ランカスター大学で得たこと

生駒夏美 プロフィール
ダラム大学で得たこと
帰国後から現在まで


私の研究領域はいわゆる「女性学」とは違い、文学研究におけるフェミニズム批評です。

しかしフェミニズムの出発点が文学に多く依拠したものであったことからも判るとおり、
女性学の基本にフェミニズム文学批評があると思うので、ここで書かせていただきます。




ランカスターは一年間のコースでしたが、
日本人留学生は私一人、周りはイギリス人だらけという環境の中、

難解な理論と英語とひたすら格闘しました。

特にこのときはフェミニズム批評をする上での基本的文献、

Beauvoir
Virginia WoolfVera BrittainKate MillettBetty Friedanなどの
フェミニスト論者たちや、

Freud
LacanDerridaなどの現代思想論をたっぷり読まされました。

現代のジェンダー観がいかに男女不均衡なものであるかを感覚だけではなく、
頭で分析整理できたことも利点でしたが、
さらに、そのジェンダー観が決して固定のものではなく、
変わりうることだというのも現代思想を学ぶ中でわかりました。



当時は着いていくのに必死でしたが、
振り返ると、このようにずっぷりと理論に浸ったことで、
頑張れば何とか道は開ける、という自信がつきましたし、
また文化は違えども女性が共通に抱える現代社会の問題点があることを知り、
私の現在に至る研究テーマに出発点が与えられました。

同時に、英語で読み書き議論するという力を鍛えられましたので、
その後臆することなく世界に発信していける基盤を整えていただいた感じです。

この点は、ともすれば内向きになってしまう日本人研究者にとっては、
非常に大事な点だと思います。

世界の女性たち、ジェンダー研究者たちと協働していくことが、
やはり今後は必要であるし、それが日本のためにもなると思うからです。




コースでは、単に様々なフェミニズム理論を深く学ぶことができた
という知的満足感だけでなく、
やはり女性研究者たちの輝く姿、堂々とした姿を多く見られたことも収穫でした。

自分の目指すものは、これだったんだ!と初めて自分で納得した気がしたのを憶えています。

コースの内容も日本では教えられてこなかったことばかりで、もちろん刺激的でした。

理論以外のコースでも、
女性作家と自伝の関係などフェミニズムを展開した実践的コースが多く、
当時の日本では異端視されていたフェミニズムが、
すっかり市民権を獲得し確立された学問領域であることがわかりました。

この自伝のコースでは、よくある「偉人伝」が業績中心の男性的なものであり、
従ってそのような業績・偉業の少ない女性が
あまり取り上げられてこなかった領域であるのに対し、
私的領域のことを語る「自伝」が
女性にとっては開かれた領域として注目されていると知りました。

これまで「たいしたことではない」「つまらない」と位置づけられていた
家庭での仕事や育児など、女性にとっての重要な事柄は、
「偉人伝」では中心に据えられることなどありませんし、
触れられても彩り程度のことです。

しかし、「自伝」という形でこうした領域を私的領域から
「公的」領域に変えることができるわけです。

実際
70年代以降、欧米では女性作家による自伝ブームがありました。

この授業は非常に面白かったと同時に、文学の意味も教えてくれたような気がしています。

このことは自分の研究の立脚点に自信が持てずにいた私にとっては、
とても強力な支えになりました。




またこの一年間、私は大学の寮に暮らしましたが、
そこで世界各国からの留学生たちに出会ったことも、今の私を作った要素となると思います。

日本人とは違う価値観や文化を持つ友人たちと話をする中、
日本を相対的に見ることができるようになったからです。

「絶対これが正しい」という「常識」や「規範」が、
極めて地域・文化・時代的に限定的なものであるかを知りました。

このような見方は、
男性中心的な社会で生きる女性にとっては、エンパワリングであると同時に、
自分の考え方も固定化してしまわないように
常に自己批判させてくれる大事な感覚だと思います。


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