4.孤島

「いいか、今回の作戦を再確認する。まず、MS部隊は島の南側から上陸、ジオンのMS部隊を牽制、可能ならば撃破する。その隙に歩兵部隊は島の北側から上陸。ジオンの施設に強襲をかけ、エスカを救出する。なにか質問は?」
 レダ大尉の指示に、レイジが意を決して声を上げた。
「大尉! オ、オレも歩兵部隊に加えてください! オレは自分の手でエスカを助けたいんです」
「甘ったれるな。お前はMSパイロットだ。軍人なら自分の本分をわきまえろ」
 レダにあっさりと一蹴され、レイジは肩を落とした。だが、そんなレイジに、意外な所から助け舟が出た。
「まあまあレダ大尉。いいんじゃないですか、彼を歩兵部隊に加えても。レイジ軍曹の気持ちも分かりますし、彼も生身の白兵戦というのがどういうものか、経験しておく必要があるかもしれません」
「ヤムヤ少佐がそうおっしゃるなら、私に意見などありませんが……」
 レダ大尉がしぶしぶながら折れる。
 こうして、レイジはホンコン基地の歩兵部隊と一緒にクルーザーで島の北部から上陸し、エスカの救出に回ることになったのである。

 MSを使っての作戦である以上、奇襲は不可能に近い。となれば作戦は当然、強襲となる。
「ミノフスキー粒子が戦闘濃度で散布されてる……。レダ大尉、やっぱりここがジオンの秘密基地であるのは間違いないみたいです」
 マルスは『お肌の触れ合い回線』で、隣を飛ぶガンダムを駆るレダ大尉に語りかけた。
「そうか。やはりな。では、作戦通り私と君はこのまま空中から攻撃をかけ、海から上陸するイアン、アレク両名のMSを支援する」
「了解しました、大尉!」
 そう、マルスが応じたその瞬間。
「高熱源反応!? いかん、離れろマルス!」
 レダの絶叫が、お肌の触れ合い回線を通じてスカイナイトガンダム2号機のコクピットに響き渡った。
「え!?」
 マルスが反応した時には、もはや手遅れだった。強烈なビームの束が空気を切り裂き、ガンダム目掛けて飛んできていたのである。
「う、うわあああああっ!」
 そのビームは、スカイナイトガンダムの最重要パーツである背中の飛行用ブースターを直撃した。
「マルス!」
 レダが素早く2号機に手を伸ばしたが、遅かった。飛行能力を失ったガンダムは、無様に海面へと落下していった。
 巨大な水飛沫が、ホンコン沖の海面を騒がせる。
「うそっしょー!? いきなりガンダムがやられたなんて、洒落になんないっすよー!」
 小型強襲揚陸艇シーフォークから今まさに孤島に上陸しようとしていたアレクは、その予想外の光景に絶句し、動きを止めた。
「馬鹿、アレク、何をしてる! そんなところで凍り付いていては、お前も狙い撃ちされるぞ。とっとと上陸して森の中に一旦身を隠せ!」
「け、けどイアン准尉! あのとんでもない威力と命中精度のビーム兵器はなんすか!? ジオンにあんな強力な狙撃兵器を装備した機体なんて、あったっすか? あ! まさかゲルググJ(イエーガー)とか言う奴じゃ!?」
 イアンは知らない機体の名だった。アレクは軍事オタクだけあって、試作機や実戦未投入の機体も含めて、やたらMSに詳しい。
「相手が何者かは知らんが、このミノフスキー濃度だ。森の中に逃げこんでしまえばそうそう発見されるものではない」
 この孤島は、砂浜となっている海岸部を除いては、ほぼ全面が木々に覆われている。確かに島の内部に入りこんでしまえばそう簡単には見つからないだろう。
「……けど、逆にいえばこっちも簡単にはジオンのMSを見つけられないってことっすよね」
 その問いに答えたのは、イアンではなくレダだった。
「その通りだ、アレク軍曹。だが、あのビーム兵器がある以上、私のガンダムはうかつに島に近づけん。2人とも、まずはあの狙撃MSを押さえてくれ」
「了解!」
 そう答えたイアンは既に、森の内部に入りこんでいる。
「ちいっ、ミノフスキー粒子がこうも濃くてはセンサーは当てにならんし、こう木々が生い茂っていては目視もままならん。音波ソナーに頼るしかないか……」
 だが、MSのソナーの性能など、実際はたかが知れている。だからこそ、一年戦争時代には必ずMS小隊にホバートラックが同伴し、索敵任務を受け持ったのだ。
「くそっ、ソナーでは所詮、限界が……うおっ!?」
 突如足元で起きた爆発に、イアンのガルバルディβは大きく態勢を崩し、よろめいた。
「対戦車地雷!? やはり、待ち伏せされていたのか!」
「そのとおりっ!!」
 突如響き渡った声にイアンは目を上げた。正面ディスプレイに映る、その蒼いMSは……
「イフリート! 蒼龍会のマサミツ・ツルギか!!」
「いつぞやのガルバルディβか。私は運が良い。貴公のような猛者を再度相手にできるとはな!」
 振り下ろされた2刀のヒートブレードが、咄嗟にかざしたガルバルディβのシールドを真っ二つに粉砕した。シールドに内蔵されたミサイルが誘爆し、小さな爆発が連続して巻き起こり2機のMSを包み込んだ。

