-- not to be wheedle , not to be misled --

トンデモ話検出キット
Archives11 カール・セーガン:『カール・セーガン科学と悪霊を語る』より

(概要)
「トンデモ話」とは、おそらく訳者の意訳だろうが、いわゆると学会の指す「とんでも」と重なるだろう。

「これは知識だ」という主張に出くわしたら、"トンデモ話検出キットを取り出そう。
 優秀なキットなら、そうした主張を吟味するときにやるべきことだけでなく、やってはいけないことも教えてくれるはずだ。
 また、よくある論理的な落とし穴や、言い回しの罠にも気づかせてくれるだろう。
 宗教と政治の分野には、そんな落とし穴や罠にはまった事例がたくさんころがっている。それというのも、宗教や政治にたずさわる人たちは、互いに矛盾する二つの命題をともに正当化せざるをえない立場に立たされることが多いからだ。

 以下にそんな例をいくつか挙げてみよう。

〈対人論証〉
議論の内容ではなく、論争相手を攻撃すること。
例:スミス師は聖書根本主義者である。したがって、スミス師が進化論に対してどんな反対意見を唱えようとも、まともに取り合う必要はない。

〈権威主義〉
例:リチャード・ニクソン大統領をぜひとも再選すべきである。なぜなら、ニクソン大統領は、東南アジアでの戦争を終結させるための計画をもっているからだ。あいにくそれは極秘計画なので、選挙人にそのすばらしさをわかってもらうすべはない。(これは「大統領なのだからニクソンを信頼しろ」ということに等しい。)

〈「そうじゃないと具合が悪い」式の論証〉
例:妻殺しの疑惑でマスコミをにぎわせた裁判があった。その裁判の被告人は、有罪にされるべきである。さもないと、男たちにどんどん妻を殺せとけしかけるようなものだ。

〈無知に訴える〉
虚偽だと証明されないものは真実だ、あるいは、真実だと証明されないものは虚偽だという主張。
例:UFOが地球に飛来していないという証拠はない。したがってUFOは存在しているそして宇宙のどこかに知的生命が存在している。

〈特別訴答〉
「手前勝手な議論」ともいう。苦し紛れに使われることが多い。
例 問:一人の女が、命令に背いてリンゴを食べるよう一人の男をそそのかした。
それぐらいのことで、慈悲深い神が後世の人々を苦しめるようなことを
    なさるだろうか?
  答:あなたは自由意志という難解な教義を理解していない。
例 間:一つの位格のうちに、父なる神、その子、聖霊が存在しうるものだろうか?
  答:あなたは三位一体の秘跡を理解していない。
例 問:神は、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の信者に対して、
    愛と哀れみという英雄的な手段をとるように命じられた。
    それなのに、どうしてこれほど長きにわたって
    残酷な行いをお許しになっているのだろうか?
  答:あなたはやはり自由意志がわかっていないようだ。
    いずれにせよ、神の計らいは神秘的なものである。

〈論点回避〉
 答えがはじめから決まっている。
 例:暴力的犯罪を抑制するために、死刑を制度化するべきである。
 (しかし、死刑を設けたからといって、暴力的犯罪の発生率は低下するだろうか?)

〈観測結果の選り好み〉

 「都合のいい場合ばかりを数える」ともいう。
 哲学者フランシス・べーコンによれば「当たりを数えて外れを忘れる」。
例:自州から大統領がたくさん出たことは自慢するが、連続殺人犯がたくさん出たことは黙っている。

〈少数の統計〉
「観測結果の選り好み」の親戚。
例:五人に一人は中国人だと言われているが、そんなはずはない。
  現に、私には百人の知り合いがいるが、中国人は一人もいない。

〈統計の誤解〉
例:ドワイト・アイゼンハワー大統領は、
  「アメリカ人の半数は平均以下の知能しかもたない」
  と知らされて、驚きと警戒の念を表明した。

〈無定見〉
例:旧ソ連で平均寿命が短くなったが、これは共産主義の失敗のせいである
  (共産主義は何年も前に消滅しているのだが)。
  米国の乳児死亡率は高いが、これは決して資本主義の失敗のせいではない
  (現在米国の乳児死亡率は、先進産業諸国のなかでいちばん高い)。

