||三余||七都市物語:妄想

七都市物語 感想

田中芳樹『七都市物語』より

※あらすじの部分で、脚色はしても嘘は書いていませんよ、嘘は。


1.北極海戦線

2190年 ニュー・キャメロット対アクイロニア

アクイロニア市の元首だった父の急死で後ろ盾を失ったモーブリッジJr. は、身の危険を感じて他市へ亡命した。だが彼にはやらねばならない事がある。アクイロニア市は父が彼のために遺してくれたものだ。彼を追い出したニコラス・ブルームから元首の座を奪還しよう!
モーブリッジJr. は亡命先のニュー・キャメロット市で協力を訴えた。彼の熱意と情熱に動かされ、人々はアクイロニア市を奪還するために協力することにした。
一方その頃、モーブリッジJr. が自分に復讐しにくることを恐れていたブルームは、ブレインのリュウ・ウェイから秘密兵器を受け取っていた。だが、その秘密兵器の存在は、市民に非難の声を上げさせるものだった。

鋼の意志と勇気を武器に、モーブリッジJr. が腹黒い軍人と政治家たちに立ち向かう!


0

特異な世界と状況説明。
周知のようにから始まったので、「この前に何か書いてあったのか」と慌てた。ページ番号を見れば落丁じゃないのは分かるのにな。ところで一つ思ったんだが、なんで地上人は七つだけで満足してるんだろう。変なの。分裂するほどには国力にも人口にも余裕がないからか?

同士的連帯感は、競争意識と打算に取って変わられた。
まあ、当然だ。
「他者=月面人」に対して「我々=地上人」というアイデンティティで動いていたのが、それまでの地上人だった。ところが月面都市の沈黙によって、地上人は政治的アイデンティティを「地上人」から「所属都市の市民」に移し、それに伴って「他者=他都市」となった。その時点から「我々=母都市」と「他者=他都市」の間で争いが起こるのは必然だったと言える。ん、何の受け売りだ。でもギュンター・ノルトの亡命の時にまた同じ話をすることになりそう。

都市によっては、大転倒で生き残った人々と、その後に月面都市から移住した人々との間に、敵意や反感も生じた。
これも当然。どうも月面都市に住んでいた人達は一定以上の所得層(つうか階級)の人間で、地球に住んでいたのは低所得層みたいだから、元月面人には「旧地上人=貧乏人」と「我々=選民」の意識が根強く残ってるだろうし、逆に先住地上人には「旧月面人=大災害の時に地上を見殺しにした奴ら」とその裏返しの「我々=過酷な状況を生き抜いて来た生存者」の自意識があるだろう。都市によっては、なんて悠長なこと言ってられるのか。

対立はそれだけに留まらない。
移住の時も、できるだけ先祖の土地に近いところに住もうとするだろう。ブリテン島にあるニュー・キャメロットには元イギリス人、アメリカ人、オーストラリア人が殺到してそうだ(だからこそ保守的だのどうのと表現されるのだろうが)。
そして貧困層が一掃されたということは、まあ、アフリカ系とアジア系と中南米系の大部分がいなくなってしまったと。つまりタデメッカやブエノス・ゾンデは大転倒以前の歴史から断絶していると考えていい。
これらに加えてプリンス・ハラルド(完璧な新興都市だ)のような、新しく出来た都市と、ニュー・キャメロットやサンダラー(間違いなく東南アジアの富裕層出身者が多い)のような、大転倒以前の歴史を引き継いでいるつもりの都市とでは、伝統と新興の対立が起きるかもしれない。
うわー楽しい。

でも、読む人はうんざりしてそうなので、もう止める。これ既に感想じゃないし。

1

鋼玉に似た瞳も、気の弱いものなら正視しかねるであろう。
普通に言えばギルフォードの目付きは悪いって事だろう。軍師ビームでも出しそうだし(それは違う人)。鋭く尖った、指向性の強い光って何だよ。ちなみに鋼玉はコランダムといって、赤色コランダムといえばルビー、青色コランダムといえばサファイアを指す。生身の人間の目に使う形容ではない。失礼、義眼の調子が悪いようだ(それも違う人)。

2

ブルームの経歴が立派なのは良いが、33歳という年齢からすると、どうにも眉唾物に思える。高等政治学院を出てジャーナリズムと学界に身を置いたこともあり、なおかつ Dr.Ph だ? どういう人生を送ったらそうなる。腹立つなお前(絡みすぎ)。

ところでリュウ・ウェイのブルームに対する二人称が気になった。「お前さん」と「お宅」。どういう使い分けだ。この二人が友人ってのも、どういう経緯だ。単に年が近いからか。周りがジジイで話が合わないからか。後援はあるが派閥に属していない一年生議員と、人気はあるが利権と縁のない元首ということで、何か通じるものがあったのか。ブルームの愚痴ばかり聞かされてそうだが、リュウ・ウェイはそれでいいのか。

「しかし、まあ、お宅が言うなら引き受けるがね、お宅にだけは私のやることを信じていてもらいたいものだな。時には旅も悪くないかもしれない」
投げやりな話し方だが、ブルームに対しての気遣いが感じられなくもない。この二人の会話は、リュウ・ウェイがずけずけ言い過ぎるとブルームが気落ちして、それを見てリュウ・ウェイも慌てて持ち上げる、ブルーム復活、というのが基本パターンっぽいが。相手を上げたり下げたり苛めたりで面白い。

3

三十前で大佐だの准将だの、やってられないんだけどAAが医者の道を捨てたきっかけの時の中隊ってダメ過ぎないか。バイトの衛生兵に指揮されて撤退。それってどうよ。いいけどさ、別に。

口に出せばまたしても多くの敵を作ることは明らかだが、上官や同僚が「どいつもこいつも、ろくな奴がいやしない」ことはよく知っていたからである。
同じ事を迷わず口に出す男が南極にいる。嫌われる度合いの差は、この辺りに表われるのかもしれない。ということは、アスヴァールから分別を抜いたらクルガンに一歩近づけるんだ。無駄な発見。

「駄目だよ、A.A、私は他人に忠告することはできるが、命令することはできない。こういう人間は指導者にはなれないんだ。なる気もないね。何よりも指導者の必要条件は意欲だからな」
慌てて必死に否定してるが、アスヴァールは額面通りに受け取ったかどうか。

「強いて言えば、やる気がなさそうに見えるところがいい」
やる気がなさそうなところ、じゃなくて、やる気がなさそうに見えるところ、というのがポイント。日本語はこういう時に便利だ。

浮遊センサーの白い軌跡を遠くに認めて
そんな高速で動いている物なのか。きっと「あ、UFOだ!」とか空を指差しても「センサーだろ」で片付けられる時代なんだ。ちょっと味気ない。

4

副総裁、弱っ!

