昨年の秋、ベトナム最後の王朝、グエン王朝の首都フエを訪れました。


◆世界遺産の街、フエ

フォンザン(香江)川に沿ったフエ郊外には、歴代皇帝の墓陵があり、その周りには多くの線香を製造するお店が立ち並びます。

街道沿いのお店に立ち寄ると、こちらでは2種類の線香が製造されていました。


◆渦巻き線香

ひとつは渦巻き型の線香で、寺院の天井に吊し、線香の中心についた紙の短冊
にお願い事を書き込みます。大きいサイズのものは、ひと月ほどゆっくり燃え続けるそうです。

◆竹ひご線香

もうひとつは、鮮やかな色に染められた竹ひごに、手作業で1本1本線香の生
地を練りつけて乾燥したものです。


◆海を渡る沈香

これが日本の線香の原型といわれています。


フエからラオスの国境に向かった高地の森林地帯でたくさんの沈香(香木)が
産出されたため、フエは線香産業が盛んになったといわれています。


9世紀頃
この地を治めていたチャム族(古チャム人)によるチャンパ王国は、優れた航海技術を持った交易国家で、正倉院に所蔵されていて「東大寺」の文字が織り込まれていることで有名な沈香、蘭奢待(らんじゃたい)は9世紀頃チャンパから日本に持ち込まれたと考えられています。

◆森が育てる薫り

沈香のできかたですが、森の中にあるジンチョウゲ科の木が風雨や病気・害虫
などによって樹幹や枝が侵されたとき、防御反応として芳香のある樹脂が分泌蓄積されます。

その樹幹や枝が長い期間土中に埋もれるなどの自然条件のもと、
芳香樹脂を多く含む部分だけが腐らず残り、沈香となります。


現在は、樹木を故意に傷をつけたり、根を切ることでできた樹脂の溜まった部分を取り出すなどして生産しているようですが、でき方や環境により香りは違い、ベトナム産のもの(シャム沈香)が香りがよいことで珍重され、とくに香りのいいものは「伽羅(きゃら)」と呼ばれています。



ベトナムでも「伽羅」はびっくりするような額で取引きされていますが、安物
の沈香に香料を練り込んだような偽物も多く、本物を見分けることは素人には相当難しいようです。


ベトナムなどインドシナ半島やインドネシアの険しい原生林で、長い時間をかけて自然につくられる沈香を発見することは難しく、相当な技術を必要としていました。

自然につくられた沈香はもはや掘りつくされたと言われています。

チャム族は、沈香のよしあしを見分ける知識と、どこに存在するかという情報を持っていたそうです。

現在でも時々、「国境の森林で大物の沈香を発見した人がいる!」などと、噂が流れると、各地から夢を求めて探しに来るひとがたえないんだとか。

沈香の「薫り」には、古今を問わず人心を惑わす魔力があるのでしょうね。