日本医療のパラドックス(3) (2007.6.28)

20074月に行われた第110回日本小児科学会学術集会のシンポジウムで民主党の小宮山洋子議員(NHKアナウンサー)は、彼女自身が3人の子どもを持ちながら仕事を続けてこられたのは夜中にいつでも診てくれる小児科医が居たからだと臆面もなく言い、民主党はその政策として全国400ヵ所に36524時間いつでも小児科医が診療する「地域小児科センター」なるものを設置する方針だと述べていた。


世の働く女性たちや、日頃の子育てに不安いっぱいのお母さんたちにはもろ手を挙げて賛成する人も少なくないだろう。
 乱立するコンビニエンス・ストアの存在とそのサービスに慣れきった日本人にとっては医療のコンビニ化も当然の要求だと思っているふしがある
 もちろんどんなサービスであれ、休日、夜間を問わずいつでも受けられるならばこんなに便利なことはない。銀行の振込み、市役所の手続き、警察署の免許書き換えなども、仕事帰りにできるのであれば助かる人は沢山居るに違いない。


しかしながら、このような利用者のニーズ(というよりも行き過ぎた欲求)に合わせて昼夜を問わずに営業時間を延長することは企業の経済効率を落とすことに他ならない。
 たとえば昼間8時間のあいだに来ていた顧客がそのまま24時間に分散してしまうのならば、顧客の総数と得られる収入には変化がなくても、それに必要な従業員の数や諸費用は単純に考えれば3倍になってしまう。


現在の小児救急が抱える1番の問題点を単純化すると上記のような図式になると思う。総合病院などにおいては日中の小児科の外来患者は内科の1/51/10であるにもかかわらず、夜間に訪れる小児救急患者は内科と同数かそれ以上、しかも右肩上がりに増えている。
 では小児は大人よりも圧倒的に夜中に重症化しやすいかというともちろんそんなはずはない。夜間に小児救急を訪れる患者のうち、昼間に他院を受診してすでに診断がついている者、何らかの症状はあるが翌朝まで待っても問題ない者、そもそも医療機関にかかるべき症状らしいものは何もない者を合わせると半分から2/3にのぼる。日中は混むからと夜中に受診し、「30分も待たされた」、「どうして昼間と同じ検査や治療ができないのだ」と不満を口にする者もいる。
 こういった不必要な受診をする人たちの「ニーズ」を満たすために病院は夜も小児科救急を開いておくよう期待されている。一方で、このような時間外に病院を訪れる人々が増加しているために日中の小児科外来の受診者は減少し、病院は小児科の常勤スタッフを減らさざるを得なくなる。結果としてより少ない数のスタッフでより多くの夜間救急患者を診療しなければならなくなって小児科医は疲弊し、病院は小児救急の看板を降ろさざるを得なくなる。


医療の分野では夜間に不必要な受診をする親子連れが増加したのに合わせて、いかに小児救急医療体制を整備、充実させるかと、政治家は何も出てくるはずもない小槌を一生懸命振って絵に描いた餅のような議論をしている。「時間外に受診すれば待ち時間が少なくて済む」という利己的な考えを持った者たちが当直をする人たちの休息を奪い、健康をむしばんでいる。

 学校では給食費の支払いを拒否する親が増えたために、食材の質を落として提供することが検討されている。

 福祉の分野では年金の支払いをしようとしない者やずさんな管理を行った者たちのために、これまできちんと支払ってきた人たちが受け取れなくなろうとしている。

ルールやマナー、常識を守れない者のために、その他の真面目に生きる人たちが犠牲を払わなければいけない社会は、はたして美しい国と呼べるのだろうか?