業務上過失致死 (2007.3.19)

札幌のベテラン小児科医2名が腹痛を訴えた少女を誤診し死亡させたとして書類送検されたニュースに衝撃が走った。今はまだ書類送検の段階だが、日本においては書類送検された者の大半がいずれは裁判にかけられ、その多くが有罪になるという。
 十分な情報が入って来ないだけに医師たちに落ち度があったのかどうかも判断できないが、民事訴訟ならまだしも刑事事件として警察が介入するとは


他の小児科の先生も指摘されているように、小児の腹痛の鑑別は難しい。年少児では自分で症状を訴えることができないばかりでなく、泣き叫んだり、動いたりしてきちんとした診察をすることもままならない。にもかかわらず、便秘や胃腸炎などの一般的な疾患以外に、虫垂炎や腸重積などの緊急性の高い疾患の患者が紛れていることがある。また、当初はどうみても単なるウイルス感染による胃腸炎としか思えなかった症例が、あとになって腸重積などの症状を呈してくることもある。


1回の診察でその日のうちにすべての患者に正しい診断名を付けられる医師がいるとは思えない。
 今日自分が診察した患者が明日急変して、明後日に亡くなるために逮捕される可能性があるのであれば、正直言って怖くて臨床医を続けていく自信がない。これは他科の医師でも同じだろう。

 外来でインフルエンザと診断して帰した患者20名のうち、1人は明日インフルエンザ脳症になって命を落とすかもしれない。今日、健診をした健康そのものの乳児も明日は突然死することがあるかもしれない。成人領域においても外来通院中の患者が今日明日にも心筋梗塞や脳卒中で亡くなることはあるだろう。
 それもみんな関わった医師は「業務上過失致死」として罪を問われるというのか?


診断を誤った医師を「業務上過失致死」の罪に問おうとするのなら、どうして警察は同様の解釈を身内にもしようとしないのか?
 桶川ストーカー殺人事件秋田児童連続殺害事件では初動の誤りのために殺人事件を防げなかったというが、これこそ警察官による「業務上過失致死」ではないのか?誤認逮捕により無実の人を不当に拘束した警察官に業務上の過失はないのか冤罪が判明した被告に有罪判決を下していた裁判官には業務上の過失はないのか


この「業務上過失致死」という言葉は最近の医療事故に関わった医師を拘束するのに都合の良い口実として頻繁に使われるようになったが、「業務上過失致死」の拡大解釈は医療を滅ぼすことになりかねない。
 医療事故は、その問題をきちんと扱えるだけの専門知識を持った人たちで組織された第3者機関によって落ち度の有無を客観的に検討されるべきであって、医学に暗い警察権力が踏み込むべきではないし、そのような介入がまかりとおっている国は日本だけである。