||三余||七都市物語:データ

『田中芳樹読本』紹介

早川書房編集部、らいとすたっふ編『田中芳樹読本』早川書房、1994/09

OVA化に合わせて刊行された。その内容は以下の通り。


目次

オリジナルアニメーション七都市物語の世界 13P
INTRODUCTION/SEVEN CITIES/STORY/CHARACTER/アフレコレポート
[決定版]田中芳樹インタビュウ PART・1(構成:らいとすたっふ) 17P
警官から泥棒に/腕だめしをいろいろ/世の中は甘くない?/小説に再チャレンジ/ついに銀英伝/転換期?/世界観とキャラクター
田中芳樹多面研究
縄田一男「田中芳樹の中国小説」 4P
星敬「八〇年代ノベルスの隆盛と田中芳樹」 4P
尾之上俊彦「ノスタルジアと時代感覚」 4P
竹河聖「ホラーを愛するもの同士」 2P
水野良「プラス1の魅力、マイナス1の魅力」 2P
吉岡平「教えられた戦略と補給」 2P
押井守「後方の主役 田中芳樹をアニメにするならば」 2P
イラスト・エッセイ
天野喜孝 1P
七都市物語・プラス
梶尾真治「アンナプルナ平原壊滅戦」(イラスト:小島文美) 書き下ろし14P
イラスト・エッセイ
藤田和日郎 1P
七都市物語・ごくささやかな外伝〈ショート・サイド・ストーリー〉
田中芳樹「[帰還者亭〈リターナーズ〉]事件」(イラスト:小林智美) 書き下ろし7P
[決定版]田中芳樹インタビュウ PART・2(構成:らいとすたっふ) 16P
面白さは自明のもの/歴史の慣性について/軍服は美形でなければ/名前の収集家/宿題が終わったら/おまけ〈田中芳樹がすすめる歴史小説〉
イラスト・エッセイ
神村幸子 1P
幻影城の時代
解説 2P
第三回〈幻影城〉新人賞・小説部門入選作品「緑の草原に……」再録(イラスト:山野辺進) 33P
1978年〈幻影城〉5月号掲載「我田引水的SF談議」再録 2P
スペシャルブックガイド(作成:らいとすたっふ)
1994年8月までに出版された全作品(コミック化作品を含む)のガイド 15P
執筆者一覧 1P
コミック七都市物語
星野之宣「ペルー海峡攻防戦・外伝」 書き下ろし24P

以下、主観的摘要。

OVA七都市物語の世界

OVAと、それに該当する原作部分の世界観の紹介。どれも何を今更的な内容で「北極海戦線」に登場する事物しか取り上げられていない。よって私のように「きちんとキャラデザされたクルガンが見たい色のついたクルガンが見たいクルガンを出せえ」と喚いても無駄である。記述からすると、OVAは売れ行きが良ければ続編も作るつもりだったらしい。

田中芳樹「[帰還者亭〈リターナーズ〉]事件」

ニュー・キャメロット市の話である。が、馴染みの登場人物は一切登場せず、内容も「五分間ミステリ」風なので、これを七都市と言われても戸惑う。毒が薄いし。「五分間ミステリ」というのは、何というか、パパッと読めるミステリ仕立ての短篇集ですよ。

梶尾真治「アンナプルナ平原壊滅戦」

原作終了時の設定で、アクイロニア市がクンロン市に進攻し、撃退される話。キーワードは「田中芳樹」「茄子」「コンドーム」。やたら劇的な挿絵が笑える。話そのものも、個人的にはシェアードワールズより面白い。この短篇は梶尾氏の著書『ちほう・の・じだい』(早川文庫)に収録されているので、そちらでも読める。

星野之宣「ペルー海峡攻防戦・外伝」

ジャスモード会戦の引き金となったフバイシュ・アル・ハッサンが、死ぬ前にラウドルップに接触していたという話を、オリジナルのサンダラー市民を絡めて描く。個人的にはこのオリキャラのイブン・バトゥータという名前(実在した旅行者・イスラム法学者が由来)に大受けした。あと、すごく偏屈そうなクルガン。2006年現在、星野氏の単行本には未収録。

田中芳樹インタビュウ PART・1

大学で中国文学を学びたかったという話から入って、修士論文の話、デビューするまでの話、デビューした雑誌が潰れて、SFアドベンチャーに拾ってもらう話、銀英誕生、その後のアルスラーン、七都市、創竜伝、というように作家人生の前半を語る。作家として一番脂の乗っていた頃を振り返るとも言う。

