National Health Service(NHS) ナショナルヘルスサービス
    
英国の医療についての情報は多数あるのでここでは省略し、臨床現場にいる医療スタッフとしての目でみた内容でご紹介します。

日本の厚生省にあたるのがDepartment of Healthで病院を管理する組織はNHSナショナルヘルスサービスと呼ばれています。医療は現在どの国でも多大な費用のかかる事業になっており、どこの国も厚生省は赤字をかかえているようです。50年以上前に「ゆりかごから墓場まで」という国民すべてが誰でも医療にアクセスできるように始められたイギリスの医療は今大きくさまがわりをしています。

2002年11月16日付、Independent紙11面より
「NHSの外来受診および入院を待っている人は全国で100万人を超えているのが公式発表された。うち21週間以上待っている人の数は3万人を超える。また26週間以上外来受診を待っている人は多少減り、今年9月までの1年で716人・・・・」

問題だらけの医療?? 医者不足、看護婦不足、それで病棟が閉鎖、患者は海外へ。

これまでの公立病院をTrustという形にし、独立採算制を取り、医療の質の向上を高めようとこの10年ほどの間に大改革が行われました。別項目でThe Times紙で報告された各国の医療比較を掲載していますが、2002年度の国家予算の最大額が医療に配分されました。これは現在イギリスが多大な問題をかかえ、自国の医師や看護婦が減り、患者の手術が非常に長く待たされたり、病院の病棟が閉鎖されて入院ベッドが確保できなかったりという問題をかかえているためです。

医師をこれから6万人増加し、看護婦はその倍ほどを海外から雇う(主にフィリピン人)ということが計画されているのが現状です。イギリスでは病気になった場合にはまず登録している家庭医General Practitioner(GP)にかかり、GPが必要と判断した段階で公立病院へ紹介される形になります。

まず、GPに予約をとるだけで時間がかかるのが現実です。また登録していないGPにはかかれません。日本のように今かぜをひいて具合が悪いからといってすぐに駆け込んでもよほど重症でないと診てもらうことはできません。さらにGPから紹介されて公立病院で予約を取るだけでも場合によっては数ヶ月待たされます。(上記Independent紙参照)命にすぐに影響のない症状、たとえば老人の股関節の手術などは2年も待たされるため、昨年来、個人で保険に加入して早く治療を受けたい人はドイツやフランスの病院が受け入れを始めたので、海外にまで患者が行って手術を受けるということにまでなっています。やっと入院できたと思っても、今度は病棟のベッドが不足、閉鎖、はたまた医師が不足で手術のキャンセルもあり、一旦入院し手術室の手前まで来ても「すみません、医師がいないので帰宅して結構です。次回は2ヶ月先になります」などということも実際おこっています。誤診の多さも報道されました。色々な問題が実際起こっており、今、イギリスの医療は大変な時期に来ています。 時間の余裕のある方はプライベートの保険を購入してイギリスで受診するか、時間のかかるようであれば日本で医療を受ける方がベターな場合があります。


国民健康保険制度(National Health Insurance)

日本の医療保険制度の発想の元となったように、イギリスでは昔から国民健康保険制度が実施されています。働く人たちは給料からの保険医療費を差し引かれます。外国人もある期間イギリスに在住すると医療費が無料になることもあります。以前1980年代後半までは救急にかかる外国人旅行者もすべて無料の時代がありました。しかし医療費の問題が出て来たため、現在では老人も処方箋が有料になりました。

またEUに所属するため、ヨーロッパの国々からもイギリスへ医療を受けにくる場合の補助もあり、臓器移植などの高額医療もEUメンバー国の患者で条件が整えばあれば無料で受けられます。

GP制度

イギリスの医療はまずプライマリーヘルスケアのGeneral Practitioner(GP)と呼ばれる家庭医により築かれています。地域のGPに登録し、まず病気になったらGPに相談する、というのが普通です。GPは個人の開業医というのではなく、公立病院下に登録されてGPのもとには地域看護婦(日本の保健婦のような)、地域助Y婦、ヘルスビジター、各種セラピストやサポート職が付随しており、GPの指示や病院から退院して地域で医療が必要な人を対象に連携した医療をおこなっています。しかしながら、現在ではGPに予約を入れるだけで数週間待たされたりと医療の流れはスムーズではありません。NHSのホームページ内には、居住している場所の郵便番号を入れると、自分の家の近くのGPのリストが検索できるようになっています。