 アレクのジム2は、海岸の砂浜に位置したまま、フェダーインライフルを構えていた。射程と威力は十二分にあるが命中精度と速射性に難のあるフェダーインライフルは、射線の通りづらい森の中では威力を発揮しづらいからだ。
「えーいっ……敵は、どこなんすかーっ?」
 必死でセンサーに目を走らせていたアレクは、ようやくわずかな熱源反応を捉えた。
「この熱量は、MS!? っていうか、この反応は……」
 アレクはセンサーの語る非情な現実にしばし目を疑った。
「下―っ!?」
 そう叫んだ瞬間、足元の砂が膨れ上がり、青いMSがその中から姿を現した。そして、そのMS──MS−07グフから放たれたヒートロッドが、ジム2の脚部に絡み付く。
「ま、マジっすかー!?」
 アレクが絶叫したのと、強力な電流がヒートロッドから放たれ、ジム2に襲いかかったのは同時だった。

 一方その頃、島の北部から上陸したホンコン基地の精鋭歩兵部隊は、ジオンのアジトと思われるコンクリート製の建物を発見していた。
「よし、各員、武器の用意はいいか。正面から突っ込むぞ。……それから、レイジ・オハラ軍曹は最後尾から来い。俺達の足手まといにならんようにな」
 歩兵部隊の隊長ファン・シャオ曹長の台詞に、隊員たちから嘲笑が沸き起こった。
「お、オレは足手まといにはならねえよ!」
「そう願いたいな、軍曹。だが、MSパイロットってのはいつもコクピットに座りっぱなしで運動不足だろう? 果たして、オレ達についてこれるかな、坊や」
 またしても巻き起こる嘲笑。レイジは今にも激昂してファン曹長に殴りかかりそうになるのを必死に押さえた。実戦叩き上げの彼らから見れば、MSのパイロットなどというのはエリートなのだ。当然やっかみというものもある。
「よし、行くぞ!」
 ファン曹長の号令一下、歩兵部隊は手に手にライフルやマシンガンを握り締め、駆け出した。
 と、突如無数の獣の雄叫びが森の中から沸き起こった。と思うや、たちまち周囲から、黒犬の群が現れ、歩兵部隊に襲いかかる。
「軍用犬か! ジオンめ、味な真似を!」
 ファン曹長が毒づきながらも拳銃を乱射する。訓練を受けた犬と言うものは、なまじな人間の兵隊よりも手強いものであるという事を、レイジは始めて知った。そしてレイジは、獣に人が噛み殺される光景というものを、生まれて始めて目にしたのである。その光景は、人間の底に眠る、原初の恐怖を呼び起こした。
「く、くそーっ!」
 レイジは手にしたアーミーナイフを滅茶苦茶に振り回し、黒犬の群に応戦した。それは、犬を攻撃するためというより、自らの心の内に宿った恐怖を切り裂こうとする行いのようにも見えた。
 狂ったようにナイフを振り回していたレイジは、肩を軽く叩かれ、ようやく我に帰った。
「もういい、軍曹。犬達は散り散りに逃げていった。……こちらの被害も予想以上に甚大だがな」
 ファン曹長の言葉に、レイジは肩で息をしながらも、目だけを巡らせて周囲の様子を確認した。あちこちに散乱する犬の死骸、肩や腿を食い破られ苦しそうにうずくまる兵士達、そして、原型を留めぬほど全身を噛み裂かれた、軍服を纏った大きな塊……。
「あ、ああ……」
 レイジはその光景に、これまでの人生の全てを否定されたかのような衝撃を覚えた。MS同士の戦いというものは、敵機を撃墜しても、パイロットには人を殺したという自覚は生まれにくい。それは、相手が死にゆく姿を直接目にすることができないからだ。そしてその事実が戦争を仮想現実化し、より一層の悲惨さを拡大していったというのが現実である。実際、旧世紀の終わりから宇宙世紀に至るこれまでの戦いを飾ってきたのは、戦闘機や戦艦、核ミサイルや毒ガス、コロニー落としといった、相手を実際に見ることなく殺すことの出来る──人の痛みを感じさせてくれない兵器である。
 だが、生身での戦いというものは、そんな近代の戦争の幻想を打ち破るのに充分な力を持っていた。
「どうした? 怖気づいたか、坊や?」
「はい……」
 今度は、ファン曹長に対する怒りも反発も生まれなかった。レイジは正直に、そう答えていた。
「そうか……。それでいい。人の痛みを分からん奴が戦争をやるから、一年戦争のようなとんでもない惨劇が生まれる。MSパイロットって奴はその人の痛みって奴が分からん奴が多いからな。ま、これでお前さんも、少しはマシなパイロットになれるってこった」
 ファン曹長は労うようにレイジにそう声をかけると、周囲を見まわしながら声を張り上げた。
「ようし! 怪我人は今すぐクルーザーに戻れ。軽傷の者は重症の者に手を貸せ。まだ戦える者はこれより敵アジトへの正面突破を仕掛ける。どうせこれだけ派手に暴れたんだ、敵さんには俺達の存在はもうばれてる。小細工はなしだ。正攻法でいくぞ! ……ついて来れるか、坊や?」
「は、はい!」
 顔をやや蒼ざめさせながらもそう答えたレイジに、ファン曹長はニヤッと笑いかけた。
「いい返事だ、軍曹。よし、行くぞ!」
 言うと同時に、ファン曹長が手榴弾を建物目掛け投げつける。一瞬の沈黙の後、激しい爆発が大気を揺さぶり、コンクリートの建物の入り口らしき金属製のドアを吹き飛ばした。
「全員、突撃―っ!!」
 ファン曹長の号令一下、レイジを含む歩兵部隊は一斉に建物目掛けて駆け出した。