田中芳樹インタビュウ PART・2

SFと歴史小説と、キャラクター論と、ネーミング法について。インタビュー末尾に付いている〈田中芳樹がすすめる歴史小説〉を、題名、著者、出版社だけ引いておく。

T.B.コスティン『黒バラ』早川書房
海音寺潮五郎『孫子』毎日新聞社
豊田穣『艦隊山越え』講談社
F.E.スミス『ワーテルロー』早川書房
V.ヤン&ボロディン『征服者』平凡社
武田泰淳『十三妹』筑摩書房
玉木重輝『天山の之』東京新聞出版局
ヴォルドマール・レスティエンヌ『レジスタンス三銃士』TBS出版局・産学社
陳忱『水滸後伝』(東洋文庫)平凡社

田中芳樹多面研究

縄田一男「田中芳樹の中国小説」
『風よ、万里を駆けよ』と『紅塵』について。「田中芳樹の場合、詩藻は確実に思想に通じる様である」との一文で結ばれる。上手いこと言ってんじゃないよ縄田先生。

星敬「八〇年代ノベルスの隆盛と田中芳樹」
銀英伝の登場が、それまでの平井和正、栗本薫、夢枕獏、菊池秀行といった新書版SFとは違うヤング・アダルト向けのジャンルを切り開いたという内容。この文章に名が挙がった作家の現在を思うと、何ともやりきれない。

尾之上俊彦「ノスタルジアと時代感覚」
『アップフェルラント物語』『カルパチア綺想曲』をダシに、ルリタニア・テーマを扱った過去の作品を紹介。──ここまでが評論家による分析。

竹河聖「ホラーを愛するもの同士」
そしてここからは作家によるエッセイ。この人の馴れ馴れしい語り口は何なんだろう。銀英の文庫後書きでもこんな感じだったから、それが持ち味なのか?

水野良「プラス1の魅力、マイナス1の魅力」
田中芳樹がキャラクター作りの秘訣について「たとえば、あるキャラクターが一〇〇発殴られたとしよう。考えられる反応〈リアクション〉として、一発も殴ろうとしないか、一〇〇発殴り返そうとするはずだ。だが、これでは平凡なキャラになってしまう。九九発殴り返す、もしくは一〇一発殴りかえす。これが、魅力あるキャラなのだ」と語ったらしいことについて。

吉岡平「教えられた戦略と補給」
日本の架空戦記に「戦略」と「補給」という概念を初めて持ち込んだのは、田中芳樹であると語る。キャラ立ちばかり気にしてんじゃねえ、と言いたいらしい。

押井守「後方の主役 田中芳樹をアニメにするならば」
戦争映画には、戦闘の渦中でジタバタする人間ばかりで「勝つ為の論理」に徹した人間が登場しない、それでは戦争どころか戦闘も描くことができないと嘆く。アニメでなら表現できるとして文章を締めたが、それじゃ自分でやれば良かったんでないの。

幻影城の時代

「李家豊」名義でのデビュー作となった「緑の草原に……」は、「幻影城」1978年1月号に、後述の「受賞の言葉」と共に掲載された。それがこの読本に載録されている。初期短篇集にも収録されたので、現在そちらで読むことができる(中公文庫版と東京書籍版があるが、どうせ中身は同じだろう)。「我田引水的SF談議」は同誌1978年5月号掲載の初エッセイ。

受賞の言葉

守備範囲を広く 李家豊
弱小チームの頃から十四年、応援を続けてきた阪急ブレーブスが、三年連続日本一を為し遂げた。嬉しさ、これに過ぎるものはない。阪急は守備力の卓絶したチームだが、私にとっての理想も、「守備範囲の広い作家」と呼ばれるようになることだ。出発点はSFになったが、冒険小説、サスペンス、近世以前の中国を舞台にした歴史ロマンス──あらゆる分野に挑戦してみたい。エラー続出ということになるかもしれないが、怖い物知らずの若さだけが取柄だから。

(本書p.101より引用)

解説によると、田中氏がこの時受賞した〈幻影城〉新人賞は、小説部門と評論部門に分かれていて、選考委員は権田萬治、都筑道夫、中井英夫、中島河太郎、横溝正史の五名。各人は「緑の草原に……」をそれぞれ以下のように評したらしい。批評について積極的消極的と判断しているのは解説者であって、引用者ではない。