5

なぜ政府高官が逃亡を図ろうとするか。ニュー・キャメロットが攻めてくるといっても、戦う前から負けが確定するほどアクイロニアは弱い訳じゃないはずなのに。でも実は屋台骨がガタガタになってるという可能性は高い。モーブリッジ・シニア亡き後の政界編成が、ようやく落ち着いてきた段階だろうから。まだ新体制がしっかりしてないんだろう。

ところでブルームとリュウ・ウェイは長年の友人だったらしい。政界に入ってから知り合ったのでないとしたら、一体いつ。大学サークルの先輩後輩の仲だろうか。二人が共通して入りそうなサークルがあるのか(ミス研ならありかも。いや、無いか)。あるいはいっそ幼馴染みではどうだろう。教会のクリスマス会で三賢者を一緒に演じた仲とか。

かつて友人に紹介された女性を「熟れすぎたトマトみたいだ」と評して振られたのは、どんな他人のせいでもない。
もしかして本人を前にして言ったのか。こんな調子では生身の女性と付合うのは無理だろう。

6

ギルフォードのストレスは順調に溜まっています。

7

アスヴァールのストレスも順調に溜まっています。作戦会議に参加した人間のほとんどから嫌われてるし。もはや好き嫌いどころではない。銃口を向けられるには、相当な憎悪が必要だと思う。

「あ、あれは痛い……」
ダークホース(と私は睨んでいる)ボスウェル登場。この人は味があって好きだ。

8

こっちの油は本物の重油でした。

9

司令官のはずなのに留守番させられているアスヴァール。
完全ないやがらせのために両耳に脱脂綿を詰め込んでみせ、
議員団からしたら本当に嫌な奴だろうな。想像したら笑えるけど。両耳から白い綿が飛び出してそうだ。

10

こっちの油は偽物でした。

アクイロニアの独裁者になりそこねたモーブリッジ・ジュニアは、挫折に傷む心を抱えて、レナ川の波間を漂っている。浮袋ならぬ精神の空洞を体内に抱えて、それが彼の身を浮かせているようにも見えるんだが、両眼は光を失っていなかった。
不屈の闘志のモーブリッジ・ジュニアが、くらげのように流れていく。めげない奴だよ。「アイシャルリターン」という言葉がよく似合う。

空洞に野心を満たした青年は、緩やかな流れの中を海へ向けて漂っていった。
鮭の稚魚を放流した気分。大きくなって戻って来いよー!

11

まとめ。
・アスヴァールに比べるとギルフォードは地味だ。
・いい面の皮となってしまったニュー・キャメロット。一番の貧乏籤引いてるのはここだろう。表向きどういう大義で進攻したのやら。
・リュウ・ウェイの移住が男のために身を引く女に見える。「あの人との仲が壊れるくらいなら、いっそ私が消えればいいの。そうすれば、思い出はいつまでも綺麗なままで残せるから」みたいな。どこの昭和歌謡だ。

the First Episode [11/09/2005]

2.ポルタ・ニグレ掃滅戦

2190年 ブエノス・ゾンデ対プリンス・ハラルド

豊富な埋蔵資源を持つ市を狙っていたブエノス・ゾンデ市執政官、エゴン・ラウドルップ。彼は先制的自衛権を唱え、そのプリンス・ハラルド市との間で起きたある事件を機に侵攻する。圧倒的市民の支持。抵抗もないままブエノス・ゾンデ軍に深く進攻されるプリンス・ハラルド市。ラウドルップはこのままプリンス・ハラルド市を占領できるのか。


1

イラク戦争の時に、この話が一部で話題になったような気がした。確か「先制的自衛権」という言葉が出た時に、ラウドルップの屁理屈を思い出した読者がいたからだと思う(私含めて)。それでアメリカが進攻した時の抵抗の少なさに、イラク側がクルガンと同じ作戦を取っているんだと思ってハラハラした。実際の顛末は全然違ったが。思えばあれからもう数年が経つんだな。

でもフセインに似ているのはラウドルップだと思う。権力者としてのタイプや人間のタイプを考えたら。この話が書かれた80年代はイラン・イラク戦争があったから、参考にしていないともいえない。この辺突っつくと面白いかも。

2

ラウドルップ登場前、ブエノス・ゾンデが小党分立で政情不安だったというのは後に繋がる伏線かもしれない、ということに気が付いた。

アンケル・ラウドルップが収監された際の罪状の一つ「情報管理法違反」から独裁者ジョークを思い出した。「○○の奴は頭が空っぽの馬鹿だ」と独裁者の悪口を言うと、情報漏洩罪で捕まるやつ。

3

プリンス・ハラルドには隣市のような独裁者はいなかったが、それは民主主義的成熟の結果ではなく、鳥なき里のコウモリが群をなしていがみあっていたからであった。
別に良いんじゃない? 政治家に小物しかいなくても、それで他国から馬鹿にされて付け込まれたりしなければ(いや思いっきり狙われてるがな)。それにブエノス・ゾンデが攻めて来るということで、与野党問わずに団結せざるを得ない。

戦後明らかにされた「六月人事」の経緯って、すぐに明らかにされちゃったのか。マレンツィオ以外の人達が可哀相だ。
入院者リストがどこからともなく流出し、職場復帰しても肩身が狭く、入院が経歴に響いて左遷され、どこへ異動しても「ああ戦時に下痢して休んでた人ね」と影で笑われ、おまけにトップは蜘蛛男爵と嫌われ者。もうこりゃ軍から逃げるしかない。しかし企業に天下った先でも役員になっているOBに「大変だったなあ君も」と妙に半笑いの同情をされるだろう。本人は全く悪くないのに何という悲惨さ。
マレンツィオの奥さん、いつか刺されるよ。(注:全て想像です)