 アレクのジム2を襲ったグフは、空中から飛来した弾丸にコクピットを貫かれ、地に伏した。レダ大尉が、空中からロングレンジキャノンで狙撃してくれたのだ。だが、ほぼ同時に島の中央付近から再びビームが迸り、レダのガンダムを掠めていた。
「ク……大した命中精度だ。よほど腕のいい者がセンサーの優れた機体に乗っているな……。アレク軍曹、無事か!」
「あまり無事じゃないっすね……。ヒートロッドの電撃で、完全に下半身の駆動系がやられちゃってるっすよ」
 確かに、肩膝立ちの格好で辛うじて姿勢を保っているジム2の姿は、『無事』という言葉からは遠い。
「アレク軍曹、上半身の方は問題ないか?」
「それは、そっちだけは無事っすけど」
「よし。ではセンサーを熱源探知に切り替え、いつでもフェダーインライフルを撃てる態勢を整えておけ。これから、狙撃MSをあぶりだす」
「え? そんなことができるんすか!?」
「少々危険だが可能だ。恐らく敵の武器は連邦製のロングレンジビームライフル──ジムのスナイパータイプに装備されていたものだ」
 それならアレクも知っている。高出力の上ジェネレーター内蔵型のため、出力の低いMSでも使用可能な強力なビーム兵器だ。ただし、重量がかさむ上、大量の冷却剤を使用するため、持ち運びには適さない。
「そこで、あえて敵にビームを撃たせ、その時の高熱源反応を見切り、そこにフェダーインライフルを撃ちこむ。敵のMSはセンサー系に優れた機体……恐らくザクの強行偵察型か何かだろう。それがロングレンジビームライフルを持っているのだとすれば機動性は無きに等しいはず。射撃直後にすぐ移動などできぬはずだ」
「でもそれって、レダ大尉が囮になるってことじゃないすか! 大丈夫なんすか!?」
「私の腕を信じろ。それに、勝機はそれしかない」
「りょ、了解」
 アレクは覚悟を決めることにした。後はレダ大尉の操縦技術と……自分の射撃の腕を信じるしかない。
「行くぞ!」
 言うやレダ大尉はスカイナイトガンダムを全速力で孤島めがけて突撃させた。
「そろそろ敵の射程内のはず……来たか!」
 ビームが光の奔流となり、レダに襲いかかる。
「くっ! 間に合わないか!?」
 ビームはガンダムの右足を掠め、脚部スラスターと装甲を瞬く間に融解させていく。
「アレク、何をしている!」
「索敵完了! そこーっ!!」
 半瞬遅れて、ジム2のフェダーインライフルが火を吹く。次の瞬間、島の中心部で激しい爆発が巻き起こった。
「やった! やったっすよ、レダ大尉!」
「ああ。だが、これではこちらもほとんど戦えんか……」
 ジム2もスカイナイトガンダムも、脚部に損傷を受け機動力が半減している。
「後は、イアン准尉に任せるか……ジオンがこの島に何機のMSを展開させているのか分からんのは痛いな……」

 コンクリートの建物の中は無人だった。人のいる気配は無い……いや、最近ここに人がいた気配すらない。
「なんだあ? 敵さん、こっちの動きに勘付いて逃げ出したんですかねえ、隊長?」
 歩兵部隊の1人が気が抜けたように構えていた銃を降ろし、ファン曹長に目を向けた。
(違う……何か変だ)
 レイジは直感的に異常を感じていた。だが、何が変なのかうまく言葉にできない。
 そのレイジの直感を補うように、厳しい顔でファン曹長が叫んだ。
「これは……罠か!? いかん! 全員すぐに建物から外に出……」
 最後まで言い切ることは出来なかった。突如轟音が轟き、建物が崩壊を始めたからだ。
「う、うわああっ!」
 レイジもすぐに建物の外を目指していたが、すぐに落ちて来た瓦礫に行く手を阻まれ、そして……

