
幼児教育
教育問題は、医療制度、老朽化した鉄道と並んで、イギリスの政治家にとっては悩みの種のトップ3であるが、私の長女が体験したサザンプトンでの幼児教育は(これも学校によってかなりの差があるらしいのだが)手放しに素晴らしいと言えるものだった。
イギリスの幼児教育のスタートは早く、toddler groupという教会等の施設を利用した子育てサークルに行っていた子どもたちが3歳になるとnursery(幼稚園)へ通い、4歳からのクラスはinfant schoolという名に変わる。そしてreception、year 1、year
2の3年間、日本ではまだ小学校に入学する前の時期にも学校という名のもとに義務教育があり、90%以上の出席率が求められている。とはいっても実際のイギリス人の皆勤率は低く、娘が通っていた学校では約3カ月毎に出席率の高かった子供が全校生徒の前で表彰されるのだが、その3ヶ月間まったく休まなかったという子供はいつもごくわずかだった。
学校と言っても所詮はたかが幼児なのできちんと集中して学習できるわけはないのだが、nurseryの学年からすでに、ただ子供を預かって遊ばせておくだけではなく、読み書き、数え方、歌、お絵書き、コンピュータ操作、そして着替えなどの日常生活に必要な行為について1年毎に細かく到達目標を設定し、それらを遊び感覚で子どもたちにやらせて覚えさせようとしていた。
こういった授業が9時から午後3時まで、毎週月曜日から金曜日まであるのだが、その費用は税金でカバーされているので私たち親の負担はゼロだった。しかしその価値は測りしれない。たとえばこれが日本の英会話学校の幼児クラスなどで月120時間の英語の授業に対して対価を支払わなければいけないとしたら途方もない金額になってしまうだろうし、そもそもそんな長時間の授業を受けることは不可能である。
1年に何回か父兄面談があり、そこでは先生から1対1で自分の子供の到達度、授業態度についての説明を受け、通信簿のようなものも渡された。
イギリスの評価は絶対評価で、個々の子供について学期初めに設けた目標を5段階評価でどれだけ到達できたかが記されていたが、その横には「さゆりはこの学期のあいだに●●ということができるようになりました。次は○○ということもできるように頑張りましょう」といった子どもたちを誉めて伸ばそうとするコメントが書かれていて微笑ましかった。
以前にも日本人の子どもを受け持ったことがあるという担任の先生は、「日本の父兄たちは他の子どもと比べてどうかという相対的なことを気にするようだ」と指摘していたが、まったくもって的を得ている。
私の妻は、「次女にもイギリスの幼児教育を受けさせるために、自分はあと2、3年イギリスで暮らしても良かった」と今でも時々言っている。
いったい彼女はその他の苦労をすべて忘れてしまったのだろうか?
