ハイスクールあさりちゃん

本編5

「実は今のケーキ、僕の母さんが焼いたケーキなんだ!」
「へ〜、お母様料理お上手なのね♪」
 あさりは期待に満ちた目を輝かせながら葵に訴えかけていた。
「お母様のケーキがもっと食べたい。また食べたい」と。
 あさりはそれを目で訴えているだけで、実際に口に出している訳
ではなかった。
「いいよ。また食べさせてあげる!」
「えっ?」
 自分の気持ちがテレパシーででも送れたのかと思わせるような言
葉が、葵の口から出た。
 その言葉にあさりは、驚きで目を見開き、勢いよく葵の方へ振り
返った。
「な、ななな、何であさちゃんが思ってること分かったの?」
 あさりの言葉に葵は、
「それは、あさりちゃんを愛している僕だからなせる技なんだよ!」
 ウインクをしてそう言った。
 そんな葵の台詞に、
(この言葉がこんなに恥ずかしいモノだったなんて――)
 恥ずかしさで赤面して、俯いていた。
「あさりちゃん。頬にクリームが付いてる」
「えっ?」
 赤面しているあさりを笑顔で見ていた葵は、あさりの右頬に先程
のケーキのクリームが付いていることに気づき、葵は自分の右頬を
指差しながら、あさりに教える。
 葵が自分の右頬を指差すものだから、あさりは勘違いをして左頬
を触る。
「違う、違う。こっち」
 あさりの間違いに葵は笑顔で右手を伸ばし、あさりの右頬に付い
ているクリームを舐めた。
「!!!!!」
 葵の突然の行動に、あさりは赤面して後退る。
「な、ななな、何すんのぉ??」
 あさりは裏返った声でそう聞いた。
「何って、クリームを取ってあげたんだよ」
「取ってあげたって……普通に手で取ればいいじゃない」
「あさりちゃん――」
「えっ――」
 あさりが後退りした方には、葵のベッドがあり、葵はあさりの方
にじりじりと近づく。
 先ほどの行動のせいで、あさりは微妙に拒否反応を起こしてしまっ
たらしく、更に後退りし、ベッドまで乗り上げていく。
 そして、そのまま勢い余って、葵はあさりをベッドの上へ押し倒し、
片手であさりの両手をあさりの頭の上で押さえ、あさりの服を脱がそ
うとする。
「えっ、あ、ちょ――」
 あさりは慌てて葵の手を振り払おうとするが、流石のあさりでも葵
の力には勝てない。
 あさりと葵の力の差は歴然だった。
「葵くんッ」
 あさりが止めて欲しいと思う一心で、葵の名を大声で叫ぶと、葵は
正気に戻り、その手を止めた。
 その時の葵の表情は絶望でいっぱいだった。
「ぼ、僕は何てことを……」
 自分が犯してしまった行動に、葵は罪悪感を感じ、目に涙を浮かべ、
それを拭う。
「あさりちゃん、ごめんね」
 葵は顔を上げ、ぎこちない笑顔であさりに謝った。
「葵く――」
「今日は、もう帰ったほうがいい」
 葵の言葉にあさりは「気にしないで」と言おうとしたが、それを葵
の声に遮られ、最後まで言う事ができなかった。
(葵くん、苦しそう……)
 その時、葵は苦虫を噛み潰したような、苦い表情をしていた。
 そんな葵にあさりが暖かい手を差し伸べようとした時、
「早く帰ってッ。ぢゃないと、さっきの二の舞になる……」
 葵はあさりの手を振り払い、大声でそう言った。
「じゃぁ、お言葉に甘えて帰るね」
 あさりはそう言って葵の部屋を出て、帰って行った。
 あさりが玄関を出たのを確認してから、葵は枕を手に取り、
「くそっ、くそっ、歯止めが――歯止めが利かなかった……」
 枕を振り回しながら大声で叫ぶ。
「あぁ……明日、どんな顔であさりちゃんに会えばいいんだ……」
 枕を振り回したことで、枕が破れ、中に入っている羽毛が部屋中に
飛び交った。
 そんな中、葵は頭を抱え込んで悩んでいた。


 翌日――
 この日、あさりが学校に登校して来てから、まだ一度も葵に会えて
いなく、そのまま昼休みを迎えた。


 いつもなら、昼休みになった時点であさりの元へ飛んで来るのに、
今日はいつまで経っても葵が来ない。
「………」
 昼食を食べ終えてから、あさりは無言で廊下の方を見つめている。
「今日は荒川君来ないねぇ」
「――うん……」
 無言でぽけーっと廊下の方を見つめているあさりに、璃音が声をかけ、
それにあさりは少し間を置き、返答した。
「……荒川君と、何かあったの?」
「えっ? 別に何もないよ」
 あさりの少し落ち込んでいる様子と、なかなかあさりの元へ飛んで
来ない葵のことが気になり、璃音はあさりに聞いてみた。
 その質問に答えるあさりの声は微妙に裏返っていた。
「ふーん(絶対嘘だわ)」
 あさりの嘘は璃音にはバレバレであった。
 璃音の質問で、あさりは昨日のことを思い出していた。
 あさりの嘘を知った上で、璃音は深追いしなかった。
「ねぇ、いつもこっちが荒川君を待つんじゃなくて、たまにはこっち
から会いに行くのもいいんじゃない?」
 数秒経ってから、璃音は自分の考えを述べてみた。
「あっ、そっか。そうすればいいのか!」
 その行動を行えば良いことを、璃音に言われ、あさりは初めて気が
つく。
「じゃ、行ってくるッ!」
 そう言って、あさりは隣のクラスへ飛んで行った。


 璃音に言われ、あさりは隣のクラスへ行き、クラスの人に葵を呼ん
でもらった。
「おーい、荒川ー。彼女が来たぞー」
「えっ?」
 クラスの男子に呼ばれた葵は驚いた様子で、
「い、居ないって言ってくれ」
 その男子に小さな声でこっそりとそう言い、あさりに見つからない
ように教室を出て行った。
 葵は教室に居ないと告げられ、あさりはその男子に、何処へ行った
か知らないか、と尋ねる。
「さぁ? 黙って出て行ったからなぁ……」
「そう……」
 一言言い残し、あさりは他人に尋ね尋ね葵を探す。
 情報をくれた人が居た。
 その人の話によると、葵はこそこそと走りながら、屋上の方向へ行っ
たらしい。
 あさりは情報のとおり、屋上へ向かった。
「葵くんッ」
「!」
 あさりは葵の名を叫びながら、勢いよくドアを開け、葵は後方から
の声に、勢いよく振り返った。
「あ、あさりちゃん……」  あさりは息を切らし、その息を整えながら葵に近づき、葵は強張っ
た表情で待ち構える。
「何で今日はあさちゃんのところに飛んで来ないの?」
 そう言いながら、あさりは涙を流す。
「――っ」
 その涙を見て、葵の表情は更に強張る。
「だ、だって――昨日のことで、あさりちゃんに嫌われたかと思うと、
どうしても顔を合わせられなくて……」
 葵は強張った表情のまま下を向き、自分の涙を隠しながらそう言っ
た。


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