マタンゴ



 評価・A
 制作国・日本
 制作年・1963年
 題名・マタンゴ
 製作・田中友幸
 監督・本多猪四郎
 脚本・木村武
 原作・ウィリアム・ホープ・ホジスン
 音楽・別宮貞雄
 撮影・小泉一
 特技監督・円谷英二
 出演・久保明
   ・土屋嘉男
   ・水野久美







ストーリー
 七人の男女がヨットで海を渡る。しかし嵐が訪れ、漂流の末、辿りついたのは謎の島であった。彼らは島を探索するが、そこは無人島のようであった。そして一隻の難破船を発見する。彼らは食糧をかき集め生き抜こうとするが・・・

解説

 七人の男女がヨットに乗って、歌って踊って。なんとも呑気で阿呆らしい。そんな描写から映画は始まる訳だが、今作はそんな愉快なオープニングから連想するような軽快な映画ではない。監督は本多猪四郎 といって「ゴジラ」の監督である。そして特技監督には円谷英二
 今作は映画に狂える人間ならば誰もが時を忘れて狂ってしまう。そんな映画である。いやもちろん、今時のコンピューターグラフィックスに肌慣れした人達の目を醒すのにも最適で、まさに異色、怪作。これほどまでに泥々とした、肌で感じる恐怖映画は少ない。この時代の映画だからこそ出せる味。奇妙な味。着ぐるみの恐怖。しかし今作のDVDジャケットを見て、ありえないの一言を残して避けて通る人は多い筈であるが、時代が違うんだよ時代が。そういう人に限って某配給会社の屑とも言えない映画を借りてきたりするのだが、そんなくだらない映画を観る時間があるのなら騙されたと思って今作を観て欲しい。そしてホラー映画通なんかも絶対おさえておくべき映画である。
  極限状態における人間心理を描いた作品は数多い。「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド 」はエゴを剥き出しにした人間たちを描いた痛快なホラー映画だが、今作もその類で、今作の登場人物は皆、飢餓に苦しみ狂って行く。飢餓状態ほど人間いらいらするものはない。どんな知識人でも食うに困るとアナーキーになると言うが、まさにその通りで、独りで居る場合ならまだしも、目の前に他人がいたりすると怒りは頂点に達する。横にいるのが身内でも耐えられないぐらいにいらいらするのに、それが赤の他人だなんて論外である。今作はそのような状態での人間の狂気を描いている訳である。喰う物はない、助かるのかもわからない、目の前に女がいるのに何もできない。そんな中で金に卑しくなるもの、女に狂うもの、キノコに狂うものが出てきて大変な事になる。女は「ほほほ、みんな私が欲しいのよ」ともう目も当てられない。なんとも奥の深い映画である。「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」が生きる屍の恐怖を描きつつも、エゴイスティックな人間を描くことで単なるホラー映画の域を超えたのと同じく、今作もマタンゴという不気味なキノコを題材に、人間を描いている訳である。
 しかし今作がただそれだけの文学的な映画だと勘違いしてはいけない。マタンゴの風貌はもう吃驚するぐらい奇怪で、何よりもマタンゴの不気味な不快な笑い声(笑ってるのかどうかは知らない)が恐ろしくて堪らない。ふぉっふぉっふぉっ、と言うと陽気な白髭みたいだが、これが耳にこびりついて離れない。映画クライマックスでマタンゴだらけの所に主人公が行ってしまうが、そこでの描写がなんとも言えない恐怖を描いている。鳥肌の立つような笑い声。次々に現れるマタンゴ。恐ろしい世界。狂った世界。気色悪いのはマタンゴたちは別に主人公を喰おうとしている訳でもなく、ただ取り囲んで面白がってる様に見えるところで、これほど気色の悪い事は無い。キノコを喰うか、気が狂って死ぬか。マタンゴの笑い声はかなり印象的で、後にあのバルタン星人の声に採用されたというが、僕のようなバルタン世代じゃなくてもバルタン星人の笑い声ぐらいは知っている。それほど印象的だという事だろう。とにかく素晴らしい恐怖映画。これは余談だが、数年前、地獄のように汚い僕の部屋にはキノコが生えていた。あんなものを喰っていたら中毒を起こして死んでいたに違いない。馬鹿、あいつら半分キノコだ。