産院の売店で買い求めたコーヒーとフライドポテトと茹で玉子でお粗末な夜食をとっていた頃
もうどこから突っ込んでいいのか分からないくらいレトロな世界だな。これが缶コーヒーと焼きそばパンの組み合わせでも反応に困るが、しかし茹で玉子。

総司令官代理カレル・シュタミッツは、腹心としてユーリー・クルガン中佐を登用したのである。
この一文が引っ掛かる。腹心、心から信頼する人。クルガンが既にシュタミッツの腹心だった、という意味か。すでに腹心だったのなら、シュタミッツの知人が「あいつだけは止めとけ」と説得するのも奇妙だ。二人がコンビを組むのはこの時が初めてか、少なくともコンビが公表されるのは初めての可能性が高い。実はこれより前に、外部には内密でコンビを組んだ仕事があった、というのでもいいし、単にシュタミッツがクルガンに目を付けてた、というのでもいい。接点を妄想するのは楽しいね。

犀利な軍事的頭脳の所有者として知られ、全軍司令官にシュタミッツではなくクルガンを推す声も微量ながら存在した。
誰だよ、その推薦者。「犀利な軍事的頭脳」を持っていながらマレンツィオの司令部には入れてもらえなかったような男だぞ。推薦者は事情に詳しくない。おそらく部外者に近い立場だったに違いない。

「昔、トーマス・アルバ・エジソンという男がいて、刑務所に電気椅子をセールスしてまわった男だが、そいつが言った。天才とは99%の汗と1%の霊感だ、と。低能の教育者どもは、だから人間は努力しなくてはならない、と生徒にお説教するが、低能でなくてはできない誤解だ。エジソンの真意はこうだ──いくら努力したって霊感のない奴はだめだ、と」
初めて読んだ時、なるほど! と思った。コロンブスの卵的発想の転換に、眼からうろこだったね。クルガンの傑作ジョークなのに、笑ってやれよ知人。

「それにしても、負ければ地獄へ直行、勝てば次の戦いにも駆り出される。どちらが幸福やら、判断しがたいところだな」
「それなら勝った方がまだしもだな」
「どうして?」
「行き着く先は同じでも、途中経過を楽しめるからね」

シュタミッツは基本的にポジティブだと思う。それにクルガンの場合、次の戦いに駆り出されるかどうかも怪しいところだ。司令官がシュタミッツだからこそ参謀長になれたのであって、違う人が司令官だったらおそらく司令部から外されるだろう。
ところで、頬を押さえて唸ってるクルガンが可愛いんですが(虫歯には正露丸でも詰めとけ)。

4

会議での参謀長が不気味だ。
神経症的な態度でハンカチを折り畳んだり広げたりしてまで話しかけられたくないか。それともこれは地の態度か。喋るのが面倒臭いというのはよく分かるが、しかしどう装っても空気の読めない奴は質問してくる。その場合はどうする。

「君はなぜベストを尽くさないのか?」
「トリック」の上田が「ベストを尽くせ!」とやっていたのを思い出した。その瞬間、私の脳裏に、阿部寛がカメラ目線で指を突き付けている表紙のラウドルップ自伝が浮かんだ。どうしよう。嵌まりすぎかもしれない、阿部ちゃんラウドルップ。調子に乗って他のキャストも考えてみようとしたが、あまり役者に詳しくないので挫折した。とりあえずブルームには堤真一、ノルトには堺雅人あたりで(主役級は?)。

5

人格的統率力において、シュタミッツがクルガンを遥かに凌駕することは、疑問の余地がなかった。
だって後者は人格的統率力とやらはぶっちぎりのマイナス値ですよ。そんなのと比べても。ただ、シュタミッツの淡々とした語りぶりや部下をリラックスさせる力は、ヤン・ウェンリーと共通していると思う。別の小説の主人公と比べても無意味かもしれないが、何となく。
リーダーシップは大事だよな。

プリンス・ハラルドの戦車は四人乗りらしい。それなら一両につき一人ずつ間引けば、戦死者数は減らせるんじゃないのかと素人考えで閃いた。どうせやられるだけの囮なんだし。しかし、それでは自分たちが囮にされたと兵士も気付いてしまうから駄目なのだった。ホイットニー中佐は知っているらしいけど、知らずに囮にされた人達はクルガンを恨むね。

6

せめて自身が囮部隊の陣頭指揮をとろうとしたシュタミッツに向かって、この男は「偽善だね」と言い放ったのである。シュタミッツは反論しなかった。感傷であることは自覚せざるをえないことだった。
きっつい。そう言われたら誰でも怯む。ある意味最後の説得。しかし、シュタミッツが囮部隊を「頑張って来いよ」と笑顔で送り出すような男だったら、クルガンがシュタミッツの腹心になる日は来ない気がする。甘ちゃんな部分があってこその蜘蛛男爵。

7

ブエノス・ゾンデ軍の推定によればコーツランド平原の大敗で全兵力の7割を失ったらしいプリンス・ハラルド軍。失いすぎ。無事この戦いが終わったとしても、抑止力として役に立ちません。サンダラーに襲われそう。クルガンがそれを考えてない訳はないから、推定兵力よりもずっと多い兵力はあるだろう。でも戦車を燃やしまくったのは勿体なさすぎる。戦車部隊が嫌いなんだろうか。

カレル・シュタミッツは、来るべき決戦をよそに三つ子の名前を考えていた、と伝えられる。それが単なる伝説であるのか、事実であれば
単なる伝説だろう。ブエノス・ゾンデ軍がポルタ・ニグレに移動を開始したのは6月29日以降。三つ子が生まれたのは6月1日。一ヶ月も子供は名無しのままということになる。ありえねー。あ、名前は名前でも、戸籍名じゃなくて、洗礼名ならありえるか。

同じ変人でも、シュタミッツ大佐は無害だが、クルガン中佐は有害極まりないと彼は思っている。
ここまでのところで、シュタミッツが無害な変人だと示すエピソードがどこにあっただろう。クルガンを登用したことか? 有害事例だし。これから先も、花を拝むくらいしか変な事はしていない。そうか、クルガンと普通に付き合えることが変なんだ。

「俺には他人には真似のできない楽しみがあるからね」
「何だね?」
「他人に期待させておいて、裏切ること」
「楽しんだ後の後遺症が問題だな」

クルガンが嫌われるのは無理もないと思った。冗談でなく実行してそうだから。それでも一応は
「思うに、俺の精神には、社会的な秩序とどこか噛み合わない点があるんだな。できそこないのジグソー・パズルの一片で、他のどの一片とも噛み合わない……」
周りが変なのではなく、自分が変わり者なのだと諦めている。孤独だね。

「彼女には別に不満はない。結婚に不満があるんだ」
それなら同棲にすれば?

