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レジリエンスの重要性
ー精神的回復力と危機耐性ー
香川大学教育学部助教授 阪根健二
困難な状況にもかかわらず,うまく適応出来る力をレジリエンス(resilience)と言います。環境学でも生態系の回復力として、レジリエンスを重視しています。耳慣れない言葉ですが、特に心理学的特性を反映する尺度として、レジリエンスの先行研究は多くあります。
研究では、「肯定的な未来志向性」「感情の調整」「興味・関心の多様性」「忍耐力」の4要因をレジリエンスの状態にある者に特徴的な心理的特性とみなし,新たに精神的回復力尺度を作成しており、因子分析の結果,精神的回復力尺度は「新奇性追求」「感情調整」「肯定的な未来志向」の3因子で構成されることが明らかにされました。また精神的回復力尺度は”自尊感情”と正の相関を示す一方で,ネガティブライフイベント経験数や苦痛ライフイベント経験数と無相関であることが示され、分散分析の結果,苦痛に満ちたライフイベントを経験したにもかかわらず”自尊心”が高い者は,そのような経験をして”自尊心”が低い者よりも精神的回復力が高いことが明らかにされました。(小塩他*注1)
やや難しい内容ですが、ようは、困難に立ち向かう力には、”自尊心”が重要であるということです。そのため、子どもが立ち直っていく過程では,子どもや家族が持っているエネルギーを引き出すことが必要でしょう。
現在、社会問題となっている児童虐待(最近では中学生の問題も取り上げていますが、特に幼児期でも)においても,虐待を受けた子どもが成人になり、再び自分の子どもを虐待してしまういわゆる世代伝播が指摘されています。この問題では,児童期のトラウマ的出来事等から立ち直り、いわゆる良識ある成人に育つ能力としてのレジリエンスが特に重要であり、虐待の連鎖を断ち切らなくてはならないと考えるのです。実は児童自立支援施設に入所している子どもの約6割が被虐待経験者であり、そこから非行や不登校が発生している現実を見つめなくてはなりません。自尊感情の欠如が、結果的に逃げられる物理的な状況があったとしても、虐待から逃れられない自分がそこにあったのでしょう。
さて、レジリエンス(回復力)の構成要因は,@安定した家族環境や親子関係、Aセルフ・エスティームや共感性、Bコンピテンス,スキル,ユーモア,そしてコミュニケーション能力などの様々な因子があるのですが,これを促進するような具体的アプローチ(教師等の支援)が望まれると思います。
2月29日(日)に大阪において、学校危機管理メンタルサポートセンター国際フォーラムが開催されます。ここでのテーマは、”トラウマとレジリエンス”です。諸外国の実態やその対策について是非聞きたいと考えています。
あわせて、現代の複雑な学校教育の周辺でも、リスクを把握して順応性があるメカニズムを創り出し、自らのレジリエンス(リスク・危機耐性)を高めていくことが要求されると考えます。相互依存性がより深まっている今日、学校としての経営戦略とリスク対策の統合は不可欠であり、問題解決を支援するシステムが一層求められるでしょう。
もし、虐待の事実(疑い)があれば、児童福祉法25条(注2)、 児童虐待の防止等に関する法律5条(注3)等で定められている”通告義務”をどう捉えるのか、それも具体的な方策を検証すべきだと考えます。大阪の中学生虐待事件もそういった背景があるのです。
注1)小塩真司・中谷素之・金子一史・長峰伸治 2002 ネガティブな出来事からの立ち直りを導く心理的特性−精神的回復力尺度の作成− カウンセリング研究,35, 57-65.
注2)第25条 保護者のない児童又は保護者に監護させることが不適当であると認める児童を発見した者は、これを福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない。
注3)第5条 (児童虐待の早期発見) 学校の教職員、児童福祉施設の職員、医師、保健婦、弁護士その他児童の福祉に職務上関係のある者は、児童虐待を発見しやすい立場にあることを自覚し、児童虐待の早期発見に努めなければならない。
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