 イアンは、苦戦を強いられていた。マサミツの駆るイフリートは、一撃離脱の戦法を取り、姿を現したと思った次の瞬間には森の中に姿を消している。さらにこの辺りは地雷原であるらしく、下手に動くと対戦車地雷の爆発に巻き込まれてしまうのだ。
「ジオン蒼龍会とは、もともとゲリラ戦を得意とする部隊だと聞く。ではこれが、奴らの本来の戦い方か……。今までの正面切っての戦いとは違う。ここは奴らの庭……ちっ、やはりあの暗号通信はオレ達をこの島におびき寄せるための餌だったのか。どおりであっさり傍受できたわけだ。すっかり罠に嵌まってしまったな」
 イアンの思考は、突如背後から飛んできた銃弾に遮られた。
「ガトリングガン!? 馬鹿な、マサミツのイフリートには飛び道具は装備されていないはず……まだ敵がいるのか!? この島には何体のMSがいるんだ!?」
 イアンはすっかり動揺していた。そしてそれは、蒼龍会の思う壺である。
「動揺は戦場では死を招く。自らの迂闊さを呪いて地に伏せよ!」
 森から飛び出してきたイフリートの一撃が、ガルバルディβのビームサーベルを弾き飛ばした。
「しまった!」
「とどめをささせてもらう!」
 続いてヒートブレードをマサミツが振り下ろそうとした時。
「そうはいかん!」
 続いて轟いた二発の銃声が、マサミツのイフリートを揺るがした。同時に、森の中で爆発が起きる。
「グフがやられた!? 空飛ぶガンダムもどきか!? 狙撃手は何をしていた!」
 連邦から奪ったロングレンジビームライフルは、対ガンダムの切り札だったのだ。だが、どのような手段でか、その切り札は失われたらしい。
「せっかくここまで追い詰めておきながら……。だが、此度はエスカなる少女を手に出来たことで良しとするか」
 マサミツは戦いに見切りをつけると、腰に下げていた小型の球形の物体を地面に叩きつけた。
「な!?」
「照明弾!?」
 その目映い閃光に、レダとイアンが目をふさがれたその一瞬の間に、マサミツのイフリートは何処とも無く姿を消していた。

「イアン准尉、無事だったか」
「無事だとは言いがたいですが……。なんとか生きています」
「よし。では海岸にいるアレク軍曹と合流するぞ」
 辛うじて蒼龍会の罠を潜りぬけたレダとイアンの2人が、ようやく動き出そうとしたその時。
「な!?」
 突如上空から迸ったビームの閃光が、レダのスカイナイトガンダムを直撃した。幸い装甲を貫通することはなかったが、ガンダムはその衝撃で地に突っ伏す形となった。
「何!? まだジオンが残っていたのか!」
 イアンが即座にカメラを上空に向け、索敵を開始する。そんなイアンが見たのは、ベース・ジャバーに乗ったハイザックの姿だった。
「あれは、ティターンズの機体!? なぜティターンズがオレ達を狙う!」