ところで少し前の章まで、しつこくシュタミッツのことを総司令官代理と書いていた地の文が、この章では司令官になっていた。代理ではなくなったんだろうか。マレンツィオが辞めたということなら、少しお気の毒。

8

要するにクルガンの作戦は食虫植物と同じだ。そう理解した。

ところでこの話ではプリンス・ハラルド市の軍隊は「国防軍」とされているが、次の話からは「正規軍」となっている。シェアードワールズの中のある話では、同時に存在する別々の組織となっていたが、私は違うと思う。作者も編集者も気にしなかった単なる凡ミスだと思う。だからこのサイトでは全て「正規軍」と表記しているので、悪しからず。

9

彼は多忙なのだ。離婚調停を受けるために家庭裁判所に出頭しなくてはならなかったし、虫歯も根本的に治療しなくてはならないのだった。
分かった。シュタミッツとクルガンは、ギルフォードやAAAに比べて生活感があるんだ(所帯じみているとは言わない)。だから読んでてほのぼのするんだ。

しかし家裁にまで行くなんて、どれだけ話がこじれてるんだよクルガン夫妻……。さっさと折り合いをつけて別れればいいのに。揉めている理由は何だ。
・子供の養育権、養育費(子供がいればの話)
・財産分与
・慰謝料
・結婚するに至った責任の所在

さて、調停員を味方に付けることは絶対に不可能そうなクルガンに、果たして勝ち目はあるのか。こんなことばかり書いていると、戦闘とは無関係の部分にしか興味がないと思われそうだけど、まあいいや。

the Second Episode [14/10/05]

3.ペルー海峡攻防戦

2192年 六都市大同盟対ブエノス・ゾンデ

母都市に引き篭って好き放題するラウドルップを懲らしめるため、他の六都市から選りすぐりの軍人たちが連合軍として派遣された。だが彼らには協調性が全く無い。コーヒーもまずい。ギュンター・ノルトが指揮を執るブエノス・ゾンデ軍の必死の抵抗の前になすすべがなかった。クンロン軍のコントレラスが「みんな、力を合わせて頑張ろう!」と言っても白けるばかり。
事態が変わるのはコントレラスが戦死したあとだった。そして友情が生まれる。

彼らが肩を並べるラストシーンは感動もの。


1
「誰が一番むかつく野郎か選手権」の始まり。

ニュー・キャメロット市水陸両用部隊司令官ケネス・ギルフォード中将を見て、他の二名は思った。好きになれそうにない奴だ、こういう奴と共同作戦を遂行せねばならないというのは、近来の不運だ、と。
アクイロニア市防衛局次長兼装甲野戦軍司令官アルマリック・アスヴァール中将に会って、他の二名は考えた。こいつと同じ市に生まれなくて良かった、こいつを救うために自分と部下の生命を投げ出す気にはなれない、と。
プリンス・ハラルド市正規軍総司令官代理ユーリー・クルガンと対面して、他の二名は感じた。造物主は無能だ、この男を地上に放り出したという一点で、他の功績など全て無に帰するに違いない、と。

ギルフォード及びAAAに対しては、軍人視点での感想が述べられ、嫌悪感もやや理屈っぽい。それに引き換えクルガンに対しては、もっと根源的なヘイト(嫌悪か憎悪か嫉妬か敵愾心か、よく分からん)を感じているようだ。ギルフォードとは共同作戦を組まなければいいし、AAAとは同じ市に住まなければいい。だがクルガンは存在そのものが他の二名にとって我慢ならない。無条件で「こいつは嫌だ」と。つまり、一番の嫌われ者はクルガンだね☆

と、無駄に分析してみた(つい星印を使ってしまった。もうやらない)。

しかしこの三人が並ぶとき、必ずクルガンがオチに使われるのは何とかならんか。ドリフの雷様で言えば高木ブーだよ。アスヴァールがいかりや長介ならギルフォードは仲本工事だよ。意味分かんねえよ。

ギルフォードは完璧な礼節と謙譲の甲冑に身を固め、アスヴァールは冷笑と皮肉で対処し、クルガンはひたすら不機嫌に沈黙している。
何を聞かれても黙り込んでるだけの人と、一々癇に触わる対応ぶりの人と、のらりくらりで慇懃無礼の人と。私ならAAAの対応が一番腹が立つ。

2

ノルトの「芸術家風の」繊細な容姿というのがよく分からない。わざわざ「芸術家風の」とカギカッコを付けるのは、何か特別な意味でもあるのか。作者が思っている芸術家と、私が思い浮かべるそれとでは、おそらく全くの別物だろう。岡本太郎とか思い浮かべちゃまずいのだ。

3

堂々と友軍を見捨てるクルガン、ひどい奴だな。プリンス・ハラルド軍の隣の地区を担当した人達には、場所が悪かったとしか慰めようがない。
ところで、目標のカルデナス丘陵が向かって左にあるとすると、

  クンロン
丘 プリンス・ハラルド
陵 タデメッカ
  アクイロニア

部隊の隣接具合はこんな感じになる。サンダラーとニュー・キャメロットは説明がないが、アクイロニアかクンロンの外側にいるはず。クンロンの右にニュー・キャメロット、アクイロニアの左にサンダラー、というのがバランスが良さそうだ。

4

「そりゃあ、戦争ほど面白いものはありませんからね、自分が被害者にさえならなければ」
面白さにかけては政治も似たようなものだと最近は思っている。被害者になれば、そりゃあもう悲惨なことになるのも似ている。というより戦争は政治の延長とか誰かが言ってたから似てて当然か。誰の言葉だっけ。小耳に挟んだネタだけでやってるから分からない(調べろよ)。

