TA2020デジタルアンプ


ついに禁断の果実を食べてしまいました。ここ数年、真空管アンプ一辺倒のアナログ派を 自認してきましたが、安価なデジタルアンプのキットがあるとのNET情報がたくさんあり、ここはデジタル アンプの概要を知る良い機会だと理屈を付け、Tripath社のデジタルアンプIC TA2020-020を用いた若松通商の 「TA2020-020デジタルアンプ完全キット」を送料込み1万円代半ばで通販購入しました。 ケース付きの完全キットにしたのは面倒な部品集めをする元気がなかったのと、どうせBOSEの小型SP(101MM) を使って居間でFMラジオをBGM風に流しっ放しにするのが目的なためシビアな性能は必要ない という理由からでした。

ケース工作とアンプ基板への部品取付け、内部配線はゆっくり楽しみながらやったので3日程度かかりました。 完成後電源を入れたら一発で鳴り始めました。デジタルアンプは高周波ノイズのためAMラジオに雑音が入るとのこと でしたが雑音も全く聞こえず高効率のため発熱もほとんどありません。細かい性能のことを言わなければコストパ フォーマンスは相当高いと言えます。

筆者注:本アンプは純粋な意味でのデジタルアンプではない・・かも。アナログ信号を 一度パルス信号に変換後再びアナログ信号に戻すので「パルスアンプ」とでも言えば良いのでしょうか。 パルス幅変調波は符号化処理されないためアナログ的要素を持ち、分類上デジタルアンプと言えるのか疑問です。 本当のデジタルアンプとは「0」と「1」の信号のみで処理されるアンプを言うのだと思いますが、0や1を どうやって増幅するんでしょうね。ともかく、世の中では本アンプをデジタルアンプと称しているので私も それに従います。

動作原理 デジタルアンプの簡単な動作原理です。20Hz〜20kHzのオーディオ信号を数百kHz(左図の場合500kHz)の搬送波 (実際は三角波)でパルス幅変調(PWM)します。PWM変調波をMOS FETでスイッチング駆動したあとLC回路による 低域通過フィルター(LPF)で元のオーディオ信号成分を取り出します。FETは単にON-OFF動作しかしないため 最大出力電力は電源電圧の大きさによって決定されます。
Tripath社のカタログによると、TA2020-020デジタルアンプICでは搬送波の周波数はオーディオ信号の周波数により 100kHz〜1MHzの間を変動させる、いわゆる「スペクトラム拡散」技術を応用して出力に漏出する搬送波レベルを抑圧 しているそうです。因みにオーディオ信号なしの状態で漏洩搬送波の周波数を測定したら約800kHzでした。

マウスを画像に重ねると 画像が拡大 されます。(以下同様)

完全キット 送られてきた完全キットの中身です。TA2020-020デジタルアンプIC基板、タカチ製ケース、DC12V 50W SW電源、 2連ボリューム・SP端子・RCA端子・発光ダイオード・電源SW等の外付けパーツ、シールド線・電源コードなどの 配線材料から構成されています。

穴あけ後のケース 穴開けが終わった段階のケースです。電動ドリル、リーマー、ヤスリで工作しましたが大きな穴が必要 ないため工作は楽でした。ケースの寸法は 200 (W) x 150 (D) x 40 (H) mmです。

部品取付け後のケース SW電源、外付けパーツ類を取付けたあとのケースです。

アンプ基板パーツ デジタルアンプIC基板のパーツ類です。基板、IC、抵抗、コンデンサ、コイル、ダイオード、ショートバー から構成されています。Tripath社のデジタルアンプIC(TA2020-020)の仕様は下記のとおりです。

電源電圧:DC 8.5V〜14.6V
出力電力:20W at 13.5V 4Ω、10W at 13.5V 8Ω
歪率:0.03% THD+N at 10W 4Ω、10% THD+N 22W 4Ω
チャンネルセパレーション:-80dB at 1kHz
アイドリング電流:64mA
電力効率:88% at 12W 8Ω

完成したアンプ基板 完成したデジタルアンプ基板です。半田付けに要した時間は約1時間でした。基板が豪華なため半田付けは 大変スムースに実施出来ました。

アンプ正面 デジタルアンプ正面です。中央にボリューム、右に入力切替SW、左に電源SWとパイロット用青色LEDです。 「完全キット」は1チャンネルしかなかったため入力切替SWを増設しました。

アンプ背面 デジタルアンプ背面です。RCAジャック1組を増設しましたが全く同じものが無かったため異なったジャックに なってしまいました。因みに上段のRCAジャックが増設したものです。スピーカー端子は小さな安物が 使われており、太いスピーカーケーブルを繋ぐのが難しいです。