病  院

病院も大きく公立と私立に分かれてはいますが、一部公立病院の中にプライベートウイングという「私立病院扱い患者」をいれる病棟を設置しているところもあります。 病院へもGPからの紹介がないとなかなか予約を入れることもできません。現在設置されているNHSのサイトの情報では病院に予約をとるだけで最高26週間、緊急に必要でない入院、手術の場合には18ヶ月待つと書かれています。例えば、老人の大腿骨骨頭をリューマチなどで人工骨頭に置換する手術は2年待つといわれています。待つのはいやだということで、多くの人は個人の医療保険の通用する私立病院へ移動します。しかし、私立病院の殆どの専門医師は公立病院に属し、いざという時には私立病院には専門医師が不足したり、担当の医師が公立病院で診療をしていて留守であったり、医者はいても若い経験の足りない医者、ということで医療的問題も少なからず起こっています。

なぜこのようなことが社会福祉の整っているはずの国で起こっているのか。政策の問題以外に、医師や看護婦の不足があげられています(これらは政策の影響で減っているわけですが)。日本と同じ 「K」 の多くつくこの職種が他の職業と比較してかなり低い給料であることから、イギリスやアイルランドの看護婦はアメリカ、オーストラリアに多く渡っていき、イギリスには他のアジア・アフリカ地域の国からの看護婦が雇われてくる情況になっています。

Londonには日本語の通じるクリニックもありますが、いざ救急でなにかあった場合や病院での治療が必要な場合にはよほどのことがない限りはイギリスの現状の中に組み込まれ、「待たされる」ことになるでしょう。理解あるGPなどを見つけておくのがサバイバルです。

私の個人的印象

英国の医療には問題がありますが、一般的にイギリスの方がアメリカよりも患者に親切だと感じます。アメリカのように救急に、かたいストレッチャーに乗せて患者をほうっておくような医療は稀です。アメリカのように日本人にしてみると乱暴にみえるナースや、患者を人と思っていないような横柄な(はっきりしたというべきでしょうか)態度のアメリカ人の医者たちを見てきてイギリス医療をみればイギリスの医療のきめ細かさ、親切など、私はイギリスの医療は非常にすばらしいと感じています。ただ、病棟は非常に忙しく、すぐには面倒をみてもらえない点では同じ。しかし、患者の要望や家族の要望をよく聞いてくれるのはイギリスです。アメリカの医療は患者フレンドリーではなく、保険屋フレンドリー医療といわれています。医療が患者ではなく、保険屋のためにあるからです。英国のパリアティブケア(末期医療で治療目的ではなくその人の残る時間の質をどう高めるかを目的とする医療)やターミナルケア(末期医療)は非常にすぐれていますし、地域医療、在宅ケアは日本からすれば理想の国でしょう。

ナースという立場からすると非常に難しいのですが、イギリスの医療はよくても、医療従事者の給料は日本の以下、それで医療現場は途上国の出稼ぎ労働者で埋まるわけです。アメリカの医療はアグレッシブですが、医療スタッフの給料は日本と同じレベルかそれ以上です。アメリカは「金次第」の医療で経済的余裕があれば非常に高度の医療を受けられる一方、弱者の医療ではありません。英国の医療は「弱者医療」、非常にすばらしいケアがあらゆる意味でハンディのある人々に優しい医療をおこなっています。しかしこの医療がいつまで続くか、問題が山積みの国であるのも現実です。


(2002年の情報)
イギリスの医療
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イギリスの医療についてのサイト
National Health Service (NHS)  英語
http://www.nhs.uk/

NHS Direct イギリスのNHS関連医療情報など(英語)
http://www.nhsdirect.nhs.uk/

個人ホームページ
イギリスの医療改革と患者の参加
http://www.cybermed.co.jp/hirakareta/essay/essay04.htm#pagetop

私立病院関連
http://www.privatehealth.co.uk/
http://www.homeusers.prestel.co.uk/littleton/private-hospitals.htm