権田萬治:
「この作品の良さは、文体も平明、筋の展開もスムーズで全体的に明るい透明感があることである。読みやすく、いや味のない作品で、アーサー・C・クラーク風のSFが書ける人のような気がする」積極的評価

都筑道夫:
「無難にまとまって、活字にしてもいいとは思うけど、もっとあっといわせてもらいたかった」語り口の平明さとまとまりの良さを評価

中井英夫:
「なぜSFでなければならないのかが第一の疑問で、それも手法はずいぶんと古めかしい」手厳しいが作家の将来性を期待

中島河太郎:
「SFミステリーというと、つい肩をいからせがちだが、この作者はなんなく筆を運んで、しかも効果をあげている。文句なしにA級作品である」積極的評価

横溝正史:
「それにしても「幻影城」の新人賞作品にSFが登場したのはこれがはじめてだと思うが、それにしてはまずは佳作の部類であろう」消極的評価

また、同期の受賞者は、以下の通り。

小説部門
入選作 3編
「緑の草原に……」李家豊
「変調二人羽織」連城三紀彦
「蒼月宮殺人事件」堊城白人(“堊”の字は“亞”の下に“土”)
佳作 1編
「異次元の構図」高羽融二

評論部門
入選作 なし
佳作 4編
「屍語の芳香」佐藤貞雄
「夢野久作『氷の涯』への構想」佐藤齋
「三好徹と風の世界」中村良樹
「シャーロック・ホウムズの呪術」滝川秀人

執筆者一覧

「この人誰?」という人のために、本書からそのまま引用。94年当時の紹介というのを考慮すると、ちょっと面白い。

田中芳樹(たなか よしき)
1952年10月22日熊本県生。学習院大学文学部国文学科大学院修了。著作その他は本書をご覧ください。
天野喜孝(あまの よしたか)
1952年生。イラストレーター。田中作品では『アルスラーン戦記』『創竜伝』を担当。他に栗本薫・夢枕獏などの主要シリーズを担当。
押井 守(おしい まもる)
1951年生。映画監督・脚本家。監督作品として、アニメ『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』、映画『紅い眼鏡』他。
尾之上俊彦(おのうえ としひこ)
1966年生。フリーライター。共訳書〈ワイルド・カード〉シリーズ(G・R・R・マーティン編 東京創元社)あり。
梶尾真治(かじお しんじ)
1947年熊本県生。作家。珠玉の短篇から本格SFまで多彩な作風を誇る。『サラマンダー殲滅』(朝日ソノラマ)で日本SF大賞受賞。
神村幸子(かみむら さちこ)
魚座生まれ。血液型A。アニメーター。アニメ『アルスラーン戦記』のキャラクターデザインを担当。
竹河聖(たけかわ せい)
作家。1985年デビュー。ホラー、ファンタジーの分野で活躍中。著書『風の大陸』(富士見書房)他多数。
縄田一男(なわた かずお)
1958年生。文芸評論家。著書『時代小説の読みどころ』(日本経済新聞社)、編著『時代小説の楽しみ』(新潮社)他多数。
藤田和日郎(ふじた かずひろ)
1964年生。マンガ家。『うしおととら』(週刊少年サンデー連載)で小学館漫画賞受賞。近刊でイラストを担当する予定あり。(引用者注:おそらくこの「近刊」というのは『纐纈城綺譚』のことだと思われる)
星 敬(ほし たかし)
1956年生。SF研究家。日本SFのコレクターとして有名。編著『SF BOOK GUIDE '86−'89』(SFマガジン増刊)他多数。
星野之宣(ほしの ゆきのぶ)
1954年生。マンガ家。スケールの大きなSFマンガの描き手。著書『ブルーホール』『未来の二つの顔』(ともに講談社)他多数。
水野 良(みずの りょう)
1963年生。作家・ゲームデザイナー。ゲームデザイナー集団・グループSNEに所属。著書『ロードス島戦記』(角川書店)他多数。
吉岡 平(よしおか たいら)
1960年生。作家。1984年ノベライゼーションでデビュー、スペース・オペラ『宇宙一の無責任男』シリーズで人気を確立。著書多数。

この後にらいとすたっふの名前が続くが省略。

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入口
Appearance 11/08/2006. Written by 駱駝クラ 【三余】