「司令官、ご指示は?」
「適当にやっておけ」
「適当にとおっしゃいましても、何か具体的にご指示を頂きませんと」
副官フォルネ大尉が、困惑と馴れを半分ずつ声に混ぜた。

「慣れ」でなく「馴れ」。クルガンの行動に馴れていて、しかも嫌悪感を出さずに対応できる人間。クルガンの奇態に馴れている大尉、フォルネ。こいつは何者だ。というか普段クルガンはどんな指示を出してるんだ。

「長々と議論している暇はない、実行あるのみだと思わんかね」
「まったく同感です」
答えると同時に、ギルフォードは右手に力を込めて、マイクのコードを引き千切った。

ちょっとギルフォード格好良かった。

5

ギルフォードは正面の壁を凝視し、アスヴァールは天井に視線で唐草模様を描き、クルガンは床の隅を這う蟻の軌跡を観察していた。
アスヴァールは、普通に考えて「目が泳いでる」という状態だろう。唐草模様ってあれだよ、泥棒が背負ってる風呂敷の柄だよ?何もない空間をじっと見ているギルフォードも怖いものがある。猫じゃあるまいし。そんな訳でこの時はクルガンが一番まともに見えた。

6

何だよギルフォードばっかり格好良い見せ場があって(嫉妬)。アスヴァールは副官相手に管巻いてるだけだし、クルガンに至っては戦闘放棄に近いものがある。シュタミッツのリクエストに応えるには仕方ないのかもしれないが、不満だ。

7

ギルフォードは鋼玉に似た両眼を僅かに細めて、一時的な僚友を眺めやった。性質(たち)の悪い野犬が仔犬を庇う有様を、目撃したかのような表情だったかもしれない。
人はそれを「雨の中、捨てられていた小猫を拾った不良」効果と呼ぶ。

二人が別れて立ち去った後、ユーリー・クルガンが合同司令部に現れ、すぐに立ち去った。彼は残りのコーヒーを、ポットごと自分のテントへ持ち帰ったのだった。
ほら、オチ担当。きっと後で持ち帰りが他の司令官にばれて非難轟々。

8

「あなたのせいだ、第一市民。あなたは、才能に相応しい栄華を、すでに経験した。次は為人に相応しい処罰を甘受する番だろう」
暗い。どこまでも暗いよノルト。消音装置ごときで消せる銃声でもないだろうけど、まあいいや。
それより栄光の頂点に立った時を狙うというのは、どうだろう。ノルトの奥さんが死んだのはこの年の前年。ポルタ・ニグレ戦の後だから、その時ラウドルップはすでに独裁者の頂点を過ぎている。六都市同盟の侵攻がなかったらどうするつもりだったんだ。

我々は皆、ラウドルップに騙されていたのです。そのことに気付いた時、もはやどうしようもありませんでした」
「騙される方が悪い! 奴が権力の座に着いたらどうなるか、警告した者はいくらもいた。そういった連中が、みな粛清されて棺桶をベッドにしているのに、彼らをノン・シティズン呼ばわりしたラウドルップの支持者どもは、生き永らえて被害者面するのか!」

ノルトの復讐は完全に失敗してしまった。
だったらいっそそこにいる護衛隊を皆殺しにする勢いで殺しまくればいい。そうすればさすがに相手も慌てて撃ってくるはずだ。五百人に撃たれて蜂の巣になるなら、当初のシナリオ通りでノルトも本望だろう。

アスヴァールとギルフォードは肩を並べてすっかり仲良しだな。そして最後までクルガンがオチだ。高木ブーというより荒井注の趣だが(ドリフネタはもういい)。

ところで、六都市大同盟軍に派遣された司令官は中将とされている。しかし六人の司令官の中で、なぜかクルガンだけは地の文でも台詞でも「中将」と呼ばれることはない。「将軍」とも呼ばれない。ない知恵絞ってその理由を考えてみた。クルガンは中将ではない。「はあ?」とか馬鹿にされそうだが、簡単に言うと、アメリカにあった Temporary rank の制度を参考にしたんじゃないかと。詳しくは別のページで。

the Third Episode [27/10/05]

4.ジャスモード会戦

2193年 サンダラー対タデメッカ

脇役と端役が白骨死体の上でガチンコ対決している頃、舞台はプリンス・ハラルド市。息詰まるチェス盤の攻防と会話から窺がえるシュタミッツとクルガンの、名コンビの日常。


1

「嫌いな奴に好かれるほど不幸なことはない」という哲学
もし「嫌いな奴に懐かれるほど不幸なことはない」に改変するなら同意する。好かれるだけなら特に不幸ってほどでもないだろう。

「ですが妙なものですな、司令官」
「何がだ。俺はもともと善良で親切な男なんだぞ、帰る家もない亡命者に優しくしてやるくらい当然のことさ」

この時のアスヴァール、ちょっと照れてるっぽい。可愛い。

2

このハッサンとかいう人、『七都市物語読本』で殺されてた人だっけ。記憶が定かでないな。確かリュウ・ウェイが何かを企んでたような気もするが、それはいつものことだし(この人も一般的には腹黒く思われてそうだが、腹黒くなさそうな人物はこの世界には存在しないのだった)。

3

デイビス氏大活躍。

4

ブエノス・ゾンデは順調に混乱中。
「誰かが指導なり調整なりに乗り出さないと、ブエノス・ゾンデは収拾がつかないかもしれんな」
「誰かの手を借りる必要はないんです。自分たち自身の手でやればいい。やれるはずですよ」

結局できなかったんだけどね。

ギルフォードは引きこもるのが好きなんだろうか。人嫌いとも思えないが、他人と接触する時には殻に閉じ篭っているように見受けられる。人見知りだったりしたら面白い。

ところで衝撃というか違和感を受けた台詞がある。
「ところで、お子さんたちは元気か」
お子さんたち。お子さんたち。お子さんたち。
何が不思議って、クルガンの口から「お子さん」なんて言葉が出ることが。傍若無人で傲岸不遜で唯我独尊の男でも、相手がシュタミッツだとしても、言葉は選ぶのだ。英語だったら関係ないか。