「ヒッヒッヒッ、お前さんらとジオンが争えば、双方無事には済まないってもんだねぇ。そうなりゃあどちらが勝ったって問題無い。残った方をぶちのめしてエスカって女はこのオレが頂くって寸法さね。いいねいいねぇ。これでオレはジオンに攫われたエスカを救い出したってぇことになる。あの失態も帳消しさぁ!」
 ハイザックのコクピットで、マヴァイ少尉は1人悦に浸っていた。これで、当初の計画通りに方向修正がされる。後はエスカと言う少女を確保し、トワイゼル中佐の下に届けるだけ──
「おい、ティターンズ! 寝ぼけるな、エスカはこの島にはいない! これはジオンの罠だったんだ!」
 だが、イアンが伝えた真実も、今のマヴァイには戯言としか聞こえなかった。
「口先三寸のでまかせはよすんだねぇ。さあ、エスカを渡してもらおうかぁ? なんならあんた等はジオンにやられて全滅しましたって報告してもいいんだぜぇ?」
「く、ティターンズらしく汚い男だ」
 ほとんど動けないガンダムのコクピットで、レダは舌打ちした。
「さあ、どうするぅ? 考えを改めるなら今のうちってねぇ」
 マヴァイが悦に浸ってそう呼びかけた時。
「考えを改めるのはユーの方だぜ、マヴァイ」
 突如各機のコクピットに、陽気な男の声が飛び込んで来た。
「な……ウィ、ウィッテ中尉!? どうしてここに!?」
 レダ、イアン、マヴァイはほぼ同時に視線を転じ、そこに巨大な黄色い円盤──アッシマーの姿を見た。
「マヴァイ、ユーのやってることはVery Badな行為だぜ? 上官たるミーを無視したセルフィッシュな出撃、友軍への不条理なアタック、これは軍法会議は避けられない行為だ。いや、軍法会議なんて待つ必要はナッシングだな。今ここで、ユーを処刑することも可能でね」
「ちょ、ちょっと待って下さいよぉ、中尉。オ、オレはジオンと戦ってたこいつらの援護をしようとしてただけですぜぇ」
 マヴァイの苦し紛れの言い訳は、しかし、ウィッテに一笑に付された。
「ヘイ、マヴァイ。そんなフーリッシュなライで、ユーを誤魔化す気かい? ティターンズにとって、掟破りは万死に値する罪だぜ!」
 次の瞬間、アッシマーの大型ビームライフルが火を吹き、マヴァイのハイザックの頭部を一瞬にして吹き飛ばした。
「……これは警告だぜ、マヴァイ。次にミーを出し抜くような真似をしたら、容赦無くユーをキルする」
 その声はいつものように陽気な甲高いものだったが、その背後に潜む冷たさに、マヴァイは全身が凍りつくような寒気を覚えた。
「……ソーリー、機動試験部隊の皆さん。部下の不始末はミーがこの通り謝罪する。ユー達がアングリーなのはミーにもよく分かるが、ここはミーに免じてこれでなかったことにして欲しい」
「勝手な理屈を……」
 だが、ここでティターンズに立て付いても何もならないことは、レダもイアンもよく分かっている。
 結局2人には、飛び去る2機のMSを見守ることしかできなかった。