ハラワタ 恒例のデジタルアンプのハラワタ公開です。内部は比較的広くて配線は楽でした。普通パワーICというと発熱が 付き物ですがさすがデジタルアンプの電力効率は高く、放熱板なしでも手で触れる程度の暖かさです。電源投入 時のポップ音を解消するため、オムロンの小型リレー「G6A-274P」(1個500円程度)によってスピーカー回路を 遅延接続しています。最大接点電流が2Aの小さいリレーですが通常1〜2W程度の小出力で用いるので問題ないと 思います。

デジタルアンプ回路図 TA2020-020デジタルアンプの回路図です。赤色で示した部分は「完全キット」に新たに増設した部分です。 12V電源を強化するため16V 10000μFを、IC内で生成された5V電源に16V 2200μFを付加しました。また操作性を 向上させるため入力を2系統化しました。「完全キット」は4Ωのスピーカーを想定したコンデンサが用いられており、 8Ωの場合は0.47μFを0.22μFに交換するよう指示されています。使用を予定しているスピーカーがBOSEの101MM で6Ωのため、0.33μFが最適ではないかと思われますが6個も購入するのは面倒なのでそのままにしました。 なお、電源投入時のみポコンというポップ音が出るので、原始的な方法ですが出力回路に約5秒間の遅延回路を挿入 しました。当初、ミュート端子、スリープ端子の利用を試みましたが、これらの機能を解除する時にポップ音が 出るため諦めました。 また、+5Vの電源を外部素子で安定化すると低音の出が良くなるという噂を聞いてやって見ましたが違いは分かり ませんでした。

TA2020のf特 TA2020-020デジタルアンプの振幅周波数特性です。負荷抵抗は4Ωで測定しましたが20kHzで0.25dBのわずかな 持ち上がりが見られます。8Ωのスピーカーでは高域の盛上がりが発生するのではないかと懸念されます。 超低域まで減衰がなく良く伸びています。残留雑音は1.2mVで1kHzでのDFは9.1です。 オシロスコープで見ると35mVの800kHz搬送波が出力に漏れていますが私のミリボルト計では測定出来ないです。


TA2020の歪率特性 TA2020-020デジタルアンプの歪率特性です。100Hzの歪率が1kHzや10kHzより良好という 不思議な結果になっています。パソコンソフト(WaveSpectra)を使用して測定しましたが、スペクトラム拡散 された漏洩搬送波の影響のためか、スペクトラム波形が常に変動するため最良値をもって測定値としました。 アンプのゲインが小さいためCD Playerを用いた信号発生器では出力6W以上の特性が取れませんでしたが、6Wまでは 歪率が1%以下とかなり良好です。この調子だと出力10Wくらいまでは大丈夫だと思います。

TA2020のセパレーション特性 TA2020-020デジタルアンプのチャンネルセパレーション特性です。高域で段々と上昇しますが 中低域では良好です。 特に超低域では-100dBであり、真空管シングルアンプに比べると非常に優れています。

TA2020の入出力特性 TA2020-020デジタルアンプの入出力特性です。負荷抵抗は4Ωで測定しました。 電源電圧が12.3Vのため10Wあたりから直線性が乱れてきます。電源電圧を13.5Vにすれば15Wくらい出そうです。 アンプのトータルゲインは約11倍です。

残留搬送波雑音 TA2020-020デジタルアンプの入力無しの場合の最大利得時に出力に出てくる漏洩搬送波成分 です。周波数は約800kHz、電圧レベルは約100mVp-pです。LPFをもう1段増やせばもっと減衰するかも知れませんが、 聴感上全く違和感はないのでこのままとします。心配していたAM放送に対する雑音も全く出ません。恐らく スペクトラム拡散技術と優秀なSW電源によるものと考えられます。

1kHzの出力波形 TA2020-020デジタルアンプの2Vp-p時の1kHz正弦波出力です。漏洩した搬送波成分が波形に 乗っかっています。

100Hz方形波応答 TA2020-020デジタルアンプの2Vp-p時の方形波応答波形です。上から100Hz、1kHz、 10kHzです。 僅かにオーバーシュートが見られるのと漏洩搬送波が乗っかっています。

1kHz方形波応答

10kHz方形波応答

デジタルアンプ製作後の感想:

真空管アンプの「ウン分の一」の低コストで試しに1台作って見ましたが感想は以下のとおりです。

1.結構良い音で鳴っており誰もデジタルアンプの音とは気付かない。
2.発熱が全くといってよいほど少なく地球温暖化対策として推奨できる。
3.デジタルアンプIC、SW電源からの高周波雑音が少なくAM放送への雑音も無視出来る。
4.調整箇所がなく製作し易い。
5.出力の割には小さく製作出来る。
6.電源が単電源(負電源が不要)のため簡単かつコスト安である。
7.電源投入時にかなり大きなポップ音が出るが簡単な回路挿入で解決出来る。

追記1:バスブースト回路を追加して遊んで見ました!

