中村 洋子(旧春日)

紅葉の季節が始まりました。京都の紅葉を求めてまた観光客が増えることでしょう。
  私は夫の仕事の関係で昭和50年から4年間、京都に住んでおりました。住まいは有名な北区大徳寺の塔頭に接した借り上げ社宅でした。 そこに引っ越して間もない頃の出来事で、今でも忘れられない思い出があります。 
 その日、朝、夫や子供を幼稚園に送り出して一息ついていた時、突然、玄関で低〜い、太〜い、大きな唸り声が 「うぉ〜〜うぉ〜〜うぉ〜〜」びっくりして玄関に行って みると、ガラス戸に黒い大きな人影が3つ4つ。鍵を掛けているとはいえ得体の知れな い出来事に、私はただただ恐ろしく、末っ子をしっかり抱きしめてその場に固まっていました。しばらくしてその声がパッタと止み、人影が動き5〜6人の行列が静かに去って いきました。
  大徳寺の修行僧の托鉢だったのです。私がなにもお布施をしなかったのであきらめて立ち去ったのです。近所の家はどこも素通りしていたので、きっと新しい表札を見て「ちょっとここでやってみるか」 という軽いノリだったのかもしれません。でも私にとっては恐怖以外のなにものでもありませんでした。考えてみてください。僧侶が5〜6人、あの 朗々とした声で、私が聞き慣れないお経を玄関先で唱えたのですから。 それ以後は我が家も素通りしていきました。彼らは時々5〜6人の行列を作り、托鉢に出ていました。雪が降っても裸足にわらぞうり姿でした。
  今は新宿から40分のところに住んでいます。時々、新宿駅を出たところに立っている僧を見ると(彼は足袋をはいていますが)あの日のことを思い出します。         中村洋子

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