第8回 「メランコリー親和型」

 今回は、「メランコリー親和型」という耳慣れない言葉を紹介しよう。これは、精神病理学の分野で確立されてきた概念で、かんたんにいうと、うつ病になりやすいタイプのことをさす。だが大切なのは、このタイプは、日本においては特殊に病理的な人たちではなく、典型的なまじめ人間の模範であるということだ。その「まじめで几帳面、責任感が強く他人に非常に気を遣い、頼まれたら嫌といえない」といった性格は、日本人として伝統的に尊ばれてきたものである。
 過労死や過労自殺にいたるのは、圧倒的にこのタイプである。そして、最近の職場うつの増加は、さらにこのタイプの人たちの苦悩が日常化していることを示す。メランコリー親和型が職場で孤立する傾向が深刻化している。しかも、伝統的な日本人像が変容し、もはや彼らが多数派であるとはいえない時代になってきた。
 メランコリー親和型のうつ病的な病理の発症を防いできたのは、日本的な共同性そのものである。職場でいえば、助け合いと協調性に富んだチームワークの精神である。そこでは、メランコリー親和型の気くばりと思いやりがじつに見事な役割を発揮する。仲間や同僚の仕事ぶりに配慮し、会社に誠心誠意貢献する。その働き方では、やりがいをともなう過労はあっても、うつ病や死にいたる病理にはつながらない。彼らは、職場の中核的な働き手として、あるいは縁の下の力持ちとして活躍する。
 そういったメランコリー親和型中心の職場環境が徐々に崩れてくるのが、1980年代であったと思われる。それは、日本社会全体でも集団性や共同性に翳りが見えてきた時代である。いじめや不登校のような学校の病理現象の本格化も、この時期にはじまる。共同体としての家族や地域の変貌も、この頃に一気に加速する。


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