〈前提とつながらない不合理な結論を出す〉
「関係のない話をする」ともいう。
例:神は偉大なるがゆえに、わが国は栄える。
(「不合理な結論」にひっかかる人は、ほかの可能性に気づいていないだけの場合が多い。)

〈因果関係のこじつけ〉
「○○をやったら××になった。それゆえ、○○は××の原因である」
例:女が選挙権を得るまでは、核兵器は存在しなかった。
  よって、核兵器が作られたのは女が選挙権を得たせいだ。

〈無意味な問い〉
例:「無敵の力」が「不動の物体」に出会ったらどうなるか?
(無敵の力などというものが存在するなら、不動の物体は存在しないし、逆に、不動の物体が存在するなら、無敵の力は存在しない。)

〈真ん中の排除〉
「虚偽の二分法」ともいう。中間の可能性もあるのに、両極端しか考えないこと。
例:「問題を解決する気がない者は、問題を引き起こしている側の人間だ」

〈短期と長期の混同〉
これは「真ん中の排除」に含まれるが、重要なケースなので別項を設けた。
例:「栄養不良の子供のためのプログラムなど作れないし、就学前教育のプログラムも作れない。われわれに必要なのは、路上犯罪に緊急に対処することだ」

〈危険な坂道〉
「ブレーキが効かない」ともいう。これも「真ん中の排除」と関係がある。
例:妊娠初期の中絶を許せば、月満ちて生まれた子供も殺されてしまうだろう。

〈相関と因果関係の混同〉
例:調査から明らかなように、大学卒業者には、それ以下の教育しか受けていない層にくらべて同性愛者が多い。したがって、教育は人をゲイにする。

〈わら人形〉
「架空の論敵に吠える」ともいう。
例:(これは短期と長期の混同にも関係する。)環境保護論者は、人間よりもスネイル・ダーター(絶滅の危機に瀕しているスズキ目パーチ科の小魚)やニシアメリカフクロウの方を大切にしている。

〈証拠隠し〉
真理の反面しか語らない。
例:レーガン大統領暗殺計画の「予言」がテレビで放映された。その予言は驚くほどよく当たっていて、広く話題になった。(しかし、その予言は、事件が起こる前に収録されたのだろうか、それとも事件後に収録されたのだろうか?細かいことを言うようだが、これは重要なポイントだ。)

〈故意に意味をぼかす〉
「逃げ口上」ともいう。
例:アメリカ合衆国憲法に明記された三権分立によれば、合衆国は議会の宣言なしに戦争をはじめることはできない。一方、大統領には対外政策についての権限が与えられており、戦争の指揮が任されている。これをうまく利用すれば、大統領が再選を果たすための強力な切り札になるだろう。そこで、どちらの政党から出た大統領も、愛国心を煽り立て、戦争に何かほかの名前をつけて戦争の種をまくという誘惑にかられる(戦争の別名としては、政治行動、武装襲撃、防御反応、紛争解決、アメリカの権益防衛、大義名分のつくさまざまな作戦名などがある)。政治的なもくろみのもとに言葉が再発明されることはめずらしくない。なかでも戦争に対する婉曲語法は一大ジャンルになっている。タレーランはこう言った。「民衆にとって唾棄すべきものとなった古い名前の制度に、新しい名前をつけること−これは政治家としての重要なテクニックである」


 ”トンデモ話"には、以上のような論理的な落とし穴や言い回しの罠がある。これを知っておけば、われわれのキットは完成だ。もちろん、どんな道具とも同じように、〃トンデモ話検出キット"もまちがった使われ方をするだろうし、文脈をはずれて適用されることもあるだろう。
 考えることを肩代わりしてくれる、退屈な機械になりさがるかもしれない。しかし、このキットを賢く使えば、世の中を変えることができるだろう。とくに誰かと議論するときには、事前に自分の話をチェックしておこう。

(解説)



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