7/17 産経新聞社説 

■【主張】人権擁護法案 国会提出より廃案にせよ


 自民党の与謝野馨政調会長は、党内で賛否両論が激しく対立する人権擁護法案の党内の法案了承手続きを進め、今国会中の提出を目指す意向を表明した。

 この法案はあまりに問題が多く、新たな人権侵害が発生しかねないと再三指摘してきた。同党法務部会も、法案の了承を求められた三月以降、問題点を訴え続けているが、疑念はなんら払拭(ふっしょく)されていない。

 憲法違反の疑いがあるといわれる法案をなぜ、閉会(八月十三日)まで一カ月を切ったこの時期に国会提出して成立を図ろうとするのだろうか。

 法案への主な疑問点は三点だ。

 第一は、「人権侵害は不当な差別、虐待、その他の人権を侵害する行為」とするあいまいな定義である。「人権侵害を助長、誘発する行為」も禁止される。いずれも恣意(しい)的な解釈がまかり通る危険があり、憲法二一条で保障されている国民の「表現の自由」は侵害されかねない。

 第二は、法務省の外局として新設される人権委員会に事情聴取や立ち入り検査などの強力な権限が付与されることだ。憲法三五条の令状主義は、上記の「行政手続き」にも適用されうるとする有力な学説がある。表現や思想の自由などが侵害される重大性を考えれば、令状なしはおかしい。

 第三は、人権委の下部組織の人権擁護委員(二万人以内)の選出基準だ。人権侵害の情報収集を行う人権擁護委員には従来あった国籍条項がなく、外国人をも想定している。自民党内には、在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)関係者が人権擁護委員になった場合、朝鮮総連を批判する政治家の発言が人権侵害として取り上げられる恐れがあるとの声もある。民主党有志の「人権擁護法案から人権を守る会」も同様な疑問を提起している。

 しかし、こうした疑念に対する納得できる説明は法務省からなかった。法務部会の了承取り付けも明確になっていない。自民党有志の「真の人権擁護を考える懇談会」が「強引な手法で法案を押し通すならば、自民党の重大な汚点」と憂慮するのも当然だ。

 執行部は、多くの問題をはらんでいる人権擁護法案を「郵政政局」の取引材料にしようと考えているのではあるまい。廃案にして出直すべきだ。