 レイジが気付いた時、建物は跡形も無く瓦礫の塊と化していた。レイジの体も半ば瓦礫に埋もれている。レイジは全身の気力をふりしぼって立ち上がった。幸い、大きな瓦礫の隙間に入り込んでいたようで、レイジ自身の体にはそれほどの傷はなかった。それでも、右腕が全く言うことを聞かない。骨が折れたわけではなさそうだが、脱臼でもしたのだろう。
「くそ……! そうだ! ファン曹長!」
 レイジは慌てて周囲を見回した。だが、辺りに動くものの気配は無い。まるでこの世から全ての音が消え去ってしまったかと思えるほど、静かだった。
「まさか、まさか全滅かよ!? 嘘だろ、返事をして下さいよ、曹長! 誰か、誰かいねえのか!?」
 答える声は無い。レイジは今、たった1人だった。
「嘘だろ……ついさっきまで、曹長達は生きてたんだぞ。それが、それが……」
 これが、これが戦争だと言うのなら、こんなものは……
 レイジは、レダ大尉達が救助に駆けつけるまで、ただただボウッとその場に立ち尽くしていた。

「どうやら終わったようですねえ。連邦とジオンとティターンズの茶番劇、見ている分には楽しいんですが。でも、やっぱりここにはエスカはいなかったようですね。さて、どうしましょう?」
 遥か眼下に孤島を見下ろす超高空で、眼下の様子を観察し続けていた者達がいた。コアブースター・タイプのフライサポートメカと、それに乗った褐色のMS──それは、セフィ・マリスと呼ばれる機体だった。
「エスカがいないことが確認できたのであればここに用はありません。撤退すべきと考えます」
 淡々とした少女の声が答える。
「そうですねえ。ところでリゼは、エスカは今どこにいると思いますか?」
「恐らく、ジオン蒼龍会の本拠地に。そこからHLVを使ってエスカを宇宙に戻すつもりでしょう」
「それが妥当な考え方でしょうね。では、私達の次の目標はそこということになりますね。じゃ、行きましょうか、リゼ」
「了解」
 そして、セフィ・マリスは眼下の孤島を一顧だにすることなく、姿を消していった。

To be Continued

 


次回予告

ジオン蒼龍会の秘密基地で、エスカを巡る決戦が始まる。
非情の戦いの中、マルスは、イアンは、アレクは、何を見るのか。
 そして、レイジはエスカと再会できるのか。
待ちうけるはジオン蒼龍会、
そしてレッドファントムのハインツ・エルマン……

戦いの中、終止符を迎えるのは、
一体誰の魂なのか?

「我が人生最後の晴舞台、しかとその目に焼き付けよ!」

別れとは、ある日唐突に訪れるもの。

次回、機動戦士ガンダム0085第4話
『散りゆく者』

その道は、もう途切れた……


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