が槍ヶ岳に突き上げているのを真横から迫力を持って眺めることができ、その後タカネナデシコが咲き乱れている急坂を下って登り返す頃にはお花畑は影がひそめ、登山道は石屑の細尾根に取って代わる。

天気は持ち直しているようであり、背後の鷲羽岳あたりでは厚い雲が切れて稜線が覗き、ジャンダルムの方向では真っ白なガスが昇っては不意に晴れ渡ることを繰り返し、その度に澄んだ青空が目に入ってきた。


ガラガラした岩場を歩く頃になると鎖も現われるが、足元の急な傾斜を警戒してのことだ。

千丈乗越は長い登りを迎える鞍部の位置になり、エアリアのコースタイムに2時間と記して直下の登りにしては途方もなく長い。

槍岳山荘の建物を真上に見える頃では傾斜の度合いは生半可ではなく、こきざみに何回もジクザクに切って稜線を越した。


〔槍ヶ岳直下の登り〕

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〔西鎌尾根を振り返る〕
稜線の直前に槍ヶ岳の肩と記した標識が立ち、取るものを取あえず反対側に気が急いた。

殺生ヒュッテ、ヒュッテ大槍を足下にし、20年ぶりの光景を目の当たりにして気持ちがはずんだ。歩いたことのある東鎌尾根の行く末にじっと目を凝らし、再現するように尾根筋を追ってみた。

水俣乗越の登り返しは並大抵の苦労ではなく、目線と同じ高さにある西岳から北側に遠く離れていく大天井岳(おてんしょうだけ)に思いをはせた。

稜線の南側にさも独立峰のように並んでいる三角形の山は常念岳(じょうねんだけ)である。

しばらく槍岳山荘の前の石敷の上に座り、空身で槍ヶ岳に向かっていく登山者の後姿を見送った。

遠目から岩場にしがみ付いて必死に登っている様子であるが、両手をブラブラさせて下ってくる登山者もいるので人が一人通れるほどの道幅も岩峰に通じている所があるようだ。




〔穂先の下りしな〕


〔飛騨乗越から下って間もなく〕


〔赤く見えるのはウラジロタデ?〕
 
岩峰の登山者がまばらになった頃を見はからって槍ヶ岳に向かい、5メートルほどの垂直のハシゴを最後にして登り切れば山頂だ。周りの風景をそわそわと眺めただけですぐ下り、槍岳山荘の前に座ってまた長い休憩と決め込んだ。

20分後に槍岳小屋の前を出発してテント場の中を下っていき、鞍部の飛騨乗越から広い斜面をジクザクに下った。丈の長いウラジロタデが山の斜面を埋め尽くし、赤みの帯びた花は秋の気配を誘っていた。間もなく潅木の茂みに入り、今日の宿泊先である槍平小屋は1時間15分後に着く。


槍平小屋に泊まった翌日の四日目は雨の中を新穂高温泉へ

外の様子は朝方まで雨が降っていたようであるが、時間を置いていつまた降り出すか分からない空模様である。今日は途中で雨に降られることは覚悟の上だ。何はともあれ雨具をザックからすぐ取り出せるようにし、槍平小屋を6時10分に出発した。

湿気にうるんだ岩を平にならした登山道が伸び、右側から林間を通して飛騨沢の流れが耳を突いていた。その後は岩のでこぼこした道がずっと続き、右下に見えている飛騨沢を先で合わせるようにして高みから下って滝谷出合を過ぎ、さらに傾斜の乏しい道をしばらく歩いたら目の前に白い河原が広がる。

この場所が白出沢出合であり、河原を越した左側に避難小屋が見えていた。やがて道が林道になるやいなや、突然雷鳴とともに雨が降り出した。新穂高温泉に1時間30分の行程を残していたが、ここまで足を伸ばせば先が見えており,舗装道路に出たら間もなく見覚えのある新穂高バス停に着く。

--コースタイム--
一日目
 高瀬ダム 6:45 北アルプス浦銀座登山口 7:15 三角点 9:45
 烏帽子小屋 11:15〜12:00 三ッ岳 13:25〜13:35 展望コース分岐 14:00
 野口五郎小屋 15:45                 −行動時間− 9時間00分

二日目
 野口五郎小屋 5:40 野口五郎岳 5:55〜6:05 真砂岳 6:40〜6:45
 東沢乗越 8:25 水晶小屋 9:15〜9:20 水晶岳 10:00〜10:10
 水晶小屋 10:40〜11:00 ワリモ北分岐 11:30 ワリモ岳 11:50〜12:00
 鷲羽岳 12:30〜12:35 三俣山荘 13:25〜13:40 三俣峠 14:25
 三俣蓮華岳 14:45〜14:50 三俣峠 15:00〜15:05  双六岳分岐 16:25
 双六小屋 16:35                  −行動時間− 10時間55分
三日目
 双六小屋 5:50 樅沢岳 6:30〜6:40 千丈乗越 9:40 
 槍岳山荘 10:55〜11:45 槍ヶ岳 12:05 槍岳山荘 12:30〜12:50
 飛騨乗越 13:00 千丈乗越分岐 13:55 槍平小屋 15:25
                               −行動時間− 9時間40分
四日目
 槍平小屋 6:10 新穂高温泉 9:25
                               −行動時間− 3時間15分     
--参考地図・図書--

 「山と高原地図 5万 剱・立山、鹿島槍、上高地」