バスブースト付き回路図 小型スピーカーを使用する時に便利な低音を豊かにするためのバスブースト回路(10kオームと 0.033μF)を追加して遊んで見ました。低域がブーストされ豊かな低音が得られます。 工作は超簡単で、20kオーム抵抗の足をニッパーで切断してCR並列部品を半田付けで挿入します。 バスブーストをON-OFFするスイッチを付けました。

バスブースト付きf特 バスブースト付きデジタルアンプの振幅周波数特性です。0.033μFのコンデンサーを抱かせた10kオームを 20kオームに直列に接続したので、超低域で20Log(30/20)=3.5dB持ち上がる計算なので 測定値と大体一致しています。因みに抵抗を大きくすると低域でのブースト量が増え、コンデンサーを大きく するとブースト開始周波数が低くなります。


追記2:トランス結合デジタルヘッドフォンアンプに改造しました!

回路図 コストパフォーマンス抜群のTA2020デジタルアンプはそこそこの音を出していますが、並み居る 大型真空管アンプには貫禄で勝てずほとんど出番がありません。そこでベッドサイドステレオの側に 置いてヘッドフォンアンプとして活躍してもらう事にしました。
当初、スピーカー出力端子からレベルを下げるための抵抗をステレオヘッドフォンジャックに接続 すれば良いと安易に考えていました。しかし、デジタルアンプの回路図を見て唖然としました。 と言うのは、スピーカーのマイナス端子がアースに落ちていないので3Pのステレオジャックでは うまく配線出来ないのです。無理やり接続するとデジタルアンプのICを破壊する恐れもあります。 4Pのヘッドフォンジャックなんて見たこともないし、4線式ヘッドフォンも全く経験ありません。 困った時の神頼み、早速、ネット検索を開始しました。有りました。トランスを使えば解決出来そう です。幸い、昔友人からもらった600オーム:40オームのマッチングトランス(日本光音、TTB0031A、 最大電力+25dBm、周波数特性30〜20kHz ±0.25dB)が使えそうです。40オームのインピーダンスは 32オームのヘッドフォンと整合が取れます。レベルを下げるための抵抗はトランスの一次 インピーダンスが600オームなので単純に510オームにしましたが、ヘッドフォンの音量は若干大きい かなという按配になりました。

トランスの取付 一番大きな問題は2個のトランスを小さなケース内に収容出来るか否かです。試行錯誤の結果、1個は 音量ボリュームと電源スイッチの間に、もう1個はポップ音解消のためのリレーを移動させた空間 にギリギリ入りました。ケース内が狭い上にトランスの端子が細いので半田付けは慎重に行いました。 トランスはビニールテープで固定しているだけですが隙間にぴったり入っているのでほとんど 動きません。

アンプ正面 デジタルアンプの出力には高周波雑音が残留しているためスピーカー端子に感度の高いヘッドフォンを 直接接続すると「サー」という雑音が聞こえます。しかし、510オームの抵抗を介してインピーダンス 600オームのトランスに接続すると雑音は全く聞こえません。トランスが一種のバンドパスフィルター として働いているようです。出てくる音はとても明瞭で、トランス結合デジタルヘッドフォンアンプも 捨てた物ではないことが判明しました。

f特性 32オーム抵抗負荷での1Vp-p時の振幅周波数特性です。低域は10Hzまで、高域は35kHzまでフラットで トランス結合とは思えないほど優秀な特性です。

100Hz 32オーム抵抗負荷での1Vp-p時の100Hzの応答波形です。デジタルアンプ特有の高周波ノイズがわずかに残って いますが問題ない波形です。

1kHz 1kHzの応答波形ですが問題ないです。

10kHz 10kHzの応答波形です。f特カーブの高域での僅かな盛り上がりを反映して小さなオーバーシュートが 見られます。マッチングトランスを噛ましてもオリジナルのデジタルアンプの波形とほとんど同じでトランス の優秀さを物語っています。

ベッドサイドステレオ 現在、ベッドサイドステレオの一部として余生を送っています。ヘッドフォンは定番のSONY MDR-CD900STで 心地よい音を聞かせてくれます。



真空管オーディオへ戻る