5

ペルー海峡攻防戦は、参加した全ての指揮官にとって、不幸で不本意な戦いだった。砲弾で上半身を吹き飛ばされたクンロン軍のコントレラス将軍も不幸であったが、生き残った他の将軍たちも、やはり不幸であった。勝利を収めたギュンター・ノルトでさえ不幸であったから、敗者たちの不本意は、さらにまさった。
そりゃあ不幸だ。

「……敗者が最も好む言葉は、『今度こそ』である」byケネス・ギルフォード。
それは出てくる度にやられる、某ジュニアに対して言っているんですか。失礼な。

6

サイクルズ准将の独断を低声で罵るノルト。何と罵ったのか、知りたいような知りたくないような。放送禁止用語連発な怖い事を言っているはずだ。根暗だし。舌打ちしてるし。

7

んな馬鹿な。

この、一方を貶めることでもう一方を持ち上げるやり方、何とかならないのかな。東場三局、子供(タデメッカ)がしょぼい平和でリーチしてたら親(サンダラー)が勝手にチョンボ、と思ったらヤキトリついたまま飛んじゃった、みたいな。そんな勝負が面白いと思うか!

the Fourth Episode [22/12/05]

5.ブエノス・ゾンデ再攻略戦

2193年 プリンス・ハラルド、ニュー・キャメロット、アクイロニア、+α

あの男が帰ってきた。三年前に姿を消したモーブリッジJr. が、今度はブエノス・ゾンデで活躍だ! 流浪の野心家は安息の地を得られるのか、彼の才覚と行動力は今度こそ実を結ぶのか。頑張れ僕らのモーブリッジJr. 、負けるな苦労人モーブリッジJr. !
そして以前より交流が深まっているらしいシュタミッツとクルガン、孤高の壁をAAAに突き破られたギルフォード、二つの友情ストーリーは今後どのように展開するのか。

ポーカーの勝負と共に都市の命運は決まる。


1

「流浪の野心家」のご登場。海に放流された稚魚が立派になって帰ってきました。
彼(モーブリッジ・ジュニア)はアクイロニア市の攻略に失敗し、行方不明となった。その後、どの地でどのように過ごしていたか判然としない。混乱と昏迷のただなかにあるブエノス・ゾンデ市に姿を現した時、それほど困窮しているようには見えなかった。ただ、体裁をつくろうために演技もしたし、金銭上の苦労もしたようである。
ここ、哀れでけなげで涙が出てくる(笑い涙が)。苦労人のトリックスターってどうよ。
モーブリッジ・ジュニアは徒手空拳の身であり、自己一身の野心と才覚と執念だけで世界を動かそうとしたのである。
そう、頑張ってるんだよ彼も。前回と違って、自分の才覚だけが頼りになる状況で男を上げた。それは包丁一本晒しに巻いての復活劇だ!……何でこんなに応援してやってるんだろう。不思議だ。

流浪の間に、対人技術を磨いたらしい。
ご子息……苦労しすぎ。

そんなこんなで代理戦争です。でもいきなり政府軍が表立って動くなんて、馬鹿だよね。

2

このとき、シュタミッツは、困惑とやりきれなさのあまり、原始的な汎神的感情のとりこになってしまったようである。路傍の花に精霊でも宿っているかのような気分になり、出征する兵士たちの命運を思いやるうち、つい花を拝んでしまった。
「どうか助けてやってください。私の手には余ります。御加護をお願いします」

ここが素朴な感じですごく好きだ。言うなればシュタミッツは変善人(対語:変悪人)。その前までのシーンがささくれ立っているので、花を拝むシュタミッツと後ろで腐ってるクルガンで心が洗われる。オーバーな。

この二人が組んで以後、プリンス・ハラルド市は純軍事的に敗れたことがない。
ペルー海峡攻防戦はどうした。

3

この「ブエノス・ゾンデ再攻略戦」はおかしい。皆ノリノリだ。

「まあ大変だが、よろしく頼む。貴官だけが我が軍の希望だからな」
「花にでも頼んだらどうだ」
そうクルガンが言ったのは、シュタミッツが花を拝んだことを、根に持ったためであるらしかった。俺が頼りにならないとでもいうのか、という意思表示である。これはクルガンの客気というより子供っぽさであろう。

絶対に狙って書いただろ。
それでも挿絵は描いてもらえなかったというのは笑える話だが。ノルトの奥さんですらピンのイラストがあるのに、遺影に負けてどうする。

さて、次の文を見て欲しい。
この男は、シュタミッツを意識して尊敬などしていないはずなのだが、そのくせシュタミッツの下で副司令官の地位に甘んじているのは奇妙なことであった。
この文の前半をどう理解すべきか。「はず」というのが厄介だ。

最後の冗談はさておき。副司令官に甘んじているのは「楽だから」だと思う。シュタミッツが外部との折衝や部下への説明を全部やってくれるし。

ところで、四万超の動員となると、アクイロニア(36900名)やニュー・キャメロット(34600名)よりも多い。プリンス・ハラルドは本気だ。頼まれてもいないのに本気だ。

「なってしまったことは仕方がない。だが、俺たちだけが不幸になる必要もなかろう。ニュー・キャメロット軍も不幸にしてやるぞ」
俺の不幸は奴のもの、奴の不幸は奴のもの。

出た!逆ジャイアニズムの極致な台詞。「みんなで不幸せになろうよ……」と足を引っ張られても困る。

AAAはギルフォードに一泡ふかせてやりたいと望んではいたが、それが容易な事業であると考えてはいなかった。ギルフォードに一泡ふかせることは、ユーリー・クルガンと仲良くすることに匹敵する難事であった。
シュタミッツなら後者は楽勝だ。というか、そんなにアスヴァールはクルガンが嫌いか。それならギルフォードと仲良くして、クルガンに一泡ふかせるのでは、どちらが難しいだろう。固有名詞が入れ替わっても、難易度は変わりゃしない。これは凄い。

4

ひどいやAAA。
「何という狡猾なやり方だ。あのクルガンの変悪人が考えついたに決まっている。まったく奴の考えそうなことだ」
AAAが吐き捨てると、高級副官ボスウェル大佐が言語学的な質問を発した。変悪人とはどういう意味か、と。AAAは答えて曰く、
「変人でおまけに悪人のことだ」
「その二つの要素は、両立が困難なのではありませんか」
「奴は両立させている。珍種というべきだな」

こいつ、あらゆる人間をくさしてるのな。翻って本人はどうかというと「善良で親切で真っ当」だと信じきっている。しかも有能だと。何と言うか、「俺様が一番」の考え方はもはや天動説の域に入っている。それなら社会不適応を自覚しているクルガンの方がまだしもだ。

変悪人の例を挙げるなら、映画「ウィリアム・テル」でアラン・リックマンの演じた悪代官がある。あれは主役を完全に食っていた。分かった、AAAがクルガンを嫌いなのは、場を食われるからだ。登場人物が軒並み変人なら、そこに何かしらプラスアルファある人間の方が目立つ。とすればただの傍若無人の変人・AAAよりも、傍若無人の変人でかつ悪辣なクルガンの方が目立つはずだ。そういうことだったのか。一人で納得。

傍に立ったボスウェル大佐が、気を紛らわせるつもりか、唐突な質問を発した。
「閣下にとって一番嫌な死に方は何ですか」
「トイレに入っているとき、ガス爆発に巻き込まれることだな」
「私の一番上の姉の二番目の夫に言わせると、古い食物を勿体無いからといって食べて食中毒にかかることだそうです」
「……ふん、どちらにしても、戦場以外での死ということだな」

しかし一体何なんだボスウェルは。
このボスウェルという人物は、もし今後の展開があるとすれば、そこで大きな役割を担うと私は睨んでいる。これまで登場した人物のなかでも出番の多い方で、性格づけもそこそこされている。階級も大佐だし、何か事を起こすにはちょうど良い。戦場で敵味方の司令官同士としてAAAと再会する、なんてどうよ。AAAがどこかへ亡命した後釜に座るとか。「お久し振りです、アスヴァール中将。あなたが消えたお陰で、私にも日の目を見る機会が与えられましたよ」とか言ってクククと低い声で笑ってくれるようだったらボスウェルを応援する。AAAの指揮を側で見てきて思考の型も知っているはずだし、コンパス事件の頃から先見性はある設定になっている。そこそこ互角に戦えるはずだ。

アクイロニア軍司令官は剃刀のような笑いを口の端に浮かべた。「AAA(アルマリック・アスヴァール・オブ・アクイロニア)とはもう呼べませんね。あなたは亡命したのだから。アスヴァールさん、あなたのやりそうな事くらい分かりますよ。近くでずっと見ていたんですから──」AAはかつての副官が母都市の司令官と知り、目を細めた。「ボスウェルか。元気にしていたみたいだな」数千kmの距離を隔てて二人は再会した。

みたいな。いくら妄想しようと続編はないので意味はないが。

ペルー海峡攻防戦以来、ギルフォードは天候に恵まれないようであった。
ギルフォード、雨男であることが発覚。

5

「俺は人間だ」
「そう信じるのは貴官の自由だ」

どういう会話だよ。

ところで気になるのだが、シュタミッツとクルガンのコンビは、プリンス・ハラルドから二人とも離れて平気なのか。何かあった時に困るだろうに、国がお留守で大丈夫なのか。読んでいて楽しいから別にどうでも良いが。でも隣のサンダラーが不穏に動き出したら笑える。

クレメントはクルガンの養子にでもなれ。

6

えー……アスプロモンテ・ダムの爆破とその裏のアスヴァールの行動について、時系列が掴めないのでまとめてみる。

まず全体の流れ。これは動かしようがない事実とする。
18日:アスプロモンテ・ダムが爆破される。ブエノス・ゾンデ軍総崩れ
19日:サンラファエル秘密協約の成立
20日:三都市軍、ブエノス・ゾンデ市街に突入

次にモーブリッジ・ジュニア側の動き。全体の流れとの矛盾はない。
?日:アクイロニア軍の動きから、ダム爆破を決める
17日:ダム爆破の準備を始める
18日:ダムを爆破。その後アクイロニアとニュー・キャメロットにコテンパンにやられる

次にギルフォードの動き。
初旬:カルデナス丘陵を占領
18日:黒リボン党を相手にモレリア峠の戦闘
19日:「モレリア峠の戦闘」二日目。つるつるに凍った峠に苦戦し、峠を迂回しブエノス・ゾンデ市に接近
?日:アスヴァールから「うまい話」を持ちかけられる
?日:アクイロニア軍からダム爆破の連絡を受け、高所に移動

そしてアスヴァールの動き。
9日:ニュー・キャメロット軍をモレリア峠で食い止めることにする
19日(モレリア峠の戦闘二日目と同じ日):蝶ネクタイ党を相手に苦戦中
同日(ニュー・キャメロット軍接近を知って):ブルームからの連絡が入った直後にギルフォードに「うまい話」を持ちかける
?日(おそらく上の悪だくみと同じ日):ニュー・キャメロット軍にダム決壊の可能性を知らせる
?日:モーブリッジ・ジュニアのダム爆破計画を「耳に入れ」、高所に移動

もう何が何やら。アクイロニアがダム爆破の情報をニュー・キャメロット軍に伝えたのは、遅くても17日よりも前(でないと18日に日付が変わってすぐ実行されるダム決壊に備えられない)。実は上陸の直後からコンタクト取ってましたーと言われても不思議はないので、その点は問題ない。が、AAAはモレリア峠の戦闘二日目と同じ日にはまだ、士気の高い蝶ネクタイ軍に苦戦している。そしてモレリア峠の戦闘は、18日に始まっている。サンラファエルの丘で行われた運命のポーカーは、7月19日の午前。どうなっているのやら。

ちなみにプリンス・ハラルド市の動きを追うのは簡単だ。
9日:上陸。「平和維持への強い意志」を表明
19日:サンラファエル秘密協約に同意
これだけ。

7

アスヴァールの策略は手が込みすぎているような気がする。陣地を残したまま高所に逃れる、って短期決戦に失敗したら終わりだろう。嫌だね怖いよ。

はじめ「表の事情・裏の事情」が飲み込めなくて意味が分からなかった。

ところでモーブリッジ・ジュニアの勢力は蝶ネクタイや黒リボンとは別なんだよね? だから「黒リボン対ニュー・キャメロット」「蝶ネクタイ対アクイロニア」とは別のところで独自に動いているんだよね? ダム決壊は、アクイロニア人のアスヴァールがジュニアとの因縁に片を付けるために行ったものだから、まだ蝶ネクタイも黒リボンも勢力としては健在なはずだよね?
ということは、ダムと別の場所ではまだ交戦しているはずだよね? サンラファエルの協約でもう終わった気になってるけど、まだだよね?

「だよね?」で統一してみたものの、さっぱりだ。私の頭が悪いのか。
とりあえず、モーブリッジ・ジュニアがブエノス・ゾンデの側に立って侵攻軍を追い払おうとしたことだけは分かった。いい奴じゃないか、モーブリッジ・ジュニア。

中央放送局の顛末は面白かった。
アクイロニア軍は報道局スタジオを占領したが、ニュー・キャメロット軍は管制センターを奪取した。半歩おくれて殺到したプリンス・ハラルド軍は、クルガンの指示にしたがってガレージになだれこんで四台の放送車を手に入れた後、おもむろに変電および送電システムを破壊し、放送局の全設備を無力化してしまった。
この放送車四台というのがプリンス・ハラルドにとって実に都合が良い。その後すぐにシュタミッツが駆けつけて放送車一台ずつを進呈したというが、それなら二台を抱えているプリンス・ハラルドが放送能力で一歩リードしていることには変わりない。

クルガンの悪辣さばかりが強調されているが、ここではむしろシュタミッツの強かさの方が要注意だろう。どうも初めから、クルガンが奪ってシュタミッツが分け与える、という役割分担ができていたような気がする。
結論、やり口の汚さではシュタミッツがぴか一だ!

8

この辺りの一連の流れ、国が目茶苦茶になった後の戦後処理の話を書けたらいいのにと思う。難しいし地味だけど平和構築という面白い部分。大雑把に言えば、シュタミッツはピースメーカーだ。本当は第三者がなるべきだが、国連も無いし仕方ない。三都市の中では最も第三者的なプリンス・ハラルドが調整に回るのは妥当だろう。

しかし、新生ブエノス・ゾンデの顔には誰が相応しいとも言えない。蝶ネクタイ党と黒リボン党の党首が手を取って和解、という形も、二大勢力だけで争っているなら有効だ。だがそれではモーブリッジ・ジュニアの率いた第三勢力が黙っていないだろう。かと言ってモーブリッジ・ジュニア本人を立てる訳にもいかない。ブエノス・ゾンデの国内的には手頃だが、対外的に問題がありすぎる。たとえば蝶ネクタイと黒リボンの間をつなぐ宗教指導者のような人物がいれば良かったが、いそうにない。
ラウドルップだけが突出したリーダーだったので、他に市をまとめる人材がいないのだ。

トップリーダーが不在である以上、中間リーダー層から指導者を選ぶしかない。大学教授を頭に据えるというシュタミッツの判断は間違っていないだろう。後はリーダーになりそうな人材が育つのを待つ、あるいは育てる……となれば良いのだが。
ラウドルップが政界に登場する以前からの不安定な政情や、有能な人材が粛清されまくったことから考えると、自然にリーダーになれる人物はすぐには出てこないだろう。そして占領した三都市にはリーダーを育てる意志はないだろう。甘い汁を吸い尽くせればそれで満足のはずだから。

という訳でブエノス・ゾンデの明日は暗い。中途半端によその面倒ごとに首を突っ込んだ三都市も、無駄な出兵・無駄な出費を強いられるに違いない。国連に相当する機関がないために「後は任せた」と手を切れそうにないからだ(そんな事したら他の二都市から非難囂々)。結局は、今回の件に無関係だったサンダラーとタデメッカの勝利ということになる。嫌だなこんな終わり方。

……拮抗する実力と独立性を保持する七都市のうちから、内部の脆弱性をかかえこんだ一市が脱落し、時代は淘汰の方角へ向かうかと見えたのである。
まさか。

ブエノス・ゾンデが占領されて六都市になるのは、題名と食い違ってしまっていけない。オリンポス・システムが停止するまで、七つの市はイザコザしていた方が面白いじゃないか。きっと三都市が撤退するような出来事が起こるに違いない。たとえば「トマト畑の軍師たち」が世界征服に乗り出すとか。そしたら誰も勝てませんな。
それは少し怖いので、真面目に考えよう。

最終話ラストに
モーブリッジ・ジュニアはかつて亡父が統治していたアクイロニア市に送還され、裁判を受ける身となった。元首ニコラス・ブルームにとってはこの上ない土産物であり、AAAの地位も揺るぎないものとなるであろう
とある。一見、アクイロニアにとってもAAAにとっても、めでたしめでたしで終わるかに見える。そんなことはある訳がないのに。ジュニアが捕まってしまったら、ブルームの心配事の一つは確実に無くなる。そして、その代わりにAAAを危険視する動きが強まる可能性が高い。なにしろAAA自身「モーブリッジ・ジュニアが再起するか、その可能性がある以上、俺の功績と軍才は、元首どのの必要とするところだろう。その間は俺も粛清されずに済むだろうさ」と予想している。ブエノス・ゾンデを占拠することに成功したAAAの名声が高まることを、妬み屋のブルームが黙って見ているはずがない。たとえ粛清までしなくても、スキャンダルを見つけて辞職させるなり何なり、AAAの地位が揺らぎまくるような、彼に愛想を尽かされる嫌がらせを行う可能性は高い。

さて、そうなった時に、資源も豊富、市長も優秀、ここ数年の戦争は負けなし、と順調だったはずのアクイロニア市はどうなるのか。

あるいは全く別の可能性として、アクイロニアに送還される前(あるいは裁判の判決が出る前)にモーブリッジ・ジュニアが逃亡して、復活を期してくれると非常に嬉しい。負ける度に強くなって行くジュニアは、やがて真のラスボスとして主人公の前に立ち塞がるのだ。頑張れ、我らのモーブリッジ・ジュニア!(結局それか)

the Fifth Episode [26/02/06]

関連リンク: 七都市物語の作中での出来事(年表)
関連リンク: 七都市物語の登場人物


入口
Appearance 11/09/2005, Update 09/06/2010. Written by 駱駝